2022年12月17 日(土)~19日(月)の3日間に渡り、紀伊半島への移住に興味をもつ方に向けた、2泊3日のツアーを開催。首都圏や関西圏から8名の方が参加されました。
山深い奈良県下北山村と漁業の盛んな三重県鳥羽市をめぐり、地域商社や地域プロジェクトの現場を訪れ、レザークラフト、漁村アクティビティ、ビーチクリーンなどを体験しながら、地域経済を生み出す先輩移住者から直接お話を聞き、仕事のつくり方やプロジェクトのまわし方を学んだ3日間。
そのレポートをご紹介します!
1日目:奈良県下北山村
旅の始まりは、近鉄大和八木駅。参加者のみなさんが集まり、バスへ乗り込み、奈良県南部、三重県との県境に位置する下北山村を目指します。道のりは約2時間半。バスフィッシングの聖地と言われるダムや、予約が取れないほど人気のキャンプ場などもあり、夏は多くの人で賑わうそうです。
バスの中で簡単に自己紹介をして、昼食会場の『アングラーズベース下北山』に到着。“釣り人の基地”をコンセプトにしたアウトドアショップとカフェが融合したログハウスの複合店舗で、釣具やキャンプ用品、オリジナルのアウトドアブランド「Angler’s Base」のアイテムなどを販売するとともに、ハンバーグ、サンドウィッチなどの食事、コーヒーやアルコールなどのドリンクも提供しています。
『アングラーズベース下北山』は2022年8月にオープンしたばかりで、下北山村の隠れた魅力を発信する場としての仕掛けが盛りだくさん。吉野杉や吉野桧を使った木工製品など、地域産の材料でつくられている逸品も紹介しています。幅3mほどの大型水槽も設置されており、下北山村の川に生息する魚たちが泳いでいるのも見どころ。すぐ近くにある清流を感じさせ、気分が盛り上がります。
▲『アングラーズベース下北山』の外観と店内の様子
ここでは、美味しい食事をいただきながら、半年前に福岡県から移住してきたスタッフの坂井勇斗さんと、オーナーの琴浦秀斗さんを囲んで、下北山村について情報収集。坂井さんはバスフィッシングのプロを目指し、下北山村に移住してきたそうで、バスフィッシングの奥深さと下北山村の自然の豊かさについて、イキイキと語ってくれました。
※『アングラーズベース下北山』では現在スタッフを募集中とのこと。興味のある方は、記事の最後の〈Information〉の詳細を参考にしてください。
▲昼食はボリューム満点のハンバーグとピッツア。アウトドア気分を味わえるスキレット、桧のトレイに乗せて提供
▲半年前に福岡県から移住してきたスタッフの坂井勇斗さん(左)と、『アングラーズベース下北山』オーナーの琴浦秀斗さん(右)
【アングラーズベース下北山】
住所:奈良県吉野郡下北山村上池原418-1
アクセス:車で大和八木駅から約80km
電話:0742-87-2616
Instagram:https://www.instagram.com/anglersbase_shimokitayama/
その後は、『SHIMOKITAYAMA BIYORI』へ到着。外は冷たい雨でしたが、建物に入ると薪ストーブの炎が暖かく迎え入れてくれました。『SHIMOKITAYAMA BIYORI』は、元保育園だった建物をリノベーションし、コワーキングスペース、レンタルオフィス、イベントスペースなどとして運営しています。レンタルオフィスが月額18,000円で借りられるという説明に、参加者のみなさんから驚きの声も。テレワークの推進にも取り組んでいて、企業研修やワーケーションなどに使われています。
▲遊休施設をリノベーションした『SHIMOKITAYAMA BIYORI』の外観
▲入り口のドアのガラスにはおしゃれなロゴが
