こんにちは、TURNSのヤノです。
地方に取材に行っていろいろな人の話を聞くと、本当に人によって様々な生き方があるということを実感します。仕事、暮らし、趣味…全てをひっくるめて人生を考えた時、これから自分がどう生きていきたいのかということが見えてくるのではないかと思います。
今回の取材のテーマは、そんな地方で暮らす人々を通して考える“生き方”について。ちょっとむずかしそうなテーマになっちゃいましたが、かなり楽しい1泊2日の取材ツアーでした。
今回の取材地は大きく分けて2箇所です。
それは、青森県弘前市と野辺地町。
先月も取材で青森県を訪れているので、見覚えのある風景に若干の懐かしさを感じつつ再び青森県を訪ねます。そんな何かと縁がある青森県取材。同行していただいたのが、“材株式会社”の代表である浄法寺 朝生さんと長堀 晶さん。
そして、1泊2日で周るこの取材には、実はもう一つ目的があります。
それは、これから県の地域おこし協力隊として伝統産業の担い手を募集するツアーの模擬ツアーへの参加。事前にツアーに参加し改善点などを意見交換しましょう、という重要な役割を担っての参加でした。
つまり、取材先が未来の協力隊の働き先ということです。
350年以上続く、伝統の技
そして最初に訪れたのが、弘前市。
何の伝統産業かわかりますか?
正解は…こちら。
津軽打刃物の鍛造所、「二唐刃物鍛造所」(※以下、二唐刃物)です。
かつて津軽藩から作刀を拝命されてから350年、今に続くその技はまさに伝統技術。二唐刃物の刃物の中でも特徴的なのは、なんといってもこの水面に墨汁を落としたような模様。
刃物に浮かび上がる独特の模様。手に取るとずっしりとした重みが。
かっこいい…!
この模様は暗紋模様といって、二唐刃物特有の模様。その存在感から、「侍の刀に使われた技術が今に生きているんだ…」、などと素人目にも感じてしまうほど。鉄と鋼を鍛えて作る津軽打刃物は、型抜きして作られるものに比べて刃こぼれしにくく厚みがあってしっかりしているとのこと。なので、普通に使えば20年以上使い続けることができるといいます。
そんな二唐刃物でお話を伺ったのが、社長であり7代目の吉澤俊寿さんと8代目の吉澤剛さん。
昭和の頃にはこの地域にも40数件あったという鍛造所ですが、今では二唐刃物を入れてわずか数件を残すのみ。しかも、後継者がいるのは二唐刃物だけだそうです。それでも、7代目俊寿さんの次の言葉を聞いた時、なぜ二唐刃物が途絶えることなく350年以上続いてきたのかをなんとなくわかったような気がしました。
「私たちが生き残っているのは、自分たちでデザインしたものを作れる素地があるからですね。オリジナルのものができないところはひたすらコピーで終わると思います。あと、うちでは他社のものでも研ぐし、直します。何でかというと、先人たちが一生懸命作ったものは大切にしたいですし、他のものを見ることで勉強になって自分たちの技量も上がりますよね。だから、使えるものは残していきたいという考えなんですね。」
新しいものを追い求めるだけでもなく、過去に固執するわけでもない。
先人の技術を誇り、常に今までにないものを作ろうという、ものづくりに対するその姿勢が二唐刃物を支えているのだと感じました。
ものづくりに対するこだわりを聞いていて、ふと思い出したのが、協力隊の受け入れについて。これまで聞いている歴史的背景や技術的なことを考えると、採用のハードルが高そうな気が…。
「人の目を見て話をすることができる人、ちゃんと返事ができる人、会話中に腕を組まない、人としてしっかりしているかどうかが大切ですね。技術的なところは、来てから学んでもらうので経験者でなくても大丈夫です」
今までの経験より、人としての部分が大切だと話す7代目俊寿さん。ものに向き合うことにも、人に向き合うことにも真剣なその姿勢には、職人としてのこだわりと人としての柔らかさを感じました。
それではいよいよ、鍛冶場の中へ。
