可能性を広げる二拠点生活。
今あるスキルをどう活かす?
「デュアルでルルル♪カフェ vol.2」レポート

東京と山梨で、どう暮らす、働く?

テレワークの普及によって、首都圏で働く人を中心にライフシフトへの動きは加速しています。中でも、首都圏にほど近く、移住先・移住希望先で常に上位にランクインしている山梨県では、移住に関する相談件数が大きく増加しているのだとか。そんな山梨県から「ライフシフトのヒント」をお届けする、TOKYOFMのラジオ番組「デュアルでルルル♪」。2月19日、番組出演者と交流できるオンラインイベント「デュアルでルルル♪カフェ vol.2」が開催されました。
第2回目のテーマは、「あなたもできる!自分のスキルを活かして地域に貢献するデュアルライフ」。山梨にメインの拠点を置きながら、東京との二拠点生活を送るゲストを迎え、「地域でのスキルの活かし方」に迫りました。

まずはゲストの自己紹介から。一人目は、北杜市に拠点を持ちながら、東京の生命保険会社に営業マンとして勤務する田口孝貴さんです。旅行で行った清里の自然環境に惚れ込み、2017年、妻と2人の子どもとともに都内から北杜市に移住。子育て支援住宅に入居して土地を探し始め、2020年6月、仕事部屋付きの一軒家を新築し、都内の実家との二拠点で生活しています。

移住当初は週に4~5日は東京に滞在していましたが、コロナの感染拡大後は、保険の契約などがオンライン化したことで、上京の頻度は週一回にまで減少。今は生活のほとんどを北杜市で過ごしているそうです。

「コロナの感染拡大前は、平日のほとんどを東京で過ごし、子どもに会う時間や大自然を味わう時間も少なかった。でも今は、ほぼ毎日北杜市の自宅で過ごせるようになり、一拠点の生活になりつつあります」(田口さん)

 

ゲストの二人目は、東京の設計事務所に勤務しながら、富士吉田市で建築デザインを通したまちづくり活動を行う中川宏文さん。二拠点生活・ダブルワークという新しい働き方を実践しています。

長崎県で生まれ、熊本で建築を学び始め、大学院進学に合わせて上京。大学院在学中に研究室で応募した富士吉田地域デザインコンペティション物件改装部門で最優秀賞を獲得したことがきっかけに、富士吉田市のまちづくりに関わり始めます。大学院修了と同時に、建築家・坂牛卓氏が主宰する設計事務所「O.F.D.A.」(東京)に所属しながら、地域おこし協力隊として、富士吉田市に移住。東京と富士吉田市を毎週車で行き来する二拠点生活・ダブルワークをスタートしました。

そんな中川さんが見せてくれたのが、昨年末のスケジュール表です。青が「富士吉田」、オレンジが「東京」、赤が「富士吉田と東京が半々」と、その日に過ごした場所ごとに色分けされています。昨年末で地域おこし協力隊の仕事も落ちついていた頃なのでほぼ半々といったところでしょうか? 地域おこし協力隊の任期が終了した今は、富士吉田に住民票を置き、こうした働き方を継続しています。

昨年、同市内に「O.F.D.A.」のサテライトオフィスが新たに設けられ、さらに最近、借りていた東京の家を引き払い、生活の本拠地を富士吉田市に移したそう。山梨での生活と仕事の基盤が整いつつあります。

二拠点によって、仕事の成果は上がるの?

二拠点生活の素朴な疑問としてあがるのが、仕事の成果のこと。田口さんの職業である保険の営業は、お客さんと対面でセールスすることが、もはや常識とされています。田口さんは、コロナをきっかけにリモートでの営業活動に切り替えたそうですが、実際に成果は上がっているのでしょうか。

「コロナ前に比べて、むしろ営業成績は上がっています。というのも、以前のような対面営業では、まず、お話を聞いていただく時間をつくってもらうことが難しかったのですが、リモートでは、自宅に伺う手間も減る上、気軽にお話を聞いてくださる方が増えるので、単純に“打席に立つ回数”が増えるんです。お客様からすると、対面の時のような『断りにくい』といったプレッシャーやストレスが少ないことが幸いしているのだと思います」(田口さん)

リモートが可能となったことで、お客さんにとっても「気軽に話を聞いてみよう」という意識の変化が生まれているのかもしれません。対面販売が基本とされる保険の営業のように、リモートでは難しいと思われがちな業種でも、実はオンラインの方が業績が上がっているという意外なお話。他の業種でも、いざリモートを試してみると、想像以上に成果が上がるかもしれないーー。そんな可能性を感じさせます。

一方、建築は「リアル」が大事な業種ですが、中川さんの仕事の比重は、東京、山梨のどちらが多いのでしょうか。

「今は山梨、中でも富士吉田が圧倒的に多いです。僕が二拠点生活を始めたことで、営業範囲が広がり、山梨の仕事が増えて、所属する設計事務所も東京に限らず地方での仕事が増えたと思います。実際のところ、活動が定着してきた最近は、東京だけに拠点を置いていた時と比べて、仕事量は2倍近くになりました。アトリエ系の設計事務所は、スタッフが営業をやることってあまりないと思うのですが、富士吉田に拠点を置いた以上は、自分で営業もやらざるを得ないので(笑)、東京一拠点では得られないスキルが磨かれていると思っています」(中川さん)


二拠点生活のデメリットは?

