4年目を迎えた「TURNSのがっこう群馬科2024」。今年は初の試みとして、課外授業を実施!群馬県を実際に訪れクラフトビール作りに取り組みながら、まちづくりを学ぶプロジェクトをスタートしました。
どんなビールができあがるのか。群馬とどのようなつながりができていくのか。TURNSでも、プロジェクトの歩みを随時お知らせしていく予定です。
まずは、6/1(土)に行われた第1回の様子をレポートします。
課外授業の舞台となるのは、群馬県桐生市。古くから織物産業が盛んで、江戸時代には「西の西陣、東の桐生」と称され栄えてきました。今も市街地には、当時の趣を残した建物群が各所に残っています。
近年の桐生市では、そうして生まれたレトロモダンな空気感に引き寄せられた移住者が続々と集まり、好きなものを商う流れが加速中。織物のまちとして発展した歴史そのままに、クリエイティブな空気が守り受け継がれています。
そんな桐生市で今回、ビール作りに協力してくださるのは、できたてのクラフトビールが楽しめるバー&レストランを併設するブルワリー「Bryü(ブリュー)」。醸造設備の提供から素材選定・作り方の指導まで、オリジナルビール完成に向けて全面的にサポートいただきます!
まち歩きで“桐生のまちづくり”を学ぶ
まずは市街地の商店街に位置する古民家カフェ兼コミュニティスペース「PLUS+アンカー(プラスアンカー)」に集合。ランチとオリエンテーションを行います。
今回、案内役を務めてくださるのは、桐生市移住支援フロント「むすびすむ桐生」の移住コーディネーターとして活動をしている岩崎さんと田中さんです。
岩崎大輔さんは、熊本県出身。2019年に東京都渋谷区から桐生市に移住し、地域おこし協力隊として活躍。現在は、同地域の協力隊と設立した「一般社団法人kiki」の代表理事を務め、キャンプ場の運営や外部人材のコーディネート業、養蜂・養蚕業を行っています
田中 聖之さんは、桐生市生まれの桐生市育ち。「タナカノカラダ」として、整体やヨガインストラクターを生業としつつ、桐生にある個性豊かな店の魅力に気づき、Instagramで発信しています
@tanakarada(タナカノカラダ) https://www.instagram.com/tanakarada/
@kiryu_city_club(タナカ|【群馬・桐生市】の魅力を発信するクラブ) https://www.instagram.com/kiryu_city_club/
桐生市の紹介や課外授業の概要説明などを終えたあと、それぞれが自己紹介を行いました。
参加者は全部で12名。主に東京や神奈川、埼玉の在住者で、「ビールが好き」「地方が好き」な方々です。「桐生市に来たのは初めて!」という方も多く、岩崎さんや田中さんのお話に興味津々の様子。自己紹介のあとにはランチタイムが設けられ、「しみずや」からデリバリーした天ざるうどんを食べながら、交流を深めました。
はじまったばかりだというのに、すでに打ち解けた様子の参加者と岩崎さん
「しみずや」は桐生市で創業80年を超える老舗の手打ちうどんそば店。地元産の小麦にこだわった手打ちうどんはコシが強く、食べ応えがあります
お腹がいっぱいになったところで、田中さんと岩崎さんの案内のもと、まち歩きに出発します!
