TURNS

TURNS vol.40より|職人とともに、 百年先の未来を描け
「仕立屋と職人」 石井挙之さん・ワタナベユカリさん

職人に惚れ込んで弟子入りし、その生き方を伝えようと奮闘する2人組がいる。

誰のために、何のための表現をするのか。

20代のときにずっと探してきたその答えのヒントを、自分とは別世界の住人だと思っていた職人の覚悟に見出した。


「生き様」との出会いから始まった

ネオンが好きなのに、東京を離れた理由

かつて街道だった面影が残る小さな宿場町に引っ越してきたのは、東京から切り取って貼ったような出で立ちの2人。引っ越して2年半が経つ今でも、彼らは彼らのままでこの町の暮らしを楽しんでいる。当初は歩いているだけで好奇の目を向けられた2人は、今では近所の人と酒を酌み交わし、祭りで一緒に神輿をかつぐ町の人気者だ。彼らがまとう空気は、この町にかろやかで新鮮な風を運んでいる。

滋賀県の北東部に位置する長浜市木之本町もとちょうで、地域おこし協力隊として活動する石井たかゆきさんとワタナベユカリさん。二人とも首都圏で生まれ育ち、十代から東京で多くの時間を過ごしてきた。「踊るのも飲み歩くのも大好き。ネオンがない場所に住むなんて想像できなかった」。彼らが引っ越した町にはクラブも居酒屋もないし、そもそも夜は人が出歩かない。東京を離れる選択を考えていなかった彼らが、「どうしても地域が合わなければ、東京に戻ればいい」と自らの意志でこの町に飛び込んだ。地域での暮らしに興味や憧れがあったわけではない。熱量を注いで表現したいと思える対象と出会ったからだ。

20代の最後に見つけた、人生を賭けたいテーマ。彼らは「職人の生き様、仕立てます!」を掲げ、2017年に結成した「仕立屋と職人」(以下、仕立屋)の現場チームだ。メンバーは4人。職人に弟子入りして技と情熱を掛け合わせたプロダクトを制作するユカリさん、グラフィックデザインとストーリーテリングで発信する石井さん。そして現場にいる2人のアイデアから事業を組み立てる東京チームとして、プロデュースの役割を担う仕立屋のブレーン・古澤恵太さん、販路開拓を担当する堀出大介さんで構成されている。

職人といえば別世界の存在であり、伝統工芸に全く関わりのなかった石井さんとユカリさん。生まれて初めて「職人」と接したとき、仕立屋の物語が動き出した。2人が出会ったのは、福島県郡山市で300年以上続いてきた技術を受け継ぐ張子職人だ。彼のものづくりへの姿勢や受け継がれてきた歴史、何より100先を見据える生き方に、2人は触れたことのない覚悟の質量を感じた。これほど心を揺さぶられる出会いは、初めてだった。


「仕立て屋と職人」立ち上げのきっかけは、作業着制作だった。福島に伝わる伝統工芸品・会津木綿を使い、和紙でありながら洗濯できる張子ボタンを開発した。

職人の言葉に惹かれた2人は、「このかっこよさを伝えたい!」と人生を賭けるテーマを定めた。伝統工芸に縁のない若者に、どうすれば職人の生き方を届けられるのか。最初に出会った職人のもとでは、作業着を制作したり商品開発に挑んだりと、仕立屋だからできる伝え方を模索してきた。全国各地の職人と一緒に、自分たちにしかできないものづくりに取り組みたい。そう考えて福島の次に彼らが選んだ拠点が、滋賀県長浜市だ。福島でも滋賀でも、仕立屋は弟子入りから活動を始めている。

職人とともに1日を過ごし、技を学び、言葉にならない思いを受け取るためだ。その姿勢に覚悟を感じた職人たちは、工房の外であまり語ってこなかった思いの丈を彼らに打ち明けるようになる。工房とは別世界で生きてきた彼らが、職人の一番近くにいるために住む場所を変え、その思いに触れるために人生を注ぐ理由。彼らの心を最も震わせたのは、未来に願いを託す職人の生き方だ。

(続きはTURNS vol.40本誌で)

文:菊池 百合子 編集:佐藤 芽生 写真:山崎 純敬(SHIGAgrapher)