【ツアーレポート】
熊本屈指の人気エリアの暮らしを深掘り
「くまもと暮らし体験ツアー」阿蘇コースに密着!

熊本の暮らしを伝える移住検討者向けツアーとして熊本県が主催した「くまもと暮らし体験ツアー」。こちらの記事では、全5コースが組まれた本ツアーのうち、第2回の日程で行われた「阿蘇コース」の様子をレポートします。

 

1日目

「熊本地震震災ミュージアムKIOKU」へ

第1回の日程で同行した「天草コース」のツアーに続き、第2回の日程では「阿蘇コース」のツアーに参加したTURNS取材班。2月25日から2月27日の2泊3日で行われた本コースには、羽田空港発、伊丹空港発、博多駅発の3つの出発地から計36名の参加がありました。

熊本県の北西部に位置し、阿蘇市、小国町、南小国町、高森町、山都町、産山村、南阿蘇村、西原村の1市4町3村からなる阿蘇地方。阿蘇くじゅう国立公園に指定される阿蘇山周辺の大自然に抱かれるエリアは、火山活動によって形成された世界最大級のカルデラ地方を誇り、肥沃な大地を活かした農業と、美しい景観を見に訪れる人が年間通じて絶えない観光業が主軸産業になっています。また、西端の西原町に隣接する菊陽町では今年、台湾の世界的半導体メーカー・TSMCの工場が稼働を開始し、阿蘇含む熊本県の経済を盛り上げる起爆剤として全国的な注目を集めています。

昼過ぎに熊本駅を出発したツアーバスは、阿蘇くまもと空港で羽田空港、伊丹空港からの参加者をピックアップし、バスガイドさんから阿蘇地方についての概要を聞きながら、14時過ぎに最初の目的地である「熊本地震震災ミュージアムKIOKU」に到着。

南阿蘇村の旧東海大学阿蘇キャンパスの跡に昨年オープンしたこちらは、2016年に起きた熊本地震の記憶と経験を教訓とともに後世へ伝えるために造られた施設です。大きな地震は比較的少ないとされてきた熊本県を2度にわたり襲った震度7の地震による震災の記録が、当時の遺物や映像によって紹介されています。

ここでは地震発生当時の様子をまとめた映像をシアターで鑑賞。その後、阿蘇地方一帯の大型立体模型を通じて、一般的に阿蘇山と総称される、根子岳、高岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳の「阿蘇五岳」と、その阿蘇五岳を含めた一帯をぐるりと囲む「外輪山」、そして外輪山内の平地に広がる「カルデラ」という、太古の火山活動が生み出した特殊な地形の概略を理解しました。

また、同館では東海大学時代に1号館キャンパスとして使われた校舎の一部が震災遺構として保管・公開されており、当時のままを留めて壁のひび割れた建物に被害の大きさを実感。さらに校舎の前では、地表を貫いた地震断層を見ることができ、地震の痕を今も生々しく伝える地面の亀裂を前に参加者から驚きの声があがっていました。

 

先輩移住者に体験談を聞く

続いて一行は、阿蘇を代表する景勝地「大観峰」へ。道中の車窓には阿蘇山の絶景が徐々にその全貌を見せ始め、阿蘇に来たという実感が深まってきます。

標高約935メートル。外輪山の北側を突き出すようにそびえる大観峰は、阿蘇山周辺の景色を一望する絶景スポット。展望台からは、お釈迦様が横たわる姿に似ていることから“涅槃像”に例えられる阿蘇五岳を中心としたパノラミックな景色が楽しめます。

ただ、あいにくこの日は午後から天気が崩れはじめ、我々が大観峰に到着した頃には上空を厚い雲が立ちこめる空模様に。周囲の大草原、そして巨大な壁のように切り立つ外輪山や眼下の街並みに阿蘇の自然が持つスケールの大きさを感じることができたものの、阿蘇五岳の稜線をはっきりと見ることはできず…。無双の大絶景を見物とはいきませんでしたが、こればかりは時の運。3日間のどこかで涅槃像の姿を拝めればと空に願いながら、その場を後にしました。

