予想を超える130もの作品が寄せられた、福岡県マインクラフトコンテスト。それでは、受賞作品を中心に、応募された作品の一部に対する講評、感想を県政策支援課の園田誠一郎さんと審査員を務めたプロマインクラフターのタツナミシュウイチさんに聞いていこう。
Review : 課題部門 審査員賞「小倉城」
課題部門では、福岡県内の北九州地域・福岡地域・筑後地域・筑豊地域から選ばれた18の建物や情景を再現するもの。宗像大社辺津宮(宗像市)や小倉城(北九州市)など伝統的な建築物、アクロス福岡(福岡市)や九州国立博物館(太宰府市)など現代的な建築、玄界灘に浮かぶ夫婦岩が印象的な桜井二見ヶ浦(糸島市)などが対象だ。
タツナミさんがまず選んだのは小倉城。カクデスさん(福岡県)の作品だ。
「僕自身がお城が大好きだっていうこともありますが(笑)。小倉城の天守閣は独特な構造をしていたんですが、江戸時代に焼失してしまって昭和34年に再建されたんですよね。このとき、『昔のままより、もうちょっとお城っぽいほうがいいだろう』ということで今の形で再建されたんですが、カクデスさんの作品にはそういう歴史的経緯がちゃんと再現されている。資料をしっかり調べて、それをもとに作ってくれたんだろうなということがすごく伝わりました。立方体のブロックを組み合わせるマインクラフト建築では、曲線や斜めの構造を作るのは非常に難しいのですが、そこも素晴らしい」。天守閣だけじゃなくて、石垣など周囲の情景もきちんと作ってあって、『ああ、本当にお城が好きなんだな!』ということがビシビシ伝わってきました」(タツナミさん)
「カクデスさんは、大学生の男性の方です。印象的だったのは、表彰式でカクデスさんのお母様が、『息子はいつもゲームばかりして心配していますが、賞をいただいて県庁に招待していただいて、毎日ゲームしてるのも無駄じゃなかったと感じました』と話してくださったこと。僕自身も子どもの頃はゲームばかりしてましたけど、その経験があったからこそ、ゲームを仕事に生かすことができたと思っています」(園田さん)
「歴史は繰り返しますよね。昔は小説なんか読んでたらダメだといわれ、マンガもテレビもダメだといわれました。最近はインターネットばかりやってたらダメだといわれましたが、今となっては社会や教育にとってどれだけ大きな役割を果たしていることか。大人こそ、新しいものや知らないものを敬遠せずに、積極的に取り組んでいかなければ」(タツナミさん)
Review : 課題部門 特別賞 豊前国分寺三重塔
北九州地域・みやこ町にある豊前国分寺三重塔は、明治時代に建てられたもの。塔の高さは23.5メートルあり、一層目が大きくどっしりとした安定感があるのが特徴。昭和60年から行われた解体大修理で、現在の姿となった。そろれなちゃんさん(福岡県)の作品だ。
「こういう歴史的な建築物って、お城とはまた違った意味でハードルがすごく高いんですね。伝統的な木造建築の知識がないと、どういう構造になっているかわからないし、どの木材がどこを支えているか理解できない。昔の和風建築って装飾が多いように見えますが、実は意味のないものはほとんどなくて、様式美だけではなく機能美のある建物なんですね。それを踏まえた上でここまで再現しているのは本当にレベルが高い。
小倉城のような壮大な大建築ではありませんが、頭ひとつ抜けた素晴らしさがあります。ちゃんとした形にできてるということは、ちゃんと資料を調べているということ。そうでないと、絶対に形がゆがむんですよね。フィールドワークで現地に行くか、図書館などで徹底的に資料を調べるか。そうやって調べていくなかで、将来の進路として建築を志す子どもも出てくると思います」(タツナミさん)
作者のそろれなちゃんさんは県内の他の地域に住む小中学生なんですが、北九州が大好きだということで豊前国分寺三重塔を作ってくれました。しっかり調べて作ってくれたのはうれしかったですね」(園田さん)
Review : 自由部門 最優秀賞 何故に「メ?」
「実在する建築物の再現」という枠を外したときに、マインクラフターの想像力がどんなものを生み出すのか。自由部門には、限界を突破したインパクトあふれる作品が並んだ。
明太子、ラーメン、博多にわかのお面……。「福岡って、『め』がつく名物が多くない?」と気づいたchunky7さん(大阪府)の作品は、まさに発想の勝利。空中を舞うラーメン、明太子……。「おもちゃ箱感が伝わることを意識した」という作者の狙いはドンピシャリ。
「もう、一発で『やられた!』って思いましたね。見せ方が本当に上手いです。マインクラフトのなかでいろんなオブジェクトや建築物を作る技術、見せ方はもちろん素晴らしい。もっとすごいのは、空中に浮かべたオブジェクトをランダムに傾げたり、角度をつけて配置している。ゲーム内で行って楽しい、見て楽しいのに加えて、一番いい角度の画像を撮影してプレゼンに出してくるところもすごい。見せ方自体はもうダントツでしたね」(タツナミさん)
「これはこの作品を見た知事も言っていたんですが、改めて福岡には『め』が多いことに気づかされましたね。とても新鮮な気持ちになりました。空中に舞っているひらがなの『め』も、お土産で人気のお菓子のロゴを思わせるフォントでしたし。地元の我々では気がつかないことに着目して、それをちょっと崩してデザインしていく手法には驚きました」(園田さん)
Review : 自由部門 優秀賞 金印
