今の暮らしをベースにした
デュアルライフの始め方。
「デュアルでルルル ♪ カフェ vol.1 」開催レポート

移住先・移住希望先として、常に上位にランクインしている山梨県には、ライフスタイルに合わせて、さまざまな生き方、暮らし方をする人たちが集まっています。
そんな山梨県から、都市生活を送るリスナーに「ライフシフトのヒント」をお届けするのが、TOKYOFMで放送中のラジオ番組「デュアルでルルル♪」。1月29日、番組出演者と交流できるオンラインイベント「デュアルでルルル♪カフェvol.1」が開催されました。

第1回目となる今回のテーマは、「今の暮らしをベースにしたデュアルライフの始め方」。
東京を拠点に山梨との二拠点生活を送る2組のゲストを迎え、同番組のコメンテーターを務めるTURNSプロデューサーの堀口正裕を進行役に、デュアルライフの本音に迫りました。

コメンテーターとして参加した、やまなし暮らし支援センター移住相談員の齋藤萌さんによると、テレワークが普及したことで、2020年の窓口相談件数は、前年に比べて増加。首都圏で働く人たちのライフシフトへの動きは加速しているようです。

今回のゲストの方々も、東京と山梨、両方の拠点を生かすことで、自分のやりたいことを実現しながら、仕事でも成果をあげています。ゲストのお話から、今の時代だからこそできるデュアルライフのヒントが見つかりそうです。

 

道志村の星空の美しさに惚れ込んで

まずはゲストの自己紹介からスタート。一組目は、道志村で日本初の会員制のキャンプ場「CAMPSPACEDOSHI2.0」を運営する河西誠さんです。都内の外資系アパレル企業で働いていた河西さんの趣味はキャンプ。「日本一キャンプ場が多いエリア」である道志村に何度も通ううちに、村の魅力にすっかりとりつかれたそうです。好きが高じて、「自分でキャンプ場をつくりたい」という思いが募り、40歳で独立を決意しました。

「まずは土地を探してみようと、役場へ行って問い合わせてみても、なかなかうまくいかなくて。そこで、キャンプユーザーはどんなキャンプをしているのかを調査しようと、Twitterを始めてみました。キャンプ好きな人たちをフォローしながら情報を集める中で、『富士山近郊で本気でキャンプ場をやりたいんです。どなたかキャンプ場用地を持っていませんか?』と投げかけたところ、ご紹介いただいた3件のうち、1件が道志村の土地でした。1000坪の敷地は20サイトくらいの規模で、一人で管理するにはちょうどいい大きさでした」(河西さん)

ここで見せてくれたのが一枚の写真。そこには溢れんばかりに輝く満点の星空が広がっていました。

「東京から90分の道志村は周りに市街地がなく、『陸の孤島』のような場所なので、星が最高にきれいなんです。この星空を見て、絶対にこの場所でキャンプ場をやりたいと思いました」(河西さん)

土地が決まると、一人で村に通いながらキャンプ場づくりをスタート。地道な作業の様子をSNSで発信し続けたところ、その投稿を見て、作業を手伝ってくれる人たちが現地に集まり始め、キャンプ場は次第に形になっていきました。

給水や排水などのインフラ整備については、その資金を集めるためにクラウドファウンディングを活用。約一ヶ月で、目標額を上回る支援を集めました。

「SNSでやりとりしていた方々は今も深い付き合いですし、クラウドファウンディングで支援してくださった方々の多くは、今も継続して会員でいらっしゃいます。みなさん、僕のキャンプ場を『物語』として見てくださっている方々です」(河西さん)

「会員制」には、多くのメリットがあります。その最たるものは、会員一人ひとりが「自分のキャンプ場」という意識を持つことで、周囲への配慮が働くこと。トイレや水回りは清潔が保たれていたり、それぞれが自宅で不要になった椅子や焚き火代などの備品を持ち込み、会員同士で共有していたりと、「お互いさま」のマインドが生まれています。キャンプ場の看板やロゴも、会員のメンバーと一緒につくったもの。みんなでつくり、進化し続けるキャンプ場なのです。

まずは自分が地域に「役に立てる事」を考える

さらに、キャンプ場の運営を通して、村には、都会からは見えないさまざまな問題があることを知ったそうです。その一つが、高齢化などによって手入れが放棄された山林の存在でした。

この問題を解決しようと、河西さんは今、キャンプ場のメンバーとともに、自分たちで伐採した木を割って、キャンプで使う薪づくりを始めています。「地域で自分が何ができるのか、どう役に立てるのかを常に考えている」と言います。「地域の人たちは、何かあった時に助けてもらわないといけない大事な存在です。彼らと良い関係性を築くことを何より大切にしています」(河西さん)

 

なぜ、東京と山梨の二拠点生活が必要だったのか?

