“てげいっちゃが”ライフを宮崎で
移住×空き家活用のススメ②

てげいっちゃが…宮崎の方言で、てげ=「とても」、いっちゃが=「良いよ」の意味

南国らしいおおらかな自然環境と程よい都市機能を併せ持つ宮崎県。このエリアに魅力を感じ、移住先のまちで開業・起業に踏み出す移住者も。15年以上空き家になっていた物件をカフェ&ゲストハウスに再生した上岡唯子さんを訪ねた。

【東京都→宮崎県小林市】
カフェ「musumi」& ゲストハウス 「LOOP」

街の歯医者さんをリノベ。地域の人や旅行者がつながる交流の場を作りたい


▲窓に面した2人掛けの席は、もともと歯医者さんの受付だった場所。イベント時にはチケットカウンターにもなる。

霧島連山や生駒高原など、豊かな自然に囲まれた宮崎県小林市。駅近くの繁華街に、元歯科医院と院長の元住居を改修したお洒落なカフェ&ゲストハウスが誕生した。

「カフェを開きたい」結婚・移住を機に夢を実現


▲カフェの裏に建つゲストハウス「LOOP」。歯科医院長の住居だった空き家をリノベーションした。

東京で飲食業の仕事をしながら「いつかはカフェを開きたい」と考えていた上岡唯子さん。仕事の合間を見ては、各地を旅して気になるカフェやゲストハウスに足を運び、夢の実現に向けてアンテナを張り巡らしていた。
「好きな街でカフェをやりながら暮らしたいと思っていたとき、東京で主人と出会いました。付き合い始めてすぐに『地元の小林市に帰りたい』と言うので、じゃあ一度行ってみようと」。


▲上岡さんが淹れるコーヒーはあっさりとして最後まで美味しく味わえる。旅行好きな上岡さんは「旅するコーヒー屋さん」としてコーヒー道具を持ち歩いて営業していたことも。

初めて小林市を訪れたとき、「住みやすそうなところ」と感じた上岡さん。2017年夏に入籍し、小林市に移住した。義母の知人からカフェを開くための空き店舗を紹介してもらい、家族総出でDIYをして、同年10月に開業を果たした。


▲階段をあがると貸し会議室にも利用できるコワーキングスペースと、夫の裕さんの事務所がある。

2021年春に現店舗にカフェを移転し、同じ敷地内にゲストハウスをオープン。そのいきさつを尋ねると、「東京の知人がカフェに来てくれたとき、周辺に宿泊施設が少なくて困っていたんです。地元の人に聞くと、ビジネス利用の方も車で移動して別の街のホテルに泊まるみたいで。小林に宿泊してもらえたら飲食店や商店にも人が流れて活気が生まれるのに、機会損失がもったいないと思い、ゲストハウスを作ろうと思い立ったんです」と上岡さん。カフェの常連さんに紹介してもらった空き家をリノベーションして、事業を再スタートすることにした。

地域の人と人がつながるコミュニケーションの場へ


▲小林市須木産の大きな和栗をたっぷり使ったバスクチーズケーキ。スイーツや料理にはできるだけ地元や九州産の食材を使用。

新しいカフェ&ゲストハウスに選んだ物件は地元で昔から親しまれていた歯科医院で、裏に院長の住居が建っていたが、15年以上空き家になっていた。

「賃貸ですが、『ぜひ活用してほしい』とオーナーさんにDIYの許可もいただいて、セルフ改修に取り組みました」。


▲東京や福岡、台湾などのカフェからヒントを得て内装をデザイン。歯医者さんで使われていた戸棚も再利用。

すりガラスやモザイクタイルの柱など、昭和レトロな意匠を活かしながら、プロの手は借りずに自分たちでリノベーション。家族のほか、カフェのお客さんや大学生など、いろいろな人たちが集まって、DIY参加者はいつしか30名以上になっていた。

「普段やったことのない体験ができる! と、みなさん喜んで手伝いに来てくれました。うちでDIYに目覚めて塗装会社で修行してプロになった人もいます。作業の合間に私が作った『現場メシ』をみんなで食べたり、おしゃべりしながら壁を塗ったり。多くの人との出会いがあり、交流がどんどん広がっていくのを感じました」。


