琵琶湖を中心に東西南北に分けられる滋賀県。特に北部地域(長浜市、高島市、米原市)では、メタセコイア並木や黒壁スクエア、伊吹山など、自然と歴史を活かした観光スポットが人気です。
たくさんの魅力がある一方、これから地方が直面しそうな課題が少しずつ現れ始めている地域でもあります。
そこで滋賀県では、2023年度から滋賀県北部地域の豊かな自然や歴史・文化遺産など、地域の特性や魅力を活かしたさらなる地域振興策として「北の近江振興プロジェクト」の取組を開始しました。
今回は、県外から滋賀県北部地域に移り住み、やりがいのある仕事と自然に囲まれた理想の暮らしの両方を手に入れた2人の移住者のストーリーをご紹介。併せて人材採用をはじめ県内の中小企業の経営向上を支援する滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点の取組についても詳しくお伝えします。
さらに、2025年注目の就活イベントとして、北部地域で開催される合同就職面接会(2025年1月24日)とローカルジョブコレクション(2025年2月20日、27日)の開催情報もお届けします。
Case1 山本和弥さん(高島鉱建株式会社)
バス釣り好きが高じて琵琶湖のほとりへ移住。
そこで見つけた、“自分たちで舗装した道路が地域に広がる”仕事
10歳の頃からバス釣りに夢中になり、魚好きが高じて福井県立大学の海洋生物資源学部に進学した山本和弥さん。そのキャンパスは福井県小浜市にあり、琵琶湖まで車で約1時間の距離だったため、学生時代はよく琵琶湖へバス釣りに出かけていたそうです。さらに、大学4年生のときには滋賀県の湖西での就職を目指し、思い切って高島市内にアパートを借りて移り住みました。
「山も川も湖も美しく、何よりもこの近辺では大型のブラックバスが釣れるところに惹かれました」
これまでに釣り上げた最大のブラックバスは、体長64cm、5200g!
また、車の運転が好きだった山本さんは混雑した電車での通勤は避けたいと考えていました。就職活動で釣具メーカーも何社か受けましたが、勤務地が都市部になることが多く、車通勤できる自然豊かな高島市で就職したいと考えるように。
高島市内にあり、観光名所にもなっているメタセコイア並木。豊かな自然が身近にあふれる環境に惹かれて、山本さんはこの地を選んだ
山本さんは、大学時代にアルバイトで建設や電気工事、解体の現場を経験。ゴールが明確な建設の仕事は、自分の性に合っていると感じていました。「高島鉱建」の名は、通学路沿いに本社ビルがあったため知っており、ホームページを覗いてみたところ、道路や公共・商業施設などの大規模な施工実績が豊富で、「やりがいがありそうだ」と感じたといいます。
「就職活動で高島鉱建を訪問すると、建築や土木などの専門学部出身ではない私に対して人事の方は、『一度、建設現場をご覧になりますか?』と、仕事への理解を深めるための機会を設けてくれました。そうやって、一人ひとりに合わせて親身に対応してくれる会社の姿勢にも惹かれました」
親身な上司や職人に教わりながら、日々成長し続ける
高島鉱建への就職が無事に決まり、働き始めたのは2022年4月のこと。当初8カ月ほどは土木課の配属となり、橋脚工事の現場で施工管理の補助をしながら仕事を学んでいきました。その後、舗装課に異動となった山本さんは、滋賀県全域から福井県嶺南地域までをフィールドに道路の舗装工事を手がけています。
発注元である自治体との打ち合わせや関係機関への書類の提出、工事業者の手配や材料の発注などの事前準備、工程管理や作業内容の記録、検査など、仕事は多岐に渡ります。その中で山本さんが何よりも心がけているのは、「無駄な時間を作らないこと」です。