下北山村役場職員の堀内亮介さんは、大阪府出身で奈良県庁に16年間勤め、過疎地域の振興などに携わっていましたが、2021年に下北山村役場に転職。下北山村の魅力を掘り起こしたいと、村職員や地域おこし協力隊でつくる『下北山地域総合商社』を立ち上げました。
ここでは、日本各地の山間部と同様に下北山村でも課題の一つとなっている害獣駆除の副産物である鹿革を活用した「レザークラフト」を体験します。その前に、堀内さんから下北山村の魅力や『下北山地域総合商社』の活動などについてお話いただきました。
▲下北山村について説明する堀内亮介さん。『下北山地域総合商社』スタッフの道下考平さん、栗山有佳さんも移住者
「下北山村はほとんどが山森で、奈良市から車で約3時間かかる陸の孤島と言ってもいい立地。人口は、30年前は約1500人で、今は約800人まで減少しました。約半数が65歳以上の高齢者で、子どもは50人くらいと少子化も進んでいます。将来的な推計人口は2040年には300人くらいになってしまい、村の維持が難しくなる可能性が高く、なんとか食い止めたいと頑張っています。具体的な課題としては、あまご・アユの養殖、ジャバラ・下北春まなの栽培など、村の産業を支える後継者不足が深刻です。さらに、空き家も多く、旧銀行などの遊休施設が増え、活用されていません。飲食店や観光ガイドも少なく、空き家などの活用できる建物はあっても、圧倒的にプレイヤーが足りていない状況です。今いる子どもたちやこれから生まれる子どもたちにとって下北山村は故郷。村を存続させて故郷を残せるように、さまざまなことに挑戦しています。移住希望の方がいたら、ぜひ村の課題に一緒に取り組んでください!」
堀内さんは「プレイヤーは足りていませんが、やる気のある人は結構多い」と下北山村ならではの特徴についても話してくれました。プレイヤーとコンテンツがあっても、それをつなげて活かすことができていないのが現状。村に稼ぐ力をつけて地域経済を循環させ、移住者やUターン者、関係人口を増加させることを目指し、中間支援団体として地域商社を立ち上げたのです。具体的には、ジャバラや下北春なまなどの特産品を使ったクラフトビールや塩などの商品開発、森林療法やリトリート、テントサウナ、カヤック、世界遺産ガイドなどの体験メニューの開発に取り組んでいます。
「大切にしているのは、村、来村者や購入者、地域商社にとって三方よしになっていること。次世代が幸せになると思えること、次世代が大人になったときに残せるものに取り組んでいくことです」
と力を込めて話す堀内さんの言葉からは、下北山村の魅力とともに課題も伝わってきました。この地域で生まれた子どもたちの未来、そのまた次の世代へと地域をつないでいくための地域商社の取り組みに、参加者のみなさんも深くうなずきながら聞き入りました。
これから体験する鹿革を使った「レザークラフト体験」も、課題解決の一つの方法として『下北山地域総合商社』で提供しています。下北山村では15人ほどの猟友会のメンバーが年間100頭ほどの鹿を駆除しており、『下北山地域総合商社』は毛皮のまま仕入れています。その毛皮を奈良県内の会社に鞣してもらい、毛を剥がすと柔らかな手触りの真っ白な革に。繊維が細かいため、独特の滑らかさがあるのが魅力です。それを染料で染めたものが、「レザークラフト体験」の材料。現物を見せてもらい、革ができるまでの工程、手で触り、特徴についても理解して、いよいよクラフト体験がスタート。好きな色の革を選んで、きんちゃくかサコッシュのどちらかをつくります。
▲好きな色の鹿革を選び、「レザークラフト」体験がスタート
▲スマホケースにするために大きさを決める