▲ゲストハウスの客室。ベッドフレームに荷物の輸送や保管に用いられる木製パレットを使用するなどアイデア満載。

カフェの店名「musumi」は「結ぶ」と「住む」を掛け合わせた造語。ゲストハウスは「LOOP」と名付けた。そこには地元の人たちや街の外から訪れた人たちの結びつきが輪になって、小林を盛り上げたいという想いが込められている。


▲元歯科医院をリノベしたカフェ外観。地元の方が懐かしそうに来店することも。

現在は近くの商店街で2軒目のゲストハウスの開業準備を進めているのだとか。

「長期滞在者向けなので、お試し移住やワーケーションなどにも利用してほしいですね」。

空き家の再生を通して次々とやりたいことを叶え、ビジネスを発展させていく上岡さん。地域に根付き、地域の人のあたたかさに支えられながら、充実した日々を送っている。

改修フロー
歯医者さんの面影を残しながら楽しくDIY!

常連客から空き家情報を入手

小林駅近くに建つ空き家の元歯科医院+住居を紹介してもらう。立地の良さと敷地内に2棟あることがカフェ&ゲストハウス計画にぴったりだった。

予算計画・資金調達

移転・改修費用には金融機関の融資500万円と小林市のにぎわい創出まちづくり補助金500万円を利用。↓
家族や仲間たちとDIYリノベーション

改修工事はカフェのお客さんや友人、家族にも協力してもらい、解体から塗装まで全員が楽しみながら作業を進めた。

カフェ&ゲストハウスが完成

約1年の工事期間を経て、カフェ&ゲストハウスが完成。現在は近くの商店街で2軒目のゲストハウスの改修に取り組んでいる。

文:山田美穂 写真:内藤正美

 

海沿い、畑付き物件も人気です!移住・起業に「空き家」がおすすめな理由。

宮崎県への移住や起業の足がかりとして、「空き家」の活用がおすすめ。空き家アドバイザーの大澤雄一郎さんに、空き家活用の現状やメリットをうかがった。

付加価値のある物件を費用を抑えて入手可能

▲合同会社セカンドが手掛けた串間市の築80年の古民家を改修したサイクリストのための交流・休憩施設。土間を駐輪スペースとすることで、愛車を雨や盗難から守れると好評。

総務省が5年おきに調査する空き家率の全国平均が13・5%であるのに対し、宮崎県は15・3%(2018年時点)と上回っているのが現状です。そして近年、宮崎県では5年ごとに約1万戸の空き家が増えています。特に、市街地よりも中山間地域で増加傾向にありますが、実は中山間地域への移住者は増えているんです。

空き家の価格ですが、県庁所在地である宮崎市の中心部は一般的な水準です。しかし中山間地域では、「裏山付きで300万円」など、破格の物件も多数存在します。移住希望の方から「畑付きがいいです」「井戸のある物件を探しています」といった問い合わせも増えています。建物だけでなく、そうした環境もあわせ、費用を抑えて入手したい人には、空き家はうってつけではないでしょうか。

また、宮崎県にはサーフスポットがたくさんあるため、海岸線沿いの空き家にも一定のニーズがあります。それでもさほど高額ではなく、場所によっては100万円程からの購入が可能です。移住にしても起業にしても初期費用を抑えて良いロケーションを手に入れられることが、宮崎県の空き家活用の最大のメリットといえるでしょう。

▲えびの市の空き家バンクを活用し、築40年の農家住宅を購入。牛舎や納屋、ガレージもDIYで自分好みの空間へと改装し、田舎暮らしを楽しんでいる。

空き家にはいわゆる「古民家」もあります。新築では得られない懐かしさや伝統的な雰囲気は、日本人だけでなく海外から来る観光客にとっても大きな魅力となります。カフェや宿泊施設などを始めるなら、「古民家」もおすすめです。

物件探しは、「空き家バンク」を利用するのが早道です。各自治体が地元の不動産会社に委託しているケースが一般的ですが、移住者誘致に熱心な自治体の中には直接空き家バンクを運営しているところもあり、仲介手数料がかからないケースもあります。宮崎県移住・UIJターン情報サイト「あったか宮崎ひなた暮らし」の空き家バンクのページでは、各市町村の相談窓口と空き家関連の支援策を一覧にまとめた資料を掲載しており、比較・検討することができるので、活用していただきたいです。

