移住先で“つながる場”をオープン。
自分らしく島原半島を楽しむ3人の女性たち

移住のきっかけもライフスタイルも異なる彼女たちに共通するのは、移住先で人と人が“つながる場”をつくったこと。長崎県・南島原市で自分らしくアクティブに楽しむ3人にお話を伺いました。地域の人だけでなく、地域外からも人が集まり、さまざまな情報が入手できる新たなスポットです。南島原市を訪れる際にはぜひ立ち寄ってみましょう。

◇ 南島原市

南島原市は長崎県島原半島南部に位置し、北は雲仙普賢岳、南は有明海に面しています。人口4万2,407人(2023年2月時点)、面積約170km2。日本最初の国立公園「雲仙天草国立公園」、「島原半島ユネスコ世界ジオパーク」、世界文化遺産の「原城跡」などの貴重な自然環境と歴史文化をあわせもち、毎年多くの旅行客が訪れています。

 

◆Part① 飛永瑞希さん(花と喫茶 水と木)◆

花と緑に囲まれた古家で笑顔満開。
人が人を呼ぶ山間のお花屋さんカフェ

時津町出身の飛永瑞希さん。福岡の広告代理店に勤めた後、長崎にUターンしてNHK長崎放送局へ。結婚を機にご主人のふるさとの南島原市北有馬町に移住。現在はフリーランスとして地元のコミュニティFMのパーソナリティや移住コンシェルジュなどを務めながら、2022年12月24日、自宅の敷地内に「花と喫茶 水と木」をオープン。花と緑に囲まれた山間のカフェを訪れると、飛永さんと愛犬のコーギーが迎えてくれた。

お世話好きで頼もしい。ウエルカムな南島原の人たち

江戸末期に自然石でつくられた「面無橋」で知られる南島原市北有馬町。のどかな田園の一角に、花屋さんを併設したカフェ「水と木」がたたずむ。

「この集落の住民は60〜70代がほとんどですが、皆さんとても活発で、楽しいことが大好きなんです。地域のおかあさんたちは頼もしいし、優しい。私もまるで娘のようにお世話をしてもらっています」と飛永さん。

北有馬に移り住んで5年。仕事は多岐にわたるが、そのひとつが移住関係。コミュニティFMでは、地元民と移住者とともに地域の魅力を発信する番組も担当している。

「移住コンシェルジュとしては、お試し移住で来られた方に先輩移住者を紹介したり、移住に関するアドバイスをしたりしています。南島原の人たちは良い意味で本当にお世話好き。移住者ひとりにつき地元の方がひとり必ずついてお世話している感じです。とてもウエルカムなんですね。だから、私もこの地域に根ざしてやっていきたいと思いました」

豊かな自然環境も飛永さんのココロをとらえた。

「小さい頃からアルプスの少女ハイジになるのが夢だったんですよ。この辺りは自然も水も豊かだから、朝から湧水を汲みに行ったり。そんな生活に憧れていたので、ここの暮らしは最高です。後はヤギを飼えば完璧ですね(笑)」

北有馬の自然に囲まれて暮らすうちに、飛永さんは「いつかここでお店をしたい」と思うようになった。

コロナ禍での花農家さんとの出会いから始まった店づくり

漠然とお店を持ちたいとは思っていたものの、花屋の予定はなかったという飛永さん。転機となったのは、コミュニティFMの取材で訪れた島原半島の花農家との出会いだった。

「島原半島の花農家さんは有名な方が多くて、海外に出荷するほど質が良いんです。でも、コロナ禍でイベントが減って花を処分しないといけないと聞いて、じゃあ私が買います!って。それで花屋を始めました」

しかし、花屋の経験はなかったため、知人の店を手伝いながらノウハウを習得。やがてリースづくりなどのワークショップを開くと、市外からもお客さんが足を運んでくれるように。SNSで画像を見た人からのオーダーも徐々に増えていった。

「ワークショップはイベントや住宅街の店舗を借りて行っていたんですが、意外と人を呼べることにびっくり。自然いっぱいのお店だったら、リフレッシュしてもらえるし、来てくれた方にお茶とか出したいなと思って、カフェも一緒につくりました」

お店にしたのは自宅の敷地内にある小さな2階建ての倉庫だった。

「昔からこの集落の建物は土壁が多くて、壁は竹を組んだ『竹小舞(たけこまい)』という下地材にワラを混ぜた土を何重にも塗り重ねてつくるんです。私たちも古い土壁をはがして、その土に水を入れて練り直し、もう一度塗り直しました」

