宮崎県新富町に本拠地を置く一般財団法人「こゆ地域づくり推進機構」(以下、「こゆ財団」と記載)と、“これからの地域との繋がり方”をコンセプトにしたローカルライフマガジン「TURNS」が実施する、企業と一緒にめぐる “新富町フィールドワーク” が4月からスタートしました。
企業と一緒に、新富町で “新しいビジネスを起こしたい”
その可能性を探るため、第一回目となる4月21〜22日は、東邦レオ株式会社の吉田啓助さんとロート製薬株式会社の柴田春奈さんを新富町にお迎えし、こゆ財団メンバーの皆様に新富町の様々なスポット・コンテンツをご案内いただきました。
当日の様子をレポートします!
《メンバー》
視察メンバー
・東邦レオ株式会社 ディレクター 吉田啓助さん
・ロート製薬株式会社/VENTURE FOR JAPAN 柴田春奈さん
・TURNSプロデューサー 堀口正裕現地案内人
・一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 執行理事 高橋邦男さん
・宮崎県新富町 地域おこし協力隊 甲斐龍児さん(アートまちづくり事業を担当)
・宮崎県新富町 地域おこし協力隊 福永淳史さん(スポーツ推進事業を担当)
ー1日目ー
KOYU CAFE
宮崎空港に到着後、最初にご案内いただいたのは「KOYU CAFE」です。ここでランチを頂きました。
農業が盛んな新富町ですが、地元の食材を使った親しみやすいカフェは長い間なかったそうです。そのため、「KOYU CAFE」が立ち上がった当初は、地元の人もなかなか受け入れることができずでしたが、店主の人柄とメニューの美味しさでカフェの魅力はあっという間に広まり、今では常連さんがつくほどの人気店となりました。
この日食べたのは、「野菜たっぷり醤油こうじパスタ」(サラダプレート付き)。他にも「新富焼き野菜スープカレー」といったメニューも。
注目すべきは “野菜の美味しさ”。どれも地元で採れた新鮮な野菜をふんだんに使ったメニューばかり。「こゆ野菜カフェ」と紹介するメディアも多いほどです。
店主の永住美香さん(左から2番目)。2016年3月に故郷の新富町にUターンし、新富町商店街にオープンした「KOYU CAFE(こゆ野菜カフェ)」店長としてキャリアをスタート。県内外のお客様に新富町の野菜の魅力を発信し続け、新富町ではただ一人の「九州パンケーキ」アンバサダーとしても活躍中。
ランチはとても美味しくて、お店の雰囲気も素晴らしく、予想していた以上にくつろいでしまいました。(笑)そうこうしているうちに、店長の永住さんがカフェラテをサービスしてくれました。(永住さん、ありがとうございます…!)
お腹を満たした後は、“発酵エバンジェリスト”のいるキムラ漬物へ…!
キムラ漬物
キムラ漬物みやざき工業株式会社の代表取締役 木村昭彦さんは、持続可能な農業のあり方に考えを巡らしている “発酵エバンジェリスト” です。
ここ、キムラ漬物は宮崎県が発祥の地ではありませんでした。元々は、昭和26年に愛知県渥美半島で創業された漬物屋さんで、当時は、米糠と塩と唐辛子で漬け込み、半年〜1年ほど熟成させ、それから出荷していました。それが「渥美たくあん」です。
長い時間をかけて作られていましたが、徐々に人員が足りなくなり、新たに産地を探していたのですがなかなか見つからず…。そんな時、たまたまこの宮崎県がたくあん漬けの気候的に適した場所だと分かり、ここ新富町でキムラ漬物を受け継ぐことになりました。
キムラ漬物の代表取締役 木村昭彦さん(真ん中)。この日、木村さんは、商品紹介だけでなく「発酵」に関するあらゆる考え方を教えてくれました。
大根の管理は大変です。干し大根は2週間も乾かさないといけません。手間暇かけて作られるので、年々生産者の方も減ってきています。
そんな状況に危機感を覚えた木村さんは、商品だけでなく、「発酵食品」に関するPRにも力を入れています。毎年3月にはハワイに行き、ハワイの宮崎県人会で糠漬けの漬物会を行っていたり、仲間とのインスタライブで発酵文化の魅力を伝えたり。何よりも、ほぼ毎週更新しているnote『漬物伝道師になるぞ、木村昭彦』の記事は、「発酵文化や食の選び方についてめちゃくちゃ勉強になる!」と大勢のファンがついています。
