2009年にスタートした、地域おこし協力隊制度。2022年度までに任期を終えた隊員は、20〜30代の若者を中心に 9,656名にのぼり、そのうち65%ほどが活動エリアに定住しています。
現在も約6,400名が少子化、過疎化が進む地域で活動していますが、彼らはなぜ地方で暮らし働く道を選択し、日々どのような思いで活動しているのでしょうか?また、それぞれの目に映る”地方の今”はどのような姿をしているのでしょうか?
TURNSでは連載企画「地域おこし協力隊が語る、地方で暮らし働くリアル」を通して、全国で活躍する協力隊一人一人の声をお届けしていきます!
連載第1弾は、人口約2,000人、高齢化率52%超の東京都檜原村で活動する、高野優海さんです!
高野 優海さん|東京都檜原村地域おこし協力隊
1995年、神奈川県川崎市生まれ。都内の大学を卒業後、都心のベンチャー企業勤務、栃木県・非電化工房での自給自足の修行を経て、2022年8月より檜原村地域おこし協力隊に着任。フリーミッション型の地域おこし協力隊として、移住情報の発信やイベント企画などを行う。副業で、ウェブメディアのライターや西多摩エリアの地域新聞の記者としても活動中。
▷檜原村協力隊公式note「ひのはらマガジン」
https://note.com/hinoharamagazine
▷高野さんSNS
https://linktr.ee/yuumitakano
東京の大自然の中で
-高野さんが活動されている、東京都檜原村はどんな地域ですか?
東京本土唯一の村で、人口は約2000人。総面積の93%を山林が占め、都心から約1時間半ほどの距離にも関わらず、東京とは思えないようなダイナミックな自然が広がる村です。多摩川最大の支流である「秋川」源流の里で、透き通った川にはアユやヤマメが泳ぎ、沢筋には多くの滝が点在します。春には新緑、夏には清流での川遊び、秋には紅葉、冬には滝の氷瀑と、四季折々の自然の美しさを楽しめるところも魅力です。
-地域おこし協力隊を志したきっかけについて教えてください。
都心で仕事をするなかで「経済的価値には直接結びつかない個性や物事がもっとちゃんと大切にされるには、どうすればいいんだろうか?」という疑問を持つようになりました。その問いに対して私が立てた仮説が「一人ひとりが大きな経済システムへの依存度をもっと下げて暮らせるようになれば、つまり、自給自足ができるようになればいいのでは?」というものでした。そうすれば個々人が「経済合理性」というモノサシともう少し心地よい距離を取りながら、暮らしていけるのではないかと思ったんです。
そこでまずは自分が自給自足の技術を学ぼうと、会社を辞めて栃木県那須郡にある「非電化工房」という場所に弟子入りし、住み込みで農業や大工仕事などの技術を学びました。
檜原村と出会ったのは、工房での1年間の学びのカリキュラムが終了し、学びを実践するための移住先を探していた頃。全国の地域おこし協力隊の求人を調べるなかで檜原村の募集を見つけ、都心や実家との距離の近さに魅力を感じました。というのも、栃木県の山奥で1年間暮らすなかで、自分の幸せには「家族や友人とも頻繁に会えること」と「本屋や映画館に気軽にアクセスできること」がとても大切であることを逆説的に実感したんです。栃木県よりももう少し都心に出やすい場所で、半自給自足の暮らしの実践がしたいと考え、檜原村の協力隊に応募しました。
-現在はどのようなミッションで活動されていますか?
隊員自ら地域課題を見つけてミッションを決める、「フリーミッション」のポジションで活動しています。直近の活動としては、もともとライターをしていた経験を活かし、移住者向けの情報発信をしているほか、映画の上映会やマルシェの開催など、地域活性化・関係人口創出のための新たなイベントを企画・実施しています。
-一週間の活動スケジュールを教えてください。
活動内容は週ごとに全く異なりますが、とある一週間のスケジュールはこんな感じですね。檜原村の協力隊は週4勤務で、平日は週に一度、自分の好きなタイミングで休みを取ることができます。上記のスケジュールでは、金曜日を休みとし、副業に充てています。
土日はがっつり村内の行事があることもあれば、都心や別の地域に遊びに出ることもあります。
-これまでにどのような活動をされてきましたか?