つくり方を説明してもらいながら作業を進めます。穴を空けて針と糸で縫うだけのシンプルな工程だけど、つくり方は本格的。穴を空けるときは丸太を作業台にして、菱目打ちと木槌を使います。さらに、針を2本使って糸の両端に通して縫うというレザークラフトの手法でつくっていきます。きちんとしたつくり方で縫うことで、丈夫で長持ちするきんちゃくやサコッシュになるのです。針に糸を通す方法もとても複雑で、想像以上の難しさ。参加者のみなさんも戸惑いながら少しずつ作業を進め、いつしか全員夢中で作業に没頭していました。
▲菱目打ちと木槌を使って糸を通すための穴を空ける
▲軒下に丸太の作業台と椅子を並べて。みんな真剣
完成品は一人ひとり、縫い方などに個性が表現されていて、みんなとても気に入った様子。「このサコッシュどこで買ったの?と聞かれるたびに、下北山村で体験したことを話すと思います」という声も。完成品とともに下北山村の体験も含めてかけがえのないものを手にしたみなさんでした。
▲完成した作品と記念撮影
▲下北山村役場の地域振興課の職員であり、『下北山地域総合商社』も運営する堀内亮介さん
【SHIMOKITAYAMA BIYORI】
住所:奈良県吉野郡下北山村浦向24-1
アクセス:下記をご確認ください。
https://biyori.localinfo.jp/pages/3434960/page_201912091543
電話:07468-9-0014
日が暮れて周囲がすっかり暗くなった頃、宿泊先の『下北山スポーツ公園』に到着。隣接する『きなりの湯』で温泉を堪能した後、食堂に集合して夕食をいただきながら、堀内さんはじめ、下北山村役場の方なども合流し、夜遅くまで交流会を楽しみました。ご飯をおにぎりにして、湯がいた下北春まなに味噌を付けて包むこの地域の名物「めはり寿司」も、つくり方を教わりながら各自で包んで味わいました。「めはり寿司」は三重県熊野地方や奈良県吉野地方などで古くから食べられている郷土料理で、その語源は「目を見張るほどに美味しい」からという説があるそうです。高菜の浅漬けの葉でご飯を包む地域もありますが、下北山村では特産品の下北春まなで包みます。この下北春まなは、堀内さんが朝に収穫してきてくれたもの。普段地元の方が食べている食材を味わって、この地域の豊かさの一端に触れた交流会にもなりました。
▲宿泊先の『下北山スポーツ公園』で夕食をいただきながら交流会
2日目:奈良県下北山村→三重県鳥羽市
翌朝、朝食後に『下北山スポーツ公園』のすぐ近くにある『池原ダム』を見学。アーチ式コンクリートダムとしては、国内最大級の総貯水容量と湛水面積を誇る発電用のダムです。このダムによってできた湖も、壮大な景観でした。
▲美しいアーチを描くコンクリート造の『池原ダム』
\奈良県奥大和地域の移住に関する窓口はコチラ/
奈良県 奥大和移住定住交流センター engawa
〒634-0003 奈良県橿原市常盤町605-5 橿原総合庁舎別館
TEL:0744-48-3019
MAIL:okuyamato-iju@office.pref.nara.lg.jp
この後、再びバスに乗り込み、3時間程かけて三重県鳥羽市へ移動。山深い山村から、漁村の雰囲気あふれる海へと、景色を変えていく車窓の鮮烈なコントラストが、紀伊半島の雄大さを感じさせます。
到着したのは昼食会場の『鳥羽マルシェ』。海産物や農作物の産直市場や郷土料理を中心としたビュッフェレストランなどがある複合施設で、海岸沿いの近鉄鳥羽駅の目の前にあります。ここでは、参加者のみなさんは、自分たちで好きなものを買ってシェアするなどして、鳥羽の新鮮な地物を楽しみました。
