愛知県三河山間エリアとの楽しいつきあい方

あいちの山里【TURNSvol.33収録冊子より】

愛知県三河山間エリアとは、豊根村、東栄町、設楽町、新城市、豊田市、岡崎市の6つの市町村にまたがる山村地域の総称です。
豊かな自然ときれいな星空と、さまざまな活動が活発なこの魅力的なエリアに、自分らしい関わり方で、楽しい時間を過ごしている方がいらっしゃいます。

みなさんのお仕事ぶり、暮らしぶりを通して、一人でも多くの方に、「愛知の山里に行ってみたい」「この記事に出ているあの人に会いたい」と思っていただけたら幸いです。
四季折々、さまざまな顔を見せる愛知の山里へ、ぜひいらしてください。


1.豊根村×新産業創出

山里でチョウザメ養殖に挑戦! 新たな名物と仕事を生み出すために

地域おこし協力隊 天然水産 豊根フィッシュファーマーズ 久保田智也さん
プロフィール/愛知県名古屋市出身。会社員として経験を積んだ後、豊根村に移住して約2年になる。地域おこし協力隊の任期は、2019年9月まで。

学生のころから「地方で暮らしたい」「自らつくったものを販売して生業にしたい」と考えていた久保田さん。30歳の節目を前に会社を退職し移住を決意した。地方での起業を考えるにあたり重視したのは、「誰もができることではない、付加価値の高い産業」を手がけること。そこで着目したのが水産業だった。

豊根村では新たな産業と観光資源をつくり出そうと、山村の良質な水を生かし2012年からチョウザメ養殖に取り組んでいる。さらに、若い担い手を育てるために地域おこし協力隊を募集。久保田さんはその情報を目にし、迷わず応募した。

「チョウザメは成長が遅く、キャビアがとれるまでに約10 年かかる。養殖の技術も確立されておらず試行錯誤が続いていますが、だからこそすぐには真似できない魅力ある産業になると直感しました」
2016年10月に移住後、養殖の技術を学びながら自身で養殖もスタート。チョウザメだけでなくアマゴやアユも育て、観光施設で塩焼きにして販売している。

「まずはアマゴやアユの養殖で利益を上げる体制を築くこと。そしてチョウザメの養殖を続け、この村にしかない特産品をつくり出すことが大きな目標です」
久保田さんのチャレンジを、村の人は温かく応援してくれる。協力隊として多くの経験を積み、豊根村で自立し定住することが一番の恩返しにつながるはずだと、久保田さんは日々奮闘している。

 

2.東栄町×地域への入り口

この地に暮らすように泊まる 町の魅力と出会う入り口を目指して

体験型ゲストハウスdanon(だのん) オーナー 金城愛さん
プロフィール/沖縄県那覇市出身。転勤により三重県で暮らした後、東栄町へ移住して6年目になる。https://danon-toei.com/

2012年、愛知県の「あいちの山里で暮らそう80日間チャレンジ」のスタッフに選ばれ、初めて東栄町を訪れた金城さん。期間中、野菜やお米から祭りまで、何でも手づくりする町の人たちの暮らしぶりに触れ、東栄町のファンに。その後、地域おこし協力隊にも応募し、2013年4月から再び東栄町で暮らし始めた。

任期中、地域を巡って話を聞くと、町外の若者が東栄町を訪れる機会が少ないという課題が見えてきた。「外の人が気軽に来られて、住民と交流できる場があれば」とゲストハウスづくりに向けて動き出すと、地域の人たちが様々な形のサポートで、背中を押してくれた。

こうして2015年4月にオープンした「danon」の根底には、東栄町の暮らしを体験してほしいという思いがある。
「ていねいに暮らす町の人たちのことを知ってほしい。だから、料理は地元の食材を使い宿泊者全員でつくり、農作業などの体験プログラムも用意しています」