これまで檜原村では移住者の生の声など移住に関する情報発信はほとんど行われていませんでした。そこで、着任後に「ひのはらマガジン」を立ち上げ、移住者へのインタビュー記事や自分が檜原村で生活してみて感じたことを綴るエッセイを通して、檜原村の生活の魅力を多くの人に知ってもらえるよう発信しています。ほかにも廃校での映画上映会や100%村民出店のマルシェを企画・運営し、地元住民同士が交流する機会や村外の人々が村の関係人口となるきっかけをつくる取り組みを行っています。
協力隊の業務外では、耕作放棄地で野菜を育てたり地域の山を共同管理する地域団体に所属し、山の整備や植樹のお手伝いをしたりもしています。
-どんな時に「協力隊になって良かった!」と感じますか?
記事の執筆やイベント企画、村民の方々のお手伝いなどの活動を通じて、村民の方々から「高野さんが村に来てくれてよかった!」と声をかけていただけた時ですね。
地方は常に人手不足なので、自分が必要とされている・自分が役に立っている実感を持ちやすく、都心で働いていた頃以上に「自分がいることの意義」を強く感じながら生活できている気がします。
-今後、どのような活動をしていきたいですか?
将来的には、村内での事業と村内に限らないライター・記者としての活動の二足の草鞋で生計を立てていけたらと考えています。
村内での事業の内容はまだ具体的には決まっていませんが、お世話になった檜原村に恩返しをする意味でも、村内でも仕事を作りたいという思いがあります。そのため、協力隊の任期終了後に起業、または村内の事業者から業務委託で仕事を請け負えるよう、引き続き活動していきたいです。
“地域”という、小さな共同体が教えてくれたこと
-実際に地域で暮らし、働いてみて分かったこと、気付いたことはありますか?
缶コーヒーのCMじゃありませんが、「世界は誰かの仕事でできているんだ」ということを、地方に住んで初めて実感できた気がします。
都心で働いていた頃は、違う業界や業種の人と関わる機会はほとんどなく、関わったとしても三次産業に携わる方々ばかりでしたが、地方で暮らしてみると「同じ村に住んでいる」というだけで様々な業界・業種の方々とつながる機会があります。また、地方では一次・二次産業に携わる方も多く、そうした方々と関わるなかで自分の衣食住の元になるものがどのように生産されているかを知る機会になり、自分の生活がいかに一次・二次産業に従事する方々に支えられてきたかを実感しました。特に檜原村の基幹産業の一つである林業に関しては、移住前は一切、人にも現場にも関わる機会がありませんでした。
極度に分業が進んだ今の社会では、仕事や社会の全体像が掴みづらくなっていますが、地域共同体という小さな社会に属することで、私たちが生きる社会の全体像を少し掴むことができたような気がしています。
-地域で暮らし、働くことの良さやメリット、魅力はどんな所にあると思いますか?
地方は人手が足りていないからこそ、経験・未経験問わず色々な声かけをもらい、さまざまなことにチャレンジできる環境があると感じます。実際に私は、檜原村に来る前はウェブメディアでの記事執筆経験しかありませんでしたが、村に来てから業務委託で新聞記者の仕事にチャレンジさせてもらえることになりました。
また、自治会や地域団体の集まりも定期的にあり、地域内での人のつながりが濃く、災害などの有事の際に助け合える安心感があります。しかも村民の方々は皆さん、山や川や畑に詳しい、自然のエキスパートとも呼べる方々なのだからなおさらです。
また、「たくさん作って余ったから」と美味しいおかずをいただいたり、「自分のところでは食べきれないから」と採れたての野菜をいただいたり、そのお礼に庭の草刈りや畑のお手伝いをしたりと、お金によらない価値交換がたくさん行われることで、「最悪、お金がなくてもすぐに死ぬことはない」という安心感も、日々むくむくと育っています。
-移住前に抱いていた「地方暮らし」のイメージと実際の暮らしとの間に、ギャップを感じたことはありますか?
檜原村に来る前、1年間栃木県那須郡での暮らしを経験していたため、檜原村移住時には大きなギャップはありませんでした。
都心から那須に移住した際には、畑仕事は想像の何倍も時間と労力がかかることを体感したり、自然の近くで暮らすとは自然から癒しを得るだけではなく、自然がもたらす危険性や不確実性と隣り合わせになることなのだと実感したりと、自分が勝手に思い描いていた「のどかで豊かな地方暮らし」の現実的な側面を身をもって味わい、戸惑いや苦労もありました。でも今では、そうした大変な面も理解したうえで、地方での暮らしに心地よさを感じています。
-移住後に自治体職員や地域住民から受けたサポートはありますか?