キムラ漬物の原材料はとてもシンプルです。商品裏を見れば、一目瞭然!大根、米糠のみで、旨味調味料は一切使っていません。発酵しているので少し酸っぱい味で、まさに “昔のおばあちゃんが漬けた” たくあんの味です。
「本当のたくあんは箸休め。たくあんは、歯の中を掃除してくれるものでもあるんです。そういうことでも漬物は役に立っていたんですよ。あと、最近は知らない人も多いけど…、本当のたくあん漬けは、米麹を使っているから発酵されたぬか漬けのことなんですよ。米麹で漬けてないものは、大根漬け。そこの違いははっきり伝えていきたいな。」
たくあん漬けに関する正しい認識を広めたい、漬物について知ってもらいたい、と木村さんは話します。
「食文化のセミナーを聞いているようで、とても勉強になりました。食文化のことを知らないことが、実は農業にとっても大打撃なんですよね。そうした正しい知識を身につけることで、食材の選び方や買い方も変わってくるはずですね」と、TURNSプロデューサーの堀口はコメントを寄せました。
みらい畑
「みらい畑」は、ボーダレスグループの宮崎オフィスで石川美里さんが立ち上げた農業法人です。“農業をやりたい人が続けられる社会を創る”をコンセプトに、紅芯大根や佐土原ナス、ほうれん草など様々な種類の野菜を育てています。
最近では、丸ごと食べられるミニ野菜をぬか漬けにした『腸活ミニ野菜』が大ヒットしました。「野菜」をキーワードにソーシャルな事業を次々と生み出している会社です。
この日訪れたのは、新富町の銭湯裏にある2畳程度の畑。畑といっても、見過ごされてしまいそうなほど小さなスペースでした。
「みらい畑」代表の石川さんは、ここでソーラーシェアリングの技術を使いブロッコリーを育てています。ソーラーシェアリングの太陽光発電を活用し、環境に配慮した栽培を行っているのです。
ソーラーシェアリングは農家の二重収入として活用され始めているものですが、本当に役に立つかどうかはまだまだ実験の途中。ですが、環境に配慮されたエネルギーを生み出せる面と、土地の有効活用に役立つ面から、様々な可能性が期待されています。
(左)ソーラーシェアリング/(右)育てているブロッコリー
この日、石川さんは現地に来ることができなかったため、急遽オンラインでお話をお聞きすることに。
「ソーラーシェアリングのパネルは細くて小さいのですが、野菜にも十分対応できます!発電効率の問題は多少あるものの…設置コストは一定量は変わらないので、色々と調整しながら続けてみたいと思っています。あとは、これから稲作を始める予定です!そこで育てたお米を様々なシーンでシェアしていきたいんです」と石川さんはお話しされていました。ものすごくパワフルウーマン!
「こんな小さなスペースで野菜なんて育てられるの!?」と最初は驚く一方だった視察メンバーも、石川さんの話を聞いているうちにソーラーシェアリングの可能性に引き込まれていました。
ー2日目ー
農産物直売所
こゆ財団の拠点から3分もかからないところにある農産物直売所。お年寄りから主婦まで幅広い層がこの場所を訪れていました。
入り口には、家庭菜園用の苗をはじめ、様々な種類の植物がずらり。店内には地元でとれた新鮮な野菜や果物が所狭しと並びます。
例えば、苺のパック。これだけの量が入って、なんと、180円!スタッフと視察メンバーは、早速その場で買って食べてみることに。とても甘くて美味しい…!!(感動)
新鮮な果物に癒され、スタートした2日目の朝でした。
アグリスト
次に向かったのは、「スマート農業」を提案するITベンチャー企業・アグリスト株式会社!取締役兼最高執行責任者の高橋慶彦さんにお話を伺いました。
高齢化が進む中、作付け面積が増えると同時に起こる課題…それは「誰が収穫するのか?」という問題です。ハウスを増やしたとしても収穫しなければ農家のお金にはなりません。その課題を解決するためにアグリストでは、 “収穫ロボット” を開発しています。