夜、宿泊者と食事を楽しんでいると、町の人たちが自然と集まってくる。交流を通じ、町のことを知るなかで「また来たいな」「住んでみたいな」と思ってもらえたら、これほどうれしいことはない。
「農業がやってみたい、空き家を探しているなどの相談を受けたら、その分野が得意な方を紹介するようにしています。今後は、そんな人と人をつなぐ仕組みづくりにも力を入れていきたいです」

 

3.設楽町×手作りマーケット

家庭と仕事だけじゃない。女性たちが輝く手作り市を主宰

自主企画グループ「奥さんさん」代表 後藤加奈子さん
プロフィール/豊田市(旧稲武町) 出身。2009年に岡崎市から設楽町へ。三児の母。「奥さんさん」は、燦々と輝く女性と奥三河の山々をイメージして。

「自然豊かな田舎で子育てがしたい」と、2年間暮らした愛知県岡崎市から、ご主人の地元・設楽町へUターンした後藤さんは、子育てサークルの代表をしていたとき、「make mama’s jobs」という町主催の座談会に参加した。そこでは、ハンドメイドで作品をつくり販売している人や、趣味で制作する人が集まり、情報交換が行われた。「設楽町にも、作品を販売できるマーケットがあったら」との声に、「ないなら、私たちでやってみようよ」と手を挙げたのが後藤さんだった。

「これから何十年と過ごすこの町での日々を、自分たちで楽しまなきゃソン!だと思ったんです」

後藤さんを含む7人が中心となり、「奥さんさん」を結成。2016年12月に初の「手作りマーケット」を開催すると、16組の作り手が参加してくれた。「次はいつやるの?」と楽しみにする声が多く、その後は半年に1回のペースで開催。補助金などに頼らない自主運営を実現し、今では出展者も23組に増えた。

名古屋や浜松からわざわざ来てくれる人、マーケットに合わせて設楽に帰省してくれる人、町外から出展してくれる作り手など、手作りマーケットは町へと足を運ぶ新たなきっかけとなっている。

「設楽町の作家さんが、町外のイベントに出展する機会も増えています。そうやって交流が広がり、どんどん町がおもしろくなっていったらうれしい」

 

4.新城市×二拠点居住

スポーツが盛んな環境にひかれ“週末、新城暮らし”をスタート!

佐藤真希子さん
プロフィール/富山県出身。結婚を機にご主人の転勤先だった愛知県稲沢市へ移住し、11年になる。健康のために6年前からトライアスロンを始める。

名古屋のトライアスロンチームに所属し大会にも出場している佐藤真希子さんが抱えていた悩みは、住まいのある愛知県西部からアップダウンのトレーニングができる山間部までが遠いことだった。

「山の近くに別邸があったら」と試しに調べてみると、当時検討していた住宅街に土地を購入して新築するよりも、中古住宅であれば予算を抑えて二拠点居住が実現できそうだと知る。大学の頃からオートバイが趣味で、ガレージがほしいと考えていたご主人とも意見が一致。新城市のこの物件を購入し、2018年8月から週末ごとに通う生活を楽しんでいる。

車で10分以内に、広大な公園「愛知県民の森」や、温水プールを備えた施設が整っていることに加えて、決め手となったのはスポーツが盛んな新城市の環境だ。

「県民の森で年2回開催されているトレイルランの大会( P. 125参照)や自転車の各種レースなど、新城市ではスポーツのイベントが盛ん。トレーニングするだけでなく大会に出場したり、観戦したり、さまざまな楽しみ方ができます」

暮らしの面では、新鮮でおいしい野菜が安く手に入るので、外食よりも自宅でゆっくりと料理を楽しむ機会が増えた。

「林業や里山保全を手がける知り合いも増え、私もボランティアとして活動に参加できたらと考えています」と真希子さん。二拠点居住を始めたことで、新たなつながりや関心も広がり始めている。

 

