福島県と“これからの地域との繋がり方”をコンセプトにしたローカルライフマガジン「TURNS」が実施する、「学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト」。県内の過疎・中山間地域にある2つのエリアを舞台に、学生たちが課題解決や活性化にアプローチします。
前回(https://turns.jp/55673)に続き、1月8日(金)〜10日(月)の3日間にわたり、いわき市田人地区で実施した2回目の現地調査の模様をレポートします。
いわき市田人町で地域の魅力探し
福島県の南東部に位置するいわき市。太平洋に面し、人口35万人を抱える県下最大の街です。古くは炭鉱業で栄え、現在は工業や観光業、水産業が盛ん。しかし、実は面積の72%が森林で、広大な中山間部を擁しています。
今回のプロジェクトの舞台となる田人町も、そんな山間の町のひとつ。いわき市中心部から車で40分ほど、8つの集落に1300人ほどが暮らしています。自然豊かで伝統的な行事も数多く残っていますが、これといった名所がなく、訪れる人が少ないのが現状。プロジェクトではそんな田人のことを知ってもらい、ファンやリピーターを増やす仕掛けを学生たちに考えてもらいます。参加してくれるのは東郷旅人さん(高知大学1年)、権藤有作さん(情報経営イノベーション専門職大学1年)。前回の滞在では、田人に暮らす人を訪ね、地域の課題やニーズについて聞き取りを行いましたが、今回はさまざまな体験を通し、田人の魅力を掘り下げてもらいました。
多彩なアクティビティを体験
【1日目】
まずは、前回も訪れた「田人観光いちご園」でいちご狩りを体験します。
「田人観光いちご園」(https://kankou-iwaki.or.jp/spot/101820)は平石野菜生産組合が運営するいちご農場。酸味が少なく、柔らかい果肉が特徴の「章姫」という品種を栽培しており、1月から6月まで半年にわたっていちご狩りが楽しめます。
広いハウスの中には、真っ赤な実をつけたいちごがたくさん。「田人観光いちご園」では高設栽培という手法を採用しており、地面から1メートルほどの位置でいちごを栽培しています。入場すると30分間いちごが食べ放題。摘んだいちごはそのまま食べることができ、学生たちは「あま!」「うま!」と驚きの声を上げながらいちご狩りを楽しんでいました。
午後は陶芸体験ができる「土みに館」(http://domini-kan.com/)で、オリジナルの器作りに挑戦しました。教えてくれた陶芸家の後藤矩慶さんは、自然豊かで気兼ねなく製作ができる田人町の環境を気に入り、茨城県から移住。江戸時代に勿来地区で栄えた勿来焼を「名古曽焼」として現代に甦らせ、この地で作陶に励んでいます。
まずは土を台に乗せ、手びねりで形を整えていきます。茶碗も湯のみも基本的に作り方は同じ。底になる部分を1cm残し、大まかな形ができたら、ろくろで整形していきます。回転が速すぎていびつな形になってしまったり、思い描いた大きさにならなかったりと悪戦苦闘しながらも、先生のサポートを受けて真剣な表情でろくろをまわすふたり。「難しいから面白いんだよ」という先生の言葉に勇気をもらい、それぞれに2作品ずつ完成させました。
でき上がった器は乾燥、焼成を経て、約2ヶ月後に自宅まで郵送してくれるそう。「粘土に触れているだけでもストレス解消になった」とクリエイティブな時間を過ごしました。
初日を終え、「楽しかった!」と口々に感想を語った東郷さんと権藤さん。実際に体験してみたことで、「田人で何ができるか“見える化”したら、訪れる人の選択肢も増えるのでは」というアイデアがひらめいたそう。田人町を訪れる人を増やすというミッションの実現に向けた手がかりが得られたようです。
地域の子供たちと触れ合うワークショップに参加
【2日目】
翌日は、コーディネーターを務める下條由美子さん・真輝さんが、現在整備中の拠点「田人ワークキャンプ・ビレッジ」で開催されるワークショップをお手伝い。運営のサポートをしつつ、実際に田人町でお客さんを呼んでイベントを開催した際の1日の流れを学びます。
午前10時、ワークショップの参加者が「田人ワークキャンプ・ビレッジ」に続々と集まってきました。
簡単な自己紹介のあと、アイスブレイクとしてゲームを行うことに。東郷さんチーム、権藤さんチームに分かれ、“好きな〇〇”というお題に順番に答えていき、全員の好きなものが合致したら1ポイント獲得です。子供たちの輪に入り、お兄さんぶりを発揮する大学生たち。お互いの好きなものの話で盛り上がり、緊張気味だった子供たちにも次第に笑顔が見えてきました。
