シティプロモーションの鍵を握る、“まちに愛着を持つ市民”の存在
『鹿児島市』と聞いて、何を思い浮かべますか?
世界有数の活火山である桜島や明治維新に多くの功績を残した西郷隆盛は、言わずと知れた鹿児島市のシンボル。でも、鹿児島市が一体どんなまちなのか、意外と知らない人は多いのではないでしょうか。
鹿児島市の魅力の一つが、人、まち、自然が近いこと。繁華街から、オフィスエリア、昔ながらの風情が残るレトロなまち、子育て世代が集まる住宅地、そして、大自然まで、多様な過ごし方ができるエリアが車で片道1時間圏内に広がっています。近所の人同士で声をかけ合う温かなつながりも生きていて、“自分のまちに愛着を持っている人が多い”ことも特徴です。
城山展望台から見た鹿児島市街地
そんな“かごしまラバーズ”のまちへの想いを新たな活動につなげることで、鹿児島市を想う人の輪を広げようと、2019年から3年間で、関係者含めのべ400人近くを巻き込む壮大なプロジェクトが行われてきました。それが、鹿児島市のシティプロモーションの一環としてスタートし、2021年にプログラムを一新した『かごしまラバーズプロジェクト』です。
このプロジェクトの中心となるのが、100人規模の実践型ワークショップ『PLAY CITY! DAYS』。もともと市民向けに行われてきましたが、3回目となる2021年は、まちをもっと楽しみたい市民と鹿児島市と関わりを持ちたい首都圏の人たちがチームを組み、ともにまちの魅力を発見し、磨き、発信しました。
2020年度のPLAY CITY! DAYSで開催した運動会企画の様子
「『PLAY CITY! DAYS』では、参加者の熱量の高さに驚かされることの連続でした」と語るのは、このプロジェクトに3年間伴走してきた鹿児島市広報戦略室の石原朋大さん。桜島のマグマのようなまちや市民の熱量に動かされ、ここ数年で市内外の鹿児島ファンがどんどん増えているそうです。
鹿児島市で今、何が起こっているのでしょうか。石原さんと、『PLAY CITY! DAYS』の運営メンバーで一般社団法人鹿児島天文館総合研究所Ten-Lab(テンラボ)の冨永咲さん、門間ゆきのさんに話を伺いながら、3年間のシティプロモーション活動を振り返り、鹿児島市のまちと人の魅力をひも解いていきます。
市内外で鹿児島ファンの輪を広げる『かごしまラバーズプロジェクト』とは?
鹿児島市では、人口減少が進む中で、持続可能な発展を目指すべく、2019年からシティプロモーション戦略ビジョンを策定してきました。『市民のまちへの誇り(シビックプライド)を醸成すること』『市域外の関係人口を増やすこと』を目的に、鹿児島市の魅力や価値を “鹿児島市を想う皆さんとともに高めていく” ことで、”市内外に鹿児島ファンの輪を広げる” ことをゴールとした取り組みは、3年間を通じてさまざまなプロジェクトに展開されました。
2019年は対象者別に、首都圏向けには関係人口の創出プロジェクトを、市民向けにはシビックプライド醸成の『PLAY CITY! DAYS』を実施し、2020年からはさらに相互の連携を高めた事業としてスタート。このとき首都圏向けに開催した事業が最初の『かごしまラバーズプロジェクト』です。約3カ月間の講座を通して、首都圏にいながら鹿児島市との関わりを生むような企画がたくさん立ち上がりました。
2020年度のKagoshimaLoversAcademyで参加メンバーが発表した鹿児島市との関わり方
これと並行する形で、仲間とともに鹿児島市の魅力を磨く4ヶ月間の市民ワークショップ『PLAY CITY! DAYS』が行われ、市民が自分のまちを楽しむ企画をつくり、発信してきました。
そして、2021年は二つのプログラムを融合し、さらにパワーアップ。市民と首都圏の人たちが交流しながら、鹿児島市への想いをともに深め、共感した人々を巻き込みながらつながりの輪を広げていく、新たな『かごしまラバーズプロジェクト』へと生まれ変わりました。
鹿児島市シティプロモーションのシンボルマーク
「シティプロモーションのブランドメッセージである『あなたとわくわく マグマシティ』には、“市民と市外の人が思いを重ね、共にわくわくする未来を紡いでいこう”という想いが込められています。2021年のプロジェクトは、この想いをより体現する形へとリニューアルしました」(石原さん)
2021年の『かごしまラバーズプロジェクト』は、鹿児島の人やまちの面白さに触れる全6回のオンライントークイベント『かごしまラバーズミートアップ』を皮切りに、首都圏の人と市民がともに楽しみながらまちの魅力を発掘・発信するワークショップ『PLAY CITY! DAYS』、そして『PLAY CITY! DAYS』で生まれた企画を市内外の多くの人に体験してもらう『かごしまラバーズフェス』という3つの柱で展開してきました。
