【東京チェンソーズ・青木亮輔さん】
人と共生する美しい森が、檜原村の希望になるまで

地域活性化のキーパーソンに聞く、"今、地域で求められる人"とは? vol.1

「地域活性化に携わりたい!」「地域貢献につながる仕事がしたい!」と思っても、具体的にどうすれば地域の力になれるのか見えにくいもの。

そこでTURNSでは、連載企画「地域のキーパーソンに聞く!“今、地方で求められる人”とは?」を通し、地域活動の最前線で活躍するキーパーソンに、今、地域で求められている人物像や地方で暮らし働く可能性について聞き、これから地方を目指す方のヒントとなる情報をお届けしていきます!

連載第一弾は、東京都檜原村で地域に根差して活動する林業会社「株式会社東京チェンソーズ」代表取締役の青木亮輔さんです。

国産木材価格の低迷、担い手の高齢化など、難しい課題が山積する日本の林業ですが、青木さんは「林業は可能性しかない産業です」と語ります。その真意を伺いました。


青木亮輔さん|株式会社東京チェンソーズ 代表取締役

1976年大阪生まれ。東京農業大学林学科卒。1年間の出版社勤務を経て、「地下足袋を履く仕事がしたい」と、2001年に林業の世界へ。2006年に森林組合で出会った3名の仲間とともに林業事業体「東京チェンソーズ」を設立。2011年に法人化し、代表取締役に就任。

檜原村木材産業協同組合代表理事。檜原村林業研究グループ「やまびこ会」役員。(一社)TOKYOWOOD普及協会専務理事。特定非営利活動法人東京さとやま木香會理事。法人ツリークライミング®ジャパン公認ファシリテーター。日本グッドトイ委員会公認おもちゃコンサルタント。2023年5月より檜原村議会議員。

 

東京の木の下で

-東京チェンソーズでは、林業・木材販売業・森林サービス業の3つの事業を軸に、多岐にわたるビジネスを展開されています。これからの林業にはどのような可能性があるのでしょうか?

林業の産業構造は年々多様化していて、より自由な発想で収益を生み出せる産業に変わりつつあります。

例えば事業のひとつである建築用木材の販売については、政府主導で日本の木材自給率を高めて行こうという動きがあり、実際に国産材の流通量も、公共施設をはじめとする大型木造建築物の着工数も年々増えてきています。さらに、2021年頃から続くウッドショック(世界的な木材価格の高騰)を受けて、国だけでなく企業も国産材に目を向けるようになってきました。

今後ますます国産材の利活用は進んでいくと思いますし、林業が産業として成長していく余地も、再生可能資源である木が人々の暮らしを支えていく可能性も、まだまだあると思います。

 

-建材以外にも木材販売の可能性があるのでしょうか?

東京チェンソーズが行なっている 「一本の木が持つ価値を最大化させる」取り組みがそのひとつです。

一本の木は植樹してから収穫できる大きさに育つまで少なくとも50年はかかりますが、建材規格に沿って製材すると木全体の25%ほどしか残りません。残り約75%は伐採された後も山に放置されたままだったり、燃料として使われたりするのが通例でした。東京チェンソーズではその75%のうち、例えば木の根は一点もののオブジェやインテリア、遊具として、枝は木のおもちゃや雑貨類に加工して販売することで新しい収益を生み出しています。

一本の木をきちんと使い切るという観点から、これまでにない発想で木の価値・森の価値を高める商品やサービスを生み出せれば、新しい収益を上げるチャンスはまだまだあります。

東京チェンソーズの商品


-3つ目の柱である森林サービス業とは、どのような事業なのでしょうか?


写真提供:東京チェンソーズ

森林空間自体を有効活用して様々な体験サービスを提供するもので、東京チェンソーズでは主に2つの事業を進めています。

ひとつは「東京美林倶楽部」という会員制の森林育成プロジェクト。入会費5万円、年会費1,000円で3本の木のオーナーになり、苗木を植えるところから30年かけて木を育て、人の手で美しい東京の森を造っていこうという取り組みです。もう一つは企業研修や森林視察ツアーの受け入れ。こちらはまだスタートしたばかりですが引き合いは多く、新たに人材募集をかけてこれから育てていく事業となります。

従来型の林業では、皆伐された土地は次に植えられた木が伐採期を迎えるまでの50年以上、利益を生みませんでしたが、森林空間自体を活用する事業やイベントを立ち上げることで、木の育成期間中も収入を得られるようになってきています。

また、近年では木材の生産・供給という林業の経済的な側面だけでなく、地球環境保護や生物多様性、水源地保全など森林が持つ公共的な側面も見直され、そこにも価値がつくようになってきました。企業によるカーボンニュートラルへの取り組みや植樹活動もそのひとつで、企業活動や研修のフィールドとして森林を使っていただく機会も増えています。

 

-多岐にわたる事業を展開する背景には、どのような思いがあるのでしょうか?

