岡山県では、地域の課題解決を目的とした起業を支援する「起業支援金」の対象者を募集しています。対象は 岡山県内に居住または居住予定の人 。東京23区に居住または通勤していた人が、起業支援金の交付決定を受けた場合は、併せて「移住支援金」も用意されています。岡山県北部で民宿や染織工房などを運営する、移住&起業の先輩、山本侑香さんに、田舎暮らしの魅力やローカルビジネスの可能性について語ってもらいました。
海外生活の後に選んだ地は、ふるさと岡山
岡山県津山市加茂町は、鳥取県に隣接し、豊かな自然が残る山間地。
人口は約5000人で、面積の約99%が森林です。観光名所と呼べる場所はほとんどなく、過去に外国人観光客が訪れることはなかったそうです。
ところが、2014年に一棟貸し農家民宿UJITEI(うじてい)がオープンして以来、外国人観光客がひっきりなしに訪れています。この民宿の仕掛け人は、この地の魅力を良く知る、地元・加茂町出身の山本侑香さんです。
侑香さんは高校までを加茂町で過ごし、大阪芸術大学に進学。テキスタイルを学んだ後、商社でテキスタイルデザインに携わっていました。2011年、ジュエリーデザイナーの夫・敦史さんと結婚し、互いのスキルアップのためベルギーに渡ります。
ベルギー人の友人が暮らす田舎に滞在した時に、馬のブラッシング風景を見たり、散歩をしたり、道案内をしてくれる犬を見掛けたり…。ご近所さんがパーティーを開いてくれたことも。まるでその地にずっと住んでいるかのような気取らない日常がとても心地よく、侑香さんは「加茂町に似ているな」と思ったそうです。
2012年、ベルギーからの帰国を前に、「これからどこを拠点とするか」を考えた侑香さんたち。
東京や大阪、敦史さんの出身地である神戸なども候補に挙がりましたが、侑香さんの実家に近い岡山県美作市にひとまず住むことにしました。「ベルギーで暮らした時と同じような時間が流れている」と思ったのが、岡山へ戻る大きな理由でした。
空き家活用の農家民宿に予想外の反響
美作での暮らしが落ち着いた2014年、侑香さんの父親が「一緒に住まないか」と持ち掛けます。
侑香さんの両親の家のすぐ隣に、新築の一軒家が、使われないまま空いていたからでした。そこで侑香さんは「思い切って資産として運用しよう!」と、当時まだ珍しいAirbnb(宿泊施設・民宿を貸し出す人向けウェブサイト)に登録。これが農家民宿UJITEIのスタートです。岡山県内では初のAirbnb登録となりました。
(ujiteiインスタグラムから)
経験のない民宿業を始めることに、何ら迷いはなかったという侑香さん。
「私がベルギーの何気ない生活に癒されたように、日本の日常を体験することができたら、来てくれたゲストはその時間を心に留めてくれるのではないかな、日本の田舎でのんびりするのもいいんじゃないかな」
侑香さん夫婦も、侑香さんの両親も仕事を持っていたため、「月に1組来てくれたらいいな」と軽い気持ちで始めたところ、登録して一週間もしないうちに、たくさんの反響が!侑香さんも両親も、そしてAirbnbJapanの人までもが、特に有名な場所でもないUJITEIになぜゲストがたくさん来るのか、疑問だったそうです。
田舎の日常が、クリエイターの琴線に触れる
その理由を侑香さんは「海外のゲストは、特別なことを求めてやって来るのではなく、加茂町の田舎暮らしそのものに価値を感じてやって来る」と分析します。
犬の散歩や墓掃除、農作業、しめなわ作りなどの正月行事といった、地元の人にとって何でもないことが、ゲストの感性に触れたようです。例えば「生け花体験」では、用意された花ではなく、侑香さんの母が説明しながら野の花を採取して活ける、ワークショップでは、近くで採れるヒノキの皮を煮出して染織体験をする。これらは都会では経験できないことです。また、ウェブサイトにアップされる施設や景観、アート作品の写真なども、ゲストの心に響いていました。
UJITEIのゲストのほとんどは、カメラマンや建築家、ピアニスト、作家といったクリエイター。
墨という画材から新境地を切り開いたり、田で鳴くカエルの声から新たな音楽を生み出したりと、彼らの発想はとどまることを知りません。スイスから来た画家は、1カ月の滞在でUJITEIでアートイベントを開き、リピートしてやってきた2回目、3回目は何と地元の公民館でイベントを開催しました。
コミュニケーション能力の高いゲストたちはすぐに地域に溶け込み、加茂町の人たちも「こんな所へ来てくれてありがとう」と歓迎する好循環。ゲストと地元の人とのコラボ、もともとアーティストだった侑香さんの父とのコラボ…。
いつの間にか、英語が話せなかった母親が英会話スクールに通い始め、積極的になったのだそう。「UJITEIの可能性は無限大です」と侑香さん。これらの人気ぶりは、ウェブニュースや新聞などでも取り上げられました。
県北部で広がるビジネスチャンス