まちなかの商店街は、どことなく懐かしさのあるアーケード街。
「桐生にはチェーン店がほとんどないんです。だからこそ、まちの個性が出る」
と、田中さん。昔ながらの商店と新しくオープンしたお店が自然と溶け合い「桐生らしさ」を生み出しているようです。
そんな商店街で最初に訪れたのは「ふふふ」。ファッションデザイナーである和崎さん夫妻が営むお店です。
桐生で子育ても満喫中の和崎さん。この日もお子さんと一緒にもてなしてくれました
和崎さん夫妻は、以前は東京で活動していましたが、繊維産地を訪れるツアーで桐生を訪問。繊維産地で暮らしたいという思いと、桐生のまちの雰囲気に魅せられて移住を決めたそうです。
そうしてオープンした「ふふふ」は、和崎さん夫妻の制作・販売の場であると同時に、人々が気軽に集まって交流できるボードゲームカフェとしても営業中。桐生のまちづくりやクリエイティビティを象徴するお店として市内外から注目を浴びており、移住希望者の憧れの存在にもなっています。
店内には和崎さんがデザインしたプロダクトのほか、最近ハマっているものや面白いと感じたものなど、見ているだけでもワクワクするアイテムが所狭しと並ぶ
店や人同士がゆるくつながりながら桐生を盛り上げていく“funknown kiryu”という取り組みも行っている和崎さん。桐生市内のおすすめのお店もたくさんご存知で、「お気に入り」というお隣のお店まで案内してくださいました。
続いて向かったのは「HANDLER Inc.」。手ハンドルミシンを使用している刺繍工房です。
オーナーの中島さんは、お隣の伊勢崎市出身。桐生市の刺繍工場で営業職として働いていましたが、自身の工房を構えるために独立。昔ながらの手ハンドルミシンにこだわり、作品を作っています。
オーナーで刺繍職人の中島さん。手ハンドルミシンを使った刺繍技術を持つ人は少なく、全国からオーダーが舞い込むそうミシンテーブルの下にセットされたハンドルを動かし、ステッチの方向を自由自在に操ります
下絵を描かず、布に直接刺繍していく中島さん。手元の細かなハンドル捌きに技が光ります。定期的に行っているインスタライブでは、その場で送られてきた写真をもとに刺繍をすることもあるのだとか店内には貴重なヴィンテージミシンがずらり。作りたいデザインや作品のサイズなどにあわせて使い分けるそうです
今回は特別にライブ刺繍を見せてくださることに!じゃんけんで権利を得た参加者のリクエストは“ひまわり”。下絵なしでどんどん描いていく中島さんの手元に、参加者も釘付けでした。
その後は桐生新町重要伝統的建造物群保存地区内にある「com+position」へ。大正9年築の石蔵を利用した趣のある建物で、こだわりのハンドメイド帽を制作・販売しています。
オーナーの齋藤さんは埼玉県出身。以前は東京でアパレル関係の仕事をしていたそうですが、繊維のまちで繊維に関わる仕事がしたいと、30年ほど前に桐生へ移住。その後、埼玉で仕事をしていた帽子職人の大山さんに出会い、「com+position」を設立しました。東京のアパレルブランドの仕事を主に請け負いながら、オリジナルブランドとして「usine(ユジーヌ)」も展開。ショップにはこだわりの詰まった帽子がずらり。余った素材で作り始めたというミニサイズの人形用帽子もキュート。さまざまな素材の帽子を制作していますが、この日は夏直前ということもあり、麦わらや和紙を使った涼しげなものが並んでいました
「com+position」では、すべての帽子を専用ミシンで制作しています。工房内にはすでに生産を終了した貴重なミシンも。他にはない個性やフィット感を楽しめるのは、職人の手仕事ならでは。
「縫うだけならひとつ30分ほどで完成しますが、そこからのりを入れて乾かす作業などもあるので、3日で10個くらいですかね」
と、齋藤さん。
大山さんによる帽子作りの実演。細長い麦わら紐をくるくると巻きながら縫い上げると、あっという間にミニサイズの帽子が完成しました
クラフトマンシップ溢れる作品の数々を手に取りながら、参加者からは感嘆のため息が漏れていました。
そして、続いて向かった「一の湯」では、女将の山本真央さんが愛犬の「シカク」とともに出迎えてくれました。
「一の湯」は100年以上に渡り営業してきましたが、後継者不在のため、2018年に惜しまれながら廃業。
山本さんは趣味のバイクをきっかけに桐生市を訪れるようになり、その佇まいに感動。復活を使命に感じて桐生市に移住し、2023年に再オープンさせました。
その様子は「一の湯復活ものがたり」としてYouTubeでも公開されていますが、「改めて見ると本当に大変だったなって(笑)」と振り返るように、たくさんの課題を乗り越えてこぎつけた復活でした。
大正時代に建てられた建物を活かした、ぬくもりある雰囲気にファンも多い
そんなストーリーを持つ「一の湯」は、今や全国区で知られる存在に。参加者のなかにも「一度来てみたかった」と感慨深げに見学する方がいたりと、人を動かす魅力的な場となっています。
クラフトビール作りを学ぶ
桐生天満宮の穏やかな緑を眺めながら歩いていると、「Bryü」の看板が。
1階はバーカウンターと醸造所、2階はレストランになっています。お店に入ると、代表の森さん・栗原さんが出迎えてくださいました。
まずは4種類のビール、ラガー・ヴァイツェン・IPA(インディア・ペールエール)・ESB(エクストラスペシャルビター)が注がれたトレーを受け取り、2階へ向かいます。
主に店頭での接客や営業、マーケティングなどを担当する森さん(左)と、醸造を担当する栗原さん(右)
森さん・栗原さんからの挨拶のあと、Bryüのビールで乾杯です!
