福島県と“これからの地域との繋がり方”をコンセプトにしたローカルライフマガジン「TURNS」が実施する、「学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト」が始動!
県内の過疎・中山間地域にある2つのエリアを舞台に、学生たちが課題解決や活性化にアプローチします。
今回は、11月13日(土)、14日(日)の2日間にわたり、会津美里町関山地区で実施した現地調査の模様をレポートします。
学生と地域のキーマンが協働
福島県西部、会津盆地の中ほどにある会津美里町は、田園風景が広がりのどかな空気が感じられる人口2万人ほどの町。今回の舞台となる関山地区は、会津若松市と観光名所・大内宿を結ぶ県道沿いにあり、古くは下野街道の宿場として栄えた歴史を持ちます。
集落内には「螢の宿こぶし荘」という古民家宿泊施設があり、開業から10年にわたり多くのお客さんを迎えてきました。しかし、これまで宿の運営を担ってきた地域の人々も高齢化が進み、運営に苦労しているのが実情だそう。
螢の宿こぶし荘について / 螢の宿こぶし荘
今回、関山地区から学生たちに考えてほしいテーマは、この「螢の宿こぶし荘」の持続可能な運営方法を探ること。加えて地区の魅力発信ができるようなアイデアも募集したいと言います。
まずは「螢の宿こぶし荘」にて、プロジェクトに参加する「NPO法人あいづ関山倶楽部」のメンバーと学生たちとの顔合わせが行われました。
名乗りをあげてくれたのは大澤こみちさん(和歌山大学3年)、梶村莉子さん(東北芸術工科大学3年)、勝田修司さん(関西大学1年)、鈴木元太さん(東京大学3年※今回は不参加)の4名。福島は初めてというメンバーもいて、集落から望む山々や田んぼの風景に早くも興味津々といった様子。
対する「NPO法人あいづ関山倶楽部」からは代表理事の五十嵐賢次さんをはじめ、副理事の鈴木昭一さん、会計の長谷川文夫さん、片桐高正さん、前田芳夫さんが出席。関山地区の活性化のため、民泊の運営や「田んぼオーナー制度」などに取り組んできたキーマンが、学生たちに力を貸してくれます。
それぞれの自己紹介のあとは、関山地区の実情について聞き取り。過疎化や高齢化、空き家の問題に加え、村の歴史や暮らしについてさまざまな情報を得ることができました。昭和の中頃に撮られた写真を見ながら、「これはオレだ!」「うちの父ちゃんだ」など、それぞれの昔話にも花が咲き、一気に場が和みます。関山で生まれ、関山で育ってきた人たちだからこそのリアルな話ぶりには、地元が好きでたまらないという思いがにじんでいました。
関山の魅力探しに出発!
聞き取りのあとは、鈴木さんの案内のもと、集落の中を実際に歩いて、気になるものや場所を探してみました。関山地区は、街道の両脇に長さ500メートルほどにわたって家が建ち並ぶコンパクトな集落。現在、50世帯、150名ほどが暮らしており、街並みには昔の宿場町の風情が感じられます。
集落内のお寺や神社をめぐりながら、時には道端で住民の方と立ち話してみたりとのんびりと散策。学生たちは、玄関先に干してある小豆や、家々に隣接するように建てられた蔵が気になるようで手にしたカメラで次々に写真を撮っていきます。
少し足を伸ばし、旧下野街道に今も残る一里塚や天然記念物「モリアオガエル」の生息地、栃沢ダムなども見学。関山のことを知り尽くした鈴木さんが、ユーモラスな口調で語る解説を聞いていると、初めて訪れたスポットなのに親近感が湧いてくるから不思議です。
学生たちも「人と人の距離感が近いのが新鮮」「地元についてこんなに誇らしげに話してくれる人に初めて出会った」など、それぞれに気づきを語ってくれました。古くからの歴史はもちろん、豊かな自然や暮らしの知恵が今に息づく関山地区の魅力が、実際に目で見て歩くことで感じられたようです。
学生たちがひらめいたアイデアとは?