自立した林業を確立して、自分たちが理想とする美しい森林をつくりたいという思いがあります。

戦後、日本の林業は復興と経済成長を優先する林業政策のもとで、「建築用木材を生産する」という一側面のみに焦点が当てられてきました。大量の木材需要に効率的に応えるために木材の規格化・画一化が進み、林業会社が収益を上げるには規格に合う木材を機械的に生産し続けるしかなかったんです。その結果、木材生産以外の領域で収益を生む事業を創り出せず産業構造が単純化してしまいました。この単純化こそが日本の林業が衰退化した大きな原因だと思っています。

急峻な山々が多い日本の場合、従業員の安全性を確保する上でも、海外のように大型の林業機械を使う大規模な営林はできません。生産にかかるコストを下げられない中で、1964年には木材輸入が完全自由化され、安価な外国産木材の供給量が急増したことなどで国産丸太価値は今では1本 3,000 円前後まで下落しました。伐っても儲からない状況の中、国からの補助金で不足分を賄い、なんとか経営を維持させてきたのがこれまでの日本の林業です。

でも補助金はいつ途絶えるか分かりませんし、木材の市場価格に収益が左右されるビジネスモデルでは安定的に経営していけません。そのため東京チェンソーズでは、「東京の木の下で 地球の幸せのために 山のいまを伝え 美しい森林を育み、活かし、届けます。」を企業理念に掲げ、木の価値、森の価値を最大化するさまざまな事業を通して林業の六次産業化、収益構造の多様化に取り組んできました。取引企業数は林業・木材販売業・森林空間活用の3つの事業全体で150社にのぼります。

補助金に頼らない自由で自立した林業を確立するためにも、林業を産業として発展させていくためも、林業の事業領域を多様化させていくことはとても大切なことだと思っています。

 

-林業の事業領域を多様化させていく上で、東京の森をフィールドにビジネスを展開するメリットはどのようなところにあるのでしょうか?

最大のメリットは、都心から車でも電車でも2時間ほどの距離にあり、多くの企業さんも消費者さんも気軽に森に来られるということです。

特に東京チェンソーズが管理している森林は世界的にもメジャーな森林認証を取得しているので、例えば家具メーカーさんが商品の購入希望者をこの森に連れてきて、「地球環境と持続可能性に配慮した森づくりを行っている、東京チェンソーズの木を使いませんか?」と直接PRできる。そうした木の背景にあるストーリーを伝えられれば、原木市場で不特定多数の木として競りにかけられるのとは全く異なる価格帯で勝負することができます。

多くの人に気軽に「おいでよ!」と言えるのが東京の森の良さだと思いますし、だからこそ展開できる事業も収益拡大の可能性もあると感じています。

 

資源と環境のバランスが取れた、人と共生する森づくり

-東京チェンソーズが企業理念で掲げる “美しい森林”とはどのようなものでしょうか?

資源と環境のバランスが取れた、人と共生する森林のことです。

日本の国土のおよそ70%は森林ですが、そのうちの約40%は人の手で植えられたスギ・ヒノキなどの人工林が占めています。林業会社としてはこの40%をいかに維持・管理して豊かな森を守っていくかが大切で、森の成長サイクルに合わせて適切に間伐・皆伐し、次の森をつくる新しい木を植えることで、健全な森林循環を保っていく責任があります。

従来の木材生産のみを目的とした針葉樹の単相林ではなく、樹齢も樹種もさまざまな木が森林を構成することで、土砂流出防止や水源涵養、生物多様性といった、森林の公益的機能を高めることができます。また、50年先の木材需要が見えない中であっても、このような多様性の高い森林を作ることによって、その時代にあった多様なニーズに応えることができるようになります。

資源か環境かの二者択一ではなく、それらが両立し、そこに人が入っている姿こそが”美しい森林”であり、美しい森林を育み、活かし、届けることで、森と人が共生する社会を実現したいと考えています。

 

-林業は檜原村の発展にどのように貢献できるでしょうか?

檜原村と長期継続的に関わり続けるような、関係人口を創出することができると思います。

檜原村の人口は1945年の7,103名をピークに減少し続け、今や2,000名ほど。以前は東京駅から隣町にある武蔵五日市駅までを直通で結ぶ「ホリデー快速」が出ていたのですが今は廃止され、路線バスの運行本数も少なくなくなってしまいました。今後も人口減少は続くと予想され、村民の力だけで村の機能を維持していくのは、もはや現実的ではありません。

何か可能性があるとしたら、村の関係人口を増やしていくことだと思います。その施策のひとつが、檜原村役場と「檜原 森のおもちゃ美術館」(以下、おもちゃ美術館)と東京チェンソーズの3者が連携し、村をあげて推進している「檜原村トイビレッジ構想」です。

 

-檜原村トイビレッジ構想とは、どのような取り組みですか?