とことん楽しむことから、まちを想う一歩が生まれる
まちを楽しみながら鹿児島市への想いを深める市民向けのワークショップとして2019年にスタートした『PLAY CITY! DAYS』。2年間で、高校生や学生、会社員に公務員、経営者など、肩書きや年代も多種多様な280人以上の参加者が集まり、まちの魅力を伝える42本の動画と27本の企画が生まれました。
3回目となる2021年は、参加対象者を市民だけでなく、首都圏在住者にまで拡大。約100名の参加者が市内6つのエリアと農・食、子育て・教育、歴史・文化、ツーリズムの4つのテーマ、計10チームに分かれ、8月から12月の5カ月間にわたって鹿児島市の魅力を磨く企画に取り組みました。
2021年度のPLAY CITY! DAYSで中央チームが企画した写真展の様子
「過去2回との違いは、自分たちが楽しむだけでなく、まちの魅力を多くの人に発信し、新しい人を巻き込んでいくことをゴールに設定したこと。このゴールを目指して、企画づくりから実践につなげてもらいました」(冨永さん)
コロナ禍もあり、2020年度からはワークショップをオンライン開催し、参加者たちが、鹿児島市について学び、まちへの理解を深め、チームごとにまちを楽しむための企画を考えました。その後は、密を避けながら実際にまちに繰り出し、企画を具体的に練り上げていく。これと並行して、ライティングやSNS発信、動画・写真の撮り方など企画の実践に役立つスキル学ぶ『スキルアップ講座』も開催し、参加者の企画づくりをサポートしました。
2021年度のPLAY CITY! DAYSで桜島チームが企画した桜島の魅力を伝えるYoutube動画
そして、10月末には各チームがつくった企画を発表する『かごしまラバーズフェス』をオンラインで開催。さらに、11月~12月は体験期間として、お披露目した企画を一般の人に楽しんでもらうことで、チームの熱量を街中に広げていきました。
「仲間と一緒に楽しみながら企画をつくって実践するだけでなく、それを一般の人たちに体験してもらうことは、参加者のさらなる達成感や楽しさにつながったんじゃないかなと思います」(門間さん)
『PLAY CITY! DAYS』は参加者の熱量が高く、途中で離脱する人が少ないことが特徴の一つ。参加者が関わり続けたくなる最大のポイントは、楽しむことを大切にしているところにあります。「参加者が楽しんだ先に企画が生まれることを大事にしてきました」という冨永さん。特にすべてのプログラムをリアルで開催することができた2019年は、鹿児島最大の繁華街、天文館のアーケード内に巨大なミラーボールを置いてディスコを楽しんだり、桜島を眺められる海水浴場でこたつパーティーをしたり、何かと制約が設けられることの多い行政事業では考えられないほど、自由でユニークな実践が自然発生的に生まれました。
2019年度のPLAY CITY! DAYSで参加者が企画した冬の海水浴場を楽しむ「磯でこたつパーティー」の様子
とはいえ、チームで企画をつくっていくことは楽しいことばかりではなく、さまざまなハードルがあったようです。
「各チーム10人前後のメンバーがいる中で、チームの意見をまとめることや、スケジュールを合わせることだけでもひと苦労です。特に2020年からはオンライン中心のやりとりで、2021年はそこに首都圏メンバーが入ったので、リアルで会うことがさらに難しくなるなど、たくさんのハードルがありました。でもチームごとの企画や参加者の感想を見ると、そんな苦労も含めて楽しんでもらえていたんじゃないかなと感じています」(冨永さん)
前年までとは異なり、今年度は首都圏メンバーが加わったことで、各チームの企画の内容は外の目線を活かしたものへと変化したそうです。
「東京にある鹿児島のアンテナショップを巻き込んだ企画や、首都圏の視点で鹿児島の魅力を発信するものなど、2021年は多くのチームが“首都圏メンバーがいるからこそできること”を模索してくれました」(冨永さん)
2020年度と2021年度の首都圏メンバーが一緒になって企画した東京の鹿児島ゆかりスポットをめぐるまち歩き
“鹿児島市と首都圏の人がそれぞれのメリットを生かしながら一緒に活動する”という新たな形が生まれてきました。
