「風土-あしもとの風景をつなぐ」
自分自身の”あしもと”とこれからの風景

岩手県洋野町の歴史文化や人々の営み、暮らしから、自分自身の生き方やあり方を考える企画展

岩手県沿岸部最北端にある洋野町の企画展『風土-あしもとの風景をつなぐ展-』が、2023年1月19日(木)〜23日(月)の会期で、東京都港区芝浦にある「SHIBAURA HOUSE」にて開催されます。

会場には、本企画の前身となった二つの冊子「ゆい」と「つぎ」に掲載されている、この町の歴史や文化、暮らしを物語る写真と共に、人々が営みの中で古くから用いてきた民具なども展示予定。関係人口の創出や移住促進を目的としながらも、地域に寄り添い、地域の文脈を深く噛みしめるような展示に仕上がっているそう。

この企画には、どのような思いが込められているのか? 企画展を主催する、洋野町にある一般社団法人fumoto代表の大原圭太郎さんにお話を伺いました。


地域の本質的な良さを見つめるまなざし

「町の魅力を紹介するにあたり、一般的によくあるような、移住者に向けた町の切り取り方でいいのかなと疑問が生まれたんです」と、大原さんは自身の目線について語る。

大原さんは、洋野町の地域おこし協力隊のOBだ。仙台に生まれ、仙台や東京のアパレルで働きながら、地元の仲間と共にオリジナルのアパレルブランドを立ち上げた。しかし世の中にすでに溢れ返っている衣類を自らつくることに次第に違和感を感じ、進路を変更。奥様の出身地でもある洋野町の地域おこし協力隊として2016年に移住した。

そして、ミッションである町の観光PRを目的としたwebサイトの制作やイベント企画などの活動経験を礎に、任期の終わる2019年に自ら立ち上げたのが一般社団法人fumotoだ。webサイト「ひろのの栞」をはじめとするローカルメディアの運営の他、移住希望者と町役場との間に立ち、地域おこし協力隊の募集と支援を主な事業として行なっている。

fumotoは2020年から町からの依頼で関係人口創出事業を行っており、町から委託されている事業の中で、関係人口の創出を図るため、今回の企画展の前身となる二つの冊子「ゆい」と「つぎ」を制作した。冊子の名は、農業や漁業などの一次産業を生業としてきたこの地域に古くから伝わる助け合いの仕組み「ゆいこ」と、そうした地域の伝統を編み直しながら次の時代へ「継ぐ」という意図から付けたものだ。

冊子のコンセプトは「ひろのを紐解き、紐付ける」こと。ひろのの今を知るために、今とつながる過去を知り、未来に思いを馳せるために、ひろのの今を知る。メンバーの多くが移住者で構成されたfumotoが、洋野町の良さを表現する冊子をつくるにあたり、この土地で暮らす自分たちが今、どのような道の上に立っているのかを考える必要性を感じていた。

「洋野町では、過去にも地域商社をつくろうというような動きがありました。これまでも誰かが、何かの場面で、思いを持ってこの町を盛り上げようとしてきたんです。洋野町に来たばかりの頃、そんなことも知らずに町に提案をしていた自分が恥ずかしい。この土地で何が大事にされてきて、この先に何を残していくのか。昔を知ることで改めて地域の本質的な良さを知り、僕たちの今後の活動にもつなげていきたい。そんな思いから冊子づくりは始まりました」

地域活性や関係人口創出の事業を進めていく上で、私たちはいつの間にか地域を安易に「資源」とみなし、消費してしまってはいないだろうか。敬意あるまなざしで地域を見つめること。冊子づくりで実践したfumotoのこの目線は、今回の企画展にも貫かれている。

 

洋野町を紐解くことで見えてくるもの

冊子づくりを進める中で、大原さんたちは、長年に渡り洋野町の歴史を調査してきた人や、工芸を受け継ぐ人、厳しい自然環境に適応しながら暮らしてきた人々とたくさんのつながりを得た。その人の命の温度が感じられるようなリアルな言葉を数多く聴き、一つ一つに生きた証が刻まれた暮らしの道具も多く見せてもらった。こうして完成した二つの冊子「ゆい」と「つぎ」は、町役場の職員たちからはもちろん、地元の人々に想像以上に喜ばれた。

「この冊子は関係人口創出が目的ではありましたが、地元の人にも配布しました。年配の方が想像以上に喜んでくれたり、近くにいた方と昔話で盛り上がったり、親戚に送るから五冊ほしいという方もいました。この冊子をきっかけにコミュニケーションが生まれていることにうれしくなりましたし、若い方も興味を持ってじっくりと見てくれました。」

「関係人口創出というと、町の外部へ向けてプロモーションする傾向が強いのかなと思いますが、地元の人にも意図を理解してもらって進めないと気持ちが置き去りになってしまう。小さい町は、なおさらそうです。僕たちが関係人口をつくることはできますが、本来は、地元の人々が自分たちの力で関係人口をつくっていくようになることが大切なのではないかと思います」

「ゆい」と「つぎ」は、洋野町の人々に、この町にある文化や誇り、この町で生きることの価値を実感させるような機会を与えた。そして、その価値は洋野町に生きる人々に限ったものではなく、実は私たちの中にある故郷や好きな町、思い入れのある土地などに思いを馳せるための普遍性と独自性を浮かび上がらせるきっかけにもつながる。二つの冊子から派生した今回の企画展で、洋野町という小さな町の歩みや、そこで暮らす人々のルーツに触れることは、私たち自身がどこから来てどこへ行こうとしているのかを考える、貴重な手掛かりかもしれない。

