【6/15開催 移住就農イベント@大阪】
シビアだけどチャンス!「篠畑農園」に教わる
有田川町特産ぶどう山椒の無限大の可能性

地縁ゼロの耕作放棄地ではじめた移住就農

「自然は上司より理不尽ですよ」と、笑みをたたえながらも真剣な眼差しで話すのは、和歌山県有田川町清水地区でぶどう山椒を栽培する「篠畑農園」の代表・篠畑 雄介さんです。

有田川町育ちですが、25歳までぶどう山椒の存在さえ知らず、Iターン移住者と同じくらい地縁のない状況でUターン移住。継業ではなく耕作放棄地を活かし、30歳の時に農業をはじめています。その篠畑さんに、移住就農の体験談や、ぶどう山椒づくりに込めた思いを伺いました。

2024年6月15日(土)には、篠畑さんもゲストとして登場する「移住就農イベント」が大阪で開催されます。

この記事を読んで興味が湧いた方は、末尾のイベント詳細をご確認ください。

 

「緑のダイヤモンド」ぶどう山椒の発祥地
需要の高まりに反して有田川町が抱える課題

その名の通り、高野山に端を発する有田川が東から西へと貫流する有田川町。水が育む豊かな自然環境によって、ブランド銘柄「有田みかん」の産地のひとつとなり、面積351.84km²のうち77%が森林で、良質な紀州材を生み出す林業地としても有名です。


人口約25,000人の有田川町。毎年秋から冬になると町の西側のエリアはみかん一色に染まります(提供:有田川町役場)

なにより特筆すべきは、ぶどう山椒。全国一の生産量を誇る山椒の産地・和歌山県のなかでも代表的な産地・有田川町で主に栽培されている品種です。ぶどう山椒の発祥地は、有田川町の清水地区とされています。ぶどうの房のように立派な実をつけるぶどう山椒は「緑のダイヤモンド」とうたわれ、「和のスパイス」として世界的に需要が高まる一方。しかし今、生産者の平均年齢は80歳を超えており、少子高齢化から担い手不足が深刻な課題となっています。


ぶどう山椒。うなぎ料理店や料亭、近年はフレンチレストランでも愛用されています(提供:篠畑農園)

 

昔ながらの当たり前”を見直し
徹底的に良質化と効率化にこだわる

このぶどう山椒の危機を未来の可能性に変えようと励んでいるのが、篠畑さんです。2022年に「篠畑農園」をスタートし、現在約800本にのぼる山椒の木々を管理しています。そのうち約500本は、荒れ果てた耕作放棄地を自力で再生して苗木から育てたもの。他は、その姿を見て応援してくれていた農家さんから、縁あって引き継いだものだと言います。

「篠畑農園」のこだわりは、良質化と効率化。現在、国家規格である有機JASの認証取得を目指し、有機的な栽培に努めています。また、収穫後の最高の状態をなるべく維持できるようにと品質管理を徹底。さらには、広大な園地で持続的な高品質化を実現するために、作業の効率化にも尽力しています。

「僕自身が重い・暑い・キツイことが苦手っていうのもあるんですけど、面倒くさがりな僕が省力的で持続的に農業ができるモデルケースを示すことで、『僕や私にもできるかも』と感じてもらい、未来の担い手を増やすきっかけになったらいいなと思っています」と篠畑さん。


現在32歳の篠畑さん。移住後に結婚し、夫婦で暮らしています

昔ながらの畑は手作業を前提とするものが多く、元の地形をそのまま利用して農業をはじめると、肥料の散布や草刈りなど、何においても苦労が多いそう。篠畑さんは「今は超過需要なのでぶどう山椒の市場価格は高いですが、もし担い手が増えたら価格が下がる可能性だってある。経営的な視点でも、栽培しやすく収穫しやすい畑にしておく必要がありますね」と言葉を続けます。

この考えから、耕作放棄地を農地として再生する際にはショベルカーの運転免許を取り、軽トラックが進入できる園内道をつくって、獣害対策の資材の搬入・搬出をスムーズにしました。さらに、自らも獣害対策を行えるようにと狩猟免許も所得したそうです。また、収穫道具をオリジナルで作成し、樹形を整えて1時間あたりの収穫量を上げるなど、“昔ながらの当たり前”を見直し、時代にあった効率化を常に探っています。


倉庫には草刈りや獣害対策などに使用する機材が揃っていました

 

「もっと血の通った仕事がしたい」
山椒嫌いを覆す、ぶどう山椒との出会い

「面倒くさがりというより、かなりの努力家では?」と率直な感想を伝えたところ、篠畑さんは「未来の自分が楽になるとわかっているから今できるんですよ。それに、天井が見えてくると飽きてしまう性格なんです。農業は青天井だから工夫のやりがいがある!」ときっぱり。

さて、そう話す篠畑さんが、ぶどう山椒に出会った経緯は何だったのでしょうか?

