東京の消滅可能性都市「豊島区」が起こす、本気の「まちづくり」。

人がひしめきあう東京。
その中心部に位置する豊島区は、2014年に消滅可能性都市に指定されました。
「え?」と耳を疑うようなできごとに、当の豊島区も驚いたに違いありません。

「消滅可能性都市」とは、日本創生会議が2014年5月に打ち出した「少子化や人口移動などが原因で将来消滅する可能性がある自治体」のこと。具体的には、20~39歳の女性の数が2010年から40年にかけて5割以下に減るなどの基準で896の自治体が消滅可能性都市に選ばれたのですが、豊島区はなぜそこに名を連ねることになったのでしょうか。

豊島区は、人口自体は増加傾向にあるものの(2018年3月現在)
・転出入が活発であり、定住率が低い傾向にある。
・単身世帯の割合が多く、その半数が若年世代。

これらの背景が「消滅可能性都市」に選ばれる要因となったと考えられます。交通の利便性がよく、職住遊接近型の暮らしができる環境は子育て世代にも魅力的であるはずなのですが、建物が密集しているがゆえに大規模公園が少なく、ファミリー向けの住宅供給も少ないというのも、少子化が加速するという予想の一因であったかもしれません。

「人口の増加傾向からみると、現段階で豊島区は消滅危機に直面しているわけではないが、将来をみすえた、魅力的なまちづくりの対策が必要である」
「消滅可能性都市」の発表後、豊島区はこのような考えを打ち出し、即座に緊急対策会議を開催。翌2015年には11事業、約8800万円を予算化、2016年には対策の中心となる「女性にやさしいまちづくり担当課」を設置し、その長を民間公募しました。このスピーディーな対策実行姿勢に、豊島区の本気が見て取れます。




 

公募で誕生。「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室長、宮田麻子さん

この公募を経て、2016年、豊島区『女性にやさしいまちづくり担当課』課長に就任したのが、宮田麻子さん。前職においてマーケティング職や、大手グローバル企業の広報などを務めてきた経験を活かし、現在、豊島区のまちづくりの中心的存在として、様々なプロジェクトのかじ取りをしています。

「私自身も30年近く豊島区で暮らしてきたので、まちづくりは、一生活者目線で考えています」

そう語る宮田さんが、豊島区が打ち出した『女性にやさしいまちづくり』について、そのコンセプトを教えてくれました。

「『女性にやさしいまちづくり』と言うと、え?女性だけ?と思う人がいるかもしれませんが、そうではないんです。女性目線でまちを考えれば、子どもや年配者、外国人などすべての人が住みやすいまちになるよね、というのが真意。これが伝わりやすくなるように4月からは課名が『わたしらしく、暮らせるまち。」推進室と変わります」

 

住民だから見えることを、区政に。

4月からは、より活発に様々なプロジェクトを運営していく「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室。行政の中におけるその役割は、住民のリアルな意見を柔軟に取りいれることでした。

「区は、このまちづくりにおいて、ハード面を中心に何が必要かを考えていきます。そこに、私たちがソフト面でのアイデアを加えていく。生活者のリアルな声をまちづくりに活かしたいと区が考えたからこそ、私のようなポジションを公募したんだと理解しています。そして、『まちづくり』という看板をかかげることで、区の中を自由に動くことができるようにしているんです」

区の仕事ははっきりと組織別にその内容が分かれており、何かコトを起こすにはそれを横断する必要があります。その役目を果たすのが、この課であるというわけです。

 

住んでいる「人」にフォーカスし、ここで暮らす面白さを伝えるオウンドメディア『としまscope』

「私の仕事は、①連携させること、②発信力を持たせること。この2つを軸にまちづくりを進めています」

実際に宮田さんが最初に手掛けたのは、区のオウンドメディアを作ることでした。

「豊島区を見渡してみると、おもしろいまち、場所がたくさんありました。そして、そこを歩いているとおもしろい人がたくさんいたんです。こんな場所あるんだよ、こんな人がいるんだよ、こんなライフスタイルいいよね、とこれらの情報を住民みんなに発信できる場所をつくりたい。そんな気持ちから生まれたオウンドメディアが、『としまscope』です」

『としまscope』では、豊島区の魅力的な場所や人、イベント情報やまちづくりへの取り組み紹介など様々な情報が発信されています。「今日、何しようかな」と考えたとき、ここをのぞけば、「身近にある楽しみ」が見つかる。それが『としまscope』なのです。
宮田さんは、就任してからずっと豊島区のまちづくりには何が必要か考えてきました。「どうすれば人が住みたいと思うようになるんだろう」。そう考えたとき、「やさしいだけではダメだ」と気づきました。