昼食後はバスで20分ほど移動し、牡蠣養殖が盛んな浦村町というエリアへ。本日の宿泊先でもある一棟貸し切りの団体向け宿泊施設『Anchor.漁師の貸切アジト』で、牡蠣養殖の筏を間近で見学するクルージング、牡蠣剥きなどの漁村アクティビティを体験します。鳥羽市地域おこし協力隊の大日方一皓さんも合流。バスでの移動中に、大日方さんから鳥羽市の地域や浦村町についての説明をお聞きし、期待が高まります。
『Anchor.漁師の貸切アジト』に到着すると、静岡県から鳥羽市に移住し、宿の運営や漁村アクティビティなどの体験普及に取り組むオーナーの行野慎平さんの案内で、カラフルなカッパを着て装備を整えます。行野さんから「この時間は漁師になったつもりで参加してください!」と促され、みんなで「エイエイオー!」と掛け声を上げました。
▲『Anchor.漁師の貸切アジト』に到着。筏クルージングに出発する前に行野さんの掛け声で気合いを入れる
船着き場に到着すると、海から一艘の漁船が現れました。この船に乗って登場したのが、大阪から鳥羽市に移住し、牡蠣を中心にワカメやアサリの養殖にも取り組む浅尾大輔さん。船に乗り込み筏を目指してクルージングがスタートしました。
▲船着き場に到着すると、漁業者の浅尾大輔さんが海から登場
▲船に乗り込み、筏を目指して出発
最初の筏に到着し、小さな牡蠣の幼生(赤ちゃん)を見学。夏に産卵したものが、筏に吊るしたホタテの貝殻に定着し、1cm程度に育っています。これが1年後には収穫できる大きさになるといいます。海が豊かであるため1年という短期間(通常は2〜3年)で収穫できるのが浦村町の牡蠣の特徴でもあるのです。
▲到着すると、浅尾さんは軽い足取りで筏の上へ
▲ホタテの貝殻に付着した牡蠣の幼生
ポイントを移動し、収穫時期を迎えた牡蠣が育つ筏へ。参加者のみなさんも筏に上がって、ロープを引き上げて収穫を体験させてもらいました。ロープは1本7mあり、30cm間隔で24枚のホタテの貝殻を付け、3本1組で筏に吊るしてあります。一人ずつ手で引き上げて重さを体感。牡蠣の育ち具合により30〜80kgにもなり、海水の浮力があってもずっしりと重さを感じます。ここで収穫した牡蠣は、今夜の夕食で焼き牡蠣にしていただけるとのことで、船の上で歓声が上がりました。
▲参加者のみなさんも筏に上がって、牡蠣の収穫をお手伝い
▲収穫した牡蠣は今夜の夕食でいただきます
参加者のみなさんは、牡蠣収穫だけでなく、普段は間近で見ることのできない筏にも興味を持ち、いくつかの質問が飛び交い、浅尾さんから筏について解説がありました。
「筏は僕たち漁師がヒノキをロープで組んでつくり、10〜15年は使います。公平性を保つため、毎年くじ引きで筏を浮かべる場所を決めますが、大きいので移動が大変なんですよ。筏が緑になっているのは、植物性プランクトンがくっついているから。山の養分が海へ流れ出て、それが二枚貝の餌になります。山の土壌が良い状態じゃないと貝たちにも良い環境はつくれない。山から海まで全部つながっているんです」
船から降りたら、工場で牡蠣を洗浄する水槽を見学。水揚げしたばかりの牡蠣は生食には向かず、ここで紫外線を照射した滅菌海水で約24時間洗浄することにより、無菌牡蠣として生食できる牡蠣になります。「せっかく浦村に来たんだから、生牡蠣を剥けるようになって帰ってください!」と、浅尾さんから剥き方のコツを教わり、準備しておいていただいた無菌牡蠣を一人ずつ剥いてみます。そして、その場で剥きたての牡蠣をいただき、感無量。「これが浦村の牡蠣の味!」と、お腹にも心にも染み込む体験となりました。
▲浅尾さんから牡蠣の剥き方のコツを教わる
▲参加者たちも挑戦。意外とみんな上手
▲剥きたての生牡蠣をその場でいただきます!