山梨に拠点を置くことで、想像以上に仕事の成果が上がっているというお二人。でも、その裏では少なからず苦労もあるはず。実際に感じているデメリットはどんなところでしょうか。

「仕事で今すぐに東京に行かないといけないということも出てくるんですが、そこはいくら頑張っても、東京にいるメンバーに比べると遅れをとってしまうことですね。あとは、東京で飲みに行くと気軽に電車で帰ってこれますが、こちらでは車の代行運転を利用することも多く、そのぶんお金がかかります。友人たちと持ち回りで送迎係をやったりしてほぼカバーできているので、それほど大きなデメリットでもないんですけどね」(田口さん)

「東京と山梨は近いと言っても、週に何度も往復していると、さすがにつらいなと思うことはあります。仕事終わりや夜中の移動の時には、どうやって眠くならないようにするかを考えたりして。土日に仕事で移動をしていると、行楽シーズンの渋滞に引っかかることもよくありました。ただ、そのような時間も、頭の中で仕事の段取りを整理したり、車内で好きな音楽を流して歌ったり、自分なりの楽しみ方を見つけれると良いのかもしれませんね」(中川さん)


コロナ禍の今、地方に拠点を置くメリットとは?

コロナの影響で、私たちの生活や仕事のスタイルは大きく変化しています。このコロナ禍に、山梨に拠点を置いて、生活や仕事をする中で感じるメリットについて聞いてみました。

「これまで保険の営業は対面販売がメインでしたが、距離は離れてもお客さまとコミュニケーションがとれることがわかり、働き方が変化しました。そのおかげで、子どもと過ごす時間がとれるようになって、新築した家に長く滞在できるようになって、心豊かに過ごせるようになりました。仕事の忙しさは変わらないのですが、東京一拠点で生活していた時に比べると、あくせくせずに過ごすことができています。自然が多い環境に身を置いているだけで、癒されているのかもしれません。リモートを活用した働き方が当たり前になりつつある今、この状況を活かさない手はないと思っています」(田口さん)

「コロナ後、すぐテレワークになり、東京の家にこもって仕事をしていた時は、誰ともリアルなコミュニケーションをとれないので、内向的になって心が疲れてしまって。でも、富士吉田では、コンビニにご飯を買いに行くとスタッフのおばちゃんと会話できたり、喫茶店にご飯を食べに行くとお母さんみたいなおばちゃんがいたり。東京とはまったく違う、顔が見えるからこそできるコミュニケーションの形があるんです。あと、自然が身近に感じられる環境の方が、生活にメリハリが生まれます。朝は太陽の日差しで起きて、日が沈んだら仕事を切り上げる、そんな人間らしい生活ができる。精神的な面で、二拠点生活はすごく救いになっていますね」(中川さん)


今あるスキルを活かして地域に貢献できる?

ライフシフトを考える中で、本業である仕事以外で、「自分のスキルや経験を活かして地域に貢献したい」「スキルを活かせる場所がほしい」という希望を持っている人は多くいます。ゲストのお二人は、本業以外のスキルで地域に役に立った経験はあるのでしょうか。また、地方ではどんなスキルが求められているのでしょうか。

「前職はIT業界にいたので、パソコンまわりのことは詳しいんです。地元の人と仲良くなるために、商工会の青年部に入ってからは、勉強会の資料をまとめたり、チラシを作ったりと、得意なことを活かしてお手伝いをするようになりました。とっても喜ばれてますよ」(田口さん)

「僕も仕事柄、AUTCADやイラストレーターといったソフトを使えるので、プライベートで名刺やチラシ作りを頼まれたりと、建築以外のお仕事を地域の人たちからいただいてます。本業以外のスキルを生かした仕事って、東京ではまず入ってこないんですが、地方では井戸端会議からそういう話になったり、役に立てるタイミングがたくさん出てくるんです」(中川さん)

多様な職種が集積した東京では、それぞれが「専門性で勝負」する場面がほとんど。一方、地方では、本業以外の資格や経験が役に立ち、そのことが自身のやりがいにつながる可能性もあることがわかりました。

最後は、ブレークアウトルームに分かれて、参加者とゲストがコミュニケーションをとりながら、地域とのつながりの作り方、週末の過ごし方、行政の移住支援でよかったことなど、さらに掘り下げた質疑応答を重ねました。

小さな失敗や苦労を乗り越えながら、時代の変化に合わせて、自分のスタイルに合った生き方を作っているお二人。充実感に満ちたお話を通して、時代の転換期にある今こそ、ライフシフトを踏み出す絶好の機会であることを、改めて感じる時間となりました。

文・中里篤美

                   

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