多種多様なゲストが訪れるUJITEIでの経験は、侑香さんの次なるステップを後押しします。UJITEIの運営がスムーズになった翌2015年、美作市大原にある築約100年の古民家改修施設「難波邸」に誘われた侑香さんたち。「自分たちのショップを持ちたい」という夢がかなえられる難波邸へ、生活拠点を移すことを決意します。難波邸内の宿泊施設「Hostel Antamina」のオープンは、新しい挑戦でも無理なことでもなく、「自分たちができることを組み合わせたカタチ」でした。
(ujiteiインスタグラムから)
ジュエリーデザイナーの敦史さんは、カップルに一泊してもらい、ゆっくり心を通わせた打ち合わせを経て結婚指輪を作る場所として、侑香さんは染物のワークショップの場所として。また「SHOP難波邸」では、敦史さんのジュエリーの販売、侑香さんが地域機関と連携しプロデュースする手仕事プロダクトの商品の販売も始めました。
店舗を持つことで、宿泊者からダイレクトに作品の反応を見ることができ、「試すのも改善するのも早い」と手応えを感じている侑香さん。「まだまだ知られていない岡山県北部地域の手仕事。商品を宿で使用してもらったり、店舗で販売したりすることで、これらの魅力をここから世界に発信したい」と力を込めます。
「手仕事の作り手に興味のある人は、この制度を利用してぜひ岡山に来てもらいたい。店舗があり、世界へ向けた販路開拓のチャンスもあります。仲間がいる難波邸なら、あなたの持つ個性をさらに輝かせることができます」
チャレンジ後押しの基盤が整うまち
2人の挑戦は続きます。今年4月から、敦史さんはさらなるステップアップを目指し、美作市の所有するコテージ11棟の指定管理業者としての仕事を始めました。その先には、従業員の雇用や、事業のスケールアップを見据えています。
3歳の女の子の母親でもある侑香さん。「まるで自分が育った時のように、自然と触れ合い、いろんなことを体験させられる」と、子育て環境にも満足しています。近くに保育所や病院もあり、手に入らないものはネットで注文。「首都圏での暮らしと比べても、何ら劣ることはない」と笑顔で話してくれました。
「岡山には、チャレンジできる基盤がそろっています。土地が広く生活のコストも低いので、興味のあることに集中できる環境です。自然と共存する暮らし自体が、一つの個性として、世界に発信しやすい。そこに自分の特技を加え、宿泊事業の中で“体験”として提供することで自立につなげられます。移住してさまざまなチャレンジをしている仲間が沢山います。あなたの挑戦を待っています」
「終身雇用が崩壊した今だからこそ、できることや興味のあることで、その時々に適合した方がいい」とエールを送る侑香さんの話は、7月7日に東京で詳しく聞くことができます。岡山での暮らし方、仕事、子育て環境など、この機会に何でも相談してみましょう。
先輩起業者の体験談&起業支援金について聞いてみよう!
『晴れの国おかやま 移住・定住フェア』首都圏や海外から岡山へ、活動拠点を移してなお、精力的にチャレンジを続ける山本侑香さん。
来たる7月7日(日)に東京交通会館(千代田区有楽町2-10-1)で開催される「来て!見て!晴れの国おかやま 移住・定住フェア」に来場し、セミナー会場にて過去から現在までを語ってくれます。「空き家・古民家活用のローカルチャレンジ!」と題した経験談から、きっとあなたの個性が輝く場が見つかるはず。トークセッションの後、先輩移住者である山本さんに直接質問したり、相談したりできる時間もあります。お気軽にご来場ください。
あなたの地域への想いを強力バックアップ!!
「起業支援金」とは岡山県内で、地域課題の解決を目的とした、社会的事業を新たに起業する人を対象に、対象経費の2分の1(最大200万円※採択予定件数は年間20件)を補助する「起業支援金」が、6月5日から新たにスタートしています。
対象者の主な要件は、岡山県内において、6月5日以降に、個人事業の開業届出を行うか、法人を新たに設立して代表者となること、岡山県内に居住または居住を予定していることなどです。
対象事業は、岡山県が定める分野(社会福祉関連・子育て支援・地域活性化関連など)において、新たに起業する際の経費の一部を補助します(第一次産業は対象外)。対象経費は人件費、店舗等借料、設備費、原材料費などです。
詳細・ご応募は、岡山県商工会連合会HPをご覧ください。
http://www.okasci.or.jp/~keieishien/article/index.cgi?c=zoom&id=707起業支援金についてのお問合せは、岡山県商工会連合会までご連絡ください。
TEL:086-224-4341
FAX:086-222-1672
東京23区から岡山県へ、生活の拠点を移してもいいなと思っている人、UIJターンを考えている人は、移住支援金にも注目です。
直近5年以上、東京23区に居住していた人、または東京圏(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)から東京23区に通勤していた人が、6月5日以降に、5年以上継続して住む意思を持って、岡山県へ移住し、起業した場合は、移住支援金が交付されます。移住して、起業支援金の交付決定を受けた人に、100万円(単身の場合60万円)が移住先の市町村から交付されるという制度です。