5.豊田市×つながる場

あえて多様な人が集える余白を。〝やりたい!〟を形にする地域の起点

株式会社M-easy代表取締役 つくラッセル推進コンソーシアム代表機関 戸田友介さん
プロフィール/愛知県北名古屋市出身。知多半島で農作物の栽培や販売を手がけたのち、豊田市の旭区へ移住して8年目になる。薪の生産販売、新聞販売店(事業継承)など、多様な仕事づくりに取り組む。
https://www.facebook.com/tukurassell/

「つくラッセル」は、豊田市の旭地区にある旧築羽小学校を活用した新たな地域の拠点。1階には、週に一度バーになるカフェ校長室や休憩室が、2階にはテレワークが可能なシェアオフィスや電工室があり、住民による自主保育やサマーキャンプ、木工教室、U・Iターン者が集まる近況報告会、企業研修、大学のゼミなど、多彩な活動が展開されている。

運営を行う「M-easy」代表の戸田さんは、若者が山村で農業を生業にすることを目指した豊田市と東京大学のプロジェクトの運営者として2011年に旭地区へ。実は、当初この取り組みでは成果が出ず、壁にぶつかったことがあった。そのとき住民にかけられたのが、「いてくれるだけでいい」という言葉。

「稼ぐことも必要だけれど、それだけではない。この地域の一員として、どうはたらき、生きるのか。地域のことを自分事としてとらえたとき、仕事も、暮らしも違う景色がみえてきました」

つくラッセルでは、集う人たちが何をやりたいか、何ができるかをもとにプロジェクト化することを重視している。

「お金になる、ならないから考えないことで、暮らしを豊かにする発想は広がる。それが社会に求められることであれば、新たな稼ぎにもつながる。地域住民や移住者はもちろん、外の人も気軽に立ち寄れ、おもしろいことが生まれる場にしていけたらと考えています」

 

6.岡崎市×体験施設

多くの人を巻き込みながら ここでしかできない体験を届けたい

カフェ柚子木・ぬかた体験村 村長 赤松弘一さん
プロフィール/岡崎市の額田地区出身。自動車部品製造の仕事から、柚子農家へ転身して4年目。温石浴の施設も運営。https://nukatataiken.com/

4年前、自動車部品製造の仕事から柚子栽培へと、人生の舵を大きく切った赤松さん。30年にわたり父親が有機無農薬で栽培してきた柚子畑を受け継ぐとともに、その近くに柚子を使ったドリンクやデザート、石窯ピザなどを提供する「カフェ柚子木」をオープン。店内では、柚子を皮ごとしぼった生シロップやジャム、柚子みそなどの加工品も販売している。

さらに、2017年10月には「ぬかた体験村」を開業。自分で収穫した柚子を使ったシロップづくりや柚子こしょうづくり、岡崎おうはん(純国産鶏)の集卵から始めるプリンづくりが体験できる。

「2016年に新東名が開通して以降、名古屋の中心部から車で約1時間とさらに近くなりました。この額田地区にしかないもの、ここでしか体験できないことを提供することで、都市部から訪れる方たちに癒しを届けていきたい」

2018年夏には額田商工会と連携し、地元の老舗蔵元・柴田酒造場(TURNSvol.33冊子P.14参照) が仕込みに使う天然水「神水(かんずい)」を凍らせ、地域の茶園や老舗旅館、カフェなどが特色を活かした“かき氷”を提供する、「おかざきかき氷街道」という取り組みも実施。7店が参加し、約6,000杯のかき氷を売り上げた。

「自分一人でできることは限られている。多くの人を巻き込み、地域全体で連携して魅力を発信していくことに、今後さらに力を入れていきたいです」

 

