2014年、東京都心にありながら「消滅可能性都市」に選ばれた豊島区は、今その問題に真っ向から向き合おうとしています。現時点では人口減少の危機に直面しているわけではないものの、人の転出入が多く定住率が低い、単身世帯の割合が高いなどの背景により、高まる少子化と高齢化の問題を解決するべく動き出した豊島区は、とてもスピーディーに対策を講じました。
「消滅可能性都市」発表からわずか2年。
2016年には、『女性にやさしいまちづくり』を担う課を新設し、その課長を公募。これを経て課長となった宮田麻子さんは、現在、様々なまちづくりの企画を実行しています。今回は、こうしたまちづくり企画の一つである『としまぐらし会議』の全貌を紹介します。
*2018年4月より「女性にやさしいまちづくり担当課」は「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室へと名称変更しています。
記事前編『東京にある消滅可能性都市「豊島区」が起こす、本気の「まちづくり」』は、こちら!!
https://turns.jp/19245
『としまぐらし会議』からはじまる、住民の手でつくるまちづくり
2016年からさらに加速した、豊島区のまちづくり。
推進室長の宮田麻子さんは、就任後様々な企画を立ち上げてきました。そのひとつが『としまぐらし会議』なのですが、そもそも、これはいったいどのような会議なのか、その内容を宮田さんに聞いてみました。
【としまぐらし会議】
課題:ここをどんなまちにしていきたいか。アイデアを出し、実行プランを立てる。
参加者:住民(公募にて)、行政関係者、区内企業関係者、区内学校関係者
「豊島区のまちづくりは、「わたしらしく、暮らせるまち。」というのがテーマですが、この会議では、実際に住民・行政・企業が一緒にテーブルについて、どんなまちにしていきたいかを話合います。フラットに自由に、こうしたいという理想をメンバー同士で共有し、アイデアを育てるにはどうすればよいか、具体的なプランを考えていきました」
行政も企業も同じテーブルで話し合うことが、プロジェクトを実行に導く
「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室長の宮田麻子さんの発案でスタートしたこの会議のキーポイントは、大きく二つでした。
①住民から参加者を公募すること。
②行政と企業関係者も参加メンバーとして加わること。
「全国でも住民のワークショップや審議会などの会議はたくさん開催されています。しかし、ごく限られた住民や有識者が参加するものが多いように感じていました。異なる立場の人達が一緒にテーブルを囲み、様々なアイデアを出し合い、実現可能性をその場で探っていく。この会議の意義はここにあります」
『としまぐらし会議』は、まさに、リアルな公民連携会議なのです。
実際、この『としまぐらし会議』は2017年から4回にわたって開催され、10~60歳代の幅広い年齢層のメンバー56名が会議に参加しました。そして、合計10時間以上におよぶワークショップを通じて10のプロジェクトが誕生。最後の会議では、それぞれがプレゼンテーションを行い、これからのプロジェクトの内容と今後のアクションプランが発表されました。
第二回としまぐらし会議
【発表されたプロジェクトの一例】
■農縁公園プロジェクト
区内で土と緑に触れ、大人と子どもが同じ目線で楽しむことができる場づくりを提案。点在する公園などに農園を作り、周辺住民が利用できるようにする、地域住民が参加できるマルシェなどのアイデアが発表された。
■池ブルックリンプロジェクト
職住遊近接型の暮らしができること、外国人が多く住んでいることなど、区の特徴を活かし、食や異文化に触れるイベントやライフスタイルブックの制作などを企画、発信していくことで、豊島区をPRするという内容。
■としまで子育てプロジェクト
「孤育て」から「co-育て」へ、子育てを孤立させないための企画。情報共有の場をつくり、子育ての悩みのコミュニケーションをはかる。子育てを応援するプラットホームとして周りを巻き込みながら、活動を広げる。
すでに開催されたプロジェクトもあり、その実行力の高さには目をみはるものがあります。このスピーディーさこそ、参加メンバーに行政や企業関係者を含めたことの功績と言えるのではないでしょうか。
『としまぐらし会議』の参加者が描く、理想のまちへの道のり
「池ブルックリンプロジェクト」の参加メンバーである織田博子(イラストレーター・マンガ家)さんに会議の感想などをうかがってみると、会議参加前と後でその心境に変化があったと教えてくれました。
池ブルックリンプロジェクト公式サイトはこちら
http://ikebrooklyn.jp
池ブルックリンプロジェクトのfacebookページはこちら
https://www.facebook.com/ikebrooklyn2020/
「直感で、面白そう!と思ったから会議メンバーに応募してみました。1回目、2回目の会議までは、みんなでこうしたい、ああできればなどのアイデアを出し合っていて、自分がなぜこの会議に参加したいと思ったのか、正直つかめていなかったんです」
