『韮崎駅前商店街 空き店舗ツアー』 開催レポート
〜まちとリノベーションの可能性を体感する一日〜

2023年11月11日(土)、移住人気が高まり続ける山梨県韮崎市(にらさきし)で、リノベーション店舗と空き店舗を巡るツアーが開催されました。募集定員を大きく上回る問合せをいただき、可能な限り上限を増員。県内から参加の班(県内班)、県外から参加の班(県外班)の2班に分けて、総勢41名の参加者がまち歩きを楽しみました。

今回のテーマは「移住×空き店舗×リノベーション」。実際に空き店舗をリノベーションしてお店をオープンしたり、自宅兼住居として活用されたりしている先輩方を訪ねてお話を聞かせて頂くことにはじまり、リノベーション店舗での食事、そしてより道を含めた多数の空き店舗見学と盛りだくさんの内容となりました。

期待に満ちた瞳と真剣に考える表情が印象に残るツアーの様子をご紹介します。

韮崎市ってこんなところ

韮崎市は、山梨県の北西部、甲府盆地の左上に位置する人口約3万人弱のコンパクトシティ。南に南アルプス、北に八ヶ岳、そして南に世界遺産・富士山を望む風光明媚なエリアです。

名だたる名峰に囲まれながらも土地がひらけているため、日照時間がとても長いのも特徴のひとつ。野菜や果実の実りが豊かで、一年を通して豊かな自然の恵みとともに暮らすことができます。

新宿から特急電車で1時間半と都内からのアクセス良好。近年は名物ビル「アメリカヤ」の再生をきっかけに、県内外から人が集まるリノベタウンとしても注目を集めています。

店舗巡りスタート!

韮崎市の人気を物語るように予想を上まわる参加希望を頂いた今回、参加者に配られたのは韮崎市の有志で作った「おさんぽマップ」。参加者の2班は行楽シーズンの渋滞により到着が遅れた県外班が県内班の足取りを追うようなかたちで店舗巡りをスタートしました。

リノベーション店舗『TAP8』

まずは駅から徒歩数分のリノベーション店舗『TAP8』に到着。『TAP8』は長野県出身の店主・柳沢さんが2022年に空き店舗をリノベーションして開業したクラフトビールと自家製燻製料理のお店です。

空き店舗だったとは思えないようなおしゃれな空間に入った途端、驚きの表情をみせる参加者たち。オーナーの柳沢さんは仕込みの手を止めて、ここでお店をはじめた経緯を聞かせてくれました。

「ここに来る前は東京・虎ノ門で10年、クラフトビアバーの店長として働いていました。『自分のお店を持ちたい』と思った時、まだ知らない町でゼロから挑戦するのも面白そうだとこの町を選択しました。店舗づくりは経費削減と自分のこだわりを突き詰めるために、半分はDIYで。プロの大工さんに教わっているうちに、最後は自分で天井の板張りまで行うことができました」(柳沢さん)

『TAP8』
住所:韮崎市中央町1-14 2F
アクセス:JR韮崎駅から徒歩2分
Instagram:@tap.eight_craftbeer_smoke

空き店舗めぐりとより道

さっそくリノベーションの可能性を目の当たりにした一同、続いて空き店舗「マルハク」を外から見学します。

「1階にはスナックや焼き鳥のお店、カフェ等が入居していますが、2階にある4部屋のうち、2部屋を事務所用途などで使用することができます。鉄窓や鉄扉など、昭和レトロなパーツが至るところに残っていますよ」とプレゼンターのイロハクラフト代表・千葉さん。

この日はビルの中を見学できなかったため、代わりに予定にはなかった『アメリカヤ横丁』も見学しました。

『アメリカヤ横丁』は古くなって今にも取り壊されそうだった築70年の長屋を、千葉さんが「壊さないでほしい」と大家さんに直談判。衛生面や構造面を中心にリノベーションを行い、工期中4ヶ月で5店舗すべてを埋めて華々しく再始動させた小さな横丁です。横丁がオープンして以来、県外・市外から飲みに来てくれる人も増えたのだそうです。

