福島県と“これからの地域との繋がり方”をコンセプトにしたローカルライフマガジン「TURNS」が実施する、「学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト」が始動! 県内の過疎・中山間地域にある2つのエリアを舞台に、学生たちが課題解決や活性化にアプローチします。
前回(https://turns.jp/55310)に続き、1月15日(土)〜16日(日)の2日間にわたり、会津美里町関山地区で実施した現地調査の模様をレポートします。
歴史ある集落で活性化への道を探る
福島県西部、会津盆地の中ほどにある会津美里町。のどかな田園風景が広がり、寺社仏閣や昔ながらの街並みが残るこの町は、2005年に会津高田町、会津本郷町、新鶴村が合併して誕生しました。今回のプロジェクトの舞台となる関山地区は、旧会津本郷町にある集落で、古くは下野街道の宿場として栄えた歴史があります。街道の両脇に長さ500メートルほどにわたって家が建ち並ぶコンパクトな集落で、現在、50世帯、150名ほどが暮らしています。学生たちに課せられたミッションは集落内にある「螢の宿こぶし荘」という古民家宿泊施設の持続可能な運営方法を探ること。加えて地区の魅力発信ができるようなアイデアも考えてもらいます。参加するのは、大澤こみちさん(和歌山大学3年)、梶村莉子さん(東北芸術工科大学3年)、勝田修司さん(関西大学1年※今回は不参加)、鈴木元太さん(東京大学3年)の4名。前回の滞在をふまえ、実現可能な企画を考えていきます。
雪景色の中で2度目のリサーチ
【1日目】
まずは、関山地区の活性化を目指し、こぶし荘の運営を担ってきた「NPO法人あいづ関山倶楽部」のメンバーと、前回の滞在の後に進捗のあったことを共有しました。
「これ、作ったぞ」と言いながら、副理事の鈴木昭一さんが取り出したのは、スマホやタブレットを立てられる台。大澤さんの、「関山の風景を写真に収めるためのフォトスポットを作る」というアイデアの実現に向け、試作品を持ってきてくれたのです。当初は景色の良い場所に設置する予定でしたが、「風雨にさらされると、長持ちしないのでは」との意見もあり、持ち運び可能なスタイルに。木材には廃材を利用したそうです。早速、関山の集落を歩きながら試してみることになりました。
また、関山の魅力やこぶし荘での滞在を紹介するガイドブックの制作も行うとのことで、冊子の構成も考えていきます。
冬の関山は、前回訪れた時と打って変わって一面の銀世界。雪があるだけで、風景が違って見えます。集落の中を歩きながら、大澤さんと梶村さんは作ってもらったスマホ台をいろいろな場所に置いて試し撮り。高さや使用感をチェックしていました。一方、前回欠席だった鈴木さんは、蔵のある街並みや集落の歴史に興味を惹かれたようで、同行してくれた「あいづ関山倶楽部」のメンバーにいろいろと聞き取りを開始。途中雪かき中の町の人々と挨拶を交わしたりしながら、みんなで散策を楽しみました。
町の魅力を知り、伝え方を考える
午後は、会津美里町の観光協会へ。町の歴史や名産について、いろいろと教えていただきました。旧会津本郷町は「会津本郷焼」という国の伝統的工芸品にも指定されている焼き物の産地で、町内には今もたくさんの窯元があることを知り、陶磁器会館などを見学。最近では、陶器の欠片を使ったアクセサリーなども作られており、その1点もののかわいさは学生たちの完成にも響いたよう。
こぶし荘に滞在しながら、町めぐりを楽しむプランなども考えられそうです。
その後は関山に戻り、「あいづ関山倶楽部」のメンバーに個別取材を申し込みました。鈴木さんが向かったのは片桐高正さんのお宅。畑から出土した縄文土器や戊辰戦争の時代の不発弾など貴重な品を見せてもらいながら、関山の暮らしについて話を聞きました。
一方、大澤さんは鈴木昭一さんのお宅へ。「関山にいいところなんかないよ!」と、いつもの歯に衣着せぬ物言いではありながら、関山がいかに先進的で自然に恵まれ、暮らしやすい環境であるかについて話が止まらない昭一さん。その姿が、関山の魅力を何より物語っていました。
こぶし荘に戻ったあとは、1日の振り返りとプロジェクトの内容について話し合いが進められました。