移住した直後、協力隊担当の自治体職員の方に伴われて、同じ自治会の方々への挨拶周りを行いました。どのタイミングでどの範囲まで挨拶をするべきなのか?菓子折りは持っていくべきか?など、地域の暗黙の了解は移住者にはなかなか分からないので、右も左も分からない時期に、スムーズに地域に馴染めるよう支援してもらえてとても助かりました。
-地域住民と交流する中で印象的だったエピソードはありますか?
しばらく家を空けなくてはならなかった時、「苗を植えたばかりの畑の水やりをどうしよう…」と考えていたら、近くで畑をしている方々が「俺たちが代わりに水をやってやるよ!」と声をかけてくださったことです。
都心で暮らしていた頃は「自分のことは自分でなんとかしなくては!」という気持ちが強かったので、「人に頼っていいんだ!」ということがとても新鮮に、ありがたく感じられました。
地方暮らしのリアルQ&A
-移住後の住居はどのように探しましたか?
檜原村の地域おこし協力隊は、村役場が借り上げている村内の住宅を借りられることになっており、私は現在、数年前に空き家になった一軒家を借りて住んでいます。自分の希望の住居は選べませんが、自分で探す必要はなく、大家さんとのやり取りも役場が間に入ってくれるので、入居の際もスムーズでした。
-地方で暮らし働く上で大切にすべきポイントはありますか?
地方に移住するということは、単に住む物件を見つけることではなく、地域の皆さんの仲間入りをさせていただくことなのだという意識を持つことが大切だと思います。
多くの人は地方の豊かな自然や文化に惹かれて移住を考えると思いますが(私もそうでした)、その土地の自然や文化をずっと守ってきた地域の方々に感謝と敬意を持ち、「自分にとって理想の場所に住みたい!」と、地域を自分のために利用しようとするのではなく、「地域のために、自分は何ができるのか」というスタンスを持つことではじめて地域の方々と良い関係性を築くことができ、豊かな生活につながっていくと思います。
-地域コミュニティに馴染むポイントやコツを教えてください!
地域にしっかりと馴染んでいる先輩移住者から、「僕が個人的に大切していたのは、地元の皆さんの言うことは素直に聞くこと。皆さんの方が地元での経験が長く、知識もあるのだから、まずは素直に皆さんのやり方に従うことを意識していた」というお話を伺ってから、私も同じことを意識してきましたね。
自分なりの意見があるとしても、まずは地域の方々のこれまでのやり方に敬意を払い、そのやり方を自分でも実践してみる。そうして地域の方々との信頼関係を構築できてから、自分の意見を伝えるよう心がけています。
-これから協力隊になりたい方や地方移住したい方に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします!
私が地方移住を考えるきっかけになったのは、「経済的価値には直接結びつかない個性や物事がもっとちゃんと大切にされるには、どうすればいいのか?」という疑問でした。実際に2年ほど地方で暮らしてみて、この疑問を解くためのヒントが、地方にはある気がしています。なぜなら経済合理性以外のもの――例えば伝統や調和――を経済合理性以上に大切にする文化が、多くの地方にはまだ残っているからです。それゆえの面倒くささや難しさも当然ありますが、それはまわりまわって、経済が大きな力を持ちすぎた世界のなかで自分を救い、支えてくれるものになると感じています。私と同じような疑問を持っている方がいれば、ぜひ一度、地方での暮らしを体験してみてほしいです!
\高野さんからのお知らせ!/
“檜原村協力隊公式note「ひのはらマガジン」では、協力隊がつづる檜原村の暮らしにまつわるエッセイや、移住者の方々のインタビュー記事などをお届けしています。ぜひ、檜原村の暮らしのリアルを覗いてみてください^^
また、こちらの記事を読んで私個人に親近感を感じてくださった方は、ぜひSNSでつながっていただけたら嬉しいです。ライターとしてのお仕事も募集しています◎
文:高野優海さん
\檜原村特集!/
■人と共生する美しい森が、檜原村の希望になるまで
株式会社東京チェンソーズ・青木亮輔さん
https://turns.jp/80955
■東京の木のおもちゃに込める、100年先への希望
株式会社東京チェンソーズ・木田正人さん、飯塚潤子さん
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■今、おすすめのワーケーションスポット「Village Hinohara」に行ってきました!
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■東京の消滅可能性都市・檜原村に移住希望者が絶えない理由。
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\地域おこし協力隊の皆さまへ!/
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