内装の半分以上は地域住民や友人、知人、家族総出でDIY。建材も家具もいただきものや、これまで集めた古ものやアンティーク。コストをかけず、自然にあるものや大事に受け継がれてきたものを活用して、古い倉庫は吹き抜けのあるおしゃれな花屋兼カフェに生まれ変わった。

「自分で塗った壁とか、磨いた天板とか、愛着がわきますよね。素敵な空間ができたのも皆さんの協力の賜物。みんなが改修を手伝ってくれたから、みんなのお店です」

花を通して伝えたい想い。そして、これから

飛永さんのフラワーアレンジは、自然に咲く野の花を摘んで、束ねたような優しい雰囲気。「お花は、悲しい時も嬉しい時も寄り添える。花屋って本当に良い仕事だと思います」と、見せてくれたのは、長崎の「被爆花瓶」を模した陶器の花瓶だった。

「ガラスの花瓶が原爆の熱でぐにゃぐにゃになって、こういう形になったんです。それを波佐見焼のデザイナーが再現しました。お祝いでもおくやみでも花をたむけるのは万国共通。人間の本質的な想いの伝え方だと思うんです。この花瓶を見た時、改めてその意味がわかって。人が生きる営みの大事なところに花があります」

この花瓶や花が何かを考えるきっかけになればと飛永さん。ご自身も被爆3世。ちいさな花と花瓶を通して平和を伝える活動にも取り組んでいる。

最後に、これからのプランを尋ねてみた。

「店の隣にある納屋を改装して、ギャラリーやライブができるスペースをつくったら楽しいだろうなと思っています。アーティストやミュージシャンのお客さんも多いし、毎日いろいろな方が山をのぼってやって来てくれるので。集落のおかあさんたちも『若い子が来た!』って、喜んでどんどん話しかけますよ(笑)。ここがひとつの交流拠点になったら嬉しいです」

「花と喫茶 水と木」
住所:長崎県南島原市北有馬町丁3967
営業時間: 月〜水曜 11:00-17:00 /土・日曜 10:00-17:00
Instagram:@mizutoki_works

 

◆Part② 根岸弥佳さん(かふぇ みかん)

お試し移住の翌月にIターン。
地域活動で人脈を広げ、仕事も暮らしも豊かに

兵庫県神戸市から南島原市へIターンした根岸弥佳さん。海外で働いた後、30歳で中学校の教師に。退職を決めて移住を考えていたところ、たまたま見つけたのが南島原市の空き家バンクのサイトだった。移住して約2年後の2022年6月、口之津フェリーターミナル前に「かふぇ みかん」を開業。地元のボランティアグループにも参加し、パワフルに活動する根岸さんに話を伺った。

移住の決め手は、入り口となる「人」が良かったから

根岸さんの移住先の条件は、暖かくて海があるところ。仕事を辞めて空いた時間に日本の南エリアで探し始めた。

「ちょうどコロナ禍で動けなくなって、インターネットで九州・沖縄の空き家バンクのサイトを見ていたら、南島原市の情報が一番充実していたんです。物件数も多いし、間取りなどの情報も細かく掲載されていました。コロナ禍が少し落ち着いて、ようやく移動できるようになった時、一番最初に連絡したのが南島原市の移住相談窓口でした」

市の移住担当者に話を聞き、市が管理する「お試し住宅」に3日間滞在することにした根岸さん。

「その翌月には引っ越してきました(笑)。決め手は、移住の入り口である『人』が良かったこと。移住担当の方が親身に相談にのってくださって、お試し移住の段取りから、空き家の案内、先輩移住者も紹介してくれました。こういった出会いも縁ですよね。南島原にビビッときたからここに住むべき!って」

女性ひとりで、見ず知らずの土地にIターン。移住に関してハードルは感じなかったのかと尋ねると、根岸さんは笑いながら答えてくれた。

「もともといろいろな場所を転々としていて、環境をガラッと変えるのが好きなんです。大学時代から親元を離れ、卒業してからはオーストラリアで世界遺産を行き来しながら生活していたこともあります。その後、タイでダイビングのインストラクターをやって、30歳目前で日本に戻って中学校の教師になりました。そんな感じだったので、移住に対する不安はまったくなかったですね」

