福島県しらかわ地域で移住者の転職を伴走支援する
『しらかわ地域に特化した転職サイト』
地元企業に精通したエキスパートが
理想の仕事探しを全力サポート

地方移住を決めた多くの人にとって、住まい探しと並んで重要になるのが仕事の確保です。テレワークの普及により、仕事を変えずに移住できる人もいれば、なかには新たな土地で心機一転、新しい仕事にチャレンジしたいと思う人も少なくないはず。ただ、地縁がない新天地の転職活動は孤独を感じることも多く、「誰かが寄り添って仕事探しをサポートしてくれたら…」と思うことも。

福島県南部のしらかわ地域には、そんな転職希望の移住者と地元企業を結ぶ懸け橋となる心強い存在がいます。それが、『しらかわ地域に特化した転職サイト』を運営する久能雄三さんです。

今回、久能さんにインタビューを行い、同サイト運営の思いや移住者の転職支援の取り組みについて詳しく伺いました。さらに、同サイトに求人を掲載している企業の声や、同サイトを利用し、久能さんのサポートを受けて理想の転職を実現した移住者の体験談もご紹介。地方移住における就職支援の重要性と、同サイトが創出する移住者と地域企業との新たな関係性に迫ります。


右から『しらかわ地域に特化した転職サイト』運営事務局の久能さん、同サイトを利用して移住×転職を実現した中瓶子(ちゅうへいし)さん、求人掲載企業、株式会社成光工業の大原さん

 

求職者目線で企業の魅力を発掘
地域密着だからこそ実現する理想のマッチング

『しらかわ地域に特化した転職サイト』の取り組みやサポート体制について、運営事務局の久能雄三さんにお話を伺いました。

――まず初めに、『しらかわ地域に特化した転職サイト』のあらましをお聞かせください。

『しらかわ地域に特化した転職サイト』は、福島県から委託を受けて、私が代表を務める株式会社クノウが運営しています。「白河の関」で有名な白河市を中心に、西郷村、泉崎村、中島村、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村の9市町村へ転職移住を考える方向けの伴走支援をしています。

――株式会社クノウについても教えていただけますか。

郡山市に拠点を置く当社は「ふくしまをもっと元気にしたい」という目標を掲げ、広告代理店業と人材紹介業を両輪としたサービスを展開しています。人材紹介業で最も力を入れているのは、Uターンで福島に戻ってきた方たちと地元企業とのマッチングです。福島県では毎年高校を卒業する約1万5千人の生徒のうち半分が大学等への進学を選び、多くの生徒が県外の学校に進みます。しかし、県外で暮らした後に故郷へ戻りたいという人の数も多く、我々はそうした人たちをキャッチアップしながら地元企業に紹介するという事業を行っています。

――しらかわ地域の産業にはどんな特徴がありますか?

この地域で働く約三人に一人が製造業に従事しているというデータがあるほど、多くのものづくり企業が集まっています。地元発祥の企業はもちろん、首都圏から約200㎞圏内で、東北道や新幹線でのアクセスが良好なことから、関東で創業してこちらに拠点を移す企業や、第二工場を設置する企業も数多くあります。経営者の方々にお話を伺うと、戦後の発展によって関東に工場を作れるような土地が少なくなり、広い土地を求めてしらかわ地域に辿り着いたというケースが多いみたいです。

――久能さんの思うしらかわ地域の企業の魅力はどんなところでしょうか。

B to Bビジネスで商売をされている企業が多いので、一般消費者の方の目に触れることはなかなかありませんが、本サイトの運営を通じて会社訪問をするたび、本当に高度な技術を持つ工場が多いことに驚かされます。一方で、創業50年を越える老舗企業が多いことから、ひとつひとつの企業に“語れるストーリー”があるところも魅力だと思います。しらかわ地域で生まれ、郷土に支えられてどのように発展してきたのか。あるいは、関東からどういう経緯でしらかわ地域に移ってきたのか。地域と結びついた話は当サイトを訪れる移住者の方にも関心が高い部分なので、尋ねられた際にちゃんと答えられるよう、我々も掲載企業のストーリーを把握しておくことが大切だと思っています。

――『しらかわ地域に特化した転職サイト』は、親しみを感じるデザインと移住検討者の心を掴むような情報の充実が印象的ですね。現在約60社の求人情報が掲載されていますが、見せ方、伝え方などでこだわっているのは、どんなところでしょう?