ここからは7代目俊寿さんに変わって8代目剛さんに案内していただき、刃物づくりの作業現場を見せていただきます。
ステンレスの上に鍛接剤、そして鋼をのせ打ち合わせていきます。
真水につけると錆びてしまうため、酸化防止剤入りの水に入れて一気に冷ます。
1200度ほどの火床の中で鉄を熱して、打ち合わせる。その作業を繰り返します。3mくらい離れたところから見学していましたが、それでも火床の熱が伝わってくるほど。いろいろな工程があるので、その日の作業は日によって変わるそうですが、1日中火床の前で作業することもあるそうです。
妥協することなく鉄を鍛えるその姿からは、職人としていいものを作りたいという想いと熱意が伝わってきます。まるで鉄を鍛えつつ、それに向き合う自分自身を鍛えているように見えました。
丁寧に刃を研ぎ出します。
この包丁は、ドイツのデザイナーがデザインしたものだそうです。
その歴史と、品質の高さから海外からも注目を集めている二唐刃物。なんとニューヨークで展示会・販売を行ったこともあるそうです。二唐刃物が代々受け継いできた刃物づくりの技術は、この小さな工場から、確かに世界と繋がっていました。
8代目剛さんに、どのような人と一緒に働きたいか聞いてみると、
「仕事について、一緒に熱く語れるような人と働きたいですね。将来的には1人前になって、工場の屋台骨になってほしいです」
7代目も8代目も求めていることは、特別なことではなく一緒に働く上で当たり前のことかもしれません。しかし、その“当たり前“のことをないがしろにせずに、真剣に向き合えるかどうかが物作りにはとても重要なことなのだと感じました。
3ヶ月の長期休み!?畑の白い宝石
二唐刃物鍛造所を後にして、そのまま野辺地町のホテルに向かいます。
時間は17時ころ。初日はこのままご飯を食べて、20時ころには就寝しました。もちろん、1日の疲れもありますが、なぜこんなに早く寝るのかというと…
若干テンション高めの長堀さん
おはようございます。
朝…いや、夜の12時です。
…眠い!
寝坊しなくてよかった…と安心しつつ、こんなに早く(遅くに?)起きてどこに向かうのかというと、
ここは、葉つきこかぶを栽培する畑。
関東では寒い時期にしかとれないかぶですが、野辺地町の葉つきこかぶは夏場にも収穫できるため、夏場のこかぶとして高い評価を得ています。
そしてこの葉つきこかぶ、何と言っても鮮度と品質を何より重視するため、日が出る前に収穫するんだとか。ということで、早起きして収穫を見学させてもらっているというわけです。
弘前市の二唐刃物に続いて、担い手を募集するのがこの葉つきこかぶ農家です。収穫作業で忙しい中案内していただくのが、野菜振興会こかぶ部会、部会長の田村敬一さん。
鮮度が命という葉つきこかぶですが、とても傷つきやすく収穫作業は全て手作業で行います。その収穫から発送に至るまでの一連の作業工程を見てまわります。
まずは収穫。こちらは前述の通り、日が出る前から畑に入り、収穫を始めます。
まだ周囲は真っ暗なため、トラクターのヘッドライトをつけて、畑を照らして作業をします。眠気を感じさせずに、手際よくかぶを収穫していく農家さんの姿には目を奪われてしまいます。同じく模擬ツアーに参加している、株式会社コバヤシライスの小林さんも、その作業に目を奪われている…と思いきや、
眠そう!
それもそのはず、この時の時間が深夜2時。こかぶ農家では、収穫期は毎日この時間に作業をしているかと思うと頭が下がります。
続いて、葉取り〜洗浄の作業。
葉つきこかぶは、葉の部分も食べられるため、外側の傷んだ葉をのぞいて綺麗な状態にして出荷します。
もちろんこれも手作業で行います。
ここで、とれたてのかぶを食べさせてもらえることに。
どうやって食べるのか聞いてみると、「手で皮むいて、そのまま食べるんだよ」
かぶの皮を手でむいて、そのまま食べる?
こんなに綺麗にむけるとは思いませんでした。
本当に手でむけました!
