まちと人がつくるマグマのような熱気が充満中!400人の小さな一歩が、まちを楽しむ「ムーブメント」になるまで(後編)

かごしまラバーズプロジェクト / PLAY CITY! DAYS <2019~2021>

(前編はコチラより)

 

目指すのは、まちづくりではなく、まちおもい。

“自分のまちに愛着を持つ市民が多い”といわれる鹿児島市。そんな“かごしまラバーズ”のまちへの想いを新たな活動につなげることで、鹿児島市を想う人の輪を広げようと、2019年から3年間でのべ400人近くを巻き込む一大プロジェクトが行われてきました。それが、鹿児島市のシティプロモーションの一環としてスタートし、2021年にプログラムを一新した「かごしまラバーズプロジェクト」です。

このプロジェクトの中心となるのが、100人規模の実践型ワークショップ『PLAY CITY! DAYS』。もともと市民向けに行われてきましたが、3回目となる2021年は、まちをもっと楽しみたい市民と鹿児島市と関わりを持ちたい首都圏の人たちがチームを組み、ともにまちの魅力を発見し、磨き、発信しました。

『PLAY CITY!DAYS』には、“まちを楽しむ日々を続ける”という意味が込められています。その言葉の通り、まちを楽しむ経験をした参加者によって、自由でユニークな取り組みが市内各地で生まれ、新しい人を巻き込んでいます。『PLAY CITY! DAYS』での体験は、参加者にどのような変化をもたらしたのでしょうか。まちを想う活動を続ける3人の参加者にお話を伺いました。


まちへの想いがまっすぐに伝わる、まち×音楽の可能性

3年間にわたって『PLAY CITY! DAYS』に関わり、参加者の心を掴む公式テーマソングを制作してきた徳留将樹さん。思わず口ずさみたくなるようなメロディと、毎年変化する『PLAY CITY! DAYS』の雰囲気や参加者の思いを的確に捉えた歌詞は、関わる人たちの共感を呼び、心の拠り所になってきました。

鹿児島市出身の徳留さんは、京都の大学に進学し、学業のかたわら音楽活動をスタート。関東にある酪農関係の会社に就職したのち、音楽で地域に関わりたいという思いから、2017年に鹿児島県南部の指宿市へ移住。自治公民館の職員として働きながら、新たに結成した音楽ユニット『はとむすび』での活動も行ってきました。

「子どもたちにウクレレを教えたり、指宿市のテーマソングを自作したり、音楽と地域をつなげた活動を模索してきましたが、まちづくりというのに少し疲れてしまって。気分を変えようと思って、2019年に地元の鹿児島市に引っ越しました」

ちょうどそのタイミングで『PLAY CITY! DAYS』のことを知り、「新しいまちや人に出会えるかな」という気軽な気持ちで参加。それ以来、2020年も参加者として、2021年には参加者にアドバイスなどを行うサポーターとして、つながりを持ち続けてきました。

「鹿児島市は魅力が尽きない、そう思わせてくれたのが『PLAY CITY! DAYS』でした」

そう語る徳留さんが『PLAY CITY! DAYS』のテーマソングを制作することになったのは、ごく自然な流れだったそうです。

「2019年のプログラムの終盤に差し掛かった頃、市役所で『PLAY CITY! DAYS』の運営を担う一般社団法人鹿児島天文館総合研究所Ten-Lab(テンラボ)の方々と話をしているときに、テーマソングを作りたいね!という話になったんです。その場で、当時テンラボの代表だった永山さんが歌い出しの部分を作り、Aメロの歌詞ができ上がりました。それから怒涛の制作作業の末、1ヶ月後になんとか完成させることができました」

その歌い出しというのが、“まちづくりはできなくても、まちおもいは私にもできる。この一歩が誰かにとって このまちを愛するきっかけになるかも”というフレーズ。「ここに、『PLAY CITY! DAYS』にかける市役所の皆さんの思いが込められている」といいます。

初めてオンライン開催となった2020年のテーマソングには、“そろそろ慣れてきたんじゃない?オンライン” “画面越しに交わすNice to meet you” など、この年ならではの心に響く歌詞が散りばめられています。

「曲を作るためには『PLAY CITY! DAYS』の全体像を把握することが大切なんですが、2020年はオンライン開催になったので、気軽に参加メンバーに会うことができず、全体の空気感を掴むのが難しくて。そこで、いろんなチームのまち歩きに参加させてもらい、そこから得た体験や感覚をヒントにつくり上げていきました」

さらに、2021年は3年間の『PLAY CITY! DAYS』の集大成として、市役所や運営スタッフの思いを深掘りし、まちの未来につながるような内容に仕上げました。

指宿市に住んでいた頃から、地域や街並みを表現した曲づくりに挑戦し、「まちへの想いを歌にする活動を個人的なものではなく、地域公認の取り組みにしたいという思いを持ち続けていた」という徳留さん。その思いを、地元の鹿児島市で実現できたといえます。

