【和歌山県みなべ町×JAL】日本一の梅産地・和歌山県みなべ町でワーケーション 世界農業遺産、みなべの梅システムを深掘りしつつ、 新しい価値創造に向けたアイデアを発表

vol.2

観光庁の公募で採択を受けた、日本航空株式会社(JAL)による「空からみる未来の農業 ワーケーションによる新しい価値創造ストーリー実証事業」のモニターツアー。2023年12月11日〜14日、和歌山県みなべ町で2回目の実施となったワーケーションの様子をレポートする。

▼第一回目のレポート記事はこちら!
https://turns.jp/91623

1日目・2日目:緊張の剪定体験&楽しい梅クッキング

「観光しながら働く」という従来のワーケーションの枠を越え、地域の人や産業との交流から地方創生に根ざした新しいアイデアの創出を目的とした本ツアー。今回も11月27日〜30日に行われた1回目のツアーと同じ日本航空(以下、JAL)のメンバーが、全国一の梅産地、和歌山県みなべ町を訪れた。

前回のツアーが梅栽培や梅産業を理解する体験に重きが置かれていたのに対して、今回のツアーでは梅に関する文化や、梅以外のみなべ町の特徴を知る体験に光をあてたプログラムが組まれた。


日本一の梅産地・和歌山県みなべ町

1日目は正午前にみなべ町の方々と合流して昼食を済ませ、残りの時間はリモートワーク。今回も宿舎となるのは国民宿舎「紀州路みなべ」。太平洋沿いの高台に建つ宿は、オーシャンビューの絶景と“美肌の湯”として知られる温泉が魅力で、海を見渡すワークスペースを完備している。


客室でもテレワーク可能な「紀州路みなべ」

◾️紀州路みなべ
https://kishuji-minabe.jp

2日目は、前半のツアーでもお世話になった「岩本食品(ぷらむ工房)」に伺い、朝から梅の木の剪定をお手伝い。岩本智良社長のお父さまである公作会長にポイントを伺いながら、梅の実の成長にとって余分な枝を切り落とす作業を行った。

この道50年の公作会長から伝授された主なコツは、「木の中心に光が当たるようにすること」「枝同士が重なり合わないようにすること」「上にまっすぐ伸びた枝と木の中心に対して内向きの枝はなるべく切り、外向きに生えた枝を残しながら、木が横に広がるようにすること」の3つ。その作業は「盆栽の手入れと似ている」と会長。


岩本食品の岩本公作会長

実は前半のツアーでお世話になった渡口農園の渡口さんも梅ボーイズの山本さんも、梅の栽培で最もこだわる作業に挙げていたのが、この剪定。どの枝を切るかによって、その年の実の出来栄えを左右するため、キャリア10年近い二人でも難しいと語るほど厳かな作業なのだ。

そんな重大な作業ということで、刹那の判断でザクザクと枝を切り落としていく公作会長の傍らで、おそるおそるハサミを入れていく参加者たち。

それぞれひとつの木を整え終えたところで予定の時間を終了。最初の緊張が解れて、ようやくハサミを持つ手も慣れてきたところだったので、参加者からは「もっとやりたかった」という声がたくさんあがり、名残惜しさを抱えたまま梅林を後にすることに。

次の行程では、先生役が公作会長から奥さまの恵子さんにバトンタッチ。恵子さんアドバイスのもと、昼食用の梅料理を作った。


岩本食品の岩本恵子さん

塩を使わず、白干梅(しらぼしうめ)の塩分で調味したメニューは、「梅の炊き込みご飯」「白菜と人参の梅サラダ」「ブリの梅煮」の3品。そこに智良さん特製の梅酢焼き鳥も加わって、まさに梅づくしの豪華な食卓に。

おいしい梅干し料理と恵子さんの気さくなトークに、たっぷり元気をもらったランチとなった。

◾️岩本食品(ぷらむ工房)
https://plumkoubou.jp/

 

昼食の後は、ウメタが運営する工場併設の観光施設「紀州梅干館」に移動して梅酒作り体験&工場見学。


紀州梅干館

午前と午後の一日2回開催されている梅酒作り体験は、ともに3種類用意された砂糖のお酒の組み合わせで3つの梅酒を作る人気の体験メニュー。お子さまやお酒が飲めない方向けに梅ジュース作り体験も行っている。たった20分ほどでカラフルな梅酒が完成。飲めるようになる1ヶ月後が待ち遠しいオリジナル梅酒は、世界にひとつだけの貴重なお土産に。

工場見学では、同社の泰地雄也さんの案内で館内を見学。

昭和17年(1942)創業のウメタは、契約農家から仕入れた白干梅をさまざまな商品に加工して販売している製造業者。現在のはちみつ梅やかつお梅に通じる調味梅干を初めて作ったのは同社で、時代を先読みした商品開発力を強みとしている。

この工場では多い時では一日に10トンの梅干し製品が生産されるそう。また、生産量が変わらないものの、人手不足も相まって生産効率アップのために機械化できる部分は機械化するなど、省力化・省人化も考えている。ただし、機械では実が潰れてしまう恐れがあるため、「パック詰めは今も人の手が欠かせない」と泰地さんは話す。


