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常識を “越える学校” を 町民の手で作る
【TURNS41 多拠点居住と新しい働き方】丑田俊輔(秋田県五城目町)

秋田県南秋田郡五城目町は、ベンチャー企業・起業家が集まる町として知られつつある。その先陣を切って五城目町に移住したのが丑田俊輔さん。丑田さんによると、2020年以降の五城目町の公教育がちょっとすごいらしい。

profile:丑田俊輔

1984年会津若松市生まれ東京都育ち。慶応大学商学部在学中にプラットフォームサービスの立上げに参画。東京都千代田区の公共施設をリノベーションし、シェアオフィス・ビジネス拠点として再生する。大学卒業後IBMに入社し、グローバル戦略を担当。2010年ハバタク株式会社創業。2014年、秋田県南秋田郡五城目町に移住。地域資源を活用したビジネス開発や教育プログラム開発を進めている


 

先の見えない時代に、「学び」という処方箋

かつてない規模で進む社会のグローバル化。日本でも2020年教育改革で、変化の激しい時代を生きる子どもたちが、社会の中で活躍できる資質、能力を育成する目的のもと学習内容や評価基準の変革期を迎えている。グローバル化がもたらしたマイナスの面が、今回の新型コロナウィルスの大流行とする向きもあるが、このような先行きが不透明な時代だからこそ、地球規模の視点を持って自らの力で動き、判断できる人材の必要性はますます高まっているといえる。

ハバタク株式会社は、こうした時代に先駆けて世界各国の大学やさまざまなセクターと連携した「新しい学び」を生み出している会社だ。日本におけるコワーキングオフィス文化の先駆けとしても知られる『ちよだプラットフォームスクウェア(通称・ちよプラ)』に本社を構えるほかに、ベトナムと現在共同代表の一人である丑田俊輔さんの現在の主な拠点である秋田県南秋田郡五城目町にもオフィスがある。

ハバタクの事業内容は「『共創的な学び』を軸にしたあらゆる活動です」と語る丑田さん。大学や高校の海外研修、英語学習のプログラムを提供する事業を皮切りに、学びを通じた地域社会のデザイン、学びの新規事業開発支援や研究、食住業を通じた学びのビルの運営など、実に多様な学びのプロジェクトを提案してきた。


ちよだプラットフォームスクウェアにある東京オフィスでの様子

 

土着ベンチャーで 地域に新しい価値を生み出す

丑田さんが東京から五城目町に移住したのは2014年。3.11を経て、自らの暮らし方や働き方を考えたいと思っていたタイミングだった。「ハバタクの事業としても日本のローカルから持続可能な社会のあり方を探りたいという思いを持っていたときに、ちよプラで五城目町の方たちと出会ったんです。五城目町で具体的に何ができるか、ビジョンはそれほど具体的ではなかったけれども、まずは環境に身を置いてみれば見えてくるものがあるだろうという、楽観的な気持ちで移住したんです」と丑田さんは振り返る。
移住に先駆けて2013年秋には、五城目町の中心部から約六キロほど離れたところにある旧馬場目小学校の校舎を地域に密着したベンチャーのためのインキュベーション施設・シェアオフィスとして活用する計画をスタートし、第一号として入居。所在地である馬場目地区の地名にちなんで「Babame Base」と名づけられたこの施設には現在、教育、デザイン、地域活性化、IT化やICT化支援など八社の事業者が入居するほか、県内外の大学のサテライト・ラボとしても使われている。

ハバタクの五城目オフィスは、廃校になった小学校を活用したシェアオフィス「Babame Base」内にある

「町役場の人たちは以前、町内に企業や工場を誘致しようと力を注いできたものの、あまりうまくいっていなかったようなんですね。それが次第に時間はかかっても、地域の中から新しい価値を生み出したほうがおもしろい、多種多様な仕事があることが結果的に町の魅力や持続可能性につながるのではという方向性に町全体がシフトしていきました」と丑田さん。

地域に根ざした起業家のことを、「土着ベンチャー=〝ドチャベン〟」と名付け、地域発の事業創造を支援する起業家育成プログラムも実施した。

 

口ぐせは「学びは、遊び」

丑田さんを中心とした、五城目町の動きはまだまだ止まらない。Babame Baseにほど近い町村集落にあった、築百三十三年の茅葺屋根の古民家を改修・運営する費用を会員ならぬ「村民」で出し合って、都会と田舎をつなぐ新たなコミュニティを創出する『シェアビレッジ』の取り組みや、五城目町で五百年以上続く朝市に新しい出展者が参加できるようにした『五城目朝市plus』、まちの中の遊休不動産を活用し、子どもも大人も集まれるまちの余白となるスペースとして『ただのあそび場』を作るなど、その活動は実に多様。