 

地域の営みが教えてくれる、自分自身の足元とこれから

今回の企画展では、実際に現地の生活の中で長年使われてきた民具も展示される。人が使い込んだ道具は独特の気配を持ち、声なき声で語るものだが、洋野町の民具はどんな佇まいで会場に在り、何を語りかけてくるのだろうか。大原さんに尋ねた。

「展示物の一つに、洋野町では『ガンガラ』と呼ばれているブリキ製の四角い箱があります。町の人が今回の展示のために貸してくれました。昔、この地域のお母さんたちは、このガンガラをいくつも持って隣の八戸まで行き、魚などを仕入れて帰ってきて地域で売るということをしていたそうです。女性がガンガラを2つも3つも背負って行商していた。『そのせいでみんな膝が悪くなった』と言うんですね。当時はそれが日常だったんだと思いますが、そうやって暮らし子どもを育て、今に繋がっているのかと、写真と道具から実感しました。

写真中央にある箱が「ガンガラ」

僕自身も仙台に生まれ、東京でも働いており、都会での働き方や生き方が価値観として当たり前でした。人に自慢できるキャリアを築くのが良い、というような。ところが洋野町に来てから、農業や炭焼きや漁業や酪農など一次産業に従事している方も身近にたくさんいて、その仕事を好んで選んだかどうかに関わらず、自分の仕事と向き合う姿勢から、それぞれの役割を町の営みの中で果たし続けている感じがして、世間で良しとされる価値観にしがみついてきた自分がちっぽけに思えました。取材で漁師さんから、なぜ漁師になったのかとか、そんなことを考えながら漁師をしているんだとか、お話を聴いて、自分の在り方とも少しずつ向き合うことになっていったんだと思います。

(撮影:芥川仁)

洋野町にあるこうした昔の暮らしや生業が、これからの未来に必要かと言われたら、そうではないかもしれないし、知らなきゃいけない、残さなきゃいけないと押し付けるつもりもありません。ただ、知っていたら自分の『生命力』みたいなものが上がりそうな気はする。洋野町に来て、僕はそういうことをたくさん学んできたのかもしれません」

これまでの時代の中で良しとされてきた画一的な生き方のモデルは、すでに賞味期限が切れている。不確定な未来に向かって、自分自身が置かれた場所を見つめ直し、どこで、誰と、どのように生きていきたいのか。洋野町という岩手県沿岸部最北端の土地に暮らしてきた人々や、今暮らしている人々の、私たちには想像も及ばない生き方を知ることで、自分の人生を捉え直し、選択肢の幅を広げていくことがこの企画展の狙いなのだろう。

「ひろのを紐解き、紐づける」をコンセプトに掲げるこの企画展で、洋野町から続く “自分自身のあしもととこれからの風景” を発見してみてはいかがだろうか。

(文:森田マイコ 写真提供:一般社団法人fumoto)

 

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風土-あしもとの風景をつなぐ展-
開催日 2023年1月19日(木) 〜2023年1月23日(月)
時間11:00-20:00
会場SHIBAURA HOUSE 1F
地図
住所東京都港区芝浦3-15-4
アクセスJR田町駅芝浦口より徒歩7分、都営地下鉄三田線・浅草線三田駅A4出口より徒歩10分
主催一般社団法人fumoto・洋野町
デザイン・キュレーション協力:合同会社ホームシックデザイン
※この企画は、ヒロノジン(関係人口)増加プロジェクトとして、洋野町から委託を受けて実施しています。
ギャラリートーク
さまざまな地域、フィールドで活躍されている方を招き、ご自身や仕事と地域との接点について、弊社代表の大原とともにお話ししていただきます。詳しいテーマについては、ひろのの栞のSNSで随時情報を更新します。

1月19日(木)「地域と編集」19:30-21:00
ゲスト:日本仕事百貨 編集長 稲本琢仙氏

1月21日(土)「風土・風景を紐解く」14:00-16:00
ゲスト:リビングワールド代表 働き方研究家 西村佳哲氏 / 地域編集室簑田理香事務所 LLP風景社 簑田理香氏

1月22日(日)「暮らしから生まれる洋野の器〜工房生活のすすめ〜」14:00-16:00
ゲスト:モノ・モノ主宰 菅村大全氏 / 工房森の詩代表 木工職人 中村隆氏

参加料:無料
定員:各15名(申込優先制)
聞き手:一般社団法人fumoto代表理事・大原圭太郎
お申し込み方法:予約フォーム( https://forms.gle/f5UpnKvHLHfFMC9M7 )からお申し込みください。
来場特典/関連イベント情報
冊子「ゆい」「つぎ」プレゼント
展示をご覧いただきアンケートにご回答いただいた方には、本展のきっかけとなった2冊の冊子「ゆい」「つぎ」を2冊セットで差し上げます。
洋野町特産品ミニ販売会
「ひろのの栞」がセレクトした洋野町の特産品をご購入いただけます。
出張スタンド栞 ひろのとつながる案内所
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展示ガイド
ご来場者さまの要望に応じて随時開催しますので、本展についてより深く知りたい方は会場スタッフにお声がけください。
受付終了
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