地域課題解決を目指す、新たな挑戦者たちのロールモデルに。
HIOKOSHI「地域おこし協力隊クラウドファンディングアワード2024 」受賞者レポート

地域振興に関わるさまざまなミッションに取り組む地域おこし協力隊。その資金調達のひとつの手段として、クラウドファンディングが活用されています。国内最大級のクラウドファンディング「CAMPFIRE」では地域おこし協力隊によるプロジェクトに特化したサービス「HIOKOSHI(ヒオコシ:株式会社CAMPFIREと公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構が運営)」を提供しており、毎年多くのプロジェクトがエントリーし、地域のためのアイデアが実現に向けて大きな一歩を踏み出しています。

同サービスには2024年度もさまざまなプロジェクトがエントリー・目標を達成しましたが、地域におけるクラウドファンディングの好事例を広く周知し、新たな挑戦者たちのロールモデルとすべく「地域おこし協力隊クラウドファンディングアワード2024」を開催。TURNSプロデューサー堀口正裕も審査員に加わり、「地域との共創性や公共性があるか」「他の地域でも応用可能なロールモデルか」などの視点で1つの大賞と5つの部門賞を選出しました。

今回は、大賞に輝いた三浦さん(宮城県栗原市)と、開業・ビジネス部門賞を受賞した太田さん(岩手県奥州市)にお話を伺います。


開業・ビジネス部門賞:「奥州水沢  南部鉄器と半世紀歩んだスナック喫茶を継承し次の時代へ残します
<岩手県奥州市 太田和美さん>

岩手県奥州市水沢地区は、900年続く南部鉄器の産地。そこに、半世紀に渡り職人たちを側で見守ってきたスナック喫茶があります。交流・憩いの場として彼らを支えてきたこの店を残し、受け継ぐべく立ち上がったのが太田和美さん。これまでどおり職人たちが集える場を残しながら、南部鉄器を通じたコミュニティ醸成や南部鉄器文化の承継・魅力発信の拠点として再構築していきます。

プロフィール

宮城県仙台市出身。美術系大学を卒業後、美術家・パフォーマーとしてのキャリアをスタート。東日本大震災をきっかけに石巻市に移住し、地域の特産品である「ホヤ」をモチーフにした「HOYAPAI(ホヤパイ)」をかぶって販促活動を行う。その後、パートナーの出身地である奥州市とさまざまな縁がつながり、2023年6月から地域おこし協力隊として移住。自ら考案した「鉄瓶婆」というキャラクターに扮し、ミッションである南部鉄器のPRや後継者育成に取り組んでいる。

――プロジェクトの立ち上げ経緯を教えてください。

「奥州市水沢地区は、南部鉄器の産地として約900年の歴史を持っています。この地区にある『チロル』というスナック喫茶は職人さんたちが集まる場として、半世紀に渡り南部鉄器文化を支えてきました。しかし、2024年6月をもって店を閉めることになったため、南部鉄器の文化を守り発信していく場として承継していくことはできないかと考えたことが始まりです。

事業承継するにあたり、店の内部はそのまま私が使っていける状態ではなかったため、水回りや内装などの大幅な改修が必要でした。その資金調達の手段として、クラウドファンディングを利用しました」

――どのような方からの支援が多かったのでしょうか?

「地元の方々もそうですし、私がこれまで関わってきたコミュニティの方々にも直接声をかけました。多くの方が興味を持ってくださり、リターンなどで協力してくれた仲間もいます」

南部鉄器のPRをするため「鉄瓶婆」として活動する太田さん

――クラウドファンディングを通してどのようなものを得られましたか?

「まず、プロジェクトの進め方について視点が変わりました。いろいろな方に助けていただく分、覚悟や責任感が生まれ、事業計画を作る際も、より現実的になったと思います。

そしてそれ以上に大きかったのは、新しい接点を得られたことです。

クラウドファンデイングを行ったことで注目度も上がり、地元の新聞をはじめメディアに取り上げていただく機会にも恵まれたのですが、それをきっかけに、『場所を守ってほしい』『この雰囲気を残してほしい』と直接支援を申し出てくださった職人さんや地域の企業の方との出会いもありました。

支援者のなかには『南部鉄器自体に思い入れは強くないけど、鉄瓶婆の活動や東北地方を盛り上げるプロジェクトを応援したい』と言ってくださる方もいて、水沢地区や南部鉄器を知ってもらうよいきっかけになったのでは、と思っています」

――今後はどのような展開をお考えですか?