空き家を改修する際に、できるだけコストを抑えたいと考える方には、DIYがおすすめです。自分で少しずつ気に入ったかたちを作っていくことで、家に対する愛着が湧き、長く大切に使おうという気持ちを育んでいただけると思います。

 

\教えていただきました/

大澤雄一郎さん

一般社団法人全国空き家アドバイザー協議会理事長。空き家課題トータルコンサルタントの資格者養成講習会の開催や、古民家・空き家を活用したまちづくりをしたい人や自治体のサポートなどを行う。宅地建物取引士、二級建築士。宮崎市在住。

空き家活用のメリット&チェックポイント
空き家活用のメリットと、いざ空き家探しや購入を進めるときに、覚えておきたいチェックポイントをピックアップ。スムーズな購入とその後の生活のために、頭に入れておこう。

✔︎Merit
古ければ古いほど固定資産税の節約に

建物が古くなればなるほど、建物にかかる固定資産税は安くなる。「経年減点補正」といって、築年数に応じた減額が行われるからだ。不動産取得により、この先支払い続けることになる税金を安く抑えられるのは、積み重ねを考えると大きなメリットと言えるだろう。

空き家の取得・改修費用の一部を自治体が補助

自治体ごとに空き家の購入・リフォーム費用や残置家財の処分費用、仲介手数料などの補助を行っている。支援制度は各市町村によって内容が異なるため、手厚い補助を望む場合は、「宮崎県空き家関連支援施策一覧表」を活用して比較・検討するのが得策だ。

過去の災害の履歴を地域の人に確認できる

その地域に長く存在する建物は水害や土砂崩れといった過去の災害をくぐり抜けてきている可能性が高い。ハザードマップで浸水リスクを確認するだけでなく、近隣の人に災害時の様子を聞くことで災害に強い安全な場所なのかを知ることができ、改修時に対策を打つことも可能になる。

古民家の付加価値は外国人にも喜ばれる

いわゆる「古民家」は、伝統的な建築物としての魅力があり、それは新築では得難いものだ。商業施設として運営する場合、うまく活用していけば強みになる可能性がある。今後インバウンドの回復も見込まれる中で、キャッチーな魅力としてアピールすることができるだろう。

 

✔︎Check
内見時は表面だけでなく隠れた部分も確認を

表面がきれいにリフォームされていても土台や柱にシロアリの被害があったり、天井裏が雨漏りで腐ったりしていては安心して住むことができない。できれば内見は購入者の立場で見てくれる知識のある人と行くのがベター。上下水の配管や電気配線、浄化槽の状態なども要チェック。

住宅ローンを利用できるか調べてみよう

中古住宅の購入、リフォーム費用にも住宅ローンを利用できる場合がある。築年数など自分がほしい物件は条件をクリアできるか、調べてみて損はない。一般的に古すぎる建物は条件から外れるが、中には古民家の購入+リフォームに利用できる住宅ローンを取り扱っている銀行もある。

地域性を知って溶け込めるか考えよう

移住者に対する受け入れ体制がその地域にあるのかどうかは、その後の暮らしやすさに直結するため確認しておきたいところ。購入したい空き家がどんな地域性の場所にあるのかを自治体の窓口で聞いておこう。また、内見時に近隣の人を訪ねて反応を見るのもいいだろう。

インスペクションの有無とその結果は契約前に確認を

建物の瑕疵を調査するインスペクションをしたかどうかは不動産の重要事項説明書に記載されている。売買契約の前に調査の有無を確認し、購入するか否かの判断材料にすると良い。自分で費用を出してインスペクションを行うことも可能。後々のトラブルを防ぐためにも行う価値は十分にある。

✔︎必読
空き家利活用推進ハンドブック『空き家利活用のススメ』

宮崎県の空き家関連情報をまとめた冊子。空き家活用事例や空き家バンクの解説、各自治体の窓口、支援策の一覧も掲載。WEBでの閲覧も可能。

文:松川絵里 写真:宮崎県

移住・空き家探しの相談は…
宮崎県移住・UIJターン情報サイト

あったか宮崎ひなた暮らし
宮崎県の移住情報は『あったか宮崎ひなた暮らし』へ。住まい・空き家・仕事探し、子育てなどについての移住支援・サポートのほか、移住体験プログラムなどさまざまな情報をわかりやすくご紹介。相談窓口もあるので、お気軽にご活用ください

 

                   

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