【広島県福山市】地元企業の連携が紡ぐ、日本一のデニム産地の未来。

日本一のデニム産地として知られる備後圏域。その中核都市であり、国産デニム生地の生産シェア約8割を占める広島県福山市では、産業振興を志す地元縫製企業8社が連携し、2016年に『HITOTOITO』(繊維産地継承プロジェクト委員会)を結成。企業の枠を超えた共同事業として、誰もがデニムの縫製技術を学べる「デニムスクール」を2018年に立ち上げ、地域に新たな人の流れと賑わいを生み出している。

TURNSでは、HITOTOITOの中心メンバーとして次世代の担い手育成に尽力する黒木美佳さんを取材し、企業間連携が地域にもたらす効果と歴史あるデニム産地の未来像を伺いました。

黒木美佳さん
HITOTOITO(繊維産地継承プロジェクト委員会)副委員長/株式会社ディスカバーリンクせとうち
愛知県名古屋市出身。都内の出版社でファッション誌の編集に携わった後フランスに渡り、夫とともにメンズウエアブランドを10年間経営。帰国後、夫の出身地である福山市でアパレルOEM事業に携わる傍ら、HITOTOITOの中心メンバーとして地場産業の担い手育成に尽力している。

備後圏域とは?

広島県福山市、三原市、尾道市、府中市、竹原市、世羅町、神石高原町、岡山県笠岡市、井原市の7市2町から成る備後圏域は、江戸時代から続く一大繊維産地。多数のデニム関連企業が集積することで知られ、紡績から染色・織布・縫製・加工までの工程を圏域内で分業し、専業化することで培われた各社の高い技術力が織り成す高品質の生地で、国内外から高い評価を得ています。

緑豊かな中国山地を背に瀬戸内海の絶景を望む環境から、移住者や二拠点居住先としても人気のエリアです。

■備後圏域の移住・定住ポータルサイト「びんごライフ」
https://bingolife.jp/

-担い手不足による地場産業の衰退が全国的な課題となる中、備後圏域ではHITOTOITOの取り組みにより、人材確保と技術継承が進んでいると伺いました。HITOTOITOではどのような活動を行っているのでしょうか。

「人と糸を育てる」を掲げ、誰もがデニムの縫製技術を学べる「デニムスクール」とデニムの生産工程を旅する「デニムツアー」を開催し、デニム産地の歴史と作り手の想い、縫製の技術を未来につなぐ取り組みを行っています。

デニムスクールの卒業生は160名(2025年6月時点)を超え、うち16名が域内の縫製企業に就職し各地で活躍中です。

■デニムスクール

デニムパンツを作るために必要な専門知識や工業用ミシンを使った縫製技術を、10日間で学ぶ実践型スクール。縫製のプロによる実技指導を受け、卒業時には自分のサイズに合わせたオリジナルデニムパンツを縫い上げることができます。国内有数の繊維産地としての歴史やデニムの専門知識などを学ぶ座学、工場・企業見学等も充実。卒業後の就職先に関する情報提供も行っています。
詳細:https://hito-to-ito.com/denim-school

■デニムツアー

染色・織布・縫製・加工など、デニム製造の工程を巡るツアープログラム。オーダーメイドで行程を組むため、1~2日間の視察タイプから修学旅行や研修旅行向け、本格的なジーンズを縫い上げる長期滞在まで、目的や予算に合ったさまざまな体験ができる。
※グループ参加のみ受け付けており、個人ではご参加いただけません。
詳細:https://hito-to-ito.com/denim-tour/

-HITOTOITOはどのような経緯でスタートしたのでしょうか。

“日本一のデニム産地”と称される備後圏域でも担い手不足は深刻で、優れた技術を持つ熟練の職人たちが高齢化し次々に現場を離れていく中、新たに入って来る若手が少なく次世代への技術継承が進んでいませんでした。

さらに、備後では主にアジア圏から技能実習生を受け入れ技術を伝えてきましたが、彼らは最長 5年で母国に帰ってしまうため日々の人材育成が産地継承につながらないという課題を抱えていたのです。

同じ課題意識を持つ地元繊維企業 8 社が集まり、各々が培ってきた知恵と技術、資源を持ち寄って次世代を育てていこうとスタートしたのがHITOTOITO です。

―スクールの卒業生が域内企業に就職するなど、人材確保につながる実績が出ていますが、スクールが地域にもたらした効果について教えてください。

当初の目的は人材確保でしたが、SNS などを通して広く情報発信をするうちに県外からの受講生が増え、関係人口が拡大しています。

例えば、スクールを修了し地元に帰った後も、熟練の職人さんに師事して備後に通い続けてくれる若者や、自身で立ち上げたブランドに備後の生地を使い続けてくださる方、ワーキングホリデーを活用してわざわざ海外から学びに来る外国人。そうした方々が熱心にものづくりに向き合う姿は私たちにとっても刺激になりますし、活動を続けていく力になっています。

現役を引退された熟練の職人さんがスクールの技術講師として活躍するなど、職人さんのセカンドキャリア構築にもつながっています。

―企業の枠を超えて人材確保に取り組んだ結果、関係人口の創出や担い手のモチベーションアップにもつながったのですね。

そうですね。備後の繊維産業は、BtoB を基本に製造工程ごとに専門工場を設ける分業制を採ってきたため、一般消費者と直に接する機会はほとんどありませんでした。

スクール事業を機に地元企業・工場が組織の枠を超えた連携を図ったことで、ヨコのつながりとソトとの交流が生まれ、風通しが良くイノベーションが起こりやすい産地化が進んだと感じています。

―今後のHITOTOITO、備後のデニム産業のビジョンを教えてください。

今後も連携の輪を広げ、ものづくりが好きな方や生業にしたい人を圏域全体で迎え、誰もがのびのび活躍できる産地にしていきたいです 。

繊維工場は一見さんとの取引をしないところも多いのですが、卒業生はスクールを入り口に生産現場に入っていけますし、私たち運営メンバーから求人募集中の企業情報やリアルな産地の情報などもお伝えできますので、まずはスクールにご参加いただきたいです。

FUKUYAMA MONO SHOP

備後では、地元の老舗染工場『山陽染工株式会社』が、圏域30社以上の製品を取り扱うセレクトショップ『FUKUYAMA MONO SHOP』を2020年にオープンするなど、BtoC向けの魅力発信プロジェクトも走り出している。

作り手から消費者まで、広く開かれた産地へと歩み始めた備後。ものづくりに携わりたい方は、まずはデニムスクールに参加するところから夢への一歩を踏み出してほしい。

■HITOTOITO・デニムスクールに関するお問い合わせ
繊維産地継承プロジェクト委員会
HP:https://hito-to-ito.com
Instagram:https://www.instagram.com/hitotoito_bingo

\第26期デニムスクール受講生募集中!/
開催日:2025年7月7日(月)~18日(金)
詳細・お申込み:https://hito-to-ito.com/denim-school

■備後圏域の移住・定住ポータルサイト「びんごライフ」
https://bingolife.jp/

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