「『PLAY CITY! DAYS』では毎回100人以上の人たちが得意なことを持ち寄り、お互いに助け合いながら、一つの企画を作っていきます。その中で、僕は曲が作れるので、ただ作れるだけで終わらず、勢いで“作っちゃった”というのが大きいですね。損得勘定なしに、まちのために行動できることが、“まちおもい”なんだなと実感しています」

『PLAY CITY! DAYS』が大事にしてきた、自分とまちの関係性を見つめるまちおもいという考え方。これに共感した徳留さんは、まちおもいを音楽にする体験を広げていこうと、2021年秋、『PLAY CITY! DAYS』の参加者を対象に「まちおもい作曲ワークショップ」を開催しました。そこから、まちや生き方を歌った4つのオリジナルソング、そして新しいバンドまで生まれたそうです。

『PLAY CITY! DAYS』との出会いによって、一方的で自己満足になりがちだと感じていた音楽活動が、まちや人と関わりを持つ双方向のものとなり、まちおもいに音楽を掛け合わせた活動として、新たな広がりを見せています。

「自分の街を伝える手段の一つに、音楽があるんじゃないかと思っています。普段の生活にもっと気軽に音楽を取り入れ、音楽でコミュニケーションする楽しさを伝え続けていきたい。そして、鹿児島市民みんなが“シンガーソングライター”になる、そんな日を夢見ています」

 

仲間がいるから実現できた、気軽に集まれるリアルな場づくり

たくさんの仲間ができることは、『PLAY CITY! DAYS』の大きな魅力の一つ。『PLAY CITY! DAYS』の楽しさを体感したことで、プログラム終了後も、参加者が気軽に集まれるリアルな場をつくっているのが、鹿児島市の出版社に勤める有川直輝さんです。

鹿児島市出身の有川さんは、大学時代にまちづくり団体のイベントに参加したことで地域への関わりを深めていきました。『PLAY CITY! DAYS』が始動した2019年は大学4年生。もちろん興味を惹かれたものの、就職活動の時期と重なっていたことから参加を断念しました。ところが、参加者たちがまちを楽しんでいる様子をSNSで目にする中で、参加しなかったことへの後悔と、来年こそは必ず参加したいという想いが湧き上がってきたそうです。

そして、2020年に念願の参加を果たし、鹿児島市南部の谷山エリアを対象としたチームで活動。谷山の慈眼寺公園に有名なそうめん流しスポットがあることに絡めて、“人生谷あり山あり”を合言葉に『なんでも流し』という企画を考案。割った竹にそうめんではなく、”流してしまいたい”失敗談や失恋話などのお題を入れたカプセルを流し、各参加者が引き当てたお題に沿って語り合うというユニークなイベントを行いました。

 そんな活動を通して、「チームのみんなでまちを知って一緒に楽しむプロセスが本当に楽しくて、どハマりしてしまった」という有川さん。2021年は地元である北西エリアを対象とするチームにサポーターとして参加しました。サポーターという立場でも、楽しむことを大切にする姿勢は変わらず、オンラインでのチームの雰囲気づくりに苦労しながらも、チームの盛り上げ役を果たしました。

「鹿児島を出ようと考えたことは一度もないほど、このまちが好き」という有川さんの趣味はカフェ巡り。大好きなまちを知ってもらいたいと、インスタグラムで県内でおすすめしたいカフェを紹介してきました。その一方、『PLAY CITY! DAYS』に参加したことで、人とリアルに対話することの魅力を実感。そこから、カフェを紹介する”場”をつくることを思い立ち、県内各地で『カフェる』というイベントをスタートしました。

「『カフェる』にあるのは、おすすめのカフェを紹介する展示と僕が淹れるコーヒーだけ。主役は“集まってくれる人”たちです。ふらっとコーヒーを飲みにきた人たちに、会話や展示から自然の流れでカフェを知ってもらえるような場を目指しています。『PLAY CITY! DAYS』で出会った人たちがたくさん来てくれて、コミュニティの場になっていることがすごくうれしいですね」

焙煎を生業とする『PLAY CITY! DAYS』の参加メンバーが『カフェる』専用のブレンド豆を提供してくれるなど、「得意なことで助けてくれるメンバーたちの存在は大きい」といいます。これからも定期的にイベントの開催を続けていくだけでなく、その先に新たな目標を見据えているそうです。

「人が集まるまちの案内所のようなカフェをつくるという新たな目標が生まれました。5年以内には実現したいと準備を進めているところです」

 

縁もゆかりもないまちで出会った、人生を豊かにするライフワーク

『PLAY CITY! DAYS』から始まったまちおもいのムーブメントは、首都圏にも広がっています。2021年の『PLAY CITY! DAYS』は参加対象を首都圏在住者にまで拡大し、市民と首都圏の人がともにまちを楽しむ企画をつくり、実践につなげました。