古民家プロジェクトの参加者を「村民」、参加にかかる会費を「年貢」などユーモアあふれる呼称とアイデアで新しいコミュニティーを生み出した「シェアビレッジ」

一見学びとは直接かかわりのない内容に見えるものもある。丑田さんの口ぐせは「学びは、遊び」。学びを学校の外に広げ、働き方、暮らし方、つながり方といった多様な切り口で開いていくと、学びは生涯にわたりすべての人に必要なものとなる。彼の活動が幅広いのは、「学び」の裾野の広さでもあるのだ。


遊休不動産を活用し、大人も子どもも自由に遊べる「ただのあそびば」。全国どこにでも遊び場をつくれるように設計図なども公開されている

丑田さんは現在、9歳の長女と2歳の長男の子育て中。「今は子どもがまだ小さいので、一年を十としたら、秋田が七、東京が二、海外が一というバランスで行き来しています。週一日は東京に行きますが、ベースキャンプは五城目。帰ってきて町の山が見えてくるとテンションがあがります」と笑う。

ここ数年、人口約九千人の五城目町に移住者や起業者が継続的に生まれ、多様な働き方、暮らし方、学び方を実践する人が増えているという。

 

〝越える学校〟を町民の手で作る

現在、丑田さんは、五城目町で唯一の小学校である五城目小学校の新校舎づくりにも関わっている。築五十年を超えた現校舎の老朽化に伴う建て替え事業で、住民と行政に加えて教育のプロフェッショナルを招聘したワークショップ『スクールトーク』を過去三年にわたり開催してきた。新校舎のテーマは〝越える学校〟だ。

五城目町小学校の新校舎設立に向けた市民と行政のワークショップ『スクールトーク』での丑田さん

「〝越える〟には、常識を越えるというほかにも、地域に根ざしながらも校舎の境界を越えて子どもたちが地域に飛び出し、町民が学校に参加するという意味も込めています。年齢の境界を越えて大人たちが再び学び出したり、地域の境界を越えて、世界中とつながったり。大人も子どもも学び合うことを目指しています」と丑田さん。

新小学校ができるのは、五城目町のまちエリアと里山エリアのちょうど中間。学びと遊びの舞台として、小学校を飛び出して五城目のまちにも里山にもアクセスが容易な立地にある。さらに従来の小学校エリアに隣接して、地域図書館を併設した『生涯小学校エリア』を設けている。子どもたちだけでなく、地域の老若男女が集まって、読書をしたり、勉強をしたり、集まってお茶を飲んだりと、市民の憩いの場だ。

「五城目小学校は統廃合により、異なる地区から児童が一つの小学校に集まってきます。新しい小学校のことを子どもや保護者だけでなく、子育て世代以外の町の人にも開いていくことで、地区を超えて町民が交われるし、子どもたちの学びの環境も豊かになるという意見がワークショップで出てきました。生涯小学校エリアでは、子どもが本を借りに図書室に来てみたら、プログラミングをしている大人がいたり、ウェブ会議をしている大人がいたり、さまざまな働き方・学び方をしている大人の背中を目にするきっかけになると考えています」と丑田さんはいう。新校舎建設をきっかけに、公教育から学びの常識を覆す、全国に先駆けた例になりそうだ。この新校舎は2020年10月に竣工予定だ。

2020年10月に竣工予定の新校舎外観パース。地域図書室を併設することで、児童だけでなく地域住民もアクセスできる仕組みに

さらに、五城目町と秋田県で構想が進んでいるのが小中学校の『教育留学』の制度だ。留学を希望する児童生徒が、一週間から一年まで期間を選べ、住民票を移すことなく、県外の小中学校から五城目小・中学校に教育留学できるというもの。県外の児童生徒にとっては、学力トップクラスといわれる秋田県の『探究型授業』を体験できる。また受け入れは寮ではなく、教育民泊を採用。一般の家庭にホームステイしながら通学する。これによって受け入れ側の自治体には寮の建設など大掛かりな先行投資がいらない上、ホストファミリーには副収入にもなるという仕組みだ。この教育留学制度は2020年度から実証実験が始まる。

「これからの多拠点の時代には自然豊かな環境で子どもを育ててみたいとか教育を受けたいという人にも開かれた制度が必要です。子どもだけを受け入れすることもできますし、親がワーケーションのかたちで五城目にやってきて、その間子どもが通うこともあり得ると思います。さらに言うと、受け入れるだけではなくて秋田の子どもが県外に武者修行に行くようなことがあってもいい。都会か田舎かという軸よりも、ローカルとローカルが交わっていくような学びのあり方によって、暮らしはもっと柔軟になっていくのでは」と丑田さん。

学びがもっと身軽に、自由になれば、暮らしは劇的に変わる。それは子どもに限った話ではない。地球規模の視点で動き、世界各国のネットワークを活用しながらも、活動の拠点となるローカルな足場と未来への持続性を考えることのできる「グローカル・リーダー」が、この町から生まれる日もそう遠くないかもしれない。

 

文・編集=石倉 葵 写真=高橋 希
※本記事は、本誌(vol.41 2020年6月号)に掲載しております