森をフィールドに、歩く、話す、考える
「INA VALLEY FOREST COLLEGE」
2022スタート

あなたが今いる場所から、森は見えますか?

日本は国土面積の約2/3を森林が占める国。先進国ではトップクラスの森林国です。でも、街なかに暮らしていると、森に行くことはもちろん目にすることも少なく、遠い場所に感じるかもしれません。

伊那の森の様子

昔に比べて森と暮らしが遠くなり、日本の森を健全に保つことが難しくなっています。豊かな森を取り戻すには林業の世界だけで考えるのではなく、業界を超えて森の価値を再発見・再編集することが大きな一歩になる。そんな思いのもとに長野県伊那市で始まったのが、オンラインとオフラインによる森の学び舎「INA VALLEY FOREST COLLEGE」です。

 

学んだのは森のことだけじゃない

「森に関わる100の仕事をつくる」をテーマに始まった「INA VALLEY FOREST COLLEGE(以下FOREST COLLEGE)」。林業、建築、ものづくり、IT、食など多彩な分野で活動する講師を国内外から招き、プロジェクトチーム型のワークショップやレクチャー、トークセッションなどを通して、さまざまな視点から森と地域の価値を考える実践型プログラムです。

2020年度に始まり、毎年、300人を超える応募数があります。
受講生は年齢層も居住地域も多種多様。林業にまったく関わりがない人、遠く離れた地域に暮らす人も大勢います。

 

2021年度に受講した、東京在住の古田裕さん。
株式会社YOLOTの代表を務め、“人と地域と社会とつながる”をテーマにしたユニークな旅行サービス「シントラベル」を提供しています。都市に暮らす人が自然という非日常空間に身を置くことで学びや成長を得る旅体験を考える中で森への関心が高まり、FOREST COLLEGEを受講しました。

伊那のツアーに参加して「伊那の人たちの、今あるもので何かできないかと考える積極的な姿勢に心を惹かれた」と話す古田さん。

古田さん:「森は一見“何もない所”だと感じますが、森だからこそできることがあると思うようになりました。自分と向き合う内省の時間を持ったりリラックスしたり、五感を研ぎ澄ませることで本能や本心が目覚めたり。“森でできることの可能性を探る”というFOREST COLLEGEの主旨に共感して、ツーリズムとつなげたいと思いました。」

2021年度の講座は全5回。4か月に渡って行われました。
東京で暮らす古田さんにとって、すべてオンラインで気軽に参加できたことも受講理由の一つ。講師や受講生と相互にやり取りするセッションを通じて、リアル開催と遜色ない刺激を得られたと振り返ります。そして「当初の目的以上に、おもしろさを感じました」とも。

古田さん:「テーマはあくまで森ですが、人生にも通じることが講座の中にたくさんありました。森は長い時間軸でサイクルを紡いでいるから、人生を考えることと重なる部分が大きい。最初は事業のために受講しましたが、登壇者の方の話が純粋にすごくおもしろかった!事業を知るというより、講師の人生がどんな意志で成り立っていて、これからどうしていきたいのかというストーリーにすごく心を惹かれました。」

オンライン講座「森×暮らしぶり」の様子。フィンランド在住の吉田恵美さんが講師を務め、現地の森の様子を解説。

 

かつて県職員として森林に携わっていた杉本健輔さんも、2021年度に受講して大きな刺激を受けた一人。杉本さんはこのほど家族で神奈川から長野に移住し、2022年春から南箕輪村の地域おこし協力隊として活動予定です。

杉本さん:「自分ではそんなつもりはなかったのですが、FOREST COLLEGEに参加してみると、私の考え方はガチガチに行政的だったと気づきました(笑)。それまで自分が森林の中心部分だと思っていた森林行政の話は、ここでは出てこない。色々な立場の人の色々な森林の見方に触れることができて、固定観念を外してもらったことが大きな収穫でした。私のような行政関係の人もどんどん受講すれば、日本の森林はもっとよくなるんじゃないかなと思います。

 

メンバー同士でつながる「課外活動」

FOREST COLLEGEでユニークなのが、講座の終盤になると「こんなことをやってみたい」と受講生みずから行動を起こし始めること。講座で得た知識や興味をもとに「森を使ってこんなプロダクトやサービスを作れないか?」と手を挙げ、賛同した人とグループを作り、SNSでゆるやかにつながりながらディスカッションを重ねる。自由で積極的な“課外活動”が生まれています。

2021年度に生まれた“課外活動”の一つが、古田さんが立ち上げた「森とツーリズム」。
「伊那の地域資源を活かして新しい旅を考えよう」を合言葉に約20人ものメンバーが集まり、「こんなツーリズムがあったらおもしろい」という妄想から具体的なツアー企画まで、オンラインのワークショップを行っています。

立ち上げの第一歩になったのは、FOREST COLLEGEが伊那の森でリアル開催したイベント。通常講座はオンライン開催ですが「実感を持って森について語り合うために、森に入ったことがない受講生にも体験してほしい」と2021年秋に企画しました。

参加者で伊那の森を歩く。天気にも恵まれ、気持ちのいい時間を過ごした。

参加者の目の前で木を切り倒す。木が倒れる音や倒した木の重みを体感。

森を歩いたり、木を倒す様子を間近で見たり、リアルでしかできない経験をした後、森で火を囲んでグループごとにディスカッションする「焚き火会議」を行いました。そのテーマの一つに上がったのが「森とツーリズム」だったのです。

古田さん:メンバーはリアルでこそ初対面でしたが、オンライン講座でよく顔を合わせてディスカッションをしていたので、半分ぐらいは知っている人という感覚でしたね。でもやっぱりリアルで会うといっそう深い話ができたり、火を囲んで話すうちにポロッと本音が出てきたり、おもしろかったですね。

焚き火会議の様子

その後もオンラインでゆるやかに集まってワークショップを実施。FOREST COLLEGEの講座で印象に残った内容やツーリズム企画のヒントになる事例を話し合い、そこから一人ひとりが伊那の森で実現したい企画を提案していきました。

 

森の可能性は広く、深い!

