紀伊半島で生まれる地域イノベーションの最前線 Vol.2
魅力的な一次産業で地域に人を呼び込む
-一次産業×イノベーション-

長い歴史のなかで、常に文化や信仰の中心地として存在感を見せてきた紀伊半島。ここに今、おもしろい人が続々と集まり、おもしろいことを始めているという。

古いものを受け継いできた地域で生まれる新たなイノベーション。そこには、たくさんの“ここだからできる”“ここでしかできない”が詰まっていた。

<Vol.1はこちら!>

紀伊半島とは?

紀伊半島は雄大な自然と歴史文化を抱えた日本最大の半島。なかでも奈良県・三重県・和歌山県にまたがる総面積1万平方メートルを超えるエリアを「紀伊地域」と呼ぶ。15市33町9村から成るこの地域には現在、約123万人が暮らし、それぞれに特色ある豊かな文化を持っている。

沿岸部は温暖な海洋性気候で、黒潮に乗ってさまざまな魚が集まる海産物の宝庫。リアス海岸が広がる北東部では、貝類や魚類の養殖が盛んだ。

一方、内陸部に広がる紀伊山地は標高1,000〜2,000メートル級の山々が連なり、清流と森林資源に恵まれた場所。有史以前から人々の信仰を集め、その足跡は「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産にも登録されている。 

海と向き合うことを選んだ男が、漁村を“楽しい場所”にする
-From 三重県鳥羽市-

浅尾 大輔 さん

大阪府出身。鳥羽市には妻の親戚が牡蠣養殖をしていた縁で訪れ、作業を手伝ううちに自身も牡蠣養殖を生業にしたいと移住した。

現在は牡蠣だけでなくアサリ養殖なども幅広く手掛けている。漁師ではなく養殖を選んだのは「農業のように生み出す仕事が好きだった」から。

「この海が俺の職場。かっこいいでしょ」。

大海原をバックに笑顔を見せるのは、鳥羽市浦村町で牡蠣養殖を行う浅尾さん。

「ここに来る前は、いろんな仕事をしながら全国を放浪していました。でも、自分が何者なのかと聞かれたときに、答えることができなかった。そこで、向き合えるものを探して辿り着いたのが、海でした」。

浦村町は、三重県の牡蠣生産量の3分の2以上をまかなう“牡蠣のまち”。道沿いにはたくさんの牡蠣小屋が並び、シーズンになるとたくさんの人で賑わう。

「浦村町で養殖した牡蠣は漁協を通さず、すべて自分たちで値段をつけて販売することができます。だから、みんなが生産者であり商売人。6次産業化なんて言われる前から当たり前にやっていたような、個性的なスタープレイヤーばかりで本当に驚きましたよ」。

そんなクセの強い海の男たちの中に、都会から来た未経験の若者が入っていくのは容易ではなかっただろう。ときには意見をぶつからせることもあったそうだが、地域の仕事を積極的にこなして信頼を積み上げ、今では“ミスター浦村”と呼ばれるまでになった。

浅尾さんが経営する牡蠣小屋も好調で、2店舗めを出店した

浅尾さんは、養殖を“海の農業”と例える。「畑と違うところは、牡蠣は吊るしておけば海が勝手に育ててくれる。それに、陸地と違ってタテ×ヨコにさらに高さもあるところがすごいですよね」。1本のロープに稚貝を種付けした塊が21個もぶら下がっているそうだ

今、浅尾さんが取り組んでいるのは「漁村を楽しい場所にする」こと。都会から訪れる人は牡蠣の養殖はもちろん、漁村のことをほとんど知らない。そこで、漁場を船で回るクルージングや体験を提供し、観光客を誘致している。浅尾さんはこれを〝漁村アクティビティ〟と呼ぶ。