「『PLAY CITY!DAYS』では、4~5ヶ月もの間、チームで試行錯誤し、小さな衝突を何度も乗り越えることで、最終的にはできそうになかったことが実現できて、想像を超えるような企画と実践がたくさん生まれました。行政の事業でありながら、運営側と市民が一体となり、毎年プログラムの最終回を涙なくしては迎えられないほど、多くの感動が生まれたことも大きな成果です。参加者一人ひとりのまちへの想いが、よりよいまちをつくる原動力になっていく、そのプロセスを見ることができた気がしています」(石原さん)
“まちを楽しむ日々を続ける”ことが、ムーブメントにつながっていく
『PLAY CITY! DAYS』は、参加者の「やりたい!」という想いを形にするだけでなく、プログラム終了後もまちを想う活動に関わり続けてもらうための仕組みがあります。それが、過去の参加者が集う『PLAY CITY!パートナーズ』というコミュニティです。
「『PLAY CITY!DAYS』には“まちを楽しむ日々を続ける”という意味が込められています。その言葉の通り、プログラム終了後も、まちを楽しむ経験をした参加者が『PLAY CITY!パートナーズ』として、まちをもっと楽しむ新たなプロジェクトを立ち上げたり、お互いの企画を紹介しあったり、まちを想う自主的な活動を継続しています。鹿児島ファンの輪を広げるために、『PLAY CITY! DAYS』で生まれたつながりを絶やさず、育てていくことも大切にしているのです」(石原さん)
参加者ではお馴染みの交流の場『さつま酒飯店 和総』にて。
左から市役所の溝端さん、石原さん、岩城さん、店主の鳥越さん、運営メンバーの冨永さん、門間さん
また、プログラム中、参加者にアドバイスやサポートを行う20人のサポーターは、前年度の参加者が務めているそうで、門間さんも、参加者からサポーターを経験した一人。“一人ではできないことも、仲間と一緒なら楽しくできる”という気づきと自信を得て、この経験をもっと多くの人にしてもらう場をつくりたいと、2021年から運営メンバーとして活動しています。
「100人規模のワークショップを運営する上では、20人のサポーターの存在がとても大きいと思っています。私たちのように、まちを楽しむ経験をもっと多くの人にしてほしいという強い思いを持った人たちが、参加者から運営側に入ることは、『PLAY CITY!DAYS』の熱量を高めていく大きな力になっています」(門間さん)
PLAY CITY! DAYSから生まれた門間さんの活動「名山新聞」の取材の様子
立ち位置は変わっても長く関わりを継続できる仕組みが、『PLAY CITY! DAYS』のムーブメントにつながっているようです。
100人もの参加者が街をフィールドに活動する『PLAY CITY! DAYS』は、鹿児島市に愛着を持つ市民がいてこその取り組みでもあります。それを象徴するのが、市内各地で独自に活動するキーパーソンたちが、参加者にまちの魅力を伝えたり、アドバイスを行ったりする『関係案内人』という役割を担っていることです。
「にぎやかな天文館には街の宝石屋さんを中心としたコミュニティがあったり、レトロな街並みが残る名山には古民家を14人の共同オーナーで管理し、日替わりでいろいろなイベントを行っている『バカンス』という場所があったり。鹿児島市にはまちへの愛着をベースに活動している人がたくさんいて、その人たちをハブにしたコミュティがエリアごとにあるんです。それこそが鹿児島市の一番の魅力だと思います」(冨永さん)
PLAY CITY! DAYSメンバーのつながりの場にもなっている冨永さん主催の「焼酎スナック」
また、このプロジェクトを通して、鹿児島市の歴史の一端を明らかにする新たな事実が判明したそうです。
「『PLAY CITY!DAYS』で人々のつながりの基点となったキーパーソンの約半数は、鹿児島出身者ではないことがわかりました。つまり、これまでも、この街は市民と市外の人が共に紡いできたということに気がついたのです。外の人を迎え入れる風土があってこそ、『PLAY CITY!DAYS』のムーブメントを生むことができたのかもしれません」(石原さん)
参加者が自発的な活動に至る背景には、市役所の職員や運営スタッフ、サポーター、関係案内人など、関わる一人ひとりが高い熱量を持って、参加者に向き合ってきたことも忘れてはいけません。「石原さんをはじめ、市役所の方々は休日や夜間を問わず、参加者の相談に乗り、企画づくりにも顔を出してくださいました」と冨永さん。『PLAY CITY! DAYS』に関わる人たちの熱量は、これからも新たな人を巻き込み、さらにパワーを増していきそうです。
文:中里篤美 写真:一般社団法人テンラボより提供
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『KAGOSHIMA LOVERS PROJECT』の詳細はコチラ