「これまでどおり職人さんたちが集える場として守っていくことはもちろんですが、ここを拠点にコミュニティを育て、それらも含め『南部鉄器文化』として発信していく予定です。そして、ゆくゆくはこのカフェを任せられる人材に繋げていければ、と考えています」

長く受け継がれてきた伝統工芸品は、その周囲を取り巻く環境も含めてひとつの文化を形成しています。太田さんが受け継いだものはただの店舗ではなく、文化の拠点。職人を常にそばで見守り続けてきたこの場所が、今後は過去と未来を繋ぐ架け橋となっていくことを期待しています。

大賞:「宮城県・栗原市でクラフトビール醸造所を立ち上げ、地域の魅力を発信したい!」
<宮城県栗原市 三浦大樹さん>

80年間地域で愛されてきた豆腐屋の跡地をクラフトビール醸造所として活用し、「地域に愛されるクラフトビールをつくる」をテーマに地域の魅力を発信することを目的としたプロジェクト。

開始から24時間を待たずして目標の100万円を達成し、ネクストゴールとして設定した500万円も達成。現在はビールづくりのノウハウを学びながら、酒造免許の取得や醸造所開設に向けた準備を進めています。

プロフィール

宮城県栗駒町(現・栗原市)出身。大学卒業後は仙台市で働いていたが、母校の変化を耳にし、地域のこれからに思いを巡らせる中で、地元への思いが強まる。地域に貢献したいという想いからUターンし、地域おこし協力隊として活動を開始。六日町通り商店街では「シャッターを開ける人」として商店街の再生に取り組み、現在はクラフトビール醸造所の開業を目指して準備を進めている。

――大賞の受賞、おめでとうございます。

「ありがとうございます。いろんなところで「賞をとりたい!」と言っていたので、本当にとることができてとてもうれしいです。

たくさんの方々に応援していただいたので、ひとつ、目に見える結果が出てよかったなと」

――支援者の数も約500人とトップクラスでしたが、成功の要因はどういった部分にあったと思われますか?

「知人やご支援くださる方々に、活動の背景や想いを丁寧に伝え、理解と共感を得られたことが、何よりも大きかったと思います。

中盤、伸び悩んだ時期もありましたが、地道な支援のお願いを続けつつ、同時に、すでにご支援いただいている方々がSNSなどでシェアしてくださったことも大きな力となり、無事にネクストゴールまで到達することができました」

――今回のプロジェクトの成り立ちを教えてください。

「もともと、栗原市に戻ってくることを考え始めた頃から、「地域の皆さんが応援したくなり、一緒に楽しめるものは何か」を軸に、地域に貢献できる事業を模索してきました。そのなかで、各地でクラフトビールづくりが地域を元気にしていることに注目し、ぜひ挑戦したいという思いを温め続けてきました。

なぜクラフトビールかというと、原材料に特産品を使ったり、ラベルを工夫したりすることで、地域の個性を魅力としてわかりやすく発信することができるから。そして何よりも、みんなで一緒に楽しく盛り上がれる活動をしたかったからです。

そういう思いがあったところに、今回、地域で80年にわたり愛されてきた豆腐店が惜しまれつつも閉店されることとなり、その大切な場所を私たちが活用させていただけることになりました」

――思いとご縁がうまくつながったのですね。

「だからこそ、このプロジェクトは何よりもストーリーを大切にしたかった。

いずれは“元豆腐屋”という背景を生かして『豆腐に合うビール』も作りたいですね。どんな味になるのか想像もできませんが、豆腐屋のお父さんにもぜひ協力してもらいたいと思っています。まだまだ引退させませんよ(笑)」

――クラウドファンディングを終えての感想をお聞かせください。

「クラウドファンディングにはもちろん資金調達という目に見えるゴールがありますが、私がクラウドファンディングを利用したいと思ったのは『一緒になって楽しめる仲間づくりができる』ことが、もっとも大きな理由です。

私は自分だけで何かをしようとは思っていなくて、人と関わりながら一緒に取り組むことを大切にしています。実際に今回のクラウドファンディングを通じて、まだ知らなかった地域の生産者や、デザイナーの方などと新たに繋がることができました。そこから『この人にぜひこういう仕事をお願いしたい』『商品開発で協力できないか』とアイデアがどんどん出てきて、可能性の広がりを感じています」

――まさに三浦さんがクラウドファンディングに求めていたものですね。

「プロジェクトへのご支援を通じて思いを共有できる人たちと繋がることができる。実際に完走してみて、これがクラウドファンディングの一番の魅力なのだと改めて実感しました。

やりたいことがある方にとって、お金だけでなく人の繋がりも得られるこの仕組みは素晴らしいものだと思います。ぜひ活用して、夢を実現してください!」

クラウドファンディングのもっとも大きな目的は資金調達。しかし、その資金には支援者の思いが込められています。目標を達成できるかどうかの分岐点は、相手を動かす強い「思い」を持ち、いかに人に伝えられるか。そこを泥臭く追求できたことが、今回の勝因だったのでしょう。


今回取り上げた2つの事例では、どちらも継続性のある事業計画のもと、新たな仲間との接点が生まれたり、より深い関係を構築することができました。

地域を盛り上げる活動は、その場限りでは意味がありません。資金調達だけでなく、持続的に地域を支えていく「人の輪づくり」まで実現することができたこれらのプロジェクトは、地域課題解決を目指すクラウドファンディングの目的を真に達成した好事例と言えるでしょう。

地域おこし協力隊クラウドファンディングアワードはこのように、これから挑戦したい方々のロールモデルとなる好事例の周知を意義のひとつとしています。その他の受賞プロジェクトについては、こちらのページからぜひご覧ください!

地域おこし協力隊クラウドファンディングアワード2024 結果発表

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