長い歴史のなかで、常に文化や信仰の中心地として存在感を見せてきた紀伊半島。ここに今、おもしろい人が続々と集まり、おもしろいことを始めているという。
古いものを受け継いできた地域で生まれる新たなイノベーション。そこには、たくさんの“ここだからできる”“ここでしかできない”が詰まっていた。
紀伊半島とは?
紀伊半島は雄大な自然と歴史文化を抱えた日本最大の半島。なかでも奈良県・三重県・和歌山県にまたがる総面積1万平方メートルを超えるエリアを「紀伊地域」と呼ぶ。15市33町9村から成るこの地域には現在、約123万人が暮らし、それぞれに特色ある豊かな文化を持っている。
沿岸部は温暖な海洋性気候で、黒潮に乗ってさまざまな魚が集まる海産物の宝庫。リアス海岸が広がる北東部では、貝類や魚類の養殖が盛んだ。
一方、内陸部に広がる紀伊山地は標高1,000〜2,000メートル級の山々が連なり、清流と森林資源に恵まれた場所。有史以前から人々の信仰を集め、その足跡は「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産にも登録されている。
まちの人を巻き込みながら、家族のように繋がれる場を
-From 三重県南伊勢町-
西岡 奈保子 さん |
愛知県出身。オフィスデザイナーとしてキャリアをスタートし、女性が活躍できる職場づくりに取り組むも、根本的な解決を求めて企業向け保育園事業を展開する会社に転職。あわせて大学院に進み「子育てしやすいまちづくり」を研究した。
南伊勢町には調査で何度も訪れるうちに人の魅力に惹かれて移住。現在は保育園コンサルタントを続けながら地域活性化事業に取り組む。次に作りたい施設は「うみべのいえ書斎」とのこと。 |
リアス海岸がもたらす美しい景観と、穏やかな海を抱く五ヶ所湾。その最奥部にある五ヶ所浦で、長年空き家になっていた場所が次々と生まれ変わっている。
「うみべのいえ」と名付けられたこれらの施設は、それぞれシェアキッチン、フリーリビング、手仕事スペースを備えたシェアクローゼットの役割を持つ。エリア一帯を「家」と捉え、部屋を共有することで家族のように繋がるコミュニティづくりを目指すプロジェクトだ。
名古屋から移住してきた西岡さんが、まちで感じた「人の距離の近さや風通しのよさ」を魅力と捉え、コンセプトに落とし込んだ。
「うみべのいえ」は、チャレンジの場としても機能している。
「私自身がやりたいことを我慢できないタイプなので、誰かの“やりたい”を聞くと、すぐ動きたくなっちゃうんです(笑)」。
その行動力で、手芸好きな近所の“たまちゃん”を洋服のお直し屋として巻き込んで「うみべのいえクローゼット」をオープンし、「うみべのいえ キッチン」をきっかけに3軒の飲食店がまちに生まれた。
「何かをはじめるときに、地元の人は関係性が近すぎて遠慮や怖さが生まれることもある。でも、外から来た私にはそれがないから、先陣を切って盾になれる。その代わり、まちの方には空き家の情報をもらったり人を繋げてもらったりしています」。
港に面した場所に立つ「うみのいえ×リビング」は、リビングをイメージした集いの場。シェアオフィスやコワーキングだけでなく、子連れママがお喋りをしたり、メイクレッスンや英会話教室を開いたり、飲み会をしたり……と、その使い方は限りなく自由だ
「言葉だとなかなか理解しづらいので実際に使ってもらうしかないのですが、やっと最近『何がしたいのかわかってきた』とまちの人に言ってもらえるようになりました」という西岡さんが次に目指すのは、外との繋がり。
「1000人が1度来る観光地より、100人が10回来るような、深く濃い繋がりがここには合う。〝家族のようなコミュニティ〟を地域だけでなく、外の人とも作っていけるような仕掛けを考えていきたいです」。
平成17年10月に、南勢町と南島町が合併して誕生した新しい町。 紀伊半島沿岸東部、度会郡の南端に位置し、東に志摩市、北は伊勢市、度会町、西は大紀町に接する。熊野灘に面した南側にはリアス海岸が広がり、その海岸線を中心に、町域の約6割が伊勢志摩国立公園に指定されている。 |