「車の通行を止めて行う舗装工事は、作業できる時間帯が決められています。また、材料のアスファルトは時間が経つほど冷めて施工しづらくなってしまう。そこで、古い路面を剥がしたり、路盤を整えたりする作業がちょうど終わるころにアスファルトが届くように手配するなど、待ち時間ができないように努めています」
しかし、異動したばかりの頃は、自分が不慣れなことから無駄な時間が生まれるなど、なかなかうまくいかないことが多かったそうです。
「同じ失敗を繰り返さないよう、その都度上司にも教わり、試行錯誤しながら仕事を覚えていきました。バス釣りでも常に100%のコンディションを維持するのは難しい。それは仕事でも同じで、あまり調子が良くないときでも、70〜80%の成果を出せるよう踏ん張ることが大切だと考えています。その姿勢はバス釣りで学び、仕事にも活かしていることです」
自分たちで舗装した道路が地域に増えていく喜び
高島鉱建は、アスファルトやコンクリートの原材料となる骨材を提供する砕石事業も手がけており、自社グループ内にはアスファルト製造を行う会社もあります。また、社内でアスファルト舗装を行う大型重機を所有しており、受注から施工完了までを自社グループで一貫して手がけられることが大きな強みです。
「自社グループ内にアスファルトを製造する会社があるため、密に連携を取ることができ、工程管理がしやすくなります。その結果、高品質な舗装を行うことができます」
国道161号夜間工事現場で測量業務を行う山本さん
舗装課に移って丸2年。初めてメインで施工管理を任された国道367号や、その後に携わった琵琶湖西岸を走る国道161号の舗装工事が、強く印象に残っているという山本さん。
「『ここは自分たちが舗装した道路だ』と思いながら走行できる道がどんどん増えていくのが嬉しいですし、この仕事を選んで良かったと思える瞬間ですね」
建設業界には、未経験者でも活躍できる環境がある
山本さんは建設現場でのアルバイト経験はあるものの、施工管理の仕事は未経験。入社後に苦労したことはなかったのでしょうか?
「施工管理の仕事は、専門の学部を卒業していても、実際に現場で働いてみないと分からないことや現場でしか学べないことが多く、いわばスタートラインは誰もが同じ。私のように未経験でも、現場でスキルを高めていける仕事です」
今回のインタビューに同席していた高島鉱建の人事担当者は続けます。
「ご存知の通り、建設業界は人手不足が慢性化しています。一方で、山本がお話ししたように、未経験でも現場で経験を積んでいくことで、仕事を覚えることができます。豊かな自然あふれる滋賀県に移住したいと考えている方は、ぜひ建設業界にチャレンジしていただきたいです」(人事担当者)
より大きな現場を担当したい!
山本さんの今後の目標は、現場で経験を積みながら、より大規模な現場を担当することだそうです。
「さらに、10年後、15年後には、親身になって仕事を教えてくれる今の上司のようにチームをまとめ、もっと大きな仕事を担当できるスキルを身につけていきたいです」
高島鉱建をはじめ、高島市内の企業が多く出展する合同就職説明会が、2025年1月24日(金)に、高島市の今津サンブリッジホテルで開催されます。興味のある方は、ぜひ足を運んでみてください!
山本さんは仕事に打ち込みながら、もちろん趣味のバス釣りも満喫。琵琶湖だけでなく、関西地方や愛知、岐阜などの東海地方まで遠征することも多いそう
Case2 遠藤直勝さん(株式会社 山久)
企業からオファーを受け、家族で長浜市へ。
公私共に充実した日々を実現!
