【愛媛県大三島】安心感あるこの島で、一から暮らしをつくっていく

愛顔のひめターン vol.3 【愛媛県今治市(大三島) 会社員(リモートワーク) ゲストハウス経営 徳見理絵さん】

人気の移住地・大三島は神の島、農の島

瀬戸内海に浮かぶ6つの島を7つの橋でつなぐ「しまなみ海道」。広島と愛媛を結ぶそのロードは、多島美と橋梁美を眺めるその圧倒的ロケーションで、サイクリングコースの世界的な聖地になっている。

愛媛側から出発して3つ目の島にあたるのが「大三島(おおみしま)」。
霊験あらたかな「大山祇(おおやまずみ)神社」が鎮座することから「神の島」とも呼ばれる農業中心の島は、建築家・伊東豊雄さんの美術館をはじめ、アート施設が点在する。近年移住者が相次ぎ、有機農業のグループをつくったり、ワイナリーやブリュワリーなど新事業が興ったりと注目を集めている。

会社を辞めずに、遠距離移住

この大三島へ、2016年に夫婦で移り住んだ徳見理絵さんを訪ねた。

理絵さんは大阪府で生まれ育った。「田舎嗜好」が強く、独身時代は兵庫県篠山市で暮らしていたが、大阪の中心地・堂島の同僚だった茂樹さんと結婚後、通勤時間を考えて宝塚市へ引っ越した。

理絵さんの仕事は、プロダクトやネット環境など、人間行動を観察・ヒアリングなどして、ひとにとって本当に必要なサービスや機能を抽出・分析していく、デザインの新分野だ。

理絵さんの仕事が移住のきっかけになった。暮らしを考えるワークショップを設計する任務があったとき、試しに夫婦でやってみることに。

「自然豊かな場所に住みながら、第一線のしごとをする。その理想を2人とも共通して持っていたことを知りました。田舎暮らしは定年後の遠い話ではなく、まさにいまなのだということにも気づいたのです」

大三島は茂樹さんの祖父母が暮らす。その祖父母が元気なうちに、というのも動機になった。
とはいえ、2人とも10年以上、同じ企業でキャリアを重ねてきた。大三島へは電車と新幹線で約3時間半。もちろん通勤は無理。そこでインターネットを活用して遠隔で働く、いわゆる「リモートワーク」を実践しようと会社に働きかけた。

会社に前例はない。理絵さんはリモートが可能な部署に配置換えをしてもらい、時短勤務に変更。茂樹さんは移住するまでの1年間、実験として週一で在宅勤務をはじめ、コツコツとリモートワークの素地をつくっていった。

移住したいまは、オンライン会議などで完全リモートを実現。月1回は大阪本社に顔を出し、都会のインプット時間も大切にしている。

「リモートワークになってむしろ、作業効率はアップしました。雰囲気で伝えるとか中途半端なことはできないから、資料を作りこんだり、1人で集中して作業ができたりするので、むしろいまのほうがいいしごとができていると感じます」と理絵さん。

島暮らしの不安感はない、むしろ期待感だけ

移住といっても、島への移住はもうひとつハードルがありそうに感じる。そこで夫妻は移住前に、大三島の先輩移住者から直接話をきいた。

「実際に生活してみてデメリットは虫が多いというぐらいですかね(笑)。この島への移住者の皆さんが口をそろえるのですが、この島に移住した決め手は空気感って言うんですよ。わたしも同感です」

移住は、これまで積み上げたなにかを手放すことでもある。その選択はだれにとっても簡単ではない。でもこの島は、そんな不安をさらりと包み込む「安心感」が漂っているのだという。

移住者同士の交流も新天地で暮らす支えになっている。2016年に大阪から移住し、ビール醸造所「大三島ブリュワリー」をはじめた高橋夫妻もそのひと組だ。移住者たちがレモンリキュールメーカーや焙煎珈琲所、飲食店など、あたらしいコトを生みだしていて、島の“景色”もずいぶんと変わってきた。

最高のクラフトビールが飲める「大三島ブリュワリー」

大三島を移住先に選んだもうひとつの理由を、理絵さんは語った。「徳島県の神山町など先進的な地域も見てみました。大三島はまだまだまっさら。じぶんたちもここでなにかのムーブメントを起こす可能性があるなら、たのしそうだと思ったのです」

ひととワイワイするのが好きな理絵さんの、ひとつの目標だったゲストハウス経営も、そのムーブメントのひとつ。家から徒歩1分の場所の空き家をリフォームして2017年にオープン(まだプレオープン。庭が完成したら正式オープンだそう)した。

1棟貸しのゲストハウス(プレオープン中は1万円+1人2,000円)

 

両親も移住して、理想的な子育て環境が整った

会社員、ゲストハウス経営など、何役もこなす理絵さんだが、2018年に娘が生まれてから暮らしは一変した。産休中は子育て中心の日々。早朝に起き、日中はぐずるので抱っこ。合間に家事をしながら、夜ごはん後にお風呂にはいって就寝。

「島で子育てできて本当によかったです。夫も自宅にいるし、地域のひとたちが声かけをしてくれる。泣いてもなにも言われない。孤独感はなくストレスフリーです」

理絵さんのご両親も茨城県から島へ移住してきた。家族、地域といろんなひとの手をうけて育っていくという理想的な子育て環境が島で整った。

茂樹さんは趣味だった釣りをこの島で、再開した。近所のひとから譲り受けた船もある。理絵さんも妊娠前はよく乗船していた。釣果は望めなくても、瀬戸内海に小さな船でたゆたう時間は至福なのだという。

 

暮らしは主体的につくるもの

自然との距離が遠く、通勤時間もかかる都会暮らしは、しごとに暮らしが埋もれていきがちだ。理絵さんが移住して手に入れたのは「暮らしを主体的につくる」こと。

「しごとはあくまでも暮らすための手段です。地域の暮らしの知恵や知識を次の世代につなぐことが自分自身の存在価値になってくるのだと思っています。子育てがひと段落したら、島のおばちゃんたちに郷土料理を習いたいですね」

じぶんが理想とする生きかた、暮らしかたを、会社や家族を巻き込みながら築いていった理絵さん。それは「すごいこと」「特別なこと」のようだが、じぶんのこころに素直に向き合い、まずは動いてみるというとてもシンプルなことなのだと、その柔らかな表情が伝えていた。

写真・文:ハタノエリ


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