歴史の授業で必ず習う、「漢委奴国王」と彫られた金印。江戸時代、志賀島(福岡市)で見つかった金印は福岡藩主黒田家に代々伝えられ、現在は福岡市博物館で展示されている。2.2センチ四方、高さ2.2センチ、重さ108グラムの小さな国宝は、福岡市博物館を訪れる年間十数万人の視線を浴びつづけている。作者はサイラスさん(福岡県)。「福岡に骨をうずめる予定です」とコメントしてくれた方だ。
「マインクラフト建築のなかには、ゲーム中に表示されるマップを絵のようにする表現があります。それをうまく利用して、ひとつのマップに表示されるように巨大な金印の意匠を作り、あたかも手元に金印が捺されているように表現する。これはマインクラフトのシステムを理解していないとできないことです。
それに、実物はほんとうに小さな金印を、巨大なものに再現していく。一見単純に見えるかもしれませんが、これを作るためには相当な技術がないとできません。いわゆるドット絵として金印の印面を設計し、図面として起こさなければ、ここまできれいにはできないんです。新しい故郷・福岡に対する愛情を感じますね」(タツナミさん)
Review : 課題部門 宗像大社辺津宮
賞には入らなかったものの、印象的な作品としてタツナミさんが挙げたのが宗像大社辺津宮。宗像大社は日本の神話にも登場する、日本最古の神社のひとつ。2017年、「宗像・沖ノ島と関連遺産群」として世界文化遺産に登録された。
「この作品は、福岡ワールド(マインクラフトのゲーム内に、今回のコンテスト応募作品が配置された世界)で見たときに、『どうして賞に選ばなかったんだ!』って思わず言っちゃったくらいで。宗像大社の社殿だけではなくて、敷地がきちんと再現されていました。拝殿だけじゃなくて、本殿までしっかり作りこまれていて、規模感もすごい。
こんなにすごい作品なのに、審査員の目にあまり触れなかったのは本当にもったいなかった。自分の作品の良さをどう撮れば伝わるのか、しっかり考えれば絶対に賞を取る実力があります」(タツナミさん)
Review : 自由部門 特別賞 もつ鍋
一方、園田さんの目に留まったのは「もつ鍋」。福岡名物として知られているが、1960年代には広く食べられていた。全国的にブームになるのは、1990年代に東京で博多風もつ鍋店がオープンしたことによる。作者は成澤瑛太さん(神奈川県)。
「見た瞬間に、もうお腹が空きましたね。作者は中学生の男の子なんですが、表彰式に出席した後に、福岡の本場のもつ鍋を食べて神奈川に帰ったそうです。『おいしかった』とメールをいただいたのはすごくうれしかったですね」(園田さん)
コンテストから見えてきた、地域とマインクラフトの可能性
大成功に終わった第一回福岡県マインクラフトコンテストを終えて、今後にはどんな展望が見えてきただろうか。まずは、主催側の園田さんから。
「県外の方に福岡に興味を持ってもらうだけでなく、福岡県内の小中学生に、『将来も福岡に住み続けたい』という気持ちを持ってもらうようにしたい。地元愛を醸成するきっかけになるとうれしいですね。
あとは、マインクラフト上に作った福岡ワールドの活用ですね。今回は期間限定でしたが、福岡ワールドに皆さんに来てもらって、福岡の魅力に触れていただくことができました。まだ具体的には決まっていませんが、福岡ワールド上でツアーを行うなど、今後新しい取り組みができればと考えています」(園田さん)
「僕自身は福岡には何度も足を運んでいましたから、現実の福岡をマインクラフトのなかで追体験させてもらった形です。仕事で福岡に行くといつも余裕がないスケジュールなので、今度はゆっくりもつ鍋も食べたいですね。大人として、福岡の魅力を再発見することができました。
新型コロナウイルス感染症が広がって、実際に旅行したり人に会う機会が少ない時期がありました。感染防止のために卒業式が中止になったある学校では、子どもたちがマインクラフトで校舎を作って、そこにみんなで集まって『マイクラ卒業式』をした、という事例があります。ここまでくると、もうマインクラフトはただのゲームじゃない。人と人がつながって、体験を共にするための素晴らしいツールですよね。
実は、僕と園田さんはまだリアルではお会いしたことがないんですよ。それでも一緒にコンテストに関わることができるのはマインクラフトの良さでもあるし、マインクラフトの縁で実際にお会いして新しい人間関係ができるという素晴らしさもある。次回のコンテストでは、選考会はリアルでやりたいですね。みんなで福岡のおいしいものを食べながら」(タツナミさん)
オンラインの便利さと、そこから生まれるリアルな関係。マインクラフトというツールを使って、地理的な距離のハードルを飛び越え、新しい関係人口のかたちが生まれはじめている。
文・深水 央
▼関連情報
福岡県マインクラフトコンテストで審査印を務めたタツナミさんとドズルさんが福岡ワールドを訪問した際の動画はこちら
【ドズヒゲさんぽ】ドズルさんと福岡ワールドにログインして見学枠【タツナミ視点/マインクラフト/Minecraft/まいくら】
https://www.youtube.com/watch?v=_dzuNE0QCqo
【マイクラ】福岡県主催!福岡ワールドに遊びにいくよ【福岡県マインクラフトコンテスト】
https://youtu.be/R0qU1LPNusI
福岡県マインクラフトコンテテストウェブサイト
http://fukuoka-micracon.com
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