長年、建設業界で働き、自動車メーカーの海外拠点に勤務した経験もある遠藤直勝さんは、滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点のサポートを受けた山久からオファーを受け、機械卸売業という異業種へ転職。東京から家族4人で長浜市に移り住みました。移住して1年余り、遠藤さんは「今、公私共にとても充実しています!」と微笑みます。
遠藤さんは大学を卒業後、大手ゼネコンに就職。宮城県仙台市に配属となり、総務や経理、人事、財務、資材発注、安全衛生管理などを担当してきました。もともと海外や語学に強い興味を持っていた遠藤さんは海外事業部への異動を希望していましたが、なかなかその夢は実現せず、11年目に退職を決意しました。
その後、自動車メーカーに転職し、タイやカンボジア、フィリピンなどの工場で総務や経理、資材輸出入管理を担当。再び日本に戻り、名古屋に本社を構えるゼネコンで東日本大震災の復旧工事や、エクアドル、ペルーなどの政府ODA案件において、事務統括を務めました。
人材紹介会社を通じて山久への転職オファーを受けたのは、東京に住んでいた頃。ちょうど当時の仕事に一区切りがついたタイミングでした。
「当初は、新たに立ち上げるベトナム拠点の責任者となる人材を探しているというお話でしたが、その前に、社内の安全衛生管理体制を強化したいとのことでした。私は両方の経験があり、ゼネコンで安全衛生管理の重要性も深く実感していました。自身の経験を活かして不幸な事故を防ぐことができるのであれば、ぜひ力になりたいと思い、オファーを受ける決意をしたんです」
一人の怪我人も出さないために、安全管理体制の強化に取り組む
山久に入社したのは、2023年8月のこと。エンジニアリング部の建設安全管理室に配属された遠藤さんは、現場を回ったり、社員の皆さんにヒアリングを行ったりしながら、半年かけて社内の安全管理体制の現状を把握。2024年から機械器具設置工事などの現場を巡回する安全パトロールをスタートしました。
「万一、労働災害が発生した場合、一番不幸になるのは怪我をした当事者です。一人も怪我人を出さないという強い思いで、安全パトロールを行なっています」
ゼネコンと大きく異なるのは、機械卸売業では工期がとても短いことです。機械の設置など数時間で終わる工事もあるため、できる限り多くの現場を巡回し、不備があればその場で是正してもらうよう指導しています。また、安全パトロールの結果や、事故や災害が起こらないまでも、足を滑らすなどヒヤリとした事例などについて、社内全体で共有できるように情報を公開しているそうです。
遠藤さんの目下の目標は、社員や協力会社の皆さんを対象に、安全に関する知識や技能を向上させるためのセミナーを開催すること。セミナーの受講率を見える化し、約1年半で100%の達成を目指しています。さらに、9カ国語以上話せる語学力を活かし、外国人労働者に対して母国語で安全教育を実施したいと考えています。
「おかげさまで当社では、重大災害はもちろん、4日以上の休業が必要になる労働災害も一度も発生していません。安全衛生管理に対しては妥協することなく、社員の安全への意識をさらに高めていきたいと思います」
川での生き物観察が新たな趣味に
遠藤さんが山久のオファーを受け入れた大きな理由の一つは、大阪に住む両親の介護に通いやすくなることでした。
「母は滋賀県甲賀市出身で、私も子どもの頃はよく母の実家に帰省したり、電車に乗って長浜の大通寺にお参りに出かけたりしました。そんな楽しかった記憶が鮮明に残っています」
長浜別院 大通寺でハトにエサやりをする遠藤さんご家族
遠藤さんは、国内外のどこに移り住むにしても「家族は必ず一緒」をポリシーにしています。長浜市への移住に際しても、妻や子どもたちは反対することはなかったそうです。
長浜市での生活で気に入っているのは、豊かな自然が身近にあることです。自宅の窓からは琵琶湖を望むことができ、歩いてわずか1分ほどで湖に辿り着けます。
「近くを流れる米川には、魚やカニ、カメ、虫などいろいろな生き物がいて、子どもたちだけでなく、私も生き物探しが趣味になりました。妻は近くに市民農園を借りて家庭菜園を始めたいと話しています」
米原市の農園で、家族でサツマイモ掘りを体験。そのおいしさにも感動!