ウメタの泰地雄也さん

食品安全の国際基準・ISO22000を取得している工場の包装工程は、衛生レベルごと大きく2つの空間に仕切られており、品質管理の高いこだわりを感じさせる環境。泰地さんからは、商品開発のこだわりや価格交渉の苦労についてもお話を伺うことができた。

◾️紀州梅干館
http://www.umekan.com

続いては、千里の浜にある「千里ウミガメ館」へ。

熊野古道にまつわる熊野九十九王子の一社「千里王子」が置かれた千里の浜は、みなべ町きっての景勝地。全長1.3kmの海岸線が続く砂浜はアカウミガメの産卵地としても有名だ。千里ウミガメ館は平成30年に開設された展示施設で、アカウミガメの産卵期である5月下旬から8月上旬までは、パトロール隊の調査本部としても機能している。ここでは「みなべウミガメ研究班」の一員で、みなべ町教育委員会の前田一樹さんにお話を伺った。


みなべ町教育委員会の前田一樹さん

前田さんのお話によれば、地球温暖化の影響による海水面の上昇や、沿岸にある構造物の増加による潮の変化で浜に運ばれる砂の量が減少していることなどにより、現在は全国的に砂浜が痩せてきているそう。そして、それが原因であるとは一概に言えないものの、ウミガメの産卵数は近年減少傾向にあり、千里の浜も去年確認された産卵回数は31回と、調査開始以降のピークだった頃に比べて10分の1の数に減ってしまったとのこと。それでも砂浜の範囲に対する産卵数から割り出される産卵密度は本州の中でここが最も多く、ウミガメを高確率で見られることから、シーズン中には毎年1000人以上の人が観察に訪れるという。

「アカウミガメの産卵シーズンは梅の収穫期とほぼ同じ時期に重なるため、作業で忙しい農家の方々はウミガメを見にくるような余裕がありません。これは研究者の方の仮説ですが、もしも、みなべ町に梅産業がなくてウミガメ観察が大きな観光産業になっていたら、今の形は残っていなかったのではないかといわれています」と教えてくださった前田さん。

◾️千里ウミガメ館
https://wakayama-hidaka-history.jp/introduce/%E8%A6%B3%E5%85%89%E3%80%80%E6%99%AF%E5%8B%9D%E5%9C%B0%E3%80%80%E3%80%8C%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1%E9%A4%A8%E3%80%8D/

 

そこから一行は千里の浜を散策。千里ウミガメ館前の坂を下ると、視界には夕暮れ前の海のパノラマが。なお、ここは熊野古道の参詣道の中で唯一、海と接した場所。ここで海と出合い、気持ちを昂らせたであろう古の巡礼者たちの気持ちを思い浮かべながら千里王子にお詣りをし、美しく守られてきたみなべ町の環境について梅産業とは別の角度から知ることができた。

 

3日目・4日目:関係人口増加に向けた6つのアイデアを提案

3日目は午前をテレワークの時間にあて、午後から「うめ振興館」で全体の総括となる振り返りミーティングを実施。みなべ町からは岩本食品の岩本智良さん、ウメタの泰地雄也さん、みなべ町役場・うめ課の木田勝紀さんが出席し、まずはじめに、参加者から次のような感想が述べられた。

「伝統を守りながら持続的な農業が行われていることや、塩漬けにした梅干しを保管しながら付加価値を付けて販売するという仕組みを知り、梅産業のシステムがしっかりできていることに感動しました。梅の木の寿命はだいたい50年と農家さんの現役期間と同じくらい長く、そうした中で自分のためだけではなく、次世代につなぐために木を大切に育てているというところに、この地域の強さを感じました」

「2回のツアーを終えて、会社の一員としてだけでなく個人としても、この地域のことをもっと知りたいと思うようになりました。また、枝拾いや剪定などの農作業は、普段の知識や経験に関係なく、みんな同じスタートラインで時間を共有するという点でチームビルディングの観点からも素晴らしいと感じました。ここに来て、もともと好きだった梅がさらに大好きになりました」

「1回目のツアーの後から、我が家は白いご飯の上に梅干しがのる食生活に変わりました。みなべ町で学んだことを思い浮かべながら梅干しを食べると、健康的な生活ができている肯定感が生まれて、暮らしのウェルビーイングが高まった感じがします。仕事に活かせる気付きもたくさんあったので、この経験を今後に役立てていきたいです」

続いて、参加者が「みなべ町の農業をフックとした関係人口の創出」をテーマに考案した地方創生のアイデアが発表され、「①農業残渣の航空燃料活用」「②梅システムを学ぶ学生向け教育旅行」「③管理職をメインターゲットとした企業向け研修旅行」「④日本の心を体感し、それを語れる人になることをコンセプトとした新しい旅ブランド」「⑤地域の人と来訪者が相席できる『名刺酒場』」「⑥2度目の訪問を促す『ホームメイドツーリズム』」という6つの案が提案された。

