“おいしい” から広がる、農の奥深さと在来大豆の魅力に触れる旅

埼玉で農ある暮らしに触れる旅レポート

2023年秋。『”自分なりの農ある暮らし”のヒントを探す』をテーマに、埼玉県ときがわ町で「農ある暮らしに触れる旅」が開催されました。旬の時期しか味わえない在来大豆の枝豆と大豆料理に、おいしいビールをマリアージュするという、聞くだけでよだれが出てしまいそうな豪華なツアー。

「おいしい枝豆を食べたい!」「収穫で汗をかいた後、おいしいビールを飲みたい!」と、農へのハードルを感じず、フラットな気持ちで集まった参加者たち。中には1年に300日以上、枝豆を食べています!という枝豆ラバーの方も。それぞれのきっかけで集まったみなさんは、1日を通して、自分たちの暮らしにどのような気づきがあったのでしょうか。

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豊かな山々と清流に恵まれた「ときがわ町」

旅の舞台であるときがわ町は63市町村ある埼玉県のちょうど真ん中あたりに位置し、東京から車で約60分、人口は約1万人ほど。お茶碗にご飯を盛ったような形のなだらかな山々に囲まれ、清流「都幾川」が町内を流れる埼玉の里山エリアです。

今回、在来大豆について教えていただくのは、ときがわ町で農業と農家民宿を運営されている金子さんと、援農プラットフォーム「PETIT FARMERS」代表の田島さん。

金子勝彦さん

農家民宿「楽屋」、農園「LOVE LIFE FARM」の代表。無化学肥料農薬不使用の野菜を育てている。テーマは「無理のない自給」。DIYをしたり、ECサイトで購入したものを修理して使用するなど、仕事、自然、生活のちょうどよいバランスを目指す。農業体験を含む宿泊を通して、田舎暮らしを検討している方の応援も。

田島遥菜さん

人材系フリーランスと「PETIT FARMERS」の二足のわらじで活動中。元々環境や食に興味があり、農家さんのお手伝いに通っていたところ、農薬や化学肥料を使わないような、環境に良い方法で作物を育てるには、とんでもない時間と労力を要することに気づく。そこで、農家さんにとって大変な仕事を切り出してもらい、農に興味がある方々がお手伝いできるプラットフォーム「PETIT FARMERS」を主宰。現場に行くからこそわかる農体験を提供している。

 

そもそも在来大豆って?

「これはオレンジ人参、これは紫人参。モグラ対策のためにマリーゴールドも植えています。」と、畑に着いてすぐ金子さんに説明いただきながら、シームレスに農の世界へ入り込んでいきます。参加者全員で簡単な自己紹介を終えた後、本題である「在来大豆」の説明へ。

実は、大豆も野菜も大きく2つの種類にわかれます。それは「在来種」と「品種改良種」。普段私達が目にしているほとんどは「品種改良種」です。これは名前の通り、大量生産しやすいように品種が改良されているもの。一方「在来種」はその土地の環境や気候にあわせ、何年も何年も受け継がれてきた種のことをいいます。

わたしたちが聞いたことのある在来種でいうと、例えば、東京の練馬大根、種子島の安納芋、兵庫県の丹波の黒豆などなど。また、加茂ナスや九条ネギ、万願寺とうがらしといった京野菜もそれにあたります。

品種改良種は、規格にあった同じ大きさに育ち、房に実がつきやすく、病気や暑さに強い。とにかく育てやすいよう、そして商業的に流通させやすいように改良されています。反対に、在来種は個性的。形はバラバラで成長の度合いによって収穫期が一ヶ月ほどずれこむこともあります。

また大豆で言えば、マメ科は元々地面に這うような性質があることから、下の方に実がつきがち。そのため在来種は、大きなコンバインで収穫すると、コンバインの歯の位置より下についた実が地面に落ちてしまうのですが、品種改良されたものは茎の上部にのみ実がつくようになっています。

お手製のフリップを使って、在来大豆について分かりやすく説明くださった田島さん

ただ、味の違いは一目瞭然。今回収穫する「青山大豆」も品種改良種より糖質が多く、唯一無二のおいしさです。「在来種」と「品種改良種」。どちらがいいというわけではありませんが、「品種改良種」は種苗センターが手掛けるものの、「在来種」は農家さんが、作らなくなってしまえば、途絶えてしまいます。

しかし、なんと埼玉には在来大豆が29種類も残っているのです。これは全国でも、トップレベルの本当にすごいこと。実は登録されていない在来種もあるようで、それも含めるともっとたくさんの在来種が今なお、埼玉の地に芽吹いています。受け継がれてきた農家さんの努力や思いに感謝しながら、いよいよ収穫です!