この日はお天気もよく、まち歩きでほどよく乾いた身体に冷たいビールが染み渡ります。
「おいしい〜!」「いくらでも飲めちゃう!」と、参加者たちも思わず笑顔に。
しかし、今回の課外授業のメインテーマはここから。
栗原さんからビール作りの基礎知識についての講義が始まります。
醸造工程や原料・副原料がどのような役割を果たすのか。工程や水質、ホップの種類、麦芽の種類によってどのような違いが生まれるのか。目の前の4種類のビールを味わいながら、その製造方法を学んでいきます。
栗原さんから、ビールの材料や種類、作り方などの説明を受けるタコスをつまみに、4種類のクラフトビールを飲み比べ
「これまでなんとなく種類は知っていたけど、詳しい違いを知らなかった」
「はじめて飲んだビールもあって、違いが面白い」
「ビールづくりって奥深いんですね」
と、舌だけでなく、文化としての奥深さも味わう参加者たち。
そしていよいよ、今回の課外授業で仕込むビールのフレーバーの発表です。
参加者たちの事前アンケートから選ばれた原料は……
ハチミツ!!
原料となるハチミツは、もちろん桐生産。養蜂業も営む岩崎さんが、提供を申し出てくださいました!
素材が決まったところで、どんなスタイルのビールにするのか、話し合いが始まります。栗原さんから受けたレクチャーの内容を思い出しながら、自分たちの理想のビールに思いを馳せる参加者たち。
「どんな味になるのか、すごく楽しみだなぁ」
と、森さん・栗原さんもワクワクした様子です。
その後は栗原さんの案内のもと、醸造所を見学しました。参加者たちはもちろん、醸造設備を見るのは初めて。
「これはどうやって使うんですか?」
「設備の導入にはどのくらいの費用がかかりましたか?」
「このタンクではどのくらいの量を醸造できるんですか?」
などなど、質問も止まりません。
なかでも一番驚いたのが、これらの設備のほぼすべてを栗原さんが自作したということ。
Bryüを立ち上げた際、誰もが気軽に飲める販売価格にこだわりたかったという栗原さん。そのため、業者に依頼するのが一般的ではありますが、すべてのパーツを自ら調達し、セッティングまで行ったのだとか。
「どこか壊れてもホームセンターですぐにパーツを買えるから、業者に頼むよりも安く早く直せる」
と、意外なメリットもあるそうです。
醸造所のタンクは3つ。それぞれ異なるビールを仕込んだり、時期をずらしてなるべく出来立てを味わってもらえるようにしています
解散後も興奮冷めやらぬ参加者たちは、帰りのバスが来るまで1階のバーで大盛り上がり。
その間もお店には地元の方々が続々と訪れ、桐生のまちづくりのこと、ビールのことなど、さまざまな話題で交流を深め、期待に胸を膨らませながら帰途につきました。
いよいよ次回から、実際にビール作りが始まります!
続報を楽しみにお待ちください♪