このうち、①の「農業残渣の航空燃料活用」は、前半のツアー2日目に行われた懇親会の中であった会話をきっかけに生まれた案で、梅栽培の過程で不要になった枝を、旅客機のSAF(Sustainable Aviation Fuel/持続可能な航空燃料)の原料として再利用するという発想。現在の循環的な農業の中に「SAFで飛ばした飛行機が発生したCO2を森が吸収する」という新たな循環を加えることで、「みなべ・田辺の梅システム」をさらに進化させるというアイデア。

一方で、⑥の「ホームメイドツーリズム」とは、旅先から自作できるものを持ち帰ることでその後も訪れた地域と関係を保ち、リピーターの増加につなげるというアイデア。みなべ町の例として、収穫体験で持ち帰った青梅で梅酒を作り、オンラインで梅酒作りの指導を受けることで農家の方との関係を保ちながら、2度目の来訪を促すというプランが挙げられた。

発表を聞いたみなべ町の方々からは揃って好感触が得られた模様で、

「新しい旅ブランドのように『世界農業遺産×JAL』みたいな形で、各地域でツアーやキャンペーンをやってもらえたらすごくありがたいですし、『名刺酒場』みたいに人が集まれる場所を作るのも面白いと思いました」(岩本さん)

「関係人口の増加という課題において、行政の力だけでは手が届かないことも多い中で、こうして企業の方々が参加してくださったことがものすごく大きいと感じています。今回、地域の方々と協働活動をしてもらい、その上で実行可能性の高い提案をいただきました。今後できることがあればコラボ的な話につなげていければと思っています」(木田さん)

「みなべ町に来てもらって、実際に触れて、学んで、食べて、梅への興味が広がったことがすごく嬉しいです。JALに帰ったら、まずは社内でみなべ町の魅力を伝えるインフルエンサーになってください」(泰地さん)

というお言葉をいただいた。

 

そして今回のツアーの締めくくりは、「STAR FOREST」が開催する星空ツアーに参加。

STAR FORESTの角田夏樹さんは、みなべ町出身の星空ガイド。茨城大学で天文学を学んだ後、ニュージーランドに渡り、星空で世界的に有名なまち、テカポで星空ガイドとして4年間活動。2017年に地元・みなべ町を拠点にした     星空ツアーを始めた。


STAR FORESTの角田夏樹さん

梅農家の倉庫だった建物を改装した店舗はカフェとしても営業しており、ワークスペースとしての利用もOKとのこと。


STAR FOREST

千里浜近くの静かな高台に移動すると、西の方角の空には綺麗な天の川が。さらにこの日は、偶然にも「ふたご座流星群」が到来した日。空には時折り流れ星が表れ、その度に参加者から歓声が上がった。

「北の方角の星というのは、一年中だいたい同じ星座がぐるぐると回っていますが、東、西、南の空は季節によって違った星座を見ることができます」、「今は夏の大三角形と冬の大三角形が両方見られる結構お得な時季です」などと、星座の方向をポインターで示しながら解りやすくガイドしてくださった角田さん。方角を知る時の目印として使われていた北極星の解説では「山の中で寝泊まりをしていた熊野古道の修験者たちは、夜の間も歩くことがありました。そんな時、人工物のない山中では星しか方角を知る術がなく、彼らも北極星を頼りに東西南北を確認しながら歩いていたといわれています」という、この地域と星空のつながりについてのお話も聞くことができた。

ツアー中には、特別な天体望遠鏡で「木星」と「土星」「すばる(プレアデス星団)」を見るという体験も。そのうち土星は周囲の環までしっかりと確認でき、流星群の空の下、感動に包まれた忘れられない夜になった。

 

◾️STAR FOREST
https://starforest.mystrikingly.com

この星空ツアーで、みなべ町の方々との交流は全行程が終了。4日目は午後を自由時間にあて、午後の便で帰路に。南紀白浜空港の上空からみなべ方面を眺めながら、次の訪問を楽しみに和歌山を後にした。

 

<ツアーを終えて>

「企業」「農業」「価値創造」といったキーワードが並んだ、今回のワーケーションツアー。農家の方々とのプログラムが盛り込まれ、同じ会社の社員で構成されたグループが共通の作業を経験する中で、こうしたワーケーションのさまざまなメリットを感じた。

最も印象的だったのは、参加者同士が励まし合い喜びを分かち合う姿。特に農作業の行程では、社内では「先輩」にあたる年長者の社員が、コツを掴んだ若手社員から教えられる場面も見られ、世代間のコミュニケーション形成に効果を実感。また、組織が大きいほど、自社であっても他部署の業務や実力を知らないということが起きがちだが、別部門の社員が集まって地方創生のアイデアを考えるという試みは、他部署への理解を深めるきっかけになったと感じる。例えば、締めくくりのミーティングの中で経理担当の社員が述べていた「これまで自分はSAFについて詳しくなかったのですが、今回の取り組みを通じて興味を持ちました」という言葉は、その効果を端的に表していた。

何よりも、参加者全員が花見や収穫の時期にまたみなべ町に来たいと思う、個々がみなべ町の関係人口になれた充実の8日間だった。

 

 

文・写真:鈴木 翔

                   

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