“ヘルスツーリズム=みなかみ町”を 全国に広めていきたい

【連載⑤】みなかみヘルスツーリズムプロジェクト

都心から1時間の大自然にある
豊富な資源を再編集

今年度からスタートした、みなかみ町の豊富な資源を人々の健康に生かす「みなかみヘルスツーリズムプロジェクト」。1月23日、大手町タワー・JXビル内「3×3Lab Future」で、「食のお披露目会&成果発表会」が開催された。1年間の活動の成果が報告されるとともに、町の事業者が作り上げた“心身ともに健康になれる食”がそろうとあって、健康推進企業、ヘルスケア関連企業、旅行代理店などから総勢80名が参加。このプロジェクトへの関心の高さが伺われた。
会場に入ると、「MINAKAMI」というロゴの入ったおそろいのエプロンを身につけたみなかみ町の食のプレイヤーたちが、試食の準備に励んでいた。それぞれの充実感に満ちた表情を見ると、期待はさらに高まっていく。


みなかみ町長、岸良昌さんの挨拶で会はスタート。「みなかみ町は利根川の最上流にあり、首都圏3000万人の産業と生活を支える水を守っています。また東京駅から上毛高原駅まで新幹線で最短66分。ぜひ都会の方々にワイルドなみなかみに来てもらって、健康を取り戻していただきたい」と町の魅力をアピール。さらには、「プロジェクトに参加している町の事業者さんから、『このプロジェクトいいよね』と、声を掛けていただくことが増えてきました。このプロジェクト、動き出してるな、としみじみと感じています」という話も。町内でのプロジェクトの広がりを実感させてくれる。

前半は、参画企業やサポーターによるこれまでの活動の経過と成果発表。まずは、みなかみ町ヘルツスーリズム推進協議会副会長の林泉さんから、みなかみの魅力とヘルスツーリズムの概要について説明があった。その中で、「自然、温泉、アウトドア・アクティビティなど、地域の資源を健康増進の視点で評価、再編集しながら、新たなコンテンツを開発し、首都圏はもちろん、全国、世界に広げていきたい。そして『ヘルスツーリズムといえば、みなかみ町』と言われるよう、みなさんと一緒に作っていきたい」と抱負が語られた。


続いて、町と二人三脚でプロジェクトを進めてきた凸版印刷株式会社の矢尾雅義さんより、健康資産のエビデンス取得と分析について報告が行われた。多様な地域資源を組み合わせたプログラムについて、医科学的な有効性をエビデンスで証明することがこのプロジェクトの柱の一つだ。

「エビデンスを取得する中で、最も注力しているのが自律神経です。モニターツアーを通して、参加者の自律神経の変化を計測してきました。昨年10月に猿ヶ京エリアで行ったモニターツアーでは、ウォーキングの途中でマインドフルネスを実践し、その直後に自律神経を測ると、パフォーマンスが大きく向上していることがわかりました。こうしたデータを積み上げて、どんな組み合わせでプログラムを進めると自律神経のバランスが整えられるのか、さらに検証を続けていきます」(矢尾さん)


これに関連して、今回プログラムの全体監修を担っているスポーツ医学・運動生理学の第一人者、筑波大学教授・田中喜代次さんから、これまでの取り組みと展望が語られた。

「モニターツアーでは、参加者の多くが急性の効果を感じていました。ただエビデンスというからには、一時的に気分が良かったということではなく、医科学的にどんな効果がもたらされるのか、さまざまな側面から検証していきたい」(田中さん)

また、ヘルスツーリズムでは、筋力、持久力、自律神経の活動バランスの向上など、さまざまな効果が期待できるという。
「みなかみに行き来することで、きっかけを得て、日常的に健康行動を変えていけば、一年経つと、身体にさまざまな健康利益が出てくるはずです」(田中さん)

次に、株式会社umariの木戸寛孝さんから、丸の内朝大学で開催された「GO!WILD in みなかみ」クラスとみなかみ町でのフィールドワークの様子が紹介された。全8回の講座の中で、自律神経をはじめとする身体の仕組みに目を向けながら、都会と自然をつなげた“新たなライフ&ワークバランス”を追求した。

「健康に最も興味があるのはシルバー世代ですが、自律神経のバランスを崩している都会で働く30〜40代の会社員こそ、このプロジェクトの潜在的なターゲットです。そんな彼らと一緒に学びながら価値観を共有し、フィールドワークを通して町の魅力を体感してもらって、その反応を町にフィードバックすることで、新たな気づきやきっかけにしてほしい。そう思って今回取り組みました」(木戸さん)