「住む人にやさしい制度や仕組みがあるというのは、確かにまちとして魅力的ですが、それだけで人はここに住み続けたい、ここで生きていきたいと思うのでしょうか。そこに仲間がいたり、誰かとのつながりがあるからこそ、その土地への愛着がわくのであり、人なしで愛着は語ることができないんだと思いました」

そんな思いが込められているからこそ、『としまscope』は人の暮らしの気配がします。はなやかなイベントだけではなく、小さな憩いや、日々の営みをちょっと楽しくする情報にスポットを当て、豊島区の魅力、豊島区に住んでいる人の魅力を発信しているのです。

 

住民参加型の『としまぐらし会議』で、区政をもっと身近に

そしてもうひとつ、宮田さんが力を入れている企画が、『としまぐらし会議』です。

「その土地の人と関わることはもちろん、区と関わることも大切です。私自身がそうであったように、住民のみなさんは、住んでいる場所をあまり意識せずに暮らしている可能性が高い。なぜなら、区政は自分にとって少し遠くにある存在で、誰かが動かすものであり、自分が力を加える場所ではないと感じているからです。実際に、私も昔は区役所に行くとちょっと緊張してしまっていました。でも、本当はもっと身近な存在なはずなんですよね」

宮田さんがそれを感じて欲しいという思いでスタートした企画こそ『としまぐらし会議』。
住民・行政・企業・学校関係者など、様々な立場の人達が会議の参加メンバーとなり、自由に「自分たちの住みたいまちづくり」について語り合うというものでした。この会議のキーは、住民に加えて、行政や企業の関係者なども参加しているということ。こうすることで、住民だけで理想を語り合う会議ではなく、「実現」を視野にいれた会議となり、実現への歩みがスムーズになるのです。

「昨年、実際に4回にわたる会議が行われ、様々なプロジェクトが動き出しています。なにより素晴らしいのは、この会議に参加したメンバーが会議終了後もプロジェクト実現にむけて自発的に活動を続けてくれていること。そして、その動きが周囲を巻き込み、住民参加型のまちづくりが動き出していることです」

宮田さんは、『まちづくり』は住民が自らの手で行われてこそ意味があると考えています。

「住みやすいまち、住み心地のいいまちというのは、もちろん行政における子育て支援や福祉の充実が必要不可欠なのでしょう。でも、それだけでは何かが足りない気がするんです。実は、『住民自らの手で、住みたいまちを作っているまち』こそ、本当に住みたいまち、なのではないでしょうか。そういうまちだからこそ、みんなが自分らしく暮らせるのだと思うんです」

 

【~わたしらしく、暮らせるまち。プロジェクト紹介~】

①としまscope

ひとり一人が豊島区での自分らしい暮らしを発見する“ ヒント ” を見つけるための情報発信サイト。おもしろい「場所・人・コト」や、イベント情報、プロジェクト紹介など、地元の魅力をあますところなく掲載している。

②としまぐらし会議

住民、企業、区職員が集まって、「こんなまちにしたい」を話し合う会議。公募で集まったメンバーは10〜60代、学生、主婦、社会人、自営業など多種多様。全4回、10時間以上におよぶ会議で発生した10のプロジェクトは、実現にむけて今も活動を続けている。

③小さな公園活用プロジェクト

区内に多数ある小規模公園を地域交流の場とするべく、(株)良品計画(FFパートナーシップ協定締結企業)などとコラボしてマーケットを開催。イベント当日は、近隣のタワーマンションや古くから続く商店街から多くの人が参加し、大盛況に。今後、定期開催を予定。

④としまパブリックトイレ アートプロジェクト
写真:西野正将
「公園のトイレをキレイにして欲しい」という住民の声でスタートしたトイレ改修。ただキレイにするのではなく、区ゆかりの若手アーティストに声をかけ、壁面アー トを制作。近隣学校や住民との共同作業でその土地に愛されるトイレが続々完成している。

⑤FFパートナーシップ協定(FF:Female/Family Friendly 女性/家族にやさしい)
様々な企業と連携し、女性や子育て世代、働く世代をメインターゲットとする事業を開催。これまで区の施設で行っていた子育てセミナーや図書館司書による読みきかせなどを、百貨店内で開催するなど、様々な取り組みが実施されている。

***

後編では、実際に実施された『としまぐらし会議』の内容について詳しく紹介します。東京都心で起こっている住民参加型の「まちづくり」とは。
どうぞ、お楽しみに!

後編はこちら!
https://turns.jp/19623

写真:矢野航 文:笠井美春





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