ゲストの二組目は、大月市に拠点を持ちながらデュアルライフを楽しむ田中祥人さん、ゆかりさんです。銀行員として働く祥人さんの転勤で、2017年に長崎から東京へ。自然やアウトドアが好きな二人は、都会生活の中でリフレッシュできる場所を求めて、2018年12月、大月市にある別荘を160万円で購入し、東京との二拠点生活をスタートしました。別荘をDIYでリフォームしながら、ツリーハウスやピザ窯など、さまざまなものをつくる生活を楽しんでいます。

きっかけは、都内の自宅から自然環境へのアクセスが悪く、休日にリフレッシュできないことでした。

「キャンプ場に車で行くにも、渋滞ばかりで時間がかかり、行っても施設やアクティビティの利用料は高く、おまけに人が多くてリラックスできず、結果的にストレスをためて帰ってくることが多かったんです。平日は仕事でクタクタ、休日も渋滞や人混みでストレスが増し、負のスパイラルに陥っていました。デュアルライフを始めてからは、休日はゆっくり過ごすことでリラックスでき、仕事もはかどるという好循環が生まれました。仕事へのいい影響も出ています」(ゆかりさん)

デュアルライフはお金がかかかる?

今でこそ、夫婦でデュアルライフを楽しんでいますが、当初は「大月市の物件を購入しよう」という祥人さんの提案に、「建物がボロボロで改装にお金がかかるんじゃないか」と、ゆかりさんは反対したそうです。そこはどう乗り切ったのでしょうか。

「まず、建物の改装は僕がDIYでやることを約束しました。さらにキャッシュフロー表を作って、今かかっているお金と二拠点生活でかかるお金を比較して、これだけ支出が抑えられるということや、初期費用は2年半で回収できることを妻に説明したんです」(祥人さん)

テレワークが可能になり、最近は平日も大月市の拠点で仕事をすることが増えてきたそうです。山梨で過ごす時間が増えたことで、祥人さんは、地元の農家さんを獣害から守るための狩猟を行うチームに所属し、地域に密着した活動も始めています。「質・量ともに、山梨の比率がどんどん上がってきています」と、今の生活の充実ぶりを話します。

「山梨には新たに拠点を持って、斬新な取り組みやビジネスを始める方々はたくさんいますが、僕たちは大したことはまったくしていません。なので、気楽なデュアルライフをしたい方にとっては真似しやすく、参考にしてもらいやすい。一歩を踏み出せば、3か月後には私たちのような生活ができていると思いますよ」(祥人さん)

今や移住や二拠点生活は一大決心ではなく、今の生活の延長線上で、やりたいことを実現するための選択肢の一つとして捉えられつつあります。

「この生活を始めた当初は、職場でも『変わったやつだな』と思われていましたが、昨今はデュアルライフに対する認知や理解が格段に高まってきたなと感じます。コロナの影響でテレワークが実現し、仕事とプライベートがゆるやかにつながったことは、デュアルライフを謳歌する上で追い風になっていますね」(祥人さん)

 

ここからはトークセッションとして、参加者の皆さんから事前にいただいた質問や疑問などを、進行役の堀口からゲストの二組に次々と投げかけます。

 

・ただキャンプ場を運営するのではなく、地域に役に立つことを真っ先に考え、行動してきた河西さん。地域とのより良い関係を構築するために、どんなことを心がけているのでしょうか。

「キャンプ場の会員であるメンバーにも、僕が地域でお世話になっている人たちを紹介するようにしています。メンバーにも地域の人たちの名前を覚えてもらい、地域の人で何か手伝ってほしいことがあれば、僕だけでなくメンバーにも行ってもらうようにしています。そうすることで、どんどん交流が深まり、新たに移住者も出てきています。そんな中で、『一つのコミュニティから村をサポートしていきたい』という思いが生まれました。薪づくりのプロジェクトもその一つ。村が抱えている課題を、僕たちのコミュニティが解決することで、Win-Winの関係をつくりたいと思っています」(河西さん)

 

