2026年2月11日(水・祝)と21日(土)の2日間、千葉県館山市内のワーケーション施設を会場に「TURNS のがっこう 2026-館山科-」を開催しました。
TURNS のがっこう2026-館山科-は、地域におけるワーケーションの受入体制を強化するための発信戦略セミナーです。対象は、館山市内でのワーケーション受け入れに関心を持つ事業者や市民の皆さん、そして館山市でのワーケーションを検討している方々。
講座では、個人や企業と継続的な関係を築くための情報発信の考え方や手法を、全3回のプログラムを通して学びます。さらに、“館山ならでは”の価値をどのように見出し、どのようなストーリーで届けていくのか、実践を見据えて考えました。
本記事では、その様子をレポートします!
第1回講座[2026年2月11日(水・祝)]
“旅のその先”を届ける―地域の価値を再編集する視点―

講師:上野加代子さん(株式会社アタシ社)

1986 年千葉県生まれ。2015 年にアタシ社を創業し、2025 年より代表取締役。出版や編集デザインを軸に、現在は日本各地のローカルで書店×美容室を組み合わせた「本と美容室」を展開。土地に息づく有形無形の価値を見つめ直し、地域の「知」と「美」を耕すことをテーマに、文化と日常をつなぐ場づくりに取り組む。急速に変わりゆく時代のなかで、人が生きる場所と表現の関係を考え直し、そこに潜む声や物語をすくい上げ、地域の「自己表現」のかたちを模索している。拠点は神奈川県真鶴町、山口県萩市、鹿児島県鹿屋市。現在は鹿児島県に暮らしながら、土地とともに考え、つくり、生きる営みを実践している。
ファシリテーター :堀口正裕(TURNS プロデューサー)

総務省地域力創造アドバイザー、国土交通省「地域づくり表彰」審査会委員、移住・二地域居住等促進専門委員等を務める他、地域活性事例に関する講演、テレビ・ラジオ出演多数、全国各自治体の移住施策に関わる。東日本大震災後、これからの地域とのつながりかたと、自分らしい生き方、働き方、暮らし方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの思いから、2012 年 6 月「TURNS」を企画、創刊。「TURNS ローカルカレッジ」や「TURNS ビジネススクール」等、地域と都市をつなぐ各種企画を展開。地方の魅力は勿もちろん、地方で働く、暮らす、関わり続けるためのヒントを発信している。TOKYO FM『Skyrocket Company』 内「スカロケ移住推進部」ゲストコメンテーター。
会場:YANE TATEYAMA

築 60 年を超える空きビルを改修し、2024 年 4 月にオープンした複合施設。
1 階には、カフェ『ALRIGHT COFFEE ROASTERS(オールライト・コーヒー・ロースターズ)』、書店『北条文庫』、ジビエレザー工房の『伝右衛門製作所』、2 階にはイタリアンレストラン『Acqua Tozzo(アクア・トッツォ)』、そして 3 階にはホテル『Room』などを併設し、全館 Wi-Fi 完備。
JR 館山駅から徒歩 5 分と好アクセスで、地域の文化の発信地として、ワーケーション拠点としても親しまれています。
住所:千葉県館山市北条 1625-25
HP:https://yane-tateyama.jp/
地域の魅力を発信する際の心構え

2 月 11 日(水・祝)に開催された第 1 回講座は、「旅のその先”を届ける―地域の価値を再編集する視点―」がテーマ。『株式会社アタシ社』の上野加代子さんを講師に迎え、地域の情報を発信する際の視点や具体的な取り組み方について学びました。
冒頭では、ファシリテーターの堀口より、地域と向き合う際に大切にしている姿勢について説明がありました。
堀口「移住者を増やしたい、関係人口を増やしたいという相談をよくいただきます。TURNS が大事にしているのは、“皆さん自身は自分のまちを楽しんでいますか?”という問いです。私たちの活動の原点にあるのは、地域の魅力を伝えたいという地元の方々の熱意です。その上で、プロとしてどのように受け手に届くように情報を伝えていくか。膨大な要素の中から何を選び、どう編集し、効果的に発信していくのか。今日は、発信者として考えるべきことを、講師の上野さんにお話しいただきます」
POINT1:膨大な地域情報の根幹を見極めて伝える