 

自分だけの「MY枝豆」を収穫

収穫する畑は、摘芯している畑とそうでない畑の2つ。摘芯とは、豆が発芽し、本葉が5,6枚になった頃、真ん中を切るという作業。そうすることで茎が枝分かれし、収穫量が1.6倍ほどになります。2つの畑の実り具合を見ると、たしかに摘芯している方はたわわに枝豆がぶらさがっています。

説明を聞くだけではすぐに腹落ちできない農作業も、現場で説明してもらえるとすんなり理解が進みます。摘芯した畑も実は一度鹿に食べられてしまったのだとか。そこから蒔き直しなども行って、ようやく立派な枝豆に成長したそう。また、今年は連日の暑さによる高温障害に悩まされた農家さんも少なくなかったようです。

金子さんの栽培努力と枝豆の力強さに感謝しながら、自分だけのとっておきの一株を収穫していきます。想像していたよりも大きい一株に、「うわー!」という歓声が畑に響いていました。青々とした茎に、はち切れそうなほど実が詰まった豆はかわいらしく、何よりおいしそう。みなさん自分が収穫した枝豆は特別にかわいいようで、愛でながら写真におさめていました。

実食の前にもう一汗

そろそろお腹も空いてきたころ。畑から「Teenage Brewing」さんに移動し、いよいよとれたての枝豆をいただきます!と、その前に、収穫よりも大変な作業である、枝から房をとる作業へ取り掛かります。どんな食材もやはり採れたてが一番美味しいですが、枝豆も鮮度が大事!スピード勝負で黙々と枝豆とにらめっこします。農家さんの中には、畑に湯を持ち込んでその場で茹でて食べる!という方もいるそうです。

「頑張った分だけおいしくなるね」と励まし合いながら進めると、あっという間に作業完了。一人では途方にくれる作業もみんなで励まし合いながらやるとエンターテイメントに。これぞ援農の良さですよね。

在来大豆の食べ比べ

今回いただく在来大豆は、田島さんが厳選した「川里在来」「行田在来」そして収穫した「青山在来」の3種類。

行田在来大豆の枝豆は「さきたまめ」というブランドで売り出しており、1年間のうち20日間程度しか収穫できないのだそう。行田市は、県内でも珍しく枝豆出荷組合と大豆出荷組合にわかれており、それほど枝豆や大豆の生産に力をいれています。今回「さきたまめ」を生産・販売する江森さんと嶋田さんに駆けつけていただき、とれたての枝豆を持ってきていただきました!

茹で上がった枝豆は、芳醇な香りを放ち、お風呂上がりのような蒸気をあげながら、私達の元へ。そのほくほくとしたおいしそうな佇まいに、みなさん思わず笑みがこぼれます。いざ、実食!どの枝豆も、プリプリの食感で味が濃く、次から次へと手がとまりません。

こんなに食べきれるかな、というほど山盛りだった枝豆が、みるみる減っていきます。スナックのようにいつまでも食べ続けられる行田在来、淡白で瑞々しい川里在来、サツマイモのようなホックリ感がある青山在来のように、自然と”推し” 枝豆の品評会がはじまりました。どの枝豆もそれぞれに特徴があり、食べ比べだからこそ気づける美味しさに皆さん魅了されていました。

食べ比べのあとは、Teenage Brewingさんがこの日のためだけに用意くださった、在来大豆を使ったオリジナルメニューのランチプレートも堪能させていただきました。

\特別メニューはコチラ!/

・大豆スープ(行田在来)
・大豆コロッケ(春日部在来)
・おからサラダ(青山在来)
・青大豆おぼろ豆腐(青山在来)
・ときがわ町の野菜を使ったピクルスとサラダ
・鶏肉ハーブ蒸し
・玄米
・お豆腐クレメダンジュ(青山在来)

 

「音楽はビールだ!」斬新で新しいビールとの出会い

最高の枝豆と合わせていただくのは、”Teenage Brewing” のビール。”Teenage Brewing” は「音楽はビールだ!」をテーマに自由で現代的かつ、洗練されたプロフェッショナルなクラフトビールを目指す、ときがわ町に新たに誕生したばかりの醸造所です。