大阪で生まれ、5歳から有田川町で暮らしていた篠畑さん。有田川町と言っても清水地区ではなかったため、ぶどう山椒に関する知識や接点はもともとゼロだったそうです。


清水地区にある扇状の棚田「あらぎ島」。この地域の水と自然の豊かさを象徴するかのよう

専門学校への進学を機に大阪に移り、卒業後は、顧客管理システムを取り扱うIT企業に勤務。データ化された情報と向き合う日々の作業を通じて、次第に「もっと血の通った仕事がしたい」と感じるようになり、暮らしの根源に立ち返り、農作物に関心が向いたと言います。

大阪の中央卸売市場に転職したのち「和歌山県の生産者と全国の消費者をつなぐ架け橋になろう!」と、退職して地元の特産品を専門とする買取販売の事業をスタート。仕入れ先を検討するため、産地に出向き農家から話を聞くなかで、ぶどう山椒が直面する課題を知ることになりました。

「もともと僕、山椒が嫌いやったんです。口の中を痺れさせて支配するくせに美味しくない。だけど、初めて産地でぶどう山椒を食べたら、フルーティで爽やかで、なんとも豊かな香り。料理との相性抜群やん!ってほんまに感動しました」と、当時の出会いを振り返ります。


5〜6月に実山椒、7〜8月頃に乾燥山椒、9〜10月に赤山椒の収穫期を迎えます(提供:篠畑農園)

 

「つくり手として産地の魅力を届けよう」
耕作放棄地の持ち主を尋ね、農地を再生

無計画ではじめたため、買取販売の事業は軌道に乗らず、生計を立てる“ライスワーク”として、しばらく鶏肉業者で働いたのち、元上司の誘いを受けて中央卸売市場に出戻った時期もあったそうです。

「だけど、ぶどう山椒が抱える課題をどうにかしたいという気持ちがずっとありました。最初は自分が架け橋になればいいと思っていたけど、それだけじゃ産地は良くならない。必要なのは、つくり手のひとりとなって魅力を伝えることだと気付き、農家になろうと決めました」。

そこでまず、ぶどう山椒の発祥地である清水地区の空き家をインターネットで探し出し、買取販売事業の仕入れ先であった同地区の山椒農家へ就農することにしました。2018年から大阪との二拠点生活をはじめて少しずつ住まいを有田川町にシフトさせたのち、2019年より正式に移住。山椒農家で働くかたわら、地縁ゼロの移住先で耕作放棄地の開拓を進め、2022年に30歳で「篠畑農園」として独立しました。


篠畑農園では、カラフルで可愛いこのカゴを腰に下げ、ぶどう山椒の収穫を行っています(提供:篠畑農園)

農地はどうやって見つけたのですか?と尋ねてみると、「地域を知ろうと家の周辺をめぐっていた時に耕作放棄地らしい土地を見つけたんです。登記簿から所有者名がわかったので、近隣の人たちに尋ね回って、持ち主のご自宅にたどりつきました」と言うから驚きです。

「当時はまだ県外ナンバーの車に乗っていたし、どこの誰かもわからない若造が突然尋ねてきたらびっくりしますよね。でも、有田川町のぶどう山椒に対する思いをいろいろと伝えたら、理解して土地を貸してくださって、心から感謝しています」と教えてくれました。

 

6次産業化や企業コラボ、農作業体験を通じて
ぶどう山椒の素晴らしさを伝える

こうして、耕作放棄地をぶどう山椒農園に変え、今では6次産業化を目指した自社商品や、大手スパイスメーカー・株式会社カネカサンスパイスと共同開発した商品を世に送り出しています。


篠畑農園の自社商品。赤山椒の粉末、実山椒の粉末と粒の3種類があります


株式会社カネカサンスパイスと共同開発した商品。実山椒の粉末と粒の2種

さらに、有田川町の廃校を活用した移住就業支援拠点施設「しろにし」とコラボ。「しろにし」は、滞在者の希望に応じて宿泊場所と食事を提供しながら、一次産業を体験したい人と地域の事業者をつなぐ民間団体です。これまで、ぶどう山椒づくりに触れる「種取り体験」や「石臼(いしうす)びき体験」を共同で企画しています。今年の夏は収穫体験を予定するなど、ますます活躍の場が広がりそうです。