浅尾さんと行野さんは、筏クルージングや牡蠣剥き体験を、伊勢志摩漁村アクティビティとして展開する取り組みも展開中。浅尾さんは言います。
「牡蠣小屋で美味しい牡蠣を食べてもらうのもいいけど、それだけでは浦村の本当の魅力は伝わらない。実際に養殖をしている現場を見てもらい、漁師になったつもりで海を体験してもらうことで、もっと牡蠣を身近に、美味しく感じてもらえるのではと思っています」
▲牡蠣養殖をメインに浦村町を盛り上げるさまざまな活動をする浅尾大輔さん(右)、『Anchor.漁師の貸切アジト』オーナーの行野慎平さん(中)、養殖漁師仲間の尾崎善信さん(左)
アクティビティの後は、近くの日帰り温泉で冷えた身体を温めました。そして、お待ちかねの夕食をいただきながらの交流会。浅尾さんや行野さんはもちろん、浅尾さんの漁師仲間の方々、浅尾さんや行野さんに憧れて鳥羽に移住してきた方々も参加し、とてもにぎやかで明るい雰囲気になりました。
一人ずつ自己紹介をした後、浅尾さんと行野さんから移住の経緯や浦村で実践している活動についてのお話がありました。
浅尾さんは、大阪から鳥羽に移住して漁業者になって14年目。「俺の職場は海さ!」と言いたくて始めたそうですが、海を相手に仕事をすることに大きな魅力を感じるとともに、自分らしくいられる場所だと感じたことで、鳥羽に住むと決めたといいます。牡蠣養殖は収穫が11月〜4月頃までに限られるため、それだけでやっていくことは厳しい。漁閑期にできることとして、牡蠣殻でできたケアシェルを使ったアサリ養殖に取り組み、史上最年少で農林水産大臣賞を受賞するなど、今まで誰もやっていなかったことに次々とチャレンジしています。
▲牡蠣養殖のプロセスについて説明する浅尾さん
「地元の先輩たちにいろいろなことを教えてもらいながら、やってこられたことで今があるのですが、趣味がゼロから一をつくりだすことで、特技が日本初を見つけること。僕から見たら田舎は真っ白いキャンバスで、自分の好きなものが描ける場所なんです」
さらに、2022年7月には、浦村町にある12の牡蠣養殖業者を集め、『株式会社浦村シーファーム』をつくり、共同で養殖や出荷の作業に取り組んでいます。燃料費高騰やコロナ禍による需要の落ち込み、高齢者による後継者不足、設備更新にかかる莫大な費用などを解消するため、背水の陣で決めたことだといいます。
「工場、船などを集約し、作業を分業化することで省エネ、少コストにつながり、よりハイクオリティーな牡蠣を提供することができます。個人事業主として家族経営していた養殖業者が中心だったので、広い工場を70代の夫婦だけで使っているような状況がありました。燃料代や経費など、無駄が多いことは数値化すればわかることですが、それを見ないとなかなか納得できません。養殖業者で集まって、みんなで長い時間をかけて話し合いをして、過去5年分の確定申告書を全員に出してもらって、目に見える形で数値を出して案をつくることで、納得感をもって組織化が実現しました。それはみんなの覚悟があったからできたこと。まだまだできていないことも多いですが、牡蠣養殖だけではなく、加工品の開発、アクティビティの提供、キャンプ場の経営など、今までできなかったことにもチャレンジしていきたいと思っています。一次産業だから養殖だけしていればいいという時代ではないですから」
行野さんも『Anchor.漁師の貸切アジト』をオープンするまでの経緯について話してくれました。以前はキャンプ場や宿泊施設を運営する会社で働いていた行野さん。移住のきっかけは「地域トレセン 三重フィールドワーク」という三重の生産現場を見学するイベントに参加したこと。実際に生産現場を肌で感じ、生産者から作り手の思いや人柄に触れたことが『人生をアップデートできる非日常体験』だと実感。カヤックで海に出るだけでは、それを知ることはできないと、生産現場の体験や生産者との交流をアクティビティとして提供することを目指して、ホテルの従業員寮だった遊休施設をリノベーションして『Anchor.漁師の貸切アジト』を開業。活動の拠点となる場づくりに取り組んでいます。