この日のワークショップは、「田人ワークキャンプ・ビレッジ」内のシャワー室にはめ込むタイル作り。色とりどりのタイルを組み合わせ、自分なりのデザインを形にしていきます。作業中の子供たちを眺めてみると、カラフルな幾何学模様を作る子、「アンパンマン」の顔を表現しようとする子などさまざま。大学生も時折子供たちに声をかけながら、一緒にデザインにチャレンジしました。最後はそれぞれの作品にサインを書き入れて完成。ユニークな作品がたくさん出来上がりました。
ワークショップが終わり、お腹も空いたところで昼食の準備に取り掛かります。メニューはダッチオーブンで作るクリームシチュー。子供たちは焚き火班と調理班に分かれ、それぞれに作業開始です。
約1時間後、具沢山のシチューが出来上がり、みんなで一緒にランチタイム。この頃には子供たちも大学生とすっかり打ち解け、自分から話しかける様子も見られました。
おなかいっぱいになった後は、解散の時間まで鬼ごっこなどをして楽しんだ参加者たち。お天気にも恵まれ、思い出に残るワークショップになったようです。
その後は、引き続き「田人ワークキャンプ・ビレッジ」のDIYをお手伝いし、暗くなる前に作業は終了。1日を振り返り、「あっという間の1日でした。子供たちの素直さに元気をもらえました」(権藤さん)、「イベントはどう成功させるかはもちろんですが、一緒に楽しむことも大事なんだと気付きました」(東郷さん)と充実した表情で語る姿が印象的でした。
プロジェクトが実現したときに、大学生と地域の人々がどのように関わるのか。そのひとつの形が見えたような貴重な経験となりました。
田人町の魅力発信に向け、いざ、作戦会議!
【3日目】
最終日は再び「田人ワークキャンプ・ビレッジ」に集合し、視察を振り返りながら、プロジェクトの内容についてアイデアを出し合いました。
前回は田人町に暮らす方の話を聞き、今回はさまざまなアクティビティを体験したことで、「田人町では当たり前のことが、自分たちには新鮮だった」と話す東郷さんと権藤さん。ふたりが考えたのは、そんな“非日常”をコンテンツにし、体験プログラムとして提供する案です。
「たとえば、滞在中は携帯などデジタル機器を使わずに過ごす時間にしたり、キャンプやサバイバルゲーム、山菜採りなど田人町の自然を活かしたプログラムをいくつか用意し、訪れた人に自由な組み合わせで楽しんでもらうのはどうでしょうか。広報はSNSのほか、学内メールなどでも行い、学生に広くアプローチできたらと思います」(東郷さん)
「コロナ禍で学校に行けず、友だち作りができない学生が、悩みを共有したり語り合う場にもなればいいですね」(権藤さん)
ふたりのアイデアを、コーディネーターの下條さんも「学生が来る様子がイメージできる」「体験を自由に選べることで、地域の人にお金が落ちる仕組みなのはありがたい」と評価。その上で、「どんなキャッチフレーズやワードがあれば学生に響くのか」「学びの要素があった方が大学生らしいのでは?」などディスカッションをしながら、具体的な内容を詰めていきました。
今後は同世代の意見を取り入れながら、予算や広報手段、プログラムの内容を精査していくことを決め、2度目の視察は終了。ようやく方向性が見えたことで肩の荷が下りたのか、ふたりとも晴れやかな表情で田人町を後にしました。
手探りながら、たくさんの人の話を聞き、さまざまな体験をすることで生まれた田人町の魅力発信プロジェクト。そこには地域の抱える課題に向き合い、学生ならではの視点でできることを模索した、東郷さんと権藤さんの思いが込められていました。果たしてふたりは、この経験をどのようなプランにまとめあげるのでしょうか。
「学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト」の成果発表は2月27日(日)に行われます。
学生×地方 ふくしま まちづくり プロジェクト レポート
〜いわき市田人地区〜【第1回】 https://turns.jp/55673
〜いわき市田人地区〜【第2回】 https://turns.jp/57496
〜会津美里町関山地区〜【第1回】 https://turns.jp/55310
〜会津美里町関山地区〜【第2回】 https://turns.jp/57999