その後、一行は今回の宿である「阿蘇の司ビラパークホテル」に移動。

活火山を有する阿蘇は、全国屈指の人気温泉地である黒川温泉や夏目漱石や与謝野晶子ら数々の文豪も愛した内牧温泉という温泉郷をはじめ、源泉かけ流しの宿が数多くある土地。JR阿蘇駅近くのこちらのホテルも、そうした阿蘇の豊富な湯量が満喫できるお宿の一軒です。チェックインの後、しばらく休憩を挟んだ一行は、館内の食事処で4名の先輩移住者を招いた懇親会に参加しました。

 

2日目

阿蘇地方の魅力を深掘り!

2日目は朝9時前に宿を出発し、熊本地震で倒壊した楼門が復活したばかりの「阿蘇神社」を参拝した後、同じ市内の「阿蘇草原保全活動センター」を訪問。阿蘇の四季折々の景観を織りなす草原を守るための活動や、春の野焼きをはじめとした世界農業遺産に登録される農業システムに関する展示が見られるこちらの施設では、阿蘇市、小国町、南阿蘇村、西原村の4自治体による説明会が行われました。

このうち、最初に登壇した阿蘇市の職員は、大観峰や草千里ヶ浜、阿蘇神社、内牧温泉など阿蘇を代表するスポットが集まる同市の魅力をPR。その上で、商業や医療など生活に必要な機能がひと通り市内に揃い、観光のにぎわいと市民の生活が適度に分離された環境であるという説明も。また、そうした観光客の多い土地ゆえ商店などを開きやすい点も魅力として伝えられ、実際にケーキ店やゲストハウスを起業している移住者の例が紹介されました。

次に説明があった小国町は、今年発行される新千円札の肖像画に選ばれた北里柴三郎博士の出身地であり、町の面積の約8割が森林を占める自治体。地熱資源が豊富な地域は、わいた温泉郷や杖立温泉などの温泉地が多く、日常生活で温泉が楽しめる暮らしに憧れて移り住む移住者が多いという説明が。また、まちの暮らしを体験したり、移住先の住居を探す間の住まいとして、最長6ヶ月利用できるというお試し暮らし住宅の紹介もありました。

昨年の人口動態調査で熊本県内の市町村において最も人口増加率が高かった西原村は、熊本市と通勤圏内にある都会的な暮らしと田舎暮らしの“いいとこ取り”ができる点と、多様な働き方ができる環境をPR。隣接する菊陽町にTSMCの工場が新設されたことを含め、近隣にはホンダやソニーなど大企業の生産拠点があり、一方で阿蘇くまもと空港へのアクセスに優れていることから、東京や大阪と関わりのあるテレワーカー等にもおすすめの移住地であることなどが紹介されました。

最後に登壇した南阿蘇村の職員は、環境省の名水百選に選ばれる「白川水源」を筆頭に、村内に11の地下水源がある“水がおいしいまち”をPR。また、観光業が盛んである一方、昼夜の寒暖差が大きな環境は良質な農作物の栽培に適した環境にあり、トマトやアスパラガスが主な特産品であることが伝えられました。

その後は、阿蘇市内の黒川地区にある空き家を視察。

阿蘇市の空き家バンクで公開されているこちらの賃貸物件は、洋室6畳の2階がある家賃6万円の木造6DK。築50年以上が経ちますが、いくつかの部屋はフローリング化され、浴室も設備は新しく、改修の必要なく住める状態です。さらに大きな魅力といえるのが大きな庭。広い縁側に面する庭は、小さな子どもを持つ子育て世帯や趣味で家庭菜園などを楽しみたい方々ならば、ぴったりな住まいになると感じました。一方で、2階からは阿蘇山の眺望が楽しめ、毎朝こんな景色を見ながら目覚められたら気持ちいいだろうなあ…という印象を抱きました。

 

農業の恵みを使っておみやげ作り

続いて大分県・宮崎県との県境にあたる高森町に移動。古民家の食事処「高森田楽の里」でいろりを囲みながら郷土の田楽料理を堪能し、同じ町内の「NOKaTs BASE」へ。