地産木材を使う木のおもちゃづくり(産業)と、おもちゃ美術館を核とする木育推進事業(観光)の2つの軸で地域活性化を図り、“日本一の木のおもちゃの村”を目指すもので、檜原村ではこの構想に基づき2019年に村内の小沢地区に檜原村おもちゃ工房を、2021年にはその隣におもちゃ美術館をオープンさせました。

檜原村は急峻な山々に囲まれていて平坦な土地が少ないため、「ベビーカーを押して来るような世代は村には来ない」と言われてきましたが、おもちゃ美術館がオープンしてからわずか1年あまりで5万人以上が来館し、村にファミリー層を呼ぶことに成功しています。

子どもたちや若い世代がおもちゃ美術館をきっかけに村に来て、豊かな自然と触れ合い「またここに来たい」と思ってくれたら、その後の長い人生の中で繰り返し村に来てくださるかもしれません。村に人が集まる流れが定着すれば、カフェができたり駄菓子屋さんができたりものづくり工房が増えたり、木を中心にした新しい村の可能性が拓けるのではないかと思っています。

 

-林業は村に人を呼び、地域全体を豊かにできる可能性がある産業なのですね。

そうですね。特に檜原村は羽田空港から日帰りできる地域なので、子育て層だけでなくインバウンド需要も取り込んでいけるのではないかと考えています。

檜原村は面積の7割が「秩父多摩甲斐国立公園」に指定されていますが、世界的に見てナショナルパークとは開発から逃れた最後のフロンティアだからこそ認定されるケースが多く、人を寄せ付けない地であることも珍しくないんです。でも、檜原村の場合はナショナルパークの中に人の暮らしや歴史・文化が息づいています。これほどの大自然と人の営みが共生している地域は世界中を探しても珍しく、大変恵まれていると思いますし観光地として非常に大きなポテンシャルを秘めていると思います。

海外からの旅行客は土日祝日関係なく村に来てくださるので、インバウンド需要を取り込んで平日の宿泊客を増やせれば、観光施設や飲食店も潤い檜原村が経済的に発展できる余地も生まれます。

国内外から人が集まるようになれば、例えば東京駅直通の電車が復活したり、路線バスの運行本数が増えたりするかもしれません。それは巡り巡って村で暮らすみんなの暮らしを豊かにすることにつながっていくはずです。

村にそうした好循環を生み出すための最大の武器が、林業だと思っています。

 

林業にこだわらずに、林業にこだわれる人

-林業の産業構造が多様化する中で、求められる人物像も変わってきるのでしょうか?

木を売って収益を得る林業は、もはや林業の一側面でしかなくなってきています。これから林業に携わりたいという方は、必ずしも林業家になることにこだわる必要はないと思います。

体力に自信がある人、人と人をつなぐのが得意な人、ものづくりが好きな人、マーケティングや情報発信が得意な人。あらゆる人がそれぞれの得意なこと・やりたいことを活かし、その人に合った方法で林業に携われる可能性があります。

 

-ずばり、“今、檜原村で求められる人”とは?

地域へのリスペクトを持ちつつ、クリエイティブに新しいものを生み出せる人です。

田舎は都市部と比べて人口が少なく人間関係が濃密なので、自分の意見を一方的に表現したり押し通そうとしたりすると、地域住民との対立を生む原因になってしまいます。地域の歴史や文化、風土を様々な角度からしっかり学び、それらを守ってきた住民に感謝と敬意を持って接する中で、地域に貢献しながら自分のやりたいことも実現していける人の方が活躍しやすいと思います。

林業に関して言えば、従来型の林業にこだわらず、広い視野と自由な発想で木や森の個性を活かす事業を興せる人が求められています。近年はキャンプなどのアウトドア需要の高まりもあるので地域にしっかりと根を張って活動できるなら、例えば冬は林業をして夏はアウトドアフィールドとして森林空間を活用して収益を上げるといった、新しい形の林業に取り組む方がいてもいいと思います。

その一方で、個人・少人数で管理できる森林面積には限界がありますし仲間がいるからできることもたくさんあるので、東京チェンソーズのように組織として森と向き合う会社があることも必要だと思っています。

森と人との関わり方を多様化させていくことが重要で、その積み重ねが林業と村の活性化につながり、より豊かな地域づくりにつながっていくのだと思います。

 

取材協力

株式会社東京チェンソーズ
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\檜原村特集!/

■人と共生する美しい森が、檜原村の希望になるまで
東京チェンソーズ・青木亮輔さん
https://turns.jp/80955

■東京の木のおもちゃに込める、100年先への希望
東京チェンソーズ・木田正人さん、飯塚潤子さん
https://turns.jp/80447

■今、おすすめのワーケーションスポット「Village Hinohara」に行ってきました!
Village Hinohara・清田直博さん
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檜原 森のおもちゃ美術館・大谷貴志さん
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檜原村地域おこし協力隊・高野 優海さん
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■東京の消滅可能性都市・檜原村に移住希望者が絶えない理由。
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取材・文・撮影:高田裕美

                   

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