学生のチカラでふくしまの里山を活性化!
「学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト」
〜いわき市田人地区〜【第1回】

福島県と“これからの地域との繋がり方”をコンセプトにしたローカルライフマガジン「TURNS」が実施する、「学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト」が始動! 県内の過疎・中山間地域にある2つのエリアを舞台に、学生たちが課題解決や活性化にアプローチします。
今回は、11月19日(金)〜21日(日)の3日間にわたり、いわき市田人地区で実施した現地調査の模様をレポートします。

大学生と集落の協働による地域活性化事業について 

 

田人の魅力発信プロジェクトがスタート

福島県の南東部に位置するいわき市は、太平洋に面した人口35万人を抱える県下最大の街。常磐炭鉱で栄えた歴史を持ち、現在は工業や観光業、水産業を中心に大きな産業圏を作っています。しかし、実は面積の72%が森林と、広大な中山間部が広がっていることについてはあまり知られていません。

今回の舞台もそんな山間の地域。いわき市の中心部から車で40分ほどの田人町です。なだらかな山間に8つの集落が散らばり、1300人ほどが暮らすこの町は、自然豊かで伝統的な行事も数多く残っていますが、これといった名所がなく、市内の方でさえ「行ったことがない」「どんな場所か知らない」という人は多いそう。今回の学生たちへのミッションは、そんな田人のことを知ってもらい、ファンやリピーターを増やしていくこと。多くの方々が訪れたくなるような仕掛けを考えてもらいます。

プロジェクトに参加するのは東郷旅人さん(高知大学1年)、権藤有作さん(情報経営イノベーション専門職大学1年)の2名。東郷さんは自身の名前と同じ響きの地名に縁を感じて、権藤さんは地域の人々との交流を目的に、プロジェクトに参加しました。

 

【1日目】

まずはコーディネーターを務める下條由美子さんに田人の現状について話を聞きます。都内のNPOで働いたのち、地元のいわき市にUターンし、縁のあった田人町でさまざまな地域活性化の活動に携わる下條さんは、現在、若者たちが滞在しながら地域との関わりを持てる場として「田人ワークキャンプ・ビレッジ」を整備中。田人について、昔から移住者を積極的に受け入れてきたこと、市内初のコミュニティスクールがあり、校外活動が盛んなこと、若い世代は便利な街中に出てしまい、高齢化が進んでいることなどを教えてもらいました。

プロジェクトの展開を見据え、「田人に関心を持つ人が増え、今後も続けていけそうなコラボを期待しています」と下條さん。のどかな里山の風景を前に、大きな課題に挑む大学生たちの心も引き締まります。

 

田人の“人”を訪ねて

昼食がてら訪れたのは国道289号沿いにある喫茶店「やまがらの森」。オーナーの小野順一さんは、お店のある南大平地区の元区長で、地域のことをよく知る人物のひとりです。大学生たちの質問に快く答えてくれながら、もし若者が定期的に田人町に来てくれるならお願いしたいことについても考えてくれました。

「草刈り、薪割り、畑や田んぼをイノシシから守る防護策の設置など、いろいろ思い浮かびますね。大事なのは継続して来てくれることかな」

集落の暮らしを維持する作業が高齢化で難しくなりつつある現状において、若者の力はとてもありがたいもの。しかし、どうやって来てもらうかに課題があるようです。

その後は町の中心部に移動し、かつて炭鉱で賑わったという黒田地区や地域おこし協力隊が運営する古民家カフェ「HITO-TABI」などを見学。下條さんのご主人で現役隊員の下條真輝さんが施設の紹介をしてくれました。カフェでは通常営業のほか、地域のお年寄りの絵画サークルの展示が行われたり、放課後の子どもたちの学童の役割も担っているそう。多世代が集まる仕組みはプロジェクトの目指すテーマとも重なるためか、興味深く話を聞く大学生たち。

続いて訪れた「田人観光いちご園」では元地域振興協議会会長の蛭田秀美さんにお話を聞きました。地域の盛り上げ役として活動してきた蛭田さんも、どうしたら田人に活気を取り戻せるか、長年頭を悩ませてきたと言います。

「やっぱり最終的には田人に住んでほしい。そのためには自然や地域の魅力を活かして何か産業を興してもらうのが一番かなと思います。もしアイデアがあれば遠慮せずにやってみて。地元民が気付かない田人の良さを発信してください」

「若者の挑戦を応援したい」という蛭田さんの言葉に勇気をもらったふたり。初日からディープな調査でしたが、「気さくな人々ばかりで緊張がほぐれた」「いろいろな話を聞いてできることを考えていきたい」と前向きな感想を聞くことができました。

 

【2日目】

地域の賑わいは地域が作る

翌日は早朝から田人支所の駐車場で開かれていた「ひっそり市」を見学。年に2回ほど行われているマルシェイベントで、地域の人々が育てた野菜やお米、果物などを軽トラックの荷台を即席のお店にして販売します。天気の良さもあってか、大人から子供まで大勢の人が訪れていました。

