地域おこし協力隊リレーTALK Vol.22
​「独学で映像制作を学び、最初に制作した番組で取り上げたのは地元小学校の運動会」

長野県 生坂村 現役隊員
西野順二さん 

活動内容:地元ーブルテレビ放映番組制作  

埋蔵文化財の発掘調査を行う会社で調査員として10年間働いていた西野順二さんは、自分の考古学の知識が地域おこしに役立つのではないかと感じていた。組織ではなく個人として何かをやってみたいという思いもあり、そのステップとなる移住相談をするために名古屋にある長野県名古屋移住・交流サポートデスク」を訪れた。長野県には何度か訪れたことがあり、馴染みがあったという。 

「そこで紹介されたのが地域おこし協力隊でした。いくつかの自治体で協力隊を募集していましたが通年で募集していたのが生坂村だったことと、情報発信の業務に携われるということに興味を持ちました。」 

生坂村について情報を集めたところ、「ケーブルテレビが文字情報だけでつまらない」という声があることを知った西野さん 

「本格的な動画制作や映像関連のスキルはほとんどありませんでしたが、デジタルは得意分野だったので何か自分にもできるのではと思い、応募しました。」 

採用が決まってからは本やインターネットで動画制作について学び、2019年6月に生坂村に協力隊として着任した。 

「着任当日に地元の小学校で運動会があったので、辞令が交付される前でしたが撮影に行きました。ほぼ何もわかっていない状態でしたが、その映像を2週間ほどかけてどうにか編集し、ケーブルテレビで流したのが私の記念すべき最初の番組です。」 

村内を流れる犀川(さいがわ)とそこに架かる橋が美しい景観を織りなす 

 

黒子の衣装で撮影に出向き「週間ニュース番組」を制作

生坂村は人口1700人ほどの小さな村だが、学校行事やお年寄り向けの健康イベントなどの催しものが多いということを知った西野さんは、村に対して番組制作を提案した 

「村では社会福祉協議会による元気塾のほか、保育園や小中学校での様々な子どもたちの活動などが毎週のように行われているので、こうしたイベントをまとめた『週間生坂ニュース』という番組を制作することになりました。着任後の2019年6月19日に第1回目を放送し、2022年1月17日で93回を数えます。他にも特別番組などを今まで96本制作しました。」 

健康情報は高齢者にとって関心の高いテーマであり、また、子どもたちの学校での様子を映像で見られるのは親にとって嬉しいこと。新たにケーブルテレビで始まったこの番組の評判は上々で、「毎週欠かさず見ているよ」と声をかけてくれる人が増えていったという 

私は基本的に〝黒子〟の衣装で撮影現場にいくのですが、この姿のおかげで認知していただけたようで、どんな場所に撮影に行っても『あ、撮影の人ね』とすんなり受け入れてもらえるようになりました。」 

黒子の衣装は、着物が好きな西野さん自身が考えたもので、「カメラマンは裏方」という思いも込められていたのだが、図らずも多くの人に存在を知ってもらう効果もあったという 

左)撮影には黒子の衣装で出向くのが西野さんの基本的なスタイルだ 右)松本市にあるコワーキングスペースでのイベントで参加者の人たちと 

 

趣味で始めた陶芸でつくった小型香炉を地元の道の駅で販売 

西野さんは地元の消防団の活動などにも積極的に参加し次第に地域で親しく付き合える人が増えていったという 

「2年半暮らしてみて感じるのは、やりがいを感じながら協力隊として積極的に動けば、それに応えてくれる村の人が必ずいるということです。私の場合、陶芸の師匠にはよく食事にも誘っていただきますし、仕事の相談などもできるので、家族のように接していただいています。こういう人間関係があるだけで楽しく生活していけるし、得られるものもたくさんあると実感しています。」 

もともと多趣味だった西野さんだが、生坂村にきてから新たに始めたのが太鼓と陶芸だ。 

「太鼓は平成元年に村おこし事業として始まった生坂龍翔太鼓というもので、その団体を取材したことがきっかけで始めました。練習には参加しているのですが、コロナ禍で発表の機会がないのがとても残念です陶芸は考古学で数多くの土器に触れていたので作品を見るのが昔から趣味でしたここに来てからは村の陶芸家の師匠に教わっています。自分専用の小さな窯もつくらせていただき、マヤ文明の香炉を再現した小型香炉をつくっています。」 

丸くて小さい形状から『まるここーろ』と名づけたこの香炉は、地元の道の駅でも販売されているという西野さんは協力隊の活動、そして趣味を通じて、地域の人たちや文化にすっかり溶け込んでいる。 

左)陶芸の師匠の窯の隣につくらせてもらったという西野さんの 右)生坂龍翔太鼓を練習する西野さん 

 

スキルをすべて注ぎ込んだ作品で「ふるさとCM大賞NAGANO」の最優秀賞に輝く! 

2022年1月3日に地元テレビ局の長野朝日放送で放送された『第21回ふるさとCM大賞NAGANO』で、西野さんが制作した「犀川(さいがわ)をかける」という作品がみごと最優秀賞〝ふるさとCM大賞〟に輝いた。この賞はふるさとの魅力を30秒のCMで伝えるというもので、県内の45市町村から94作品の応募があったという。 

「ケーブルテレビでの番組制作で培ってきた自分のスキルをすべて注ぎ込んで制作したCMだったので、受賞できて本当によかったです。もしこれでダメだったら自分は映像に向いていないし、映像制作は諦めるくらいの覚悟で制作しました。」 

最優秀賞に選ばれた作品や関係者について30分間の特別番組が制作されるほか、受賞したCMはテレビで365回放映されることになっている。生坂村の知名度を上げるという意味でも大きな貢献になったのは間違いないだろう 

地域おこし協力隊としての活動において、着実に実績を積み重ねてきた西野さんだが、任期終了後についてはかなり悩んでいるという。 

「もともと協力隊として経験を積んでそれをもとに起業したいと考えていたので、ふるさとCM大賞で最優秀賞を取ったという経歴も活かして、生坂村で映像関連の会社を起こしたいというのが本音です。会社の規模を大きくして村内の雇用につなげられれば、地域おこしの目的にもかなうと思います。ただ、起業した場合に果たして食べていけるだけの仕事量があるかどうか考えている状態です。」 

西野さんは村内で整備計画が進むキャンプ場のプロジェクトにも参加しているため、任期終了後もこの村の地域おこしに関わっていきたいという思いは強いという。 

「深く村に溶け込んでやってきたつもりなので、これからも村に残って地域おこしに関わっていけるよう、残された任期でいろいろと動いてみるつもりです。」 

「週間生坂ニュース」を楽しみにしている村の人たちがこれからも番組を楽しめるように、西野さんの今後に期待したい。 

「ふるさとCM大賞NAGANO」にて制作したCMの説明をする西野さん 

 

 

 

 

 

 

長野県 生坂村 現役隊員 
西野順二さん  

1980年生まれ。愛知県出身。埋蔵文化財の調査員から地域おこし協力隊に転身し、黒子の衣装で撮影現場に出向いて村のケーブルテレビの番組をひとりで制作している。2022年1月には自身が制作した作品で「ふるさとCM大賞NAGANO」の最優秀賞に輝いた。 

いくさか大好き隊(長野県生坂村地域おこし協力隊): https://www.facebook.com/ikusakadaisukitai/ 

地域おこし協力隊とは? 

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。 

地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei

発行:総務省 

 

 

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