分かりやすさを第一にしつつ、私たちが実際に企業を取材して感じた企業と仕事の魅力を企業ページのトップに設けた「あった!」というコーナーで簡潔に紹介しています。例えば、「年齢や社歴ではなく、実力をしっかり評価します」という言葉だったり、「ワークライフバランスを重視し、長期休暇や健康診断を通じて、従業員の健康管理もしっかりサポートしています」という言葉を入れるなど、ユーザーの方が自分に合う会社を見つけやすいように心がけています。

――「事務局に相談して企業とのマッチングを伴走してもらう方法」と「転職希望者が企業の求人募集ページに直接応募する方法」。この2つのエントリー方法があるのもこのサイトの特徴といえますね。御社がキャリアコンサルタントとして関与する幅が大きい前者の伴走支援では、どんなことを大切にしていますか。

入り口はウェブですが、ウェブで見る写真や文字だけでは伝わらないしらかわ地域の土地や企業の魅力を伝えることが大切だと思っています。その上で、事務局に相談をいただいた転職者の方に企業を紹介する際は、まずは数社で職場見学とカジュアル面談を行っていただき、その印象を踏まえて本番の採用面接に臨むというステップを踏んでもらうようにしています。カジュアル面談の際には必ず事務局スタッフが同行し、マッチングから採用決定までサポートする、まさに伴走型の支援を行っています。

――このサイトのように自治体が求人サイトを企画し、採用情報を発信することについて、どのような意義があるとお考えですか。

私たちが学生の頃は高校や大学に求人票を出しておけば地元の人材が自然に集まりました。しかし、今は時代が変わり、それだけでは人材確保が難しくなっています。地元の経営者の方々からも、どういう方法で情報を出せば良い人材が集まるのか分からないというお声をよく聞きます。このような課題に対して、自治体がピンポイントで支援事業を行うことは非常に有意義だと思います。我々も自分たちに何ができるのかという課題意識を常に胸に置き、しらかわ地域に特化しているからこそ現地に足を運び、汗をかくことが大切だと考えています。

 

地元企業と移住者をていねいにつなぐ伴走型支援

福島県白河市に拠点を置く株式会社成光工業は、『しらかわ地域に特化した転職サイト』に求人を掲載し、今年7月に1名の移住者を採用しました。同社の工場長・大原正一さんと久能さんに人材マッチング成功の背景についてお話しいただきました。

――まずは成光工業さんの概要について教えていただけますか。

大原さん 当社は金属プレス加工を主業とする創業52年のものづくり企業です。もともと先代社長が神奈川県の川崎市で創業し、11年前に白河市に新工場を建設し、プレス加工業務をすべてこちらに移管しました。主力製品は、機械装置の制御盤などの中で電気の流れを中継する端子台に使われる金具です。関東以北にある端子台メーカーの製品には、ほとんど当社製の部品が採用されています。


成光工業の白河工場

――大原さんも移住者のお一人だと伺いました。

大原さん はい。川崎の本社から白河工場に赴任して4年が経ちます。家族は川崎に住んでいるので、平日は白河で過ごし、週末は川崎に帰るという二拠点生活です。白河工場で働く23名のスタッフのうち、私以外に3名が川崎からの異動組です。白河は自然が多くて気候的にも住みやすく、それほど大きなまちではありませんが、生活に必要なものがコンパクトに揃っているところが気に入っています。

――久能さんは初めて成光工業さんを訪れた際、どんな印象を抱きましたか?