「体験に参加された方々はみんな『良い香りのなかで没頭できて楽しかった!』と言ってくれました。僕にとっては普段の作業でも、人によってはそこに価値が生まれるんだと実感して驚きましたね」と笑顔を見せます。


2024年2月の「種取り体験」の様子。一粒ずつ種を取る作業に夢中になる参加者たち(提供:しろにし)


「石臼びき体験」では、実をゴロゴロとひいて粉末状に(提供:篠畑農園)

 

農業は甘くないが、やり方次第で青天井
厳しい分だけチャンスは無限大にある

現在、篠畑さんは2つの目標を掲げ、日々の農作業に励んでいます。ひとつは、若手生産者のロールモデルになること。もうひとつは、有機栽培において日本一の山椒農園になること。その目標のため、一貫して効率化と良質化にこだわり抜いているのです。

地縁だけでなく貯金や自己資金、さらに言えば借入れもゼロからのスタート。そこから補助金や支援制度をうまく活用し、3年目を迎えた今は銀行から融資を受け、農園の規模拡大にも取り組んでいます。小さくはじめて着実に前進する篠畑さんは、U・Iターン希望者にとって、参考になる先輩移住者の背中ではないでしょうか。

最後に、移住や就農を考える方々に向けたメッセージをいただきました。

「会社勤めに疲れたからと就農を考える人がいるかもしれませんが、自然は上司より容赦ありません。舐めてかかったら、数年分の努力がすぐ無になる。農業を趣味ではなく仕事にするなら、持続可能な経営を考える必要があります。その代わり、会社勤めとは違って、工夫と努力次第で農業の稼ぎは青天井。厳しい分だけチャンスは無限大だと思っています」。

就農と一口に言ってもさまざまなスタイルがあります。大規模に栽培して市場に卸したり、小規模栽培でも高品質にこだわり加工も手がけつつ高値で販路を拡大したり、篠畑さんのように大規模と高品質の両立を目指したり、はたまた別の職業と組み合わせた「半農半X」もあるでしょう。

「農業に興味はあるけれど、自分にあった地方暮らしって何だろう?」を考える機会に、まず6月15日(土)に大阪で開催される下記のイベントから参加してはいかがでしょうか。篠畑さんをはじめ、有田川町の一次産業に関わる人たちと、会場でぜひ交流してみてくださいね。

取材・文:前田 有佳利

有田川町のクラフトビール&地酒も味わえる!
移住就農イベント

 

開催日 2024年6月15日(土)
時間 16:30-20:30(30分前に受付開始)
会場 Arts&Craftsオフィス
地図
住所 大阪市西区京町堀1-13-24 1F
概要 有田川町での定住や就農に興味のある方に向けたイベント。ぶどう山椒農家や林業の事業者、®一次産業ワーケーションのパイオニア、収穫体験者などをゲストに招き、交流会ありのトークセッションを行います。
タイムスケジュール 16:30-18:00 第1部
[トークセッション|農林業ワーケーションのススメ]
18:00-19:00 交流会
[with クラフトビール・地酒・みかんジュースなど]
19:00-20:30 第2部
[トークセッション|農ある暮らしのリアルトーク]
※「1部+交流会」や「交流会+2部」だけの参加もOK!

※交流会は、第1部・第2部の参加者合同で行います。
アクセス 肥後橋駅より徒歩約7分、本町駅より徒歩約11分
定員 20名(第1部・第2部それぞれ)
参加費 無料
主催 一般社団法人しろにし
参加方法 下記のPeatixより、お申し込みください。全スケジュールでの参加をご希望の方は、お手数ですが両方のご応募をお願いいたします。

[第1部+交流会]
https://shironishi-20240615-event.peatix.com/view

[交流会+第2部]
https://shironishi-2024061502-event.peatix.com/view

お問い合わせ先 メール:info@shironishi.jp / 電話:0737-23-8881
備考 上記イベントのほか、現地発着の企画として、しろにし主催「一次産業のお試し体験企画」や、有田川町主催「移住就農体験インターンシップ」も開催予定です。後日、表示名のリンク先に最新情報がアップされますので、ご興味のある方はチェックしてみてください。

 

イベント詳細

※TURNSでは紹介のみ行っています。お問い合わせ・ご連絡はイベント主催者さまへお願いします。

                   

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