古田さん:「みなさんの熱量の高さにびっくりしました。金曜の夜に10人くらいの大人がオンラインで集まって森について話をするんですから(笑)。全員がFOREST COLLEGEの受講者なので共通言語を持って話せるし、トップランナーのみなさんによる講義を聞いた上で自分のアイデアを出すことは、良いアウトプットになったと思います。」

そして、早くもこの活動から実現しようとしている企画があります。
杉本さんが提案した「森のアロマ作り」をテーマにしたツーリズム企画。杉本さん自身が森で感じたことから生まれたアイデアです。

杉本さん:「伊那もそうですが、南箕輪の森もマツ枯れ(虫によってマツが枯れる病気)の被害がひどいんです。対策として枯れる前にあらかじめ伐採するんですが、捨てられてしまうその葉っぱからアロマセラピーに使う精油を抽出できたらと考えたのが始まりです。それも工業的に作って売るんじゃなく、ツーリズムや教育と結びつけられたらと。参加者は森を歩いて体験し、精油を持ち帰る。すると、香るたびに森を思い出しますよね。精油の蒸留工程は、小学生の環境教育にも活かせると思います。今、実現に向けて話し合っています」

伊那の森のマツ

これほどスピーディーに事業化につながるとは驚きです。ツーリズムのプロフェッショナルである古田さんも、メンバーから生まれるアイデアに「実際に商品化してみたい」と大きな可能性を感じているそう。

古田さん:「現段階で10個ほど企画案が出ているんですが、実際に商品としてやってみたい、やれると思うものばかりなんですよ。FOREST COLLEGEは『森に関わる100の仕事を作る』がテーマですが、ツーリズムだけで100個できてしまいそう(笑)。それほど森をテーマにしたツーリズムには可能性があるし、まだまだ掘り起こせると思う。だから一つのアイデアに絞って商品化するより、コンテンツをいくつか作って季節ごと最適なものを1年サイクルで実施するだとか、色々と試しながら進められたらと思っています。

僕自身、めちゃくちゃ楽しかったですね!リトリートやアロマ作り、森をシェアする企画などアイデアは一人ひとり違うのに、突き詰めていくと最終的にやりたいことが似ているんです。『地域の方と関わりを持てる』『一回行って終わるのではなく、何回も行きたくなる』『自分が楽しむだけでなく地域のためにもなる』と、思いが共通している。それがすごくおもしろかったです」

「様々なバックグラウンドを持つ人と出会えるのもFOREST COLLEGEの特徴」と古田さん

 

伊那の森からそれぞれの場所に持ち帰るもの

お二人の話を聞いていると、伊那地域という土地の魅力に惹きつけられていることも伝わってきました。

杉本さん:「私が暮らす南箕輪を含めて、伊那地域は最高です!地域の雰囲気というんでしょうか、一緒にいて心地いい人ばかりなんですよね」

古田さん:「私は仕事も含めて海外は70か国、日本はだいたいどの県にも行っているんですが、ワインで言うテロワールのように、その土地の風土や空気感というものがあると思っています。そこに住む人と自然とが織りなす空気感、速度みたいなもの。それは東京が心地いい人もいれば乗鞍が心地いい人もいるし、海外が心地いい人もいる。伊那に来て感じたのは、山々に囲まれた唯一無二の景色があって、一方で観光資源に恵まれていないからこそ何かを紡ぎ出そうとする伊那の人の精神や、今あるもので何かできないか考える積極的な姿勢。人も含めで、すごくポジティブな空気が流れている場所だと思いました」

自分の立場で森との関わりしろを見つけたり、自分のやりたいことを見つけたり、得られるものは人それぞれ。

古田さんは東京を拠点にしながら伊那の森の可能性を掘り起こして事業化を探り、杉本さんは南箕輪という別の自治体で森をフィールドに活動しています。様々な地域に暮らす人たちが、オンラインとオフラインの良いところ取りをしながら、伊那の森をハブに集まって言葉を交わし、考え、それぞれの場所に持ち帰って実践する。こうして少しずつ森の可能性を広げていけることも、FOREST COLLEGEが持つ可能性です。

3年目となる2022年度の講座は7月に開講予定です。
過去2年はオンラインが主体でしたが、今年度は実際に伊那の森を歩き、フィールドワークなどを通して森の可能性について考える2泊3日の合宿形式の講座と、オンライン講座を組み合わせての開催を予定。体を動かして森を体感し、手を動かして考える。「五感で森林を体感する学び舎」です。今回も、日本各地で活躍する講師が登場します。

受講生は、カリキュラムが異なる2つのコースから希望に合わせて選択します。その名も「森で働く」コースと「森で企てる」コース。それぞれ体を使って感じることと頭で考えることの両方を使って森の魅力に触れるもの。

森に関わる仕事をしたい人、移住を考えている人はもちろん、森や地域、地球環境、建築など興味を惹かれるキーワードがある人、おもしろいプロジェクトに加わってみたい人、そして「森に興味があるけれどどう関わっていいか分からない」という人。FOREST COLLEGEでは、それぞれの立場に合う関わり方が見つかったり、共感できる人に出会えるかもしれません。

応募受付開始は4月中旬予定。興味がある方はぜひ、応募してみてください。
https://forestcollege.net

                   

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