滋賀の魅力を海外に発信! 滋賀に暮らす外国人もサポートしたい
遠藤さん曰く、長浜市は自然が豊かでありながら、商業施設や病院、学校、図書館なども身近に揃い、東京のような混雑も少なく、快適に生活できる環境とのこと。また、大阪と名古屋の中間に位置しているため、どちらにもアクセスしやすいのも魅力。遠藤さんは家族で、岐阜のショッピングモールに出かけることもあるそうです。
「私が移り住んで感じた滋賀の魅力を、より多くの人に知ってほしいと思い、海外の友人や知人に個人的に発信しています。また、このエリアには製造業の会社が多く、外国人や日系人の方が労働者として移り住んでいます。生活習慣や文化の違いで戸惑いがおきないよう、語学力を活かして何かサポートができればと考えています」
自分がとても気に入っている地域だからこそ、誰もが快適に暮らせる場所であってほしい。遠藤さんは仕事だけでなくプライベートでも、これまで培ったスキルを活かして、地域のために役立ちたいと願っています。
滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点が企業の経営力向上を支援
今回、遠藤さんが山久に入社するきっかけとなったのが、滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点の取組です。滋賀県内の中小企業者や小規模事業者の経営者と丁寧な対話を重ねながら、単に人材の採用をサポートするだけでなく、経営課題や経営戦略などを共に考え、新規事業の立ち上げや販路開拓など「攻めの経営」への転換をサポートしています。
経営者から聞き取った人材ニーズについては、連携する30社以上の民間人材ビジネス事業者へと取り次ぎ、プロフェッショナル人材の採用を支援しています。
2024年5月には、北の近江振興プロジェクトの取組の1つとして、長浜ビジネスサポート協議会内に「北部サテライト」を新たに開設。これにより、北部地域の中小企業の経営力向上に向けた支援が一層強化されました。
写真左は、滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点の幸堀博治さん
滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点で、北部地域を主に担当する幸堀博治さんは、「県内の企業がプロフェッショナル人材を活用し『攻めの経営』を行い成長していくことは、県全体が活性化していくことにつながります。そのサポートをするのが、我々の重要な役割だと考えています」と話します。
関西・東海・北陸地方にアクセスしやすく、広い土地を確保しやすい滋賀県北部地域では、製造業を中心に多くの工場が立地しており、それを支える取引工場も数多くあります。他にも多様な産業が展開しており、滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点では、こうした中小企業の経営者に寄り添い、地域経済のさらなる成長を後押しすることを目指しています。
滋賀県北部地域の優良企業と出会える2つの就活イベントをご紹介!
「美しい琵琶湖や山々など、自然豊かな高島市に移り住みたい」「そのために、どんな会社があるか知りたい」「話だけでも聞いてみたい」。そんな高島市での就職、転職に興味がある方に向けて、優良企業50社が参加する就活イベントが開催されます。
【日時】2025年1月24日(金)13:00〜16:00(受付開始12:30、受付終了15:30)
【会場】今津サンブリッジホテル 2F
【住所】滋賀県高島市今津町今津1689-2(近江今津駅から無料送迎バスあり)※無料駐車場もあります。
【出展社数】50社
【入場料】無料
【主催】高島地域雇用創造協議会
長浜市・米原市の魅力あふれる企業20社が参加。県湖北地域で働きたい・暮らしたいと考えている人は、必見の就活イベントです!
【日時・会場】
①2025年2月20日(木)17:00〜18:30@Zoom開催
②2025年2月27日(木)13:30〜17:10@米原市役所1階コンベンションホール(米原市米原1016)
【出展社数】20社
【入場料】無料
【事前登録】公式LINEから申し込み
【主催】湖北地域雇用対策協議会 学卒採用戦略委員会(事務局:長浜ビジネスサポート協議会内)
北部地域で理想の仕事と暮らしを
滋賀県は2023年度から北の近江振興プロジェクトを立ち上げ、北部地域ならではの豊かな自然や歴史・文化遺産などの資源を活かしたさらなる振興を図るためのさまざまな施策を進めています。滋賀県プロフェッショナル人材戦略拠点が長浜市内に北部サテライトを新たに立ち上げ、中小企業の経営サポートに力を入れていることもその1つです。
こうした盛り上がりを見せる滋賀県北部地域では、今回取り上げた山本さんのように琵琶湖でバス釣りを満喫したり、遠藤さんご家族のように東京では得られなかった自然に囲まれた暮らしを楽しんだりしながら、地域に貢献できるやりがいのある仕事を両立することができます。
北部地域での仕事や暮らしに興味のある方は、合同就職面接会とローカルジョブコレクションに、ぜひご参加ください!
同地域で活躍する人たちを取り上げた前回記事も、ぜひご覧ください!
取材・文:杉山正博 撮影:谷川ヒロシ(ToLoLo studio)
【記事作成者 / お問い合わせ先】
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