神奈川県の相模原市役所に勤める中島歩美さんも、2021年の首都圏メンバーの一人。鹿児島に縁もゆかりもなかった中島さんが、『かごしまラバーズプロジェクト』に関わるきっかけは、パートナーが鹿児島にUターンしたことで、鹿児島市と相模原市の二拠点生活を考え始めたことでした。鹿児島の情報を集める中で、首都圏在住者向けの連続講座『かごしまラバーズアカデミー』の参加者を募集していることを知り、2020年に参加しました。

『かごしまラバーズアカデミー』は、『かごしまラバーズプロジェクト』の一環として2019年、2020年に開催された、首都圏在住者が鹿児島市との関わり方を探る4ヶ月間のオンラインプログラム。このプログラムの中で、中島さんは“公務員の自分ができることは何か”を考え抜いた末、地域を超えた公務員同士の交流が気軽にできる世の中にしたいと、鹿児島市と相模原市の自治体職員が情報や意見をやりとりするオンライン交流会を企画。さらに、鹿児島市内に拠点を持ちながら、市役所の仕事を継続できる環境づくりを目標に掲げました。

続く2021年は『PLAY CITY! DAYS』に参加し、歴史文化チームで活動。その中で、中島さんのライフワークとなる鹿児島を代表する伝統工芸品、大島紬に出会いました。チームでは、大島紬の着物を鹿児島市内でレンタルできる店や大島紬に触れられるスポットを発信してきたほか、重要文化財である『異人館』とのコラボイベントとして、大島紬をはじめとした鹿児島の歴史・文化を紹介する『かごラバ歴史文化フェス』も開催。都内では大島紬を着て鹿児島ゆかりの場所を歩くイベントも行いました。

「その美しさと着心地の良さに惚れ込み、大島紬をコレクションし始め、着付けまで習い始めました」という中島さん。そんな彼女に奇跡のような出来事が起こりました。

「自宅のすぐ近くに、大島紬の若き織工である中川裕可里さんのアトリエがあることがわかったんです。本場の奄美大島で修行した彼女を支えようと、鹿児島在住のメンバーと一緒に活動を始めています。今年2月に都内で開催された鹿児島の物産展では、私が鹿児島市役所・東京事務所の方と直接やりとりし、彼女がつくる大島紬のアクセサリーを販売させてもらいました。大島紬のPRを自主的に行っているので、勝手に“鹿児島観光大使”と公言しています(笑)」

『かごしまラバーズアカデミー』の参加者だった仲間と一緒に、大島紬に特化した旅行企画も計画中だそうで、「首都圏にいても一緒に楽しめる仲間がいるからこそ、活動を継続できている」といいます。

「私にとって、大島紬との出会いはすごく大きいものでした。これからも大島紬を軸とした活動を続けていく一方で、鹿児島市と相模原市を行き来しながら働ける環境づくりにも取り組み、ライフワークと仕事の両輪で鹿児島市と関わっていきたい。今では、鹿児島市は第二のふるさとのような存在です」

まちを心から楽しみ、行動することが、自分とまちとの関わりだけにとどまらず、自分自身を見つめ直し、人生の新たな一歩を踏み出すきっかけにもなっているようです。

2019年にスタートした鹿児島市のシティプロモーション戦略ビジョン(第一期)は3年間の事業を終え、2022年4月から新たなステージに突入します。今後はどのような展開が待っているのでしょうか。鹿児島市広報戦略室の高野室長はこのように語ってくれました。

「3年間にわたる『かごしまラバーズプロジェクト』を終え、今確実に言えるのは、まちに積極的に関わろうとする市民の熱量が高まったことと、鹿児島市外の鹿児島ファンが増えたことです。今年の4月からは、シティプロモーション戦略ビジョンの第二期として、これまでのプロジェクトから一歩進んだ取り組みを進めていきますが、その中で大事なことは二つあります。一つ目は、『PLAY CITY! DAYS』で広がった鹿児島ファンの輪をさらに広げていくこと、そして、二つ目は、鹿児島ファンのネットワークをつくり、市内外で生まれている個人の取り組みをネットワークの力で長く継続させていくことです。これからも関わってくださる市内外のみなさんとともに、鹿児島市を想う人と人の強い関係性をつくり、まちの持続的な発展につなげていきたいと思います」

まちおもいのムーブメントによって、マイプロジェクトを持つ市民が続々と増えている鹿児島市。まちを想う日々を続ける「PLAY CITY!DAYS」が、イベントではなく、市民の日常になる日も、そう遠くはないのかもしれません。

文:中里篤美 写真:一般社団法人テンラボより提供

                   
『KAGOSHIMA LOVERS PROJECT』の詳細はコチラ
 

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