「生産者のイメージは5Kと例えられ、きつい、危険、結婚できない、稼げないなど、マイナスの印象がありますが、実際に会ってみると全然違いますよね? みんなカッコいいし、稼いでいるし、モテる。消費者と生産者の距離が遠いと、伝わらないことが多いんです。この体験を一度すれば、弁当に入っている人参を見たときに、それをつくっている人が思い浮かぶようになる。これってアップデート体験ですよね。これは僕の経験というフィルターを通して考えたこと。みなさん、それぞれにスキルや経験があります。今日この場でそのフィルターを通して何ができるのかを考えるきっかけにしてもらえたら嬉しいし、僕らもそれを知りたいです」
大日方さんから提案で、グループに分かれて、どうすればこの漁村が盛り上がるかアイデアを出し合うディスカッションも行われました。「筏を近くで見ることができたのは貴重な経験だった。海に潜って下からも見てみたい」「漁村でこんなにも多様性がある生き方ができることに驚いた。それを3次産業の人たちにも伝えることで、自分の力を活かせる舞台があることに気づいてもらえるのではないか」「この体験はプロジェクト化すればもっと盛り上がる」といったさまざまな意見が飛び交いました。
▲漁村を盛り上げるためのアイデアをグループに分かれてディスカッション
それらを受けて浅尾さんから、参加者のみなさんへこんな言葉が贈られました。
「みなさんの力が発揮できる場所は、ここだけではないかもしれないけど、探せばきっとあるんです。みなさんが地域のなかで、どうすればそれを活かせるか、少しでもヒントになれたらと思います。漁村は今までの伝統を守りすぎて、漁業者としてやってきたことに自信を持ち過ぎているのかもしれません。自分たちにないものを知ることで伸びしろが生まれ、補い合うことを認めることで初めて受け入れ体制が整う。今日のみなさんの助言が5年後に活きるかもしれないし、もしかしたらここに住まなくても、来てくれる回数が増えれば変わっていくのではないかと、今日改めて感じました。みなさんがここに来てくれたことはすごくありがたいし、またこういう場をつくることを目標に僕たちは漁業を続けていきます」
行野さん、大日方さんをはじめ、多くの移住者は、浅尾さんの魅力とエネルギーに惹かれ、鳥羽に移住を決めたといいます。この地域では人が人を呼んで、地域が盛り上がって渦を起こしている。それが参加者のみなさんにも伝播していくのが目に見えてわかるような熱い交流会となりました。
▲『Anchor.漁師の貸切アジト』オーナーの行野慎平さんを囲んで記念撮影
【Anchor.漁師の貸切アジト】
住所:三重県鳥羽市浦村町1558-5
アクセス:車で鳥羽ICから約14.8km(車で25分程度)
電話:070-1645-2221
3日目:三重県鳥羽市
最終日の朝は、大日方さんの案内で、鳥羽港周辺を散策。今まで体験した産業としての海とは異なる生活の場としての海を見て歩きます。離島を結ぶ定期船、フェリー乗り場などをはじめ、海賊大名が治めていた鳥羽城跡地の公園、旧街道に沿って建つ古い民家や蔵をリノベーションしたギャラリー、コワーキングスペースなどを見学しました。このエリアは「鳥羽なかまち」と呼ばれており、空き家を活用した地域づくりが活発に行われています。移住者が空き家を改装して営む店も増えており、少しずつ活気が生まれていることが伝わってきます。
▲大日方さんの案内で鳥羽港周辺を散策
▲国道から一本入った旧街道沿いには古い町並みが残る
しばらく歩いた後は、ちょうど昼時。「鳥羽なかまち」にある移住者が経営する店舗の一つでもある『おにぎりCAFE うさぎのしっぽ』で昼食をいただきました。オーナーの佐藤創さんは東京出身。勤めていたテレビ局を退職し、地域おこし協力隊を経て、空き店舗をほとんどDIYでリノベーションしてカフェをオープン。映像・アニメーション作家としても活動しています。隣の物件も佐藤さんが改修し、『ねこのみみ』というマッサージ屋さんに貸し出しているそうです。海から街へ視点を変えると、また異なる形で移住者が地域を盛り上げながら、自身もイキイキと充実した暮らしを送っている様子を感じることができました。
▲移住者の佐藤創さんが経営する『おにぎりCAFE うさぎのしっぽ』