久能さん 柔らかい雰囲気の会社だと感じました。特に印象的だったのは、従業員の皆さんがお昼休みにバレーボールを楽しんでいる光景です。社内の風通しの良さを感じましたね。事業に関しては、はじめは「端子台」という単語を聞いただけで、非常に高度なお仕事をされていて専門的な人材をお探しなのだろうと思ったのですが、大原さんから「未経験者でも大丈夫」と頼まれたことが意外でした。そのあたりは、50年以上の歴史の中で培った技術者育成のノウハウがしっかり確立されている同社の強みだと感じましたね。

大原さん プレス加工に使う金型作りや製品に直接かかわる部門は、経験や技量が求められる仕事になりますが、そのほかにも進行管理や生産管理など、さまざまな役割がありますからね。未経験から始めていただく際は、まずはそうした部門で技術面や品質管理、業務プロセスなどを習得してもらい、希望があれば専門的な部門で活躍してもらいます。社長も「個人の意欲に任せて、どんどんいろんなことにチャレンジしてもらおう」という考え方なので、やる気と努力次第で次の段階に進んでいける環境だと思います。

――成光工業さんが『しらかわ地域に特化した転職サイト』を活用するに至った背景には、どのような課題があったのでしょうか。

大原さん 中小の製造業はどこも同じ悩みを抱えていると思いますが、特に今の若い方は我々のような金属加工業になかなか興味を持ってくれません。学生向けに行う地域の会社説明会でも、なかなか人が集まってくれないのが実情です。一方で、当社は50代のベテラン社員と、7、8年前に新卒で入社した社員が年齢構成の中心になっているので、中途採用でその間を埋めてくれるような方を求めていました。

久能さん それでIターンやUターンでしらかわ地域への移住に興味を持つ県外の方をターゲットに募集をかけてみてはいかがですかと、ご案内させていただいたんですよね。

大原さん そうでしたね。地方移住という言葉を盛んに聞くようになって、地方に移ったり、地元に帰って活躍したいという人の話もいろいろなところで聞いていたので、御サイトで募集をかけることに興味を持ちました。とはいえ、最初にお話をもらった時は、本当に反響があるのか疑心暗鬼なところもありましたけどね(笑)。

久能さん 最初はご不安も抱かせてしまったみたいですが(笑)、結果的に御社には2名の移住者の方を紹介し、そのうち未経験者の方を1名採用していただきました。実際に応募があってどう思われましたか?

大原さん 何より県外の方が当社に興味を持ってくださったことが嬉しかったですし、驚きでもありました。まずはカジュアル面談という形で現場を見てもらってから本番の採用面接という流れを提案していただけたのが良かったと思っています。移住者の方の多くは地縁の無い中で住まいを移してくるわけですから、仕事の内容をあまり理解しないまま入社されてミスマッチが起こってしまうと、地元の方を採用する時よりも取り返しのつかないことになってしまうでしょうし…。

久能さん カジュアル面談には私も同行し、工場内の見学のほか、移住者と先輩社員がフランクに話す場を設けていただきました。私としては移住者の方が御社の雰囲気に馴染めるかという点を重視しながら見ていました。今回は未経験の方の転職支援でしたが、経験者の方であっても、移住を伴う転職だからこそ「人のつながりが特に大切」だと思って支援しています。

――成光工業さんは、移住者をターゲットにした転職サイトに情報掲載をする中で、新たに気付いた自社の魅力はありますか?

大原さん 昼休みのバレーボールのように、私たちにとっては当たり前だった社内の雰囲気が、外の方には魅力的に映るというのは意外な発見でした。転職希望者の中には社内の居心地の良さを優先条件に転職先を探される方も少なくないと思うので、今後の採用活動でも自社のアピールポイントにしていきたい部分です。

――本サイトに求人を掲載する過程で、御社から久能さんにリクエストされたことはありますか?