かぶを生で食べるのも初めてでしたが、果物のようなみずみずしさと甘さ(あと、朝早くから収穫していただいた農家さんを思い出し)に感動しながら、あっという間に完食してしまいました。
初めて食べる生のかぶに満足し、作業現場に戻ると…。
「1、2、3…5枚くらいだな」
熟練の農家さんは、手際よくあっという間に葉を落とし、根を切っていきます。その後切りそろえられたかぶは、土を落とす洗浄作業にうつります。まず簡単に土を洗い落とし、この機械に通してきれいにしていきます。
手際よく並べられたかぶは、真っ白で綺麗な円形をしていて、本当に大きな真珠のようで、農家さんの想いが詰まっているようでした。
最後に、ずっと気になっていたことを聞いてみました。
「毎日、早起き大変じゃないですか?」(ヤノ)
「大変だけど、慣れるしかないですね笑 はんぱな時間じゃないですから」(農家さん)
本当に、農家さんには頭が下がります。
そんな野辺地町では、現在農家の数も減って来ていると言います。50-60代が多く、80代で農家を続けている人などもいて、その高齢化から10数年先にこかぶ農家がどうなっているかわからないといいます。それでも、新しく20代で実家の農家を継いでいたり、若い人も働いているのも現状です。
***
さて、気になっている方もいるかと思います。
「3ヶ月の長期休み!?…」について。
野辺地町のこかぶは、3月くらいから種植えを初めて、全ての作業工程が終わるのが10月末頃。
つまり…冬の間3ヶ月ほど、お休みがあるんです!もちろん、収穫期などは朝早くから作業があり大変な仕事だと思います。それでも、1年に1度3ヶ月という長期休暇が取れるのは、うらやましいですね。
この時期にほかの作物を育ててもよし、趣味に時間を使ってもよし、どこかに旅行に行ってもよし、時間の使い方は人それぞれでしょうが、3ヶ月の使い方を考えただけでワクワクします。協力隊として働く方は、どこかの農家さんに入って働きながら農作業を学び、任期終了後は新規就農か従業員として働くことになるそうです。
そんな農家さんたちは休みの日には何をしているのか、一部ではありますが体験させていただきました。
時間は4時頃。
空もだんだん白んできた中、向かったのが陸奥湾。この時間から何をするのかというと、
海釣りです。
この地域の人は、釣りをする人が多く、自分のボートを所有している人も少なくないんだとか。
そしてこの時期は鯛が釣れるということで、早速ボートに乗って沖へと向かいます。
ボートを出していただいたのが、野辺地町役場の西館峰夫さん。釣りに関する新聞をご自身で出版されているほど、釣りが好きな西舘さん。まさに陸奥湾を知り尽くした西舘さんに案内していただけるということで、鯛への期待が高まります。
そして沖に到着すると、この日は風もないので、とても穏やかな海。
朝日が暖かく、早起きの眠気と合間って、ぼーっとしていると…
「あ、きた!」(浄法寺さん)
念願の鯛ではありませんでしたが、まずまずのサイズのカレイ。
その後、サメや小さな魚が釣れましたが、残念ながら鯛を釣ることはできませんでした。
それでも、平日の朝から穏やかな海でぼーっとするひと時は、仕事を忘れてしまうほど(しっかり仕事はしてましたよ)贅沢なひと時でした。
残惜しいですが、今回の取材には忘れてはいけないもう一つの目的があります。ツアーの意見交換をしなくてはいけません。のんびり釣りモードから打ち合わせモードに頭を切り替えて、この1泊2日で感じたことや、どうしたらもっといいツアーになるかを話し合ってきました。たくさんの意見がでるなかで、一人一人が地域のことを真剣に考えているということは、その地域にとって大きな希望だなと話し合いの中で感じました。
***
意見交換も無事終わり、お昼まではまだ時間があるため、野辺地町内を案内していただきました。
綺麗な枇杷野渓流をみて癒やされ…
陸奥湾を一望できる場所へ行き…
移住検討者が宿泊できる施設を見学。
そして、お昼を食べて帰ります。
そこに、見覚えのあるカレイが運ばれてきました…。
先ほど浄法寺さんが釣り上げたカレイです。
カレイに感謝しつつ、美味しくいただきました。
二唐刃物鍛造所・葉つきこかぶ農家、どちらも大変な仕事ではあると思います。
それでも、想いを持ってモノづくりに向き合うその姿勢からは、単なる仕事としてではなく、全ての作業が彼らの生活の一部として一つ一つ丁寧におこなわれているように感じました。日々過ごしているとなかなか考えることがない生き方について。弘前市・野辺地町を訪れて、それぞれの暮らしに触れて、改めて思いました。
どこで・だれと・何をしていきたいのか、一度立ち止まってこれからの生き方を考えてみてもいいかもしれないと。
***
7月13日(木)原宿で「あおもり暮らし見本市」が開催されます!
取材させていただいた二唐刃物鍛造所・葉つきこかぶ農家についても詳しく話を聞くことができます。葉つきこかぶの試食もできるそうなので、ぜひ会場で今回ご紹介した青森の暮らしの一部を味わってみてください!
記事内でご紹介した、青森県の「地域おこし協力隊の求人情報」や、「移住体験ツアーの情報」はコチラ!
https://aomori-miryoku.com/living/
(写真・文:矢野航)