空港のよう、さまざまな本と人が交わる場所に。

鳥取県湯梨浜町 汽水(きすい)空港

混沌のよさを知っている本屋

鳥取県湯梨浜町に広がる美しい東郷湖。そのそばに店を構える本屋「汽水空港」は、店主の森哲也さんが2015年にはじめた。

森さんは誰しもが悩ましさを感じる18歳の頃、東京・下北沢にある本屋「気流舎」との出会いに救われたという。店主おすすめの本を読んだり、さまざまなイベントに通ったりしながら、物事を知る楽しさや喜びを夢中になって学んだ。「自分にとっては、大学よりも本屋のほうが『学校』のようだった」といい、自身もそんな本屋を志すようになった。

親の転勤で、少年期は北九州やジャカルタ、幕張と異なる特色をもつ土地で暮らした森さん。貧富の差、野放しの自然と人工物。日々移り変わる生活のなかで、「自分は混沌とした、もっと境界があやふやな感じが好きだ」と気づいたという。

「本屋は空間としてすごく自由です。ライブをやってもいいし、ごはんやドリンクを出してもいい。いろんなことをフックに楽しんでもらえたらと思います」

たしかに店内ではZINEが空を飛んでいた。かたや同じくZINEがレコードのように整列してもいる。基本的には衣食住に関する書籍が多く、本棚には新刊も古書も同じく並ぶ。

2018年からはお店の増築工事を開始し、「自力でビルを建築する男」岡啓輔さんのトークショーなど、魅力的なイベントをより多くの人に楽しんでもらえるようになった。そして今後は、ご近所のお料理上手さんを週替わりで呼び、空港らしく「機内食」と称してごはんを提供する予定だ。

店主の森さんご夫婦。夫・哲也さん、妻・明菜さん

本屋には入場料も、入学試験も必要ない。
汽水空港は、楽しい人も悲しい人も、どんな人のことも受け入れ、そっとそばにいてくれる。
ここに来れば、きっと新たな未来を開けるはずだ。

(文:生田早紀)

                   

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