上野さんは千葉県出身。現在は鹿児島県鹿屋市を拠点に、出版や編集デザインなど情報発信を軸に事業を展開しています。
上野さんは実践を背景に、「地域情報を発信するうえで大切にしている視点」について語りました。
上野さん「まず、考えてほしいのは、皆さんの発信が“この土地でなければならない”理由をきちんと伝えられているかということです」
SNS でバズを生むような発信は、一時的に注目を集めることはできます。しかし、表層的な情報発信を繰り返すほど、地域の独自性はむしろ薄れてしまう — —そう上野さんは指摘します。
まちには、歴史、地形、風景、食文化、方言、祭事、気候風土、住民の気質など、無数の要素が存在します。その膨大な情報の中から、一本の“幹”となるつながりを見出し、軸をもって伝えること。それこそが、情報発信の基本だといいます。
上野さん「ただむやみに地域の情報を発信すればいいわけではありません。地域の根幹にあるコンセプトを見極め、その土地ならではの魅力を伝える。いわば、“地域情報の編集”という作業が必要なのです」

POINT2:“無い”ことも地域の魅力になる
たとえば、館山・南房総という土地を地形や歴史の視点から読み解いていく。房総半島の南端に位置することから、かつては軍事的な防衛拠点としての役割を担い、また首都圏近郊のリゾート地として発展してきた背景があります。温暖な気候と豊かな海産物・農産物に恵まれていることも、この地域を形づくる重要な要素です。
「ひとつのまちを丁寧に掘り下げていけば、膨大な情報発信のネタが見つかるはずです」と上野さん。その土地で実際に時間を過ごし、五感を使って体感する。そして歴史や地理など客観的な事実を理解すること。その両面から地域を捉えることが大切だといいます。
上野さん「この地にあるものだけでなく、“無い”ものにも目を向けてみてください。無いということは決して弱点ではありません。他の地域との差異であり、この土地のアイデンティティの核になり得ます」
東京から距離がある館山の立地条件についても、上野さんは「ラッキー」と表現します。
上野さん「影響力の大きい大都市に近すぎると、“東京に近いまち”というだけで個性が埋もれてしまうことがあります。館山は東京から距離があるからこそ、文化や歴史が色濃く残っている。そこに大きな可能性があります」
情報の軸を見極めないまま発信してしまうと、「自分はここが好き」といった個人の好き嫌いに終始してしまいがちです。そうしたやみくもな発信ではターゲットには届きにくく、仮に注目を集めたとしても再現性は見込めません。また、他地域の成功事例をそのまま真似しても、そもそもの背景が異なるので、納得感のある情報発信にはなりにくいでしょう。だからこそ、発信の前段階として地域情報を丁寧に掘り下げることが必要です。そのプロセスを経ることで、情報発信に一貫性と整合性が生まれ、地域ならではのメッセージが形づくられていきます。
POINT3:未来に見返した時に、誇りに思える内容か

ここでさらに上野さんは、「野生」と「知性」という軸を提示しました。
「野生」とは五感で察知し、直感的に伝える力。
「知性」とは言語で考察し、概念化する力。
情報発信に置き換えると、「野生」は SNS のキャッチコピーや写真、動画のように瞬時に共感を生む表現を指し、「知性」は流行に左右されない、普遍性や遅効性を持つ文章やコンセプトにあたるといいます。
共感によってつなげる力のある「野生」。
他と差別化し、地域の輪郭を明確にする「知性」。
この両面のバランスが重要だと、上野さんは説明します。
地域に違いを生み、ブランディングするには「知性」が欠かせません。しかしやりすぎると、「そんなに特殊な地域には行きづらい」と排他的な印象を与えてしまう。そこで「野生」の要素を加えて、共感できるキャッチコピーやビジュアルを添えることで「行ってみよう!」と思うきっかけを作る。こうしたバランスを取る作業こそ、編集者の役割なのだといいます。