あいちの山里の中と外から魅力を発信する人たち

【地域の外(みよし市から)】奥三河☆星空の魅力を伝える会 星空案内人 萩野祐司さん

外の人だからこそ実感する 星空の美しさを伝えたい
教員としての最初の赴任先が豊根村の小学校だった萩野さんは、子どものころから星の観察が好きで、豊根村の満天の星に感動したのを今も覚えている。勤務地が豊田市に変わり奥三河から離れていたが、7年前に豊根村の「田んぼオーナー」に参加。その縁で観光協会から依頼を受け、「休暇村茶臼山高原」で開催したのが、現在毎月続けている星空観察会だ。

けれど、最初から多くの人が来てくれたわけではない。試行錯誤を続けるなか、同じく茶臼山高原にある「星空カフェてんくう」で、2015年冬にふたご座流星群を見る会を開催すると、約100人が来場してくれた。その後も毎年実施し、18年には春から12月まで毎月、星空観察イベントを行うまでになった。同時に17年からは「おくみかわ星空講座」を開始。初年度だけで27人の「星空案内人(星のソムリエ)Ⓡ」を認定。仲間が増えたことで、活動の幅もより広がった。

「これからも奥三河の星空の美しさを、一人でも多くの人に伝えていきたい。なかでも、地域の方にこそ、その価値を見直してもらえたらと感じています」
さらに、星空のガイドが一つの生業として成り立ち、その仕事がしたいからと、奥三河に移り住む人が出てくるようにしていけたらと、萩野さんは考えている。

【地域の中(東栄町)から】東栄町 集落支援員 若者地元会議 りん 代表 伊藤拓真さん

名古屋の大学に進学したころから、人口減少が進む地元・東栄町の現状に危機感を持つようになった伊藤さん。愛知県の「三河の山里起業実践者」に合格し、大学を休学して「オンパク」の手法を取り入れた地域資源を掘り起こす取り組みなどを進めてきた。2017年春には、通信制大学に転学。東栄町に再び根をおろし、18年4月からは集落支援員として足あし込こめ地区で活動している。

「人口が減っていくなかで、行政に頼っているだけでは、地域の課題解決は難しいです。一方で、住民の皆さんはそれぞれ得意分野があり、いろんなことが自分たちでできる。住民と行政をつなぐパイプ役になれたらと考えています」

まず、地域のことを考える機会として「足込のこれからを考える会」を開催。地域の課題や具体的な解決策について話し合うなかで、「ずっと住み続けたいと思える足込」を目指していこうとスローガンが生まれた。地域のつながりを強めるために、気軽に集まれる機会として、住民で「てんぷらの会」も開催した。

「地域の課題を解決していくためには、『自らの手で地域をよくしていこうと動ける人』を増やしていくことが大切。そのモデルケースを、まずはこの足込地区でつくることが目標です」


【問合せ先】

三河の山里サポートデスク
TEL:0536-32-6100
URL:http://spdesk.mikawayamazato.jp/


愛知県交流居住センター
TEL:052-232-1750
URL:http://www.aichi-kouryu.jp/


愛知県振興部地域政策課
山村振興室山村・過疎グループ
TEL:052-954-6097
URL:http://www.pref.aichi.jp/chiiki/sanson/


設楽町 企画ダム対策課
移住定住推進室
TEL:0120-060-514
URL:http://www.town.shitara.lg.jp/


東栄町 地域支援課
TEL:0536-76-0504
URL:http://www.town.toei.aichi.jp/1256.htm


豊根村 地域振興課
TEL:0536-85-1312
URL:http://www.vill.toyone.aichi.jp/


岡崎市 総合政策部企画課
TEL:0564-23-6030
URL:http://www.city.okazaki.lg.jp/1500/1501/p001106.html


「いなか暮らし総合窓口」おいでん・さんそんセンター
TEL:0565-62-0610
URL:http:www.oiden-sanson.com/


新城市 企画部企画政策課
TEL:0536-23-7620
URL:http://www.city.shinshiro.lg.jp/

写真:不破未希哉 取材・文:杉山正博、編集:DECO

                   

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