8月末に行われたフィールドワークでは、これから本格的に始まるエビデンス取得や食の開発に先立って、それぞれの要素を盛り込んだプログラムを実践した。その中で、アスリート用に開発された体調管理クラウド「ONE TAP SPORTS」を使用し、参加者の心理的な変化をモニタリング。ウォーキングやラフティングなどのアクティビティ後は、目に見えて数値が高くなり、満足度の高さが可視化された結果となった。


またアンケートの結果、最も参加者の印象に残ったのは食事。“健康でありながらおいしいもの”が大きなインパクトをもたらし、酵素玄米弁当、地元野菜の麹カレー、みなかみの湧き水とぶどうのジェラートなど、すべてが高い満足度を記録した。

こうした取り組みは、健康長寿や未病予防という概念を越えて、“都市生活者のための健康”を訴求した新たなコンテンツとなり得る。「みなかみ町の最大の魅力は、東京から一時間の距離で、これだけ壮大な強い自然を持っていること」と強調する木戸さん。この強みを最大限に生かして、今後の展開につなげていく。

前半の最後は、食の開発「みなかみフードラボ」について、ワークショップの企画・運営を担った一般社団法人リリースの桜井肖典さん、株式会社第一プログレスの岩?雅美が、これまでの取り組みを報告。ワークショップを通して、町の人たちがやりたいこととヘルスツーリズムを掛け合わせてできることを発掘し、開発へと導いていった。そこで大きな要となったのが、食のアドバイザーとして参画した「メガネ3」の3人。料理研究家の舘野真知子さん、シェフの成田大治郎さん、パティシエの柘植孝之さんが、オープンな心持ちで町の人たちと向き合い、細やかなアドバイスを重ねたことで、食の開発だけでなく、事業者同士の横のつながりも生まれていった。

「成果としてたくさんの食が生まれましたが、それ以上に、事業者さん同士が教え合ったり、オーガニックの調味料の共同購入が始まったりと、“本当の意味でのラボが生まれたこと”が大きな成果だと思っています」(桜井さん)

また、みなかみ町地域おこし協力隊の太田さん、株式会社ピーエイの武松さんも町と事業者の間に入り、細かな連絡網とサポートを行った。

健康になれる食と地元のプレイヤーが
町の魅力を高めていく


後半は、「みなかみフードラボ」で新たに開発された食がいよいよお披露目。ウエルカムドリンクとして振る舞われた、みなかみ町の湧き水と地元のヨーグルトを使用した「みなピス」のほか、地元の主婦たちが運営するパン屋「気ママ屋」の「気ままなバーガー(写真左)」、焼きカレーの店「Asima」の「麹カレー(写真中央)」、温泉旅館「辰巳館」の「焼きリンゴドレッシング(写真右)」、オーガニックカフェ「スミカリビング」の「カジロースナック」など、メインの食事からサクッとつまめるおやつまで、多種多様なラインナップが集まった。


それぞれについて、開発に携わった事業者と「メガネ3」の3人が成り立ちや特徴を紹介していった。


「発酵、地元の素材、デトックスという3つの要素を取り入れた食に、たくさんの事業者さんが興味を持ってくださいました。みなさん一生懸命やってくださって、とてもいいご縁に恵まれました」と舘野さん。気ママ屋の佐々木玲子さんは、「『メガネ3』のみなさんと出会って調味料の大切さを知ることができました。食材がオーガニックでも、調味料が市販品だと食材の味を生かしきれません。これをきっかけに、オーガニックの方向に進んでいこうと思っています」と決意を新たにしていた。


その後、参加者はバラエティ豊かな食を堪能しながら、食のプレイヤーたちとの交流を楽しんだ。その土地に何度も足を運びたくなる重要な要素は、やはり食と人。今回はこの両方から、みなかみ町のポテンシャルを大いに感じる会となった。




このプロジェクトを主導した、みなかみ町役場総合戦略課・課長の宮崎育雄さんは、今年度の成果と今後の展開についてこう語る。
「地元の事業者さんが自ら開発し、形にできたことは大きな成果です。さらに商品としての価値を高めて、継続した販売につなげてほしいと思います。また来年度は、ヘルスツーリズムのプログラムの商品化を加速し、ゆくゆくは都会の人たちだけでなく、企業の研修の場となるような展開を行っていきたいと考えています。さらには、私たち町民自身も健康意識を高めて、ヘルスツーリズムから、町全体の健康づくりにまで発展させていきたいですね」



今、ヘルスツーリズムをテーマとした取り組みは全国各地で行われているが、そのほとんどが開発途上にある。みなかみ町が、“都会から最も近いヘルスツーリズムの先進地”となる日も、そう遠くはなさそうだ。

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