より道をもう一つ。商店街のビルをリノベーションした宿泊施設「chAho」にも、立ち寄りました。ロビーを見学させていただきました。

続いて向かった空き店舗は木造2階建ての『五味文具店』。正面に土間のお店が配置された空間は、物販店舗や事務所兼住居としての使用はもちろんのこと、奥の和室を厨房とすることでカフェとしても活用可能な空間です。首都圏では考えられない家賃に、参加者は目を丸くしていました。

圧巻の「空き店舗→居住空間」リノベーションを見学

もう一軒、地元スーパーの跡地も見学。広く、使い勝手の良さそうな空間は、こちらも驚きの家賃とのこと。駐車場に関する質問など、具体的な疑問をプレゼンターに投げかける参加者の姿もありました。

参加者一行は鉄筋コンクリート造3階建ての『恵比寿屋』へ。ここは割烹料理の店として長く町に親しまれてきた場所。空きビルとなったこの建物を買い取ったのが、地元で設計事務所を営む小泉さん。小泉さんは畳50帖の大宴会場があったという3階部分を住まい空間にリノベーションし、ご家族で入居されています。あまりのリビングの広さに見学させていただいた参加者一同から、「憧れる…」という声がもれていました。

「設計のこだわりは、古い建物とマッチするように考えたこと。それと、贅沢な広さをどう活かすかということでした。寒いのはイヤでしたので、内窓をつけたのもポイントですね。空き店舗は工夫次第で理想の空間に生まれ変わらせることができます。1階の一角に、これから自分の事務所をつくる予定です」(小泉さん)
『恵比寿屋』の1階と2階の一部は、引き続き入居者募集の空き店舗です。

リノベーション店舗でランチ

10時に集合し、まちを歩きまわった参加者たちは2箇所に分かれてランチタイム。県内班・県外班それぞれ、リノベーション店舗でお昼をいただきました。

県内班は地元韮崎産のワインと食材を中心としたイタリアン『ワインバー&ダイニング「koti(コチ)」』にてルーローハンを。35歳の時に東京から移住されたというオーナーの清水さんは「移住するなら早いほうがいいよ」と参加者たちに笑顔で声をかけていました。

県外班は本格石窯で焼き上げたマルゲリータに舌づつみ。オーナーの金子さんは、山梨県南アルプス市の出身。東京のイタリアンで10年以上の修行を積んだあと、韮崎市で気になる物件と出会い、自分のお店をはじめた先輩です。

ランチタイムは参加者同士での情報交換も盛り上がった様子。飲食店や本屋、リラクゼーションサロン…と、それぞれ夢を語り合った参加者たち。お腹がいっぱいになる頃にはすっかり打ち解けていました。

複合施設が誕生するかも!?広く長い大空間の空き店舗

午後は50mの長く広い敷地内に3棟の建物が建ち並んでいる不思議な空間「サスヨ」の見学から。エントランスからもっとも手前にあるのが鉄筋コンクリート造2階建ての建物。ここはすでにリノベーション工事が進行中で、近年パティスリー&カフェが誕生する予定なのだそうです。

そのまま奥へ進むと真ん中には古くて雰囲気のあるお蔵、一番奥に木造の古い家屋が建ち並び、ともに空き店舗。空間の雰囲気を活かしたギャラリーやアトリエ、大空間を活かした宿泊施設など、用途は多彩。「可能性がいくつもある!将来的に複合施設になったら面白いなって」と、イロハクラフト・千葉さんも目を輝かせていました。

韮崎名物『アメリカヤ』でのトークイベント

夕方15時。まち歩きを満喫した参加者たちは、リノベーションタウン韮崎の火付け役『アメリカヤ』ビルへ。

トークイベントに向かう最中、2階にオープンしたばかりの『Alp Shop &Studio』へもより道。オーナーの田久保夫妻も移住者ということで(ご主人は二拠点生活中)、お話を伺いました。