「皆さんの土地はどうでしょう?」と上野さんは問いかけます。
京都や鎌倉のようにブランドが確立された地域であっても、保守的であり続ければ人口減少や観光離れにつながる可能性がある。かといってハードルを下げすぎると独自性を失ってしまう。
上野さん「どちらがいい、悪いという話ではありません。地域によって歴史や風土は違います。その違いを楽しむことが大切なのです」
そのような視点でもう一度、自分の地域を見つめ直してみる。地域に“あるもの”“無いもの” を把握し、伝統や歴史を踏まえながら新しい要素をどう取り入れていくか。そのチューニングこそが、地域ブランディングの鍵になると上野さんは語ります。

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情報発信は、ともすると目先の集客数やフォロワー数の増減に意識が向きがちです。しかし、今発信している内容は、未来の地域イメージを形づくっていきます。20~30 年後に、その発信内容を見直したとき、地域の人々が誇りを持てるのか。この地に暮らしてきてよかったと思えるのか。
そうした長い時間軸を意識しながら、地域と向き合うことの大切さを学ぶ講義となりました。
第2回講座[2026年2月21日(土)]
地域が発信者になる―コンテンツづくりと届け方のデザイン―

講師:千葉好き男さん(上田徹さん)

千葉県船橋市出身。 昔から旅行とカメラが好きで20代で47都道府県を制覇。その後、全国のいろいろな景色を見てきた中で、地元である千葉県の魅力を再確認し、少しでも千葉県の風景を知って貰いたいとInstagramで『千葉好き男』というアカウントを開設。 当時アパレルの仕事をしながら、趣味として毎日発信を行う。 少しずつアカウントが認知され大きくなってきた矢先、何気なく見ていた店舗物件サイトで千葉県富津市にある物件に一目惚れし、半年後にアパレルの仕事を退職し、2023年9月にカフェ『NON』を開業。 現在はSNSを活用し、集客に繋げながら千葉県の魅力を直接お客様と語り合える場としてカフェの営業を行なっている。
ファシリテーター:堀口正裕(TURNSプロデューサー)

会場:TAUTAU Terrace Tateyama

「ホテルファミリーオ館山」を全面リニューアル。南房総の海と夕日を眺め、時間を忘れて“たゆたう”海辺のホテルをコンセプトに、等身大の滞在型リゾートホテル「TAUTAU Terrace Tateyama(タウタウテラス館山)」としてオープンした宿泊施設。海へと続く約2,700㎡の公園のようなテラスが整備され、ウッドデッキや芝生、砂場、リゾートチェア、ファイヤーピッドなど山・海・夕日を眺めながらゆったりと過ごせる空間が広がっています。地方創生型ワークプレイス「JRE Local Hub 館山」として、敷地内には1棟貸しレンタルオフィスが3棟整備され、館内にはコワーキングスペ―スにテーブル席のほか、ソファ席や屋外テラス席も用意されています。
住所:千葉県館山市大賀81−17
HP: https://tautau-terrace.com/
地域のプレイヤー自らが発信できる力を身につける
2月21日(土)に開催された第2回講座では、「地域が発信者になる―コンテンツづくりと届け方のデザイン―」がテーマ。「千葉好き男」というアカウントでSNSを通じて千葉県の魅力を発信する上田徹さんを講師に迎え、移住者や観光客を受け入れる地域のプレイヤーが自ら発信する力を身につけるための取り組み方について学びました。
冒頭では、会場となったTAUTAU Terrace Tateyamaについての説明がありました。この施設は、もともとは「ホテルファミリーオ館山」として30年近く親しまれてきたホテルをリニューアル。2025年12月17日に「TAUTAU Terrace Tateyama」として生まれ変わりました。

この施設を運営するJR東日本は館山市におけるワーケーションの推進、移住・定住の促進、二拠点居住などに力を入れており、館内のコワーキングスペースのほか、敷地内にはレンタルオフィス3棟を整備。講演の前後には、そちらを見学する時間もありました。

講座の冒頭で、ファシリテーターの堀口より、TURNSにおける地域とのかかわり方についてのお話がありