移住者インタビュー
「Nomcraft Brewing」代表・金子さん
世界放浪旅の巡り合わせで有田川町へ
【6/6(金)『裏高野に出逢う』イベント開催】

全国の職人を唸らせるクラフトビール醸造家になるまでの物語

豊潤さをベースに、爽快な香りが漂い、多彩な個性で、つい何度も味わいたくなる…。

そんなクラフトビールのような町があることをご存知でしょうか?  大阪駅から車で約1時間半、関西国際空港から約50分で到着する和歌山県有田川町(ありだがわちょう)です。

2024年に横浜で開催された日本最大級のクラフトビールイベント「JAPAN BREWERS CUP」の品評会で、全国から集まったビール職人たちを唸らせ、IPA部門の第1位に輝いたNomcraft Brewing(ノムクラフト ブリューイング)。その醸造所は、有田川町の旧保育所をリノベーションした施設の一角に構えられています。


第1位を獲得した「Octopus King」。都内の飲食店で見かけた人もいるのでは?(提供:Nomcraft Brewing)

世界各地で働き・暮らす20代を過ごしたのち、2019年に29歳で有田川町に移住し、クラフトビール醸造家かつ一児の父となったNomcraft Brewingの代表・金子 巧(かねこ たくみ)さんに、移住の経緯や、有田川町での暮らしや商いの魅力について伺いました。

この記事を読み終える頃には、金色に白く煌めくビールの泡のように「有田川町って面白そう。まずは、このクラフトビールを飲んでみたい…」といった気持ちが湧き上がるはず。

そんな方は末尾の詳細をご確認のうえ、2025年6月6日(金)大阪で開催されるイベント『裏高野に出逢う』@Nomcraft Taproom Jusoにご参加くださいね!

有田川町のクラフトビールも味わえる!
「裏高野に出逢う」大阪開催

Nomcraft Brewing代表の金子さんやぶどう山椒農家、ぶどう山椒の収穫体験者などをゲストに招き、交流会ありのトークセッションを行います!

◆開催日:2025年6月6日(金)18:30-20:30(30分前に受付開始)

◆会場:Nomcraft Taproom Juso(大阪府大阪市淀川区十三本町1丁目11-16)

◆定員:20名

◆参加費:無料

◆主催:一般社団法人しろにし

 

現地発着の企画として、「一次産業のお試し体験企画」(しろにし主催)や、「移住就農体験インターンシップ」(有田川町主催)も開催予定です。後日、表示名のリンク先に最新情報がアップされますので、ご興味のある方はチェックしてみてください。

詳細はこちら

 

豊潤な土地で柑橘類の生産に優れた有田川町

有田川町の人口は、約24,800人。面積は351.84km²ですが、うち約77%が森林。緑だけでなく水にも恵まれ、世界遺産・高野山に端を発する有田川がゆったりと町を貫流しています。さらに、町から少し車を走らせれば、綺麗なビーチまで広がっています。


有田川のそば、赤い屋根の施設内にNomcraft Brewingがあります(提供:Nomcraft Brewing)

その豊潤な土地はブランド銘柄「有田みかん」をはじめとするさまざまな柑橘類を育み、みかんと山椒の生産量日本一を誇る和歌山県内でも有田川町は屈指の産地となっています。

なかでも、清水地区を発祥とする「ぶどう山椒」は香り高く、“緑のダイヤモンド”と称され、世界各地の著名なフレンチやイタリアンのシェフたちから注目を集めるほどです。


ジャパニーズ・スパイスとして年々需要が高まる、ぶどう山椒。ミカン科の一種(提供:有田川町役場)

まちづくりが盛んで、移住者は年々増加。なかには、地縁ゼロの耕作放棄地を活用してぶどう山椒農家になったUターン移住者や、世界各地で一次産業に触れてみかん農家になったIターン移住者の夫婦など、なりわいとして農業をはじめる人も少なくありません。

さらに「地域の人事部」となって事業者と移住希望者をつなぐゲストハウス・ランドリーカフェ併設の移住就業支援拠点施設「しろにし」まであります。笑顔で迎え入れてくれる個性豊かな顔ぶれに、つい何度も訪れ、そのまま定住したくなる町です。

 

世界放浪旅のなかでクラフトビールに惹かれる

Nomcraft Brewingの代表を務める金子さんは、今では有田川町の顔と言える人物のひとり。しかし、7年前まで有田川町とは全く接点がありませんでした。

どうして有田川町に移住したのでしょうか? そのきっかけは、クラフトビールでした。


旅・カメラ・料理・読書・音楽・渓流釣り・キャンプなど、多趣味な金子さん(提供:Nomcraft Brewing)

1989年に愛知県豊橋市で生まれた金子さん。教育大学に進学して教員免許を取得し、教師という未来が見えるなか、自分がレール通りに進むことに違和感を覚えます。そんなとき、人生の選択肢を広げてくれたのが、塾講師のアルバイト先で出会った一回り上の先輩講師でした。

金子さん「その人はサーフィンが大好きで、世界中を旅したバックパッカーだったんですけど『20代のうちは感性のおもむくままに旅をするといい』と教わって。出会いに溢れた放浪旅の思い出話をあれこれ聞くうちに、僕も旅をしようと考えるようになりました」

アドバイス通り「放浪旅は30歳まで」とリミットを決め、ユーラシア大陸を東から西へ、約20カ国を300日間渡り歩く旅からスタート。その後もフィリピンやオーストラリア、カナダなど、各地で数ヶ月から1年間ほど働き・暮らし、20代のほとんどを海外で過ごしました。


インドのラジャスタン州の西側にあるタール砂漠を旅したときの様子(提供:金子 巧)

クラフトビールとの出会いは、オーストラリア滞在中。大手企業が生産する定番のラガービールが市場を占める日本とは違い、さまざまな醸造所がつくる個性豊かなペールエールを日常的に味わうメルボルンの食文化に触れ、クラフトビールを好むようになりました。

その後、カナダのロッキー山脈の麓にあるジャスパーという国立公園の町に滞在し、クラフトビール醸造所を併設するパプでキッチン担当として勤務。同僚である日本人の醸造家と仲を深めるうちに「クラフトビールの世界は面白い!」と感じるようになったといいます。

金子さん「僕は渓流釣りやキャンプが好きなので、オフの時間はずっとロッキー山脈の大自然で遊んでいたんですよ。ある日、彼を釣りに誘ったら、どハマり。それ以来、僕からは釣りを教えて、彼からはクラフトビールのことを教わる、そんなキャンプ友だちになりました」


ロッキー山脈の大自然のもと、醸造家である同僚と釣りをしたときの様子(提供:金子 巧)

 

有田川町との接点はクラフトビールの聖地にて

次に向かった先は、アメリカのオレゴン州にあるポートランド。世界で最も醸造所が多く「クラフトビールの聖地」として有名なポートランドに2週間滞在することにしました。

金子さんと有田川町の接点が生まれたのは、このわずかな滞在期間中のことでした。

宿で手に取ったポートランドのガイドブックから、自家栽培のハーブや野菜を使用したレストラン併設の農園「The Side Yard Farm」の存在を知った金子さん。関心の向くままに、すぐ農園にコンタクトを取り、翌日からボランティアで働くことになりました。


The Side Yard Farmにて。自家製ハーブを使用したランチプレート(提供:金子 巧)

金子さん「ファーム長と農作業をしているときに偶然、有田川町のまちづくりに取り組む人たちが視察に来て。まちづくりのためにわざわざポートランドに来るなんてと驚いて、思わず話しかけました。そこで会話が盛り上がって『帰国したら有田川町に遊びにおいでよ!  11〜12月頃はみかんを収穫する仕事もあるから、そのときにでもぜひ』と言ってもらったんです」

この縁をたどり、2018年11月、金子さんは有田川町を初訪問。みかんの収穫や、まちづくりチームの代表・森本 真輔さんが営む丸十家具で配送の仕事をしつつ滞在していました。


毎年11〜12月頃は、みかんの収穫期。各農園で人手が必要となる繁忙期です(提供:有田川町役場)

ある日、有田川町のまちづくりの一環として進んでいた廃園になった旧田殿保育所を活用するプロジェクトに、新たな提案がありました。それはアメリカ出身のアダムさんとベンさんによるクラフトビール醸造所をつくるプランでした。

金子さん「通訳としてミーティングに参加したら『クラフトビールに興味があるなら一緒にやろう!』と誘われて。『放浪旅は30歳まで』のリミットまで2年残っていたけど、クラフトビールでまちづくりというアイデアが面白そうだったから、腰を据えてやってみようと思いました。有田川町の美味しい食べものに胃袋を掴まれていたのも、決め手のひとつかな(笑)」

 

有田川町産の素材を活かし、楽しい時間を創造する

こうして、メルボルンと岩手県の醸造所での研修を終えた金子さんが醸造責任者、まちづくりチームの森本さんが代表を務めるかたちで、2019年にNomcraft Brewingを創業。旧田殿保育所を改装した複合施設「THE LIVING ROOM」の一角に醸造所と販売所を構えました。


THE LIVING ROOM。他に、カフェバーやゲストハウス、パン屋などが入っています(提供:Nomcraft Brewing)

2022年、金子さんは有田川町出身の瑞波さんと結婚し、2023年に一児の父に。プライベートだけでなく仕事も飛躍の年を迎え、同年12月、Nomcraft Brewingの代表に就任しました。

2024年には、JAPAN BREWERS CUPのIPA部門で第1位を獲得。さらに、同年実施した醸造所の改修工事に伴うクラウドファンディングでは、開始3日目で目標金額を達成し、300名超の支援者から総額約680万円を集めるなど、全国にNomcraft Brewingの名を馳せていきました。


改修工事が完了し、生産量は3倍以上に拡大しました(提供:Nomcraft Brewing)

クラフトビールを「楽しい時間を創造するツール」と捉え、有田川町産の旬の素材を積極的に用いながら、新しい味わいを追求し続けるNomcraft Brewing。レギュラーの銘柄に加え、期間限定で毎月新しい銘柄をリリースしています。これまで世に送り出した銘柄は、なんと400種類近くにのぼるそうです。


シアトル出身のアーティストが手掛けるユニークなデザインも特徴のひとつ(提供:Nomcraft Brewing)

金子さん「クラフトビールづくりには、水はもちろん、副原料も大切です。有田川は軟水で水質がいいし、副原料となるフルーツがすごく多い。ぶどう山椒やみかんだけじゃなくて、レモン、キウイ、パッションフルーツ、ライム、マンゴー、ワサビまで採れる。地元農家さんが『これ使ってみて』と素材を持ってきてくれて、アイデアが膨らむこともありますね」


毎年2月には、有田みかんとぶどう山椒を使用した銘柄「Hometown Hero」が登場(提供:Nomcraft Brewing)

 

世界と繋がる可能性に満ちた町だから

愛知県出身の金子さんだけでなく、現在の主要メンバーは神戸やアメリカ、ドイツ、イギリスなどの出身で、全員移住者です。メンバーの思いを代表して、金子さんはこう語ります。

金子さん「今の僕らがあるのは、有田川町の人たちのおかげ。だから、少しでも貢献できるように、僕らのクラフトビールをきっかけに有田川町に関心を持つ人が増えたらいいなと思っています。そのために一番大事なのは、僕らが美味しくて楽しいクラフトビールをつくり続けること。それを突き詰めることこそまちづくりなんだ、と最近ようやくわかってきました」

その思いをより具体的なアクションに繋げようと、2025年4月、大阪にある阪急電鉄・十三(じゅうそう)駅近くで「Nomcraft Taproom Juso」をオープンしました。十三駅は、神戸本線・宝塚本線・京都本線の主要3路線が揃う、関西におけるハブ駅のひとつです。


4月19・20日にグランドオープンを迎えたNomcraft Taproom Juso(提供:Nomcraft Brewing)

2025年6月6日(金)は、Nomcraft Taproom Jusoを会場に、有田川町の移住・就農について知ることができるイベント「裏高野に出逢う」が開催されます。

もちろん当日はクラフトビールが飲めるので、お楽しみに!

最後に、イベントに向けて、金子さんに有田川町での暮らしや商いの魅力を伺いました。

金子さん「有田川町の魅力は、山と川と海、そして世界との近さです。美味しい山の幸や海の幸が手に入りやすいし、何よりフルーツが豊富。子どもと綺麗な川で遊んで、アウトドアも楽しめます。こんなに自然豊かな町なのに、高速道路の乗り口があって関西国際空港にも近いから、県外や世界とも繋がりやすい。暮らしはもちろん商いにおいても強みです」


家族でオーストラリアを訪れたときの様子(提供:金子 巧)

仕事や家庭を持つと「今いる場所から離れられない」といった思考になりがちですよね。しかし、金子さんはあえて発想を転換し「仕事を絡めながら家族単位でもっと外と繋がろう!」と、新しいライフスタイルを模索しているところだといいます。

「そんな発想ができるのも、有田川町が新しいライフスタイルに出会える可能性に満ちた町だから」と金子さん。6月6日はクラフトビール片手に、一緒に新たな未来を探しましょう。

文:前田 有佳利

有田川町のクラフトビールも味わえる!
「裏高野に出逢う」大阪開催
開催日 2025年6月6日(金)
時間18:30-20:30(30分前に受付開始)
会場Nomcraft Taproom Juso
地図
住所大阪府大阪市淀川区十三本町1丁目11−16 Nomcraftタップルーム十三
アクセス阪急電鉄の十三駅より徒歩約4分(十三駅は、大阪梅田駅から1駅隣、新大阪駅から2駅隣の場所にあります)
定員20名
参加費無料
主催一般社団法人しろにし
参加方法下記のPeatixより、お申し込みください。
https://peatix.com/event/4394183
お問い合わせ先メール:info@shironishi.jp / 電話:0737-23-8881
※TURNSでは紹介のみ行っています。お問い合わせ・ご連絡はイベント主催者さまへお願いします。

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