さて、アメリカヤ5階。本日のツアーの締め、韮崎のまちを盛り上げるべく尽力する5名の方のプレゼンテーションが始まります。

イロハクラフト代表・千葉さん

「イロハクラフトはアメリカヤ4階に事務所を置くリノベーションに特化した建築屋です。

僕たちの活動が立体的に動き出したのは、まさに『アメリカヤ』がきっかけ。『アメリカヤ』は、僕が高校時代にずっと目にしていた建物で、空き家になって久しくなるうち、「どうにかしたい」と思うようになりました。そこでオーナーさんに直談判(笑)。「負の遺産」とアメリカヤを形容し、貸すのも忍びないと悩まれていたオーナーさんですが、今はリノベーションの結果を喜んでいてくださいます。

『アメリカヤ』に続いて手がけたのが、本日ご案内した『アメリカヤ横丁』。昼は遊べて楽しい、夜は呑んで楽しい、ときたら次は宿泊施設。これも偶然のご縁で商店街の建物をリノベーションし、『chAho』という宿泊施設をつくらせていただきました。

僕が目指すのは、リノベーションによる地域活性化。それが、流行で終わらせないリノベーションの真髄なのかな、と思っています」

韮崎市移住定住相談員・内藤さん

「私たち相談員は、移住したい人にいろいろな支援制度や暮らしのご案内をする役割を担っています。移動相談員が2名いるのは山梨県が唯一。韮崎市は移住者のサポートに力を入れている上、昨年は転出者よりも転入者が多く、数字からも『移住人気が沸騰中』ということがわかる町です。

利便性の面でもコンパクトな中にいろいろなものが入っていて暮らしやすいコンパクトシティ。待機児童ゼロに加えて、全校自校式給食の採用など、子育て環境も充実。

2泊3日、無料で韮崎市での生活を体験できる『お試し住宅』などもあります」

韮崎市産業観光課商工観光担当・表さん

「移住促進、そして起業を検討している方を応援したいと考えている韮崎市では、起業したいけれど、準備金が必要という方や、事業計画をどうすればいいのかな?など、市内で起業を行う方を対象に、さまざまな「起業支援補助金」を交付しています。

新しいお店が増えることでまた人がやってくるなど、いいサイクルができることは地域の活性化につながるものですから」

韮崎市商工会経営支援課経営指導員・仲澤さん

「私たち商工会は新規事業のサポートから、創業後の支援まで市内の個人事業主を支援させていただいております。

近年は創業が多く、昨年度の新規事業サポートの実績は年間36件ありました。新しい事業者が増えることは、商店街がより魅力的になること。『ここに行けば何かある』と思わせる町になること、韮崎はそうなれる可能性を秘めた町だと思います」

韮崎市地域おこし協力隊・笹田さん

「僕は大阪生まれ、大阪育ちで、大学卒業後は京都のカフェでマネージャーとして働いていました。独立したい気持ちは漠然とあれど、都会ではない。そう考えていた時に「地域おこし協力隊」の活動に惹かれ、そして出会った千葉さんの熱意に惚れて、このまちに関わっていきたいと思い移住をしました。

移住の最大のメリットはとにかく家賃が安い!(笑)そしてやっぱり人ですね。ほんとうに面白い人が集まる町だと感じています。そして、本日ご覧いただいたように開発されていない空き店舗もたくさん。やりたいことに、ぜひこの町で挑戦してみてほしいと思います」

ツアーを終えて

市役所の観光課や移住支援センター、そして商工会と地元企業・イロハクラフトが協力し合い大盛況で幕を閉じた今回のツアー。参加者は、韮崎市の連携のとれた移住支援・起業支援体制に魅力を感じていた様子。そして、リノベーションへの興味や韮崎市のまちづくり、そして移住や生活、ビジネスに関する支援制度など、たくさんの情報をしっかりとメモに残して持ち帰っていました。

駅から歩ける距離にリノベーション店舗が集まるまち・韮崎市。その魅力をギュッと凝縮したツアーに参加した皆さんは、自身の夢を具体的にふくらまし、新しい可能性を感じながら帰路についたことでしょう。

                   

人気記事

新着記事