そして、「楽しい場所」にするのは外の人に向けてだけではない。漁業の持つ、「きつい・汚い・危険」というイメージを払拭するため、収入の健全化にも取り組む。

「人が出ていくばかりではなく、地域には新しい風も必要。そのために少しでも間口を広くして、漁村を気軽に来てもらえる場所にしたいですね」

三重県鳥羽市
志摩半島の北東端に位置する鳥羽市は、リアス海岸が広がる風光明媚な場所。市全域が伊勢志摩国立公園に属し、自然を生かしたレジャースポットも豊富だ。

古くから港町として栄え、漁業や養殖業も発展。国内有数の海女文化の継承地でもある。

 

山間の村で挑むトラフグ養殖 冬の観光の起爆剤に
-From 奈良県天川村-

石原 琢士 さん

大阪府出身。前職で東京勤務を経験したのち、天川村役場へ。現在は企画観光課に所属し、村の盛り上げに取り組んでいる。

同時に、トラフグ養殖事業を前任者から引き継ぎ、新たな特産品づくりのために日々奮闘中。

修験道の聖地・大峰山を臨み、天の川と呼ばれる清流が流れる奈良県天川村。村内には古くから参詣客や行者が身体を休めるために立ち寄った温泉宿、自然が生み出す数々の絶景などの観光資源に恵まれ、山深い場所にありながらも人の往来が絶えない。

この山間の村で、新たに〝トラフグ〟が名物として提供されているのをご存知だろうか。それも海から捕ってきたものではない。正真正銘、天川村育ちのトラフグだ。事業を手掛ける村役場の石原さんに話を伺った。

「天川村は自然豊かな場所で、アウトドアを楽しむ方を中心に多くの方が訪れます。しかし、冬は雪が多く、観光客が一気に減少してしまう。そこで、新たな特産品で冬も天川村を楽しんでいただこうと、事業が始まりました」。

さまざまな案が検討され、宿のメニューとして魅力があり、陸上養殖が可能なものとして、最終的にトラフグが採用されたそうだ。 県外から養殖に挑戦したいという若者を地域おこし協力隊として迎え、廃校になった小学校の空き教室を使って養殖が始まったのは2019年。手探りの養殖はトライアンドエラーの連続で、初出荷までには4年の歳月を要した。

 巨大な水槽が並ぶ養殖場。教室をそのまま利用し、稚魚と成魚で部屋を分けて管理している。「専門家の方からも、養殖とは思えないほど身が締まっておいしいと評価をいただいています」と石原さん

「一番大変だったのは、歯切りの問題でしょうか。フグは密度が上がるとお互いを噛んで傷つけ合ってしまうため、一般的には歯切りが必要です。しかしフグの負担を減らすため、歯切りをしない方法を探りました」。

そうして1キロほどに育ったトラフグは、村内の宿などに卸される。事業スタートと同時にフグ調理免許を持つ事業者を確保し、対応できるようにしたそうだ。

1kg前後まで育った出荷直前のトラフグ

「事業としてはまだまだこれから。いずれは天川村にフグを食べに来てもらえるくらいにしたいですね」

山育ちのトラフグが、地域に新たな希望をもたらす。

奈良県天川村
季節ごとに表情を変える山々、「水の郷百選(国土庁)」にも選ばれる清らかな川の流れ、情緒ある温泉街など、自然資源に恵まれた天川村。

修験道発祥の地と言われる大峰山を擁し、その歴史とともに歩んできたこの村は、今もなおさまざまな信仰を集める聖地としても名高い。


リアルイベント開催決定!!

<TURNS×スカロケ移住推進部>
紀伊半島トーク&交流会
「地域×イノベーティブ」からライフスタイルを考える 

TOKYO FMで放送中の「Skyrocket Company」とコラボしたトーク&交流会を開催!紀伊半島でイノベーティブな活動をしている3名のゲストをお呼びし、”地域との関わり方“や“地域で実現できるライフスタイル”をテーマにお話を伺います。

当日は、同番組で秘書を務める浜崎美保さんと、移住推進部部長と務めるTURNSプロデューサー・堀口正裕がファシリテーターとして参加予定です。ぜひお気軽にご参加ください!

日時:2025年1月31日(Fri.) 19:00〜
場所:SHIBUYA QWS

詳細&お申し込みはこちらから!

                   

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