・リフレッシュのための二拠点居住から一歩踏み込み、今では地域に入り込んだ活動を行う田中さん夫婦にも、同じ質問を投げかけてみました。

「地元の農家さんと接する時は、東京のルールを押し付けないことが大事です。ロジックで説明して納得させようと思わないこと。一緒に時間を過ごして信頼関係を構築しないと聞いてもらえない話なんて山ほどあります。地域のしきたりやルールに合わせて、信頼を積み上げてことが重要だと思います」(祥人さん)

 

・地域のコミュニティになかなか溶け込めない、地域の人たちとの軋轢ができてしまった、という話もよく耳にしますが、その辺りはどうなのでしょうか。

「農家の方からすると獣害から守ってもらい、我々からすると好きな狩猟ができている。お互いにWin-Winの関係性を築いていることもあってか、軋轢などは感じたことはありません」(祥人さん)

「僕の方もありません。それは、自分が村にどうか関われるかに重きを置いて、村の人たちが何を求めているのかを、常にこちらから掴みにいこうとしているから。そこは、村の人たちと親睦を深める上ですごく重要ですね」(河西さん)

 

・二拠点生活によって起きた、自分自身の一番の変化は?

「野菜を買わなくなったことですね。村にいるとお金が必要なくなるので、「貯金をする」という概念がないんです。今までは、貯金したお金で野菜を買っていましたが、今は、村の手伝いをすると、新鮮な野菜をもらえる。その環境をつくるには、地域の人たちとの絆や信頼関係が重要です。貯金するよりも、おいしい野菜を作ってくれる地域の人たちと仲良くした方が豊かだと思うんです。僕はこれを「貯信(信用を貯めること)」と呼んでいます」(河西さん)

 

・安定した職を捨てて、やりたいことに邁進する河西さん。「会員であるメンバーのために動き、利益は一切考えていない」と言いますが、やはり気になるのが収入面です。会社員時代と比べてどれくらい稼いでいるのでしょうか?

「会社員時代よりも年収は下がりましたが、生活費も下がったので、生活レベルは変わっていません。むしろ、自由に使える時間が増えて、好きな仲間とやりたいことができて最高ですね」(河西さん)

 

・「デュアルライフを始めたくても、どこから取りかかったらいいのかわからない」という質問も多いのですが。

「デュアルライフを始める前にぜひやってほしいのは、その場所に行ってワンシーズン過ごしてみること。夏は良かったけど冬を体験して想像と違った、と言われる方も多い。四季を経験した上で、本当にやりたいと思ったら、まずはどんな形でもいいのでやってみることが重要だと思います。ただ、僕たちのように物件を買ってしまうと、もう後戻りできないので(笑)、ゲストハウスやシェアハウスなどに滞在することから始めて、ダメなら後戻りできる状況をつくっておきましょう。肩ひじ張らず、気楽な気持ちで始めてみることが大事だと思います」(祥人さん)

田中さん夫妻の大月市の拠点は、購入さえしたものの、なるべく維持管理にコストをかけず、「いつ手放してもいいように」と常に先のことを考えているそうです。

「例えば、ガスや水道を契約していなかったり、風呂の設備はなくして温泉に行くようにしたり。冷蔵庫など最低限の備品以外は置いていません。キャンプの延長線上で過ごしているというイメージですね。車は東京ではなく山梨の拠点に置いていて、渋滞回避のために東京からは電車で山梨に行くようにしています。やってみて後悔はまったくなく、正直最高です。デュアルライフを考えている方は、すぐにでも始めていただきたいですね」(祥人さん)

このあとは、ブレークアウトルームに分かれて、参加者とゲストがコミュニケーションをとりながら、物件の探し方や東京と山梨の行き来の頻度、家族を説得する方法など、さらに具体的な質疑応答を重ねました。

 

どちらの生活も否定しないそれがデュアルライフ成功の秘訣

「今回印象に残ったのは、二組とも東京の生活や価値観を否定していないこと。それは今の時代、とても重要です。何かを諦めて次に行くのではなく、今の生活や仕事を生かしながらワクワクするような地域との関わり方がある。お二人のお話から、デュアルライフの新たな可能性を感じました。みなさんのライフシフトの一歩を踏み出すきっかけにしてほしいと思います」(堀口)

すぐにでも始められそうなヒントの数々に、ポンと背中を押された参加者は少なくないはず。考えるよりも行動あるのみ。
ライフシフトのきっかけは、私たちのすぐ目の前にありそうです。

文・中里 篤美

                   

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