(アグリストHPより)農家の声から生まれた収穫ロボット。手前にある大きいサイズの果実を確実に収穫し、取りこぼしや木の弱体化を軽減することで、収穫量アップと所得向上を目指す。
「農家の時間を割かずに収穫できる労働力を確保できれば、農家ももっと稼げるようになる!そういった話を農家さん達と直接していく中で生まれたアイディアが “収穫ロボット” でした。農作物のカットを効率化できれば、おじいちゃん・おばあちゃんの腱鞘炎も軽減できますし、重荷となっていた高い農機具の購入も抑えることができます」(高橋さん)
「はじめに農家さんとお話したとき、“どれだけ最小の数を収穫できれば満足して頂けるか?” という相談からスタートしました。そうしたら、“まずは1,000個中200個収穫できれば満足だ” という声をキャッチできた。そのような具体的な想いを農家さんからヒアリングできたことで、開発スピードもアップしましたし、収穫ロボットを導入して農家に残る利益のシミュレーションも見せることができたのです。」(高橋さん)
顧客となる農家の対象は、投資マインドを持っていて、これから先10年間は農業をビジネスとしてやっていく覚悟のある農家です。初期費用は150万円で3年契約。利用料は、ロボットが収穫した量の売上の10%を成果報酬として頂くという仕組みで、サービスの導入を進めています。
宮崎県内の小さなまち・新富町から、“本気で世界を取りに行く!” と熱意を持ち、2023年1月からのスタートを目標として開発を進めているアグリスト。
地方ベンチャー企業が、世界中の農業課題を救う日もそう遠くはありません。
ユニリーバスタジアム新富
2019年7月に新富町と連携協定を結んだ日用品大手のユニリーバ・ジャパン。その名が命名された新富町のサッカー専用スタジアム「ユニリーバスタジアム新富」にご案内いただきました。今季からサッカーJ3に参入したテゲバジャーロ宮崎の本拠地だそうです。
こゆ財団から車で3分程度で着いてしまうほど街の中心地にあるこのスタジアムは、田んぼや畑に囲まれた穏やかな緑の中にあります。
スタジアムの屋根や椅子は、地元の木材を使用して作られており、青々とした芝生一面とのコントラストがとても美しかったです。
メインスタンドには大きな屋根がかけられているので、雨天時でも快適に観戦することができます。
エンブレムは、宮崎牛・地鶏・(みやざきが神話に深い地であることから)神話のシンボル・テゲバジャードなど、地域にゆかりのあるものたちが刻まれています。そうした象徴からも、このスタジアムに関わる人々の “新富愛” が伝わってきました。
茅葺き屋根の家
高千穂峡にある古民家を維持するため移築の話が持ち上がり、こゆ財団が手をあげ管理することになった拠点がこちら。なんと、推定120年前に建てられたものだそうです。
ここを地域コミュニティにするため、現在整理が進められています。子供たちも参加できる茅葺き屋根に触れる体験ワークショップが開催されたり、地域の人々も “自分ごと化” できるような企画が計画されています。
中までよく見てみると、なんと立派な…!ずっしりと重厚感のある茅葺屋根。
ここがまちのシンボルとなり、住民の拠点として愛されていくのだと思うとワクワクします。
旧追分分校
新富町にはそれぞれ3つの小学校と中学校がありますが、そのうちの1つ、富田(とんだ)小学校には、かつて分校がありました。
ここの旧追分分校の活用方法を、現在町内で模索されています。
空いている5教室を宿泊施設にする計画が進んでいたり、農泊としての活用方法も検討しているようです。
少し前には、庭で蕎麦を楽しめるイベントを開催しながら、女子サッカーの練習場所としても活用されていました。
この日ここに到着したら、体育館で賑やかにバスケットボールをする子供たちの声が聞こえてきました。
庭はきれいに整備されていて、遊具もそのまま残っています。
廃校の使い方として、今後も様々な可能性が生まれてきそうです。
みどりとすずめ
「みどりとすずめ」と聞いて、何のことだろうと思いながら向かった先は…お茶屋さんが開いたカフェでした!