NOKaTs BASEを運営する「NOKaTs(のおかつ)」は、高森町・野尻地域の若手有志によって2021年に結成されたグループです。その名前は、野尻の「N」、尾下の「O」、河原の「K」、都留の「T」という町内の地域名のイニシャルに、アグリカルチャーの「a」とサステナビリティの「s」をつなげたもの。農業、行政、旅館業など異業種のメンバーが集まり、かつてJAの支店だった店舗を活用したNOKaTs BASEを拠点に、地域おこしを目的にした活動を行っています。

この地域で長く行われてきた生花農業で発生する規格外の花を活用し、「ASO DRY FLOWER」ブランドとして売り出しているドライフラワーの生産。館内に入ってすぐにある乾燥室には、色とりどりのお花がずらりと並べられています。

今回はそのドライフラワーを使ってキャンバスフラワー作りに挑戦。NOKaTs代表の首藤規廉さんも「これだけの人数の方々と一緒にワークショップをするのは初めてなので、どんな風になるかわワクワクしています」と張り切ったご様子で、スタッフの方にアドバイスをいただきながら、世界に一つだけのおみやげ作りを楽しみました。

 

3日目

里山の美しさ感じる南小国町へ

最終日となる3日目は南小国町へ。はじめに南小国町役場を訪れ、まちづくり課の職員、および同町のまちづくり公社で移住者向けの発信も行う「SMO南小国」の堀越直美さんからお話を伺いました。

町の魅力については、観光業、農業、林業を基幹産業にあげた上で、全国的に有名な黒川温泉を中心に5つの温泉地があることや、寒暖差の大きな気候を活かした、ほうれん草、きゅうり、大根などの生産が盛んであることが紹介されました。また、教育環境の説明では、林業のまちならではの「木育」という取り組みに注目が集まっていました。

一方で、関東からの移住者でもある堀越さんからは、同社が掲げる「挑戦の種火を育む町」というコンセプトの説明と、同社が関係人口拡大のために実施している「南小国町ローカルトリップ」や移住して起業をしたい人とまちのニーズをつなげる実践型マッチングプログラム「キックスタートキャンプ」などの事業の紹介がありました。

その後は、徒歩で町役場近くにあるSMO南小国が運営する未来づくり拠点「MOG」を見学しながら「喫茶竹の熊」へ。

2023年にオープンしたこちらのお店は、建材に小国杉をふんだんに使ったカフェ。空間やインテリアで小国杉の魅力を見て触って感じることができ、屋外の板の間も一枚の絵の中にいるかのようなナイスな空間。目線に近い高さで田んぼを見渡し、梅、桜、そして小国杉の山と、四季それぞれに美景があるロケーションで小国町の新たな観光スポットになっています。

「ここの建物は屋根も小国杉でできていまして、6万6千枚くらいの小さなピースを地域の皆さんに貼っていただいて、地域の方たちと一緒に作っている建物になります。厨房以外に電気が備わっておらず、自然光だけで営業をしているので、空の様子で本当に景色が変わります。南小国らしい季節の移ろいを感じられる場所ですので、今日は短時間になりますが、また機会がございましたら、遊びに来ていただきたいです」

と一行を迎えてくださったご店主の穴井里奈さん。阿蘇の天然水で淹れたコーヒーは、2月の寒さで冷えた体に、ほっこりとした温もりを運んできてくれました。

南小国町を出発した一行は、阿蘇地方のさまざまな商品が揃う、阿蘇市の「道の駅阿蘇」に立ち寄りながら、一路、阿蘇くまもと空港へ。

道中の車窓には、初日の大観峰では拝めなかった阿蘇五岳の“涅槃像”がくっきりと姿を見せ、まるでお釈迦様に見送られているかのような気分で阿蘇を後に。再びこの風景が見たいという余韻を残して締めくくりとなった3日間のツアーでした。

 

取材・文:鈴木 翔 写真:中村 晃

                   

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