そんな織田さんが「ああ、これか!」と感じたのは会議終盤だったと言います。
「私はこれまで世界を旅し、イラストや漫画を通じて、世界の食文化を日本に紹介してきました。そんな私にとって、豊島区はとても面白いまちなんです。新大久保のコリアンストリートはとても有名ですが、それ以外にも大塚にはムスリムストリートがあり、イスラムの食文化に触れることができます。ちょっとそこまで行けば、異国に触れられる。それが豊島区の魅力。でもそれがあまり知られていないんですよね。だからこそ、私はこの区に住んでいる人達みんなに、それを発信していきたいと思ったんです」
会議を通じて、自分がやってきたことの延長上にこのプロジェクトがあると感じ、それにやりがいを持つことができたという織田さん。
「世界の食文化を日本で発信してきた私が、今度は豊島区にあふれる異文化、異国の食文化を区民に発信していく。そこに意味を感じています」
と、にこやかに語ってくれました。
また、池ブルックリンプロジェクトという名前を発案したメンバーには、その命名の理由について聞いてみました。
「アメリカのブルックリンは、あまり印象のよくないまちでしたが、アートイベントをうまく取り入れ、今は若手アーティストがたくさん住んでいるクリエイティブなまち、多様性を受け入れるまち、として知られるようになりました。私は結婚して豊島区に住むようになりましたが、外国人がたくさん住んでいて、様々な文化が混在していること、それを受け入れるまちであることに面白さを感じ、池袋もブルックリンのようになれるのではないか、と思ったんです」
メンバー宅でわいわい会議。クラウドファンディングもスタート!
会議の中で、メンバー同士のライフスタイルを共有してみると、「朝保育園に子どもを送ってから仕事をし、迎えに行った後は池袋のサンシャイン水族館に寄り道する」など、職住遊接近型ならではのライフスタイルを発見するなど、ひとり一人のライフスタイルがとても面白いと感じたという二人。
「そういったライフスタイルを発信することで、豊島区で暮らすことの面白さを共有できたらいいなと、メンバーで話し合い、ライフスタイルブック制作を計画しました。それに向けて、クラウドファンディングがまもなくスタートする予定です」
手始めにインスタグラムを使って、「♯池ブルックリン」で身の回りの面白いモノを発信しはじめたというプロジェクトメンバー達。2018年3月の時点でその投稿はすでに300件を上回り、少しつづ活動の輪が広がっています。そして、いよいよライフスタイルブック制作に向けて、クラウドファンディングも始動。公式な会議は4回で終了しましたが、今はそれぞれのメンバーの家などに集まり、プロジェクト活動を続けています。
「誰の家に行くのも近いんですよ。ぱっと行けちゃう。みんな区民ですからね」
ちなみに、活動は絶対参加ではなく、参加できる人が集まるというスタイル。仕事や育児などが忙しい時にはお休みして、動くことができるときに力を注ぐ。そんなゆるい活動だからこそ続いているのかも、と和やかな雰囲気で二人はプロジェクト持続の秘訣を教えてくれました。
暮らしている人が主役。
最後に、「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室は各プロジェクトの動きにどうかかわっていくのかを宮田さんにうかがいました。
「推進室では、事務局として進捗を見守りつつ、困ったときの相談役をしています。理想のまちは、自分たちの手でつくる。それがなにより大切なので、そのお手伝いをしながら、私たちも一緒にまちづくりをしていけたら、と考えています」
また、『としまぐらし会議』を経て、宮田さんはまちづくりの可能性を、住民の中に見つけたと言います。
「今回の会議のように、発言する場所をつくることで、区民のみなさんは自ら手をあげ、たくさんのアイデアを出し、そこに力を注ごうとしてくれます。実際に、『としまパブリックトイレ アートプロジェクト』で、公園のトイレをキレイにしようと動き出せば、お手伝いをしてくれたり、キレイになったトイレの維持方法を考え、見回りを提案してくれたりしました」
住民が持つこの力を最大限に引き出すことこそ私の仕事だと、宮田さんはそう考えています。
「理想のまちを、自分たちの手でつくるからこそ、『わたしらしく、暮らせるまち。』ができあがるのではないでしょうか。誰かがつくるまちではなく、自分たちでつくるまち。まちに愛着を持つためには、この『参加』がとても重要なんです」
今後はもっとこういった話合いの場や、住民参加型のまちづくりプランを考えていきたいという、宮田さん。
豊島区のまちづくりは今、住んでいる人たちの手で進められています。
※記事前編『東京にある消滅可能性都市「豊島区」が起こす、本気の「まちづくり」』は、こちら!!
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写真:矢野航 文:笠井美春