▲ほとんどDIYでリノベーションしたという店内
▲『おにぎりCAFE うさぎのしっぽ』で提供するおにぎりとスープがメインのランチ
【おにぎりCAFE うさぎのしっぽ/イエンスの塔】
住所:三重県鳥羽市鳥羽4丁目4−4
アクセス:電車で近鉄志摩線 中之郷駅より徒歩5分/車で鳥羽ICより約4.8km(車で8分程度)
電話:0599-25-9005
お昼を食べた後は、ツアーの締めくくりとして、海洋プラスチックゴミをアップサイクルし、建築素材やアート作品として販売している『REMARE』の間瀬雅介さんを訪ね、ビーチクリーンとアクセサリーづくりのワークショップに参加します。プラスチックは一度海に流されるとほとんど分解されることがないため、海洋生物や人間の生活に影響を及ぼし、大きな社会課題となっています。
間瀬さんは、愛知県出身の元航海士で日本海をはじめ南極の海洋生物調査にも参加した経験の持ち主です。日本沿岸や南極海を航行した後、浅尾さんとの出会いをきっかけに鳥羽に移住。フィリピン海沖に浮かぶ直径3kmにもおよぶ海洋プラスチックゴミを目にして、人工物を地球上にどのように存在させるべきかという問いから、ゴミとして出されるプラスチックを回収し、リサイクルして素材として販売する循環型の事業を始めました。工場で生産するペレットやフレークなどのプラスチック素材の他に、さまざまな色の海洋ゴミを洗浄してヒートプレスして再加工することで、マーブル状など抽象的でカラフルな模様に仕上がる板材も販売。家具の天板やアクセサリー、文房具などに活用されています。
▲海洋プラスチックゴミの回収から製造まで一貫して行う『REMARE』のアトリエにて。代表の間瀬雅介さんのお話に聞き入る
「海洋ゴミは世界的な課題ですが、日本の海はどうなっているのかを実際にビーチクリーンをしてもらい、そこからできる素材でプロダクトをつくるというワークショップをしたいと思います。日本の海洋ゴミは6割が漁具だと言われていて、鳥羽の海は牡蠣養殖の筏に使うスペーサーという小さな丸い漁具が多いんです。ただゴミを拾うだけだと面白くないのと、目の前の海の課題を知って欲しいので、今日はこのスペーサーに絞って、誰が一番多く拾うか競争しましょう!」
間瀬さんの説明が終わると、ゴミ袋を手にしてビーチクリーンがスタート。最初は見つけにくいものの目が慣れてくると、色とりどりのスペーサーが落ちているのが見えてきます。数十分拾った後は、アトリエに戻って数を数えて、優勝者が決定。一番多く拾った参加者には、間瀬さんから『REMARE』で制作しているオリジナルのボールペンがプレゼントされました。
▲『REMARE』のアトリエの目の前は海。間瀬さんからの提案でビーチクリーンは、誰が一番スペーサーを集められるか競争することに
その後は、ブレスレット、キーホルダー、ピアスなど自分の好きなアクセサリーをつくります。あらかじめプレスされたマーブル模様の板材を自由に切り取ったり、ギターピック用のカッターを使って切り抜いたりして、チャームをつくっていきます。インパクトドリルで穴を空けて、パーツをつけたら完成です。
▲『REMARE』で製造・販売している海洋プラスチックゴミからつくられた板材。さまざまな色のプラスチックを再圧縮して唯一無二の模様を生み出す
「自分の感性に従って、好きなようにカットしてくださいね。板材の模様も一つとして同じものはありません。抽象的な模様から、私はこれがいいというものを見つける過程が大事。ゴミも含めた社会課題も個人の感性によって、さまざまな視点からアプローチすることで、解決されていくのではないかと感じています」
そう話す間瀬さんは、将来的には世界的課題を解決することを前提として、現在は目の前の鳥羽の海の課題解決のために、海洋プラスチックゴミを回収して事業化しています。プラスチックゴミを集めるとともに、海洋の還流データの収集や分析も行い、いずれは海に給電スポットや海上都市をつくり、海底の資源調査をしたいと夢を語ってくれました。地球の資源の自給率を向上させ、次の世代では潤沢に資源を使える世界をつくりたい。それが間瀬さんの見据える未来です。