大原さん 先ほどの久能さんの話にもあったように、プレス加工というと未経験者の方からは特殊な経験が必要だと思われがちです。でも、実際そうではありません。「技術的なスキルは入社後に習得できること」、「専門的な資格は不要であること」、「工業系学科出身者を特に優遇しているわけではないこと」を印象的に伝えてもらいたいとお願いしました。


成光工業では多くの女性社員が活躍中

久能さん そうしたご要望を伺いながら、実際の掲載ページでは「ワンチームとなり成長を目指す」「若手や女性が活躍できる会社」「充実の手当・福利厚生」の3点をアピールポイントとして打ち出しました。

――大原さんは、全国規模の転職サイトと『しらかわ地域に特化した転職サイト』の違いはどんなところにあると感じますか。

大原さん 大手サイトで募集をかけたこともありましたが、その時に比べると、地域の企業に精通された久能さんの存在がやっぱり大きかったです。カジュアル面談に久能さんが同行してくださって移住者の方と3人で話ができたことで、私も安心感が持てました。おかげさまで7月に入社後、真面目かつ積極的に業務に取り組んでもらっていて、会社にもしらかわ地域にも愛着を感じてもらえるような良い人材が獲得できたと思っています。

久能さん そう言っていただけると嬉しいです。都会の転職では人柄よりもスキルが優先されて採用につながることがありますが、地方の転職はスキルよりも社風との相性や人間性が大切です。だからこそ、アナログ的なサポートも交えながら、人と企業を丁寧につなぐことが我々の使命であると考えています。

 

久能さんのサポートを受け、成光工業に入社した移住者の体験談

今年の夏に家族とともに埼玉県からしらかわ地域に移住され、異業種から成光工業への転職を果たした中瓶子ちゅうへいしさんに、転職活動の体験や入社後の様子、そして『しらかわ地域に特化した転職サイト』を活用して良かった点についてお話を伺いました。

――移住されたきっかけを教えてください。

一番の理由は子育てです。今年3歳になる子どもが大きくなるにつれて、だんだんと夫婦二人で子育てをするのが大変だと思うことが増えてきました。私は福島県、妻は静岡県の生まれなので、埼玉には身近に頼れる人がいなかったんです。両親が近くにいるどちらかの地元に移ろうと考えたのが最初のきっかけでした。

――しらかわ地域に移住した決め手はなんだったのでしょうか?

東京で行われていた移住イベントで白河市の方と縁ができ、その後、実際にお試し移住で白河を訪れてみて自然の多さなどの環境面に惹かれました。それから移住者支援に携わる白河市の地域おこし協力隊や福島県移住コーディネーターの方からいろいろと情報を得るうちに、こちらのサイトのことを教えていただきました。

――久能さんのサポートで3社のカジュアル面談を受けられたそうですね。最終的に成光工業さんを志望された理由は?

やはり子育て環境を良くしたいというのが移住の一番の理由だったので、成光工業さんのページのトップにある「パパ・ママさんも多く在籍しており、子育てと仕事を両立できる環境です」というメッセージが刺さりました。カジュアル面談で実際にそういう雰囲気を感じられたことも大きかったです。


入社後の中瓶子さん

――未経験からの採用となりましたが、久能さんのサポートは理想的な転職に役立ちましたか?

率直に助かったという感謝の気持ちでいっぱいです。移住となると住まい探しをはじめ他にもやることがたくさんある上、移住先での転職活動となると大変で…。そんな中で久能さんに相談をして、工場見学、カジュアル面談をセッティングしていただき、本番の採用面接の前に実際の現場を見る機会を作ってもらえたことは非常に心強かったです。

――今後、しらかわ地域でどんな暮らしを実現させていきたいですか。

未経験の仕事で覚えなければならないことがたくさんありますが、自然あふれる環境の中で子育ての時間を大切にし、仕事の方も慣れてきたら、いずれは自分がしらかわ地域を紹介する立場として移住イベントなどに参加したいと考えています。しらかわ地域はファミリーだけでなく、独身の方や若い方にとっても働く魅力にあふれた土地なので、そういう地域の良さを伝え、移住者の方を増やしていけたらと思います。

 

取材後記

取材の終わりに、久能さんは「マッチングの数を増やしていくことも大切ですが、我々が協力させていただくことで地元企業が採用力を高めていくことがさらに重要だと考えています。採用力が高まれば、良い人材が集まって、会社が成長し、地域の活力につながっていきますから」と話してくださいました。こうした地元企業と移住者の懸け橋になってくれる心強い伴走者がいるしらかわ地域で移住・転職を検討してみるのはいかがでしょうか。

 

 

取材・文:鈴木 翔 写真:五十嵐大輝

                   

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