学生たちはイベントに合わせて行われていた乗馬体験にも参加。初めての乗馬を思い切り楽しみました。

続いて、旅人地区の直売所「やさい館」へ。こちらは土日のみ開店する直売所で、「ひっそり市」よりもアットホームな雰囲気。地域住民の交流の場ともなっているようで、休憩スペースで茶飲み話に花を咲かせる人たちの姿が目立ちしました。

運営の緑川博さんは、「地域の人の役に立ちたい、また来たいと思ってほしい」と開催に向けた思いを語ってくれましたが、地区の人はほとんどが70代で今後の運営には不安もあるとのこと。こういった場面でも若者の力は求められているようです。

 

田人に暮らす人の、地域との向き合い方

午後は農作業のお手伝いに、「ニコニコファーム」を訪れました。「ニコニコファーム」があるのは田人地区のなかでもひときわ山深い貝泊地区。なんと携帯の電波も届きません。

ファームを運営する鈴木友子さんと蛭田熊野さんにレクチャーしてもらいながら、白菜やピーマンを収穫します。はじめは慣れない作業に戸惑っていた大学生たちも、コツをつかむと収穫スピードもアップ。採れた野菜はひとりずつおみやげにいただきました。

貝泊に暮らす鈴木さんによると、以前は移住者も多くイベントなども頻繁に行われていましたが、震災を機に若い人がいなくなり活気がなくなってしまったそう。10年を経てもいまだ震災の傷跡が残る現実に直面し、深く考えさせられた大学生たち。「アイデアがあればぜひ協力したい」と言ってくれた鈴木さんのためにも、田人町をPRできる施策の重要性を改めて感じました。

この日、最後に訪ねたのは千葉県から移住した兎澤崇博さん。2014年に一大決心し、経営していた会社ごと田人町に引っ越してきたという兎澤さんの、人生の教訓にあふれたお話には、一同すっかり引き込まれてしまいました。

「田人町のために何かしたいと思って来ましたが、結局はしてもらうことばかり。ここで何かしたいと思っているなら、“何ができるか”を考えてほしいと思います。ただ本心では皆さんにこの町の状況を認識してもらうだけでもいいと思っているんです。今は形にならなくても、将来どこかのタイミングでここでの経験が生きることがあるかもしれませんから」

そんな兎澤さんの言葉を聞いて、「何か結果を出さなきゃと意気込んでいたけれど気持ちが楽になった」と話してくれたふたり。その上で、「たとえ自分たちが関われなくなっても続けていけるような仕組みが大事」と、田人町への向き合い方にひとつの方向性が見えてきたようです。

 

【3日目】

地域の豊かさを知った3日間

最終日は、昨日訪れた直売所「やさい館」で行われていた新そば祭りで、おいしいおそばをいただきます。地域のそば打ち名人が朝5時から準備したという打ちたてのおそばと、地元の野菜がたっぷり入った温かい豚汁を堪能し、田人町の豊かな恵みに触れたふたり。3日間と短い時間の中で“田人らしさ”は、十分に伝わったようです。

その後は「田人ワークキャンプ・ビレッジ」に移動し、1回目の現地調査を終えてのフィードバックを行いました。

まずは東郷さんから。

「地域の方々の話を聞いて盛り上げることを目的とするなら、あまり自分にできることはないかもしれません。ですが、学生たちが田人町に通いたくなるような仕組みづくりや機会の提供ならアイデアが出せるかも。当事者ではないからこそ、当事者になることが大事だと感じました」

一方、権藤さんは「本当にいいところで来れてよかったと思います。困りごとや不便なことを聞いて、“何かしなくちゃ”というだけではなく、実際に来てみて知ることの大切さを感じました。今回の調査をふまえ、改めてできることを考えていきたいです」と話してくれました。

ふたりの率直な思いを聞き、彼らの目指すプロジェクトと、「田人ワークキャンプ・ビレッジ」との親和性を感じ取ったという下條さん。「遠くからでも田人を応援したくなる仕組みがあったらいいですね」と、参考になりそうな事例について意見を交わしました。最後は次回の現地調査に向けて、ふたりの興味があることや、会ってみたい人のリクエストを出してもらい、3日間の日程は無事終了。2022年1月の現地調査まで、オンライン等で企画を詰めていくことになりました。

田人町の魅力発信について、ぼんやりと見えてきた今回の調査でしたが、果たして大学生たちは、どんなプロジェクトを仕掛けるのでしょうか。

今後の展開にご注目ください!

第2回目はこちら

 

学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト レポート

〜いわき市田人地区〜【第1回】 https://turns.jp/55673
〜いわき市田人地区〜【第2回】 https://turns.jp/57496
〜会津美里町関山地区〜【第1回】 https://turns.jp/55310
〜会津美里町関山地区〜【第2回】 https://turns.jp/57999

                   

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