▲間瀬さんと大日方さんを囲んでビーチで記念撮影
▲『REMARE』代表の間瀬雅介さん
【REMARE】
住所:鳥羽市鳥羽5-2-14
アクセス:車で鳥羽ICより約5.4km(車で8分程度)/電車で近鉄志摩線 志摩赤崎駅より徒歩約5分
電話:090-1237-4047
\三重県鳥羽市の移住に関する窓口はコチラ/
三重県鳥羽市移住・定住相談窓口(企画財政課 移住定住係内)
〒517-0011 三重県鳥羽市鳥羽三丁目1番1号
TEL:0599-25-1227
FAX:0599-25-3111
【鳥羽市移住定住情報】
https://www.city.toba.mie.jp/kurashi/iju_teiju/3744.html
LINE相談
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「まだ、移住先は決めていないけど、鳥羽市の暮らしについて聞いてみたい。」など、些細なことでもお気軽にご連絡ください。下記のQRコードから友達申請をお願いします。
移住というと、ずっとその場所に留まって終の棲家にすることをイメージしがちですが、鳥羽で出会った移住者の方々は、型にはまらず自分らしい生き方をしています。その人らしさにあふれた地域経済の生み出し方に触れ、参加者のみなさんも視野が広がり、移住の新たな可能性に向き合うことができたようでした。
3日間にわたり、奈良と三重のさまざまな場所を訪ねた「地域経済づくりについて学ぶツアー」。「移住したら自分には何ができるのか?」という問いに向き合いながらこのツアーを体験した参加者のみなさん。地域の豊かな自然や先輩移住者たちのエネルギーに触れていくうちに、緊張した面持ちがみるみる笑顔になり、積極的にツアーに参加し、地域の方と交流を深めようと心を開いていく様子がとても印象的でした。参加者のみなさんにとって、このツアーが移住への何かの手がかがりになることを期待しています。
三重県、奈良県、和歌山県にまたがる紀伊半島という雄大な環境を舞台に、「暮らし」「仕事」をテーマに展開してきた4つのツアー。今回訪れた地域以外にも紀伊半島には、魅力的な地域がたくさんあります。今回のレポートを参考に、移住先の候補として、紀伊半島を訪ね
ていただければ嬉しいです。
〈Information〉
『アングラーズベース下北山』
正社員・パート・アルバイト募集中!
未経験者歓迎・経験者優遇。
詳しくは、下記メールアドレスまでお問合せお願いいたします。
shimokitayama@anglersbase.jp
※氏名、住所、電話番号をお送りいただけますと、
後日担当よりご連絡いたします。
『海洋プラスチック専門店OPO』
スタッフ募集中!
未経験者歓迎・海洋問題に直接関わるチャンス!
詳しくは、下記メールアドレスにお問い合わせください。
※件名に「OPOスタッフについて」とお書きください。
後日、担当よりご連絡いたします。
文:村田保子
\参加者の声/
・いろいろな方に出会い、それぞれが自分のビジョンをもち、突き進んでいる姿勢に触れたことで、背中を押してもらえたような気がします。先輩移住者の方々からエネルギーをもらえた3日間でした。
・訪ねた地域それぞれに、地元の方と移住者の方が協力して地域を盛り上げ、相乗効果が生まれているのを感じました。私もその中の一人になれたらいいなと思いました。
・地域のみなさんはとても柔らかい思考をもっていて、柔軟に移住者を受け入れる体制があり、すごく素敵だと思いました。地方というと堅いイメージがあったのですが、それは固定概念だったとわかり、良い経験になりました。
・先輩移住者の波及力をすごく感じ、刺激を受けた熱い3日間でした。
・移住先で受け入れてもらえなかったらどうしようと、マイナスに捉えてしまっていた部分があったのですが、自分にぴったりだと思う地域が見つかったら、動けばいいんだと勇気をもつことができ、すごくありがたかったです。
・こういう場所で何かしたいなというイメージを膨らませながら、また機会があれば来たいなと考えながら過ごした3日間でした。移住に関してもっと具体的に何かを進めたいという気持ちになりました。