その後は「螢の宿こぶし荘」に戻り、この日の感想をシェア。
3人とも写真を活用した地域活性化を想定していたことから、「関山の風景を切り取った写真展をしたい」という案が浮上。その上で、それぞれに温めているアイデアを話し合いました。
「山と雲の近さが印象的だったので、関山らしい風景の見渡せる場所に自撮り用のフォトスポットを作ってみたい」(大澤さん)
「朽ちかけた家や閉店したお店など、昔そこに人が暮らしていた痕跡があちこちに残っていました。こういった風景も地区の歴史として残せたら」(勝田さん)
「道端に干してある小豆や大根など暮らしの風景や、蔵の屋根に付いているマークなど町並みのおもしろさをもっとたくさんの人に見てほしい」(梶村さん)
おぼろげながらも関山地区活性化への糸口が見えてきたところで初日は終了。
夕食は会津の秋の風物詩、芋煮会! 地元のお母さんたちが用意してくれた具材を、学生たちが手分けしながら調理しました。わきあいあいとした雰囲気で食卓を囲み、「螢の宿こぶし荘」の夜は更けていきました。
集落の維持に欠かせない「人足」
翌日は早朝から人足のお手伝い。「人足」とは年に数回、集落内に住む人々が一緒に行う清掃活動のこと。草刈りやゴミ拾いなどやることはさまざまですが、関山地区のこの日のミッションは、田んぼの側溝にたまった土砂の撤去でした。
水を含んだ泥は重く、時には大きな石や枝も混ざってるため、なかなかの重労働です。聞けば、イノシシが山の斜面を掘り返しながら移動することで、流れ落ちた土砂が側溝にたまってしまうのだとか……。人と動物の住む世界の境界が、崩れていっていることに気づかされます。
学生たちはかき出した土砂を、土嚢袋に入れていく係を担当。はじめは戸惑っていた彼らも、しばらくすると手慣れてきてスムーズに作業できるように。朝もやが残る澄んだ空気の中、1時間ほど初めての人足を体験しました。
大変な作業も、みんなで協力しながら行うことで一気に片付けるのが人足の目的。そればかりか、住人同士のコミュニティの形成にも一役買っていることが感じられました。関山地区では長い間、このようにして集落が維持されてきたのでしょう。
学生らしい視点を活かして集落内を散策
「螢の宿こぶし荘」でひと息ついた後は、それぞれが自由に集落内を散策しながら、実行するプランを練っていきます。
昨日は案内されるままに集落のスポットをめぐりましたが、この日は目に付いたものや気になったことにどんどん近づき、取材を重ねていきました。暮らしている人なら当たり前の風景も、彼らにとっては物珍しく見えたのかもしれません。
道端で出会う人にも積極的に話しかけ、町のことをいろいろと教えてもらいました。
収穫した小豆の天日干し①
収穫した小豆の天日干し②
軒下に吊るされた干し柿
地元の人が気付かない関山の魅力を発見
午後は1回目の現地調査を終えてのフィードバックの時間。「NPO法人あいづ関山倶楽部」のメンバーにも再度集まってもらい、取材の成果と今後の展開について話し合いました。
まずは「今回初めて東北を訪れた」という大澤さんから。
「何気ない風景がとても素敵に感じました。たとえば、関山らしい風景の場所にフォトスポットを設置し、自撮りが楽しめるようにするのはどうでしょう。私たちのような大学生や若い世代はよく自撮りをします。ハッシュタグをつけてSNSで発信したり、インスタ映えする写真を撮ってアップするなど『行ってみたい!』と思わせるきっかけがあると訪れる人も増えると思います」
続いて梶村さんが提案したのは「歴史めぐりツアー」。
「地域に暮らす方とまち歩きしながら話を聞くことで、その場所の歴史がとても面白く感じられました。実際にガイドしてもらうことのほかに、ツアーの解説部分を動画で撮影して発信できると、遠方の方にも関山地区に興味を持ってもらえるのでは」
最後は勝田さん。印象的だったのは「関山の人々のあたたかさ」。かつて暮らした久米島の雰囲気にも似ているのだそう。
「田んぼオーナー制度の参加者が、自分の田んぼや畑の作物が育つ過程をweb上で見られたりすると関山のことをもっと身近に感じられるのではと思います。暮らしの知恵や地区の行事とか、リアルタイムに関山とつながれる工夫を考えてみたいです」
大学生たちの意見に、実際にできる・できないはあっても、新しい視点をもらえたと語る「NPO法人あいづ関山倶楽部」の皆さん。暮らしているとなかなか気づかない魅力や「コンテンツはたくさんあります」との言葉に勇気をもらえたよう。
一方、webやアプリを使った案には「若者のトレンドを理解するには時間がかかりそう」という正直な意見も飛び出し、今後は双方が納得して進められる形を模索する必要がありそうです。
次回の現地調査は2022年1月を予定。果たしてどんなプロジェクトに仕上がるのでしょうか。
引き続きご期待ください!
学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト レポート
〜いわき市田人地区〜【第1回】 https://turns.jp/55673
〜いわき市田人地区〜【第2回】 https://turns.jp/57496
〜会津美里町関山地区〜【第1回】 https://turns.jp/55310
〜会津美里町関山地区〜【第2回】 https://turns.jp/57999