カフェというより、コミュニティの場をつくりたかった

移住当初は、1年くらいはのんびり過ごそうと思っていた根岸さん。生活にマンネリ化を感じていた頃、市役所でのアルバイトをきかっけに移住仲間だけでなく、地元の人たちとの関わりが広がり始め、南島原市の地域商社やボランティアグループの活動にも参加するようになった。

「地域商社でお手伝いをしながら、地元の人も旅行者も立ち寄れる、人が集まる場所をいずれつくりたいなぁと、漠然と考えていました」と根岸さん。そんなある日、知人を通して空き店舗の情報が舞い込んできた。

場所は、天草と島原半島を結ぶ口之津フェリーターミナル前。入り口は2ヶ所あり、一方はターミナル側、もう一方は昔ながらの商店街に面していた。


「旅行者も地元の人も立ち寄りやすいですし、双方向から出入りできるもの便利です。空き店舗のオーナーさんは商店街のにぎわいを取り戻したいという想いもあったんですよ。だから、人が集まるよりどころになれば良いなと思って、借りることにしました」と、根岸さん。

店舗の改修は、地元の人たちの手を借りながら、大半をひとりで行ったそう。壁はクロスをはがして塗装し、シンクやカウンターなどカフェに必要な什器類はリサイクル品をDIYでリメイク。改修を始めて2ヶ月で開業となった。

「スタートはカフェですが、私としてはコミュニティスペースにしたいと思います」という根岸さんは、幅広い世代が集まりやすい空間と雰囲気づくりにも取り組んでいる。

地域活動でどんどんつながる人の輪

カフェの壁にはたくさんの絵手紙が飾られている。

「南島原市では高齢者や障がいのある方にタクシー券を配布します。その際に口之津町のボランティアグループが集めた絵手紙を一緒に渡してもらっているんですよ。私もそのボランティアグループ『ささえさんの会』に参加しているので、お店にも画材を置いていつでも絵手紙を描けるようにしています。年度末までは、お客さんが描いた絵手紙を飾らせてもらっています」

また、根岸さんはカフェの空きスペースを活用してワークショップや体操教室なども行っている。たくさんの人にこの場所を使ってもらうため、新しい活用法を考えているそう。

「ここで塾をやりたいと思ってるんです。講師が学習を指導するのではなく、生徒が宿題を持ってきてわからないところを聞く自主学習スタイルの塾」

根岸さんが目指すのは、いわば寺子屋のような場所。南島原の人と出会い、「面白い」と感じた物事を楽しみながら暮らすうちに、新しいつながりと夢はどんどん増えていく。

「かふぇ みかん」
住所:長崎県南島原市口之津町甲2159-11
営業時間: 日〜火曜 10:00-17:00
Instagram:@cafe_3kan

 

◆Part③ 池田舞子さん(サモエドレコード ※島原市)◆

旅人も子どももおじさんも引き寄せる、
何度も来たくなる地域の“よりどころ”

南島原市出身の池田舞子さんは高校卒業後、島根県の大学を経て、東京の演劇養成所で舞台演出を学んだという経歴の持ち主。南島原市にUターンしてからは、車に本をのせて半島中をぐるっと巡る移動書店をスタート。やがて、パートナーの小西さんとともに島原市に「サモエドレコード」をオープンした。個性的な地元民と旅人があとをたたない、ちょっとユニークな空間だ。

帰るべくして帰ったふるさとで、島原半島を巡る移動本屋さんに

東京で舞台演出を学び、演劇の演出助手や付き人をしていた池田さんが、南島原市にUターンしたのは2019年の夏だった。

「当時は1年くらいしたらまた東京に行こうと思っていましたが、コロナが流行し始めて。帰るべくして帰ったというか。今ではあのタイミングで帰ってきて良かった、運命だったのかなと思います」と、池田さん。地元に戻ってまず気づいたのが情報収集の違いだった。

「求人情報や面白そうなイベントがないかと探していたんです。東京で演劇関係の情報を集める時はツイッターが多かったのですが、島原半島はインスタグラムが主流。地域によってこんなに違うんだなと思いました」

そこでSNSだけに頼らず、南島原市が発行する『広報みなみしまばら』や公共施設にあるチラシもチェック。地元のお店やゲストハウスにも足を運び、さまざまな人とつながっていった。

「市報で図書館の求人を見つけて、2年近く働きました。本屋さんをやりたいと思ったのはその時です。最近、大型書店はあるけれど個人書店が少なくなりましたよね。そこで、長崎市にある本屋さんに行って話を聞いてもらったら、『移動書店はどう?』って。店舗もいらないし、じゃあやってみようと(笑)」。