暮らす人を主語に置き、未来に繋がるまちづくりを
-From 和歌山県海南市-
いとう ともひさ さん |
兵庫県出身。デザイナーとして建築を学ぶも、「コツコツと手を動かしながら自分の手の届く範囲でものづくりがしたい」と大工になる。手頃な空き家を見つけたことをきっかけに冷水浦に移住し、カフェをオープン。集落に飲食店ができたのは、実に35年ぶりのことだった。
現在は空き家再生と同時に、海産物の養殖・加工で港町としてのアイデンティティを取り戻しながら、新たな産業と雇用を生み出す計画を進めている。 |
港に面した約200世帯の集落、冷水浦。若者の流出が続くこの地区で、今、空き家活用を軸とした集落の再生が始まっている。手がけるのは、大阪から移住した大工のいとうさんだ。
「最初はまちづくりをするつもりはなかったのですが、大工として困りごとを聞いているうちに空き家を譲っていただくようになり、少しずつ再生を始めたところ、それが広がっていきました」。
もともと集落には危機感があり、何かを始めたいといういとうさんを後押ししてくれる空気があった。それに加え、まちづくりに積極的な自治会長の協力を得られたことも大きかったそうだ。
カフェ・ビアバーから始まり、一帯にはDIY工房や音楽スペースなど、新しい施設が次々と生まれている。みかん援農プロジェクトと連携し、手伝いに訪れた人が滞在できるシェアハウスも用意した。
「今後は店を増やした先に、文化的な何かが必要になってくると思っています。芸術でも教育でも、時間をかけてじっくり取り組めるものがあれば、暮らす意義のあるまちになっていくのではないでしょうか」と、いとうさん。
「あとは、ちょっとした集落の困りごとを解決してくれる“コンシェルジュ”を雇ってこの店ごと任せたいです」。
地域は意外と日々の雑務が多い。若者が少ない集落において、“スキマ産業”的に請け負ってくれる存在の必要性を強く感じているそうだ。
いとうさんが最初に手がけたカフェ兼工房は住宅の間の細い坂道をのぼり、線路を潜り抜けた先にある。「この辺りは若い人向けの施設を集めているので、今後は坂の下のエリアに高齢者向けの店を作っていきたいですね」
冷水浦地区を楽しむための会員制度を実装。住民には無料で会員証を渡し、協力店でサービスを受けることができる。ヨソモノも購入することで会員権を保有でき、売買も自由。冷水浦地区の盛り上がりとともに価値が変動するという、おもしろい仕組みだ。
「まちづくりは儲からない。ではなぜやるのかというと、この先、自分や子どもが暮らす場所を面白くしたいから」といとうさんは言う。「しかし、僕だけがやるのではなく、集落の人が自分で語れるようにすることが重要です」。
いとうさんのまちづくりの主語は常に「集落の人」。華々しい地域再生の実績よりも当事者が暮らす意味を持てるまちを目指し、70年後の冷水浦をデザインしていく。
和歌山県北西部に位置し、四季を通じて温暖な気候に恵まれた市。関西圏の都市部や観光地へのアクセスがよい一方で、みかんやびわ、桃をはじめとした農産物や四季を感じる海の幸も豊富だ。
和歌山県下の国宝建造物7つのうち4つを有するほか、県史跡の和歌山藩主徳川家墓所など、多くの文化財に囲まれている。 |
リアルイベント開催決定!!
<TURNS×スカロケ移住推進部>
紀伊半島トーク&交流会
「地域×イノベーティブ」からライフスタイルを考える
TOKYO FMで放送中の「Skyrocket Company」とコラボしたトーク&交流会を開催!紀伊半島でイノベーティブな活動をしている3名のゲストをお呼びし、”地域との関わり方“や“地域で実現できるライフスタイル”をテーマにお話を伺います。
当日は、同番組で秘書を務める浜崎美保さんと、移住推進部部長と務めるTURNSプロデューサー・堀口正裕がファシリテーターとして参加予定です。ぜひお気軽にご参加ください!
日時:2025年1月31日(Fri.) 19:00〜
場所:SHIBUYA QWS
詳細&お申し込みはこちらから!