現在新富町には3軒のお茶屋さんがありますが、中でも “ぬくもりを感じられる” お茶屋さんだそうです。それは「みどりとすずめ」の外観や作られている商品のパッケージからも伝わってきます。
スタッフも大福を買ったのですが、あまりに美味しすぎて写真を撮るのを忘れてしまい…、HPからお品書きを拝借しました。(笑)
キャッチコピーは “しあわせのお茶と大福”。
外には、小さなテーブルと椅子があり、晴れている日にはここに座って、青々とした田んぼの景色を眺めながら美味しいお茶と大福をいただくことができます。
訪れたメンバーみんなが、大福とお茶を片手に幸せな気持ちになりました。
町長 訪問
次に向かったのは、こゆ財団の拠点から車で数分のところにある新富町役場です。なんと、この日は新富町長である小嶋崇嗣さんにご挨拶させて頂けることに…!はつらつとした笑顔の小嶋町長からは、新富町のビジョンと企業版ふるさと納税の活用方法など、様々なお話を伺うことができました。
「“なりたい自分になれるまち” を目指しましょう! というのが新富町の基本コンセプトです。そのためには、多様性を受け入れていく。そして、何かを始めるときには、できませんと言わない。できないと言ってしまうと可能性がなくなってしまうので、まずは “やります!” と応える。こういう方法だったらできます、とか、ベンチャー精神をもってできる道を探っていくんです」(小嶋町長)
そんな小嶋町長の想いを聞いて、東邦レオの吉田さんは「行政の方の熱量によって物事の進み具合が全然違いますもんね。こゆ財団のオフィスに初めて入った時、社内の空気がとても明るくて、何事にもやりやすい環境なんだなと、風通しのよさやスピード感の速さを感じました」とコメント。
それもそのはず。新富町役場では、職員の副業も解禁しているのです。例えば、ユニリーバスタジアムで活動するサッカーの審判をライセンスを取った役場の職員が勤めるなど、行政として「働き方」においても柔軟に対応されていることが分かりました。
また、現在の新富町地域おこし協力隊は全部で32名います。隊員それぞれが担当している業務は異なりますが、拠点は同じなので、自然と違うジャンルの人たちとも声を掛け合って新しいプロジェクトが始まっていくのだそうです。
地域おこし協力隊の制度を使って、女子サッカーチームの選手になって人もいます。地域活動と並行しながら、5年間でプロリーグまで上がろうという目標を掲げて、選手兼育成係として活動しています。
「いま、農業に参入したいという考える企業からたくさん問い合わせが来ています。新しい農業公社を作る動きも出ているので、企業版ふるさと納税の制度を使って、そこでスタートアップして頂き、新富町としてはこれまでの農業に関する知見やノウハウを企業にお返ししたい。企業版ふるさと納税は、昨年度から国から9割補助が出るようになったので、1/10の投資で地域でスタートアップができるんです。とてもお得な制度なんですよ」(小嶋町長)
そのように語る小嶋町長のお話からは、「企業版ふるさと納税」の活用という地域との関わり方を学ぶことができました。新富町は、行政職員だけでなく、そこに参画する企業や住民と一体となって “稼ぐ自治体” に向かって進んでいるのです。
振り返り -2日間の現地視察を終えて-
(左から)TURNS・堀口、ロート製薬・柴田さん、東邦レオ・吉田さん、こゆ財団・高橋さんこゆ財団・高橋さん:
「2日間の視察を終えて、新富町はいかがでしたか?新富町でできそうなこと、やりたいことなど、ざっくばらんに感想を聞かせてください!」東邦レオ・吉田さん:
「茅葺き屋根の古民家は、使い方として様々な可能性があると感じました。例えば、まちの防災拠点的に活用してみたり、あとは “銭湯” があればいいかな。銭湯って、日常的に使える場所だから地域の人々が集まる拠点になると思うんですよね。地元の住民と観光客とが混ざるきっかけにもなるのではないでしょうか?」こゆ財団・高橋さん:
「実は防災拠点としての活用は、我々も狙っているんです。 銭湯 、いいですね〜!早速、提案してみます!」ロート製薬・柴田さん:
「新富町でのワーケーションの可能性をとても感じました。町が掲げている “ウェルビーイング” の考えとも親和性があるのではないでしょうか?もし新富町でワーケーションをできるなら、最低2泊はしたいですね!あとは、リトリートととしても活用したい。都市部で暮らす20代〜30代の女性をターゲットに、新富町でパワーチャージしてもらってはいかがでしょうか?ニーズがあると思います!」こゆ財団・高橋さん:
「新富町は、農業が盛んで、新鮮な食材も豊富ですからね。そうした食材を是非女性に味わってもらい、心も体もリラックスしてもらいたいです。茶心というお茶を提供してくれる貸切宿もありますから、そういったコンテンツをどんどん活用して欲しい!」堀口さん:
「追分分校のプールは活用されないのですか?例えば、水泳選手を目指していた人たちがプールで子供達に泳ぎ方を教えるとか。体育館も有効活用できそうですよね。バスケの3×3チームを作るとか!ユニリーバスタジアムもありますし、新富町は “スポーツの街” としても可能性が広がりそうです!」
コンパクトな町でありながら、様々な可能性を秘めた新富町。
農産物が豊かで「1粒1,000円のライチ」を筆頭に新富町の知名度は広がっていますが、それだけではありません。農産物から派生した「観光ビジネス」「スマート農業」「農家民泊」「ワーケーション」「ウェルビーイング」など、様々な可能性がいま、生まれ始めています。
これからも進化し続ける新富町の動きから、目が離せません!