「地区の自治がうまく機能していて、いいコミュニティが生まれている」と感じたという鈴木さん。それをふまえ、自分たちがどのような関わりを持てるか考えたそうで、「ガイドブックには一般的な観光情報ではなく、実際に関山を訪れて何を感じたか、何をして過ごしたかなどSNSでの発信のような目線を意識したい」と話してくれました。冊子がきっかけとなり訪れる人が増えれば、こぶし荘の持続可能な運営方法も見えてくるかもしれません。
大澤さんは「魅力はあるけど、活用する人がいなかったり、発信できていなかったりすることがたくさんある」と感じたそう。「関山は1時間ほどで散策ができるコンパクトな集落。気軽に滞在できる長所を生かした過ごし方を提案したい」と、方向性が固まったそう。「自分たちが率先して新しいことに取り組み、地元の人にも『自分たちもやってみたい』と思ってもらえたら、こぶし荘や関山の活性化にもつながるのでは」と、考えています。
翌日の報告会を前に、学生たち3人の話し合いは夜遅くまで続けられました。
地域と深く関わることで見えてきたもの
いよいよ最終日。この日は、「あいづ関山倶楽部」のメンバーも交えて、2度のリサーチをふまえてプロジェクトの実行に向けた会議が行われました。
まずは学生たちから、自分たちの滞在の感想をまとめたガイドブックを作ることや、貸し出し可能なスマホスタンドの製作について、メンバーへ報告。冊子にはこぶし荘の予約の仕方など必要な情報や集落のマップも盛り込み、観光協会にも置いてもらう予定です。また、スマホスタンドも、初めて訪れた人が使いやすいようおすすめのフォトスポットを付属したいとのこと。自分たちの足で歩き、住民から丁寧に話を聞きながら練り上げたプロジェクトに代表理事の五十嵐賢次さんら「あいづ関山倶楽部」のメンバーも真剣に耳を傾けます。
その中で、鈴木昭一さんからはターゲットのミスマッチを防ぐため、「“20代の〇〇”など、世代を強調するような言葉がほしい」という要望も。学生たちの若い感性が、きちんと同世代に届くようにと願っているからこその提案でした。実際に、学生たちがインスタにあげた関山集落で撮った動画や写真には、友人たちにも好評だそうで、のどかな風景や自然に囲まれた静かな時間は若者たちにも求められているよう。ニーズに応えられる情報発信の方法が、改めて大切であることを全員が共有しました。
やり取りを見ていたコーディネーターの「一般社団法人TORCH」の長谷川祥子さんは「こうして自分たちで調べて形にしようとしてくれているのがうれしい」とコメント。あいづ関山倶楽部と皆さんの活動が、他の集落にとっても未来への良いヒントになると思います。ありがとう。」と感謝の言葉を贈りました。
話し合いを終え、五十嵐さんからは「我々が気付かない視点をもらえました。どんなものが仕上がるか期待しています。ご苦労さま」とねぎらいの言葉が。学生たちも「町のことを詳しく教えてもらえて楽しかった」「課題や難しい現状も本音で話してくれてうれしかった」「感じたことをきちんとアウトプットできるようがんばりたい」と、口々に思いを語り合いました。
最後に「あいづ関山倶楽部」のメンバーへ滞在中に撮りためたチェキをプレゼント。丁寧なメッセージ付きに、思わず笑顔になるみなさん。
地域に暮らす人と交流を重ね、集落をくまなく歩き、学生たちが導き出したのは、感じたままの関山の姿を自分たちの目線で切り取り発信することでした。決して大掛かりな企画ではありませんが、彼らの作るものが誰かのもとに届き、関山という集落を知るきっかけになれば、と願うばかりです。
「学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト」の成果発表は2月27日(日)に行われます。
学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト レポート
〜いわき市田人地区〜【第1回】 https://turns.jp/55673
〜いわき市田人地区〜【第2回】 https://turns.jp/57496
〜会津美里町関山地区〜【第1回】 https://turns.jp/55310
〜会津美里町関山地区〜【第2回】 https://turns.jp/57999