オーナーは音楽家。クラフトビールが、10代の時に出会った衝撃的な音楽、瑞々しい情熱を思いおこしてくれたことを機に、ビール醸造をスタート。ブランド名の “Teenage Brewing” には10代の情熱をビールにも注ぎたいという思いがこめられています。醸造者は他にも、女性の元パティシエさんと、チェコ人で元光ファイバー学者の3名。異業種で個性豊かな3人が奏でる、もとい醸造するビールは、ときがわ町のきゅうりや、ヒノキのウッドチップを使ったものなど、これまたアイデンティティが光ります。

楽しそうにビールと音楽について語ってくれた営業マネージャーの小川さん

卸業がメインでありながら、ときがわ町でゆったりとした時間を楽しんでほしいと、家具工場をリノベーションし、2023年6月にタップルーム”bekkan”をオープン。ビールだけでなく提供しているフードメニューにも、ときがわ町の野菜やお米、加工品を使い、地産地消にこだわっています。また、使用した麦芽をすべて肥料として農家さんにお渡しし、そこでできあがった野菜をビールやお料理に活用しており、まさに町内で完璧な循環構造ができあがっているのです。

 

ビールを売るのではなく、ビールによって生まれる特別な時間を売る

月に8種類も新作を発売されているという「Teenage Brewing」さん。その中でも今回ご用意いただいたのは、「プロフェット」「スモークオイスターアンバーエール」「ガーデンオブエコー」の3種類。

枝豆の食べ比べに合わせるのは「プロフェット」。ドライでスッキリしており、枝豆の味をたてるため、麦とホップと水だけで作られた、シンプルで飲みやすいビールです。

ランチプレートと合わせるのが、「スモークオイスターアンバーエール」。スモークした麦に生牡蠣を殻ごと活用するという独創的なビール。殺菌消毒した殻をろ過に使い、生牡蠣は煮詰めて、オイスターソースさながら、牡蠣の旨味でビールの味を引き立てています。ランチプレートのコロッケに添えるソースの代わりに、オイスターソースをイメージしたビールを楽しむという斬新なマリアージュをご提案いただきました。

食後は、「ガーデンオブエコー」。ピンクオレンジのようなかわいらしい見た目は、その名の通りお庭に咲く花々のよう。ラズベリー、ローズ、隠し味にルバーブが入っており、デザート感覚で味わえるビールです。

Teenage Brewing では、「ビール」を売るのではなく「時間」を売るという意識をもっているそう。「ビールを飲む時間、ペアリングした食事や音楽を楽しむ時間。ビールを取り囲む環境すべてをアレンジすることで、特別な時間を提供しています。」ビールを買うと、そのビールを楽しみながら聞けるプレイリストのQRコードまでついてくるというのも、コンセプトから生まれたサービスなのでしょう。

その言葉通り、ビールの味わいによって、お料理の風味も変わり、感想を言い合うことで会話が弾みます。まさに、ビールがおいしい食事や楽しい雰囲気に花を添えているようでした。

 

農ある暮らしからはじまる、丁寧な暮らし

ここまでおいしい枝豆を堪能すると、自分でも作れないか考えてしまうもの。参加者からはプランターでも枝豆が育てられるのか質問がでました。金子さんの答えはイエス。ただし、水はけを良くするために、赤玉土などを多めにすると良いそう。ちなみに、大豆は肥料過多だと “ツルボケ” といって実をつけない恐れもあるそうで、色々と試行錯誤しながら楽しむのが農ある暮らしの秘訣だとか。

金子さんから「栽培に困ったらいつでも相談してください。」という心強いメッセージもいただきました。ご知見ある農家さんとつながれることも、こうした農ある暮らしツアーの醍醐味ですね。

1日を通して、いつもよりゆったりとした時間が流れているように感じました。収穫したものを愛でる、命に感謝しながらいただく、はじめましてな人同士がゆったりとつながりあう。これは農ある暮らしでもあり、丁寧な暮らしとも言い換えられるでしょう。

丁寧な暮らしは”あたりまえ”のありがたさに気づかせてくれます。普段なにげなく食べている食事への感謝、自分のことを気にかけてくれているまわりの人への感謝。そのありがたさに気がつくことは自分の心の豊かさにつながっていくはずです。毎日アクセクと過ごしがちなこのご時世、日々の生活の深呼吸のために農ある暮らしを取り入れてみませんか?

文・櫻井智里

                   

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