こうして図書館で働きながら、休みの日に移動書店『フレーム』として島原半島を巡り始めた池田さん。販売する本は、出店先のお店の雰囲気やイベントにあわせてセレクト。絵本のラインナップが評判になり、子どもたちが集まる場所やイベントにも呼ばれるように。そんな中、よく聞かれたのが「どこに行けば会える?」というお客さんからの言葉。池田さんは「会いたい時に会える拠点をつくりたい」と、店舗づくりに一歩を踏み出した。

世代を超えて楽しめる新しい拠点づくり

まず取り組んだのが場所探し。

「最初は南島原の空き家をお店にしようと考えていました。1階をお店にしたいから2階に住んでくれる人を探していた時、「俺が住むよ」と言い出したのが現在のパートナー。彼は移動販売の古着屋さんをしていて、よく行く雑貨屋さんの常連同士でしたが、まだ会って3回目くらい。大丈夫かな?って思いました(笑)」。

その後、南島原市内の空き家ではなく島原市内で店舗を借りることになったが、「一緒に店をやりたい」というパートナーの一言で共同経営がスタート。古着屋さんの「サモエドレコード」の屋号をそのまま使って、新しい拠点が誕生した。

古着と本、レトロな雑貨で埋め尽くされたお店には、カフェスペースを併設。

「ゆっくりできる場所にしたかったので、カフェをつくるのは自然なことでした。読書会などのイベントを開いたり、コーヒーやお酒を飲みながらのんびり話ができる感じで」と、池田さん。イベントは音楽ライブ、レコード鑑賞、ことばあそび、ウォーキング、チャイやカレーの催しなどなど何とも振り幅が広い。特にユニークなのが地元民による「おじマルシェ」だ。

「『おじマルシェ』は、自転車がほしいけどお小遣いが少ないと言っていたおじさんがいて、じゃあみんなでフリマをしてお小遣いを稼ごう!という経緯で企画したイベントです。仲間のおじさんたちも集まって、店の屋上には趣味のコレクションや自分が育てた野菜などがずらり。私もおじさんのコスプレをして豚汁を売りました(笑)」

お客さんはもちろん、近所の子どもたちも集まって「おじマルシェ」は大盛況。世代を超えた人たちが何気なくつながり、まちに元気が広がっていく。

時代を生きるから、自分を生きるへ。生き方を変えた島原半島の魅力

サモエドレコードには、地元の人だけではなく、旅人も多く訪れる。

「昨年、旅をしながらコーヒーを淹れているというバリスタの子が神戸からやってきました。九州一周旅行の手始めに訪れた長崎の小浜温泉で『サモエドレコードが面白いよ』と聞いてうちに来たらしいのですが、そこから1ヶ月くらい島原半島に居着いていました(笑)」

ちょうどお店を立ち上げる時で、その旅人はコーヒーの淹れ方を伝授してくれたのだとか。

「本当は九州中をまわる予定だったのに、居心地が良かったのか、ほとんど島原半島にいたみたいです」と笑う池田さん。お店を離れる時、コーヒー道具を一式置いていったので理由を聞くと、なんと、島原半島への移住を決めたという。

「うち店の近くでコーヒー店を出したい。また戻ってくるからって言っていました(笑)。本当にいろいろな人たちがやってきて、それぞれに面白いつめあとを残してくれます」

実は、サモエドレコードはバンド名でもあるそう。池田さんとパートナー、もうひとりメンバーが加わった3人組で、池田さんは曲や詩をつくることも。休日は趣味で創作活動を楽しむそうだ。

「都会では演劇チームでの創作活動がメインで、作品に時代や社会情勢が投影されていました。でも、地元だと自分が感じたことが詩や音楽にのりやすいんです。やっぱり自然が豊かで、自分と向き合う時間ができたからかな。山の中で刺繍をしたり、海辺でウクレレを弾いたり。都会では“時代”を生きていたけど、ここでは“自分”を生きていると感じます」

島原半島の自然と緩やかな時間が、池田さんにポジティブなパワーをもたらしている。

「サモエレコード」
住所:長崎県島原市今川町1296-1
営業時間: 月〜土曜 11:00〜22:00 /日曜 11:00〜18:00(変更有)
Instagram:@samoyedrecords

 

取材・文:山田美穂 撮影:内藤正美


▼関連リンク
南島原市 田舎暮らし情報

https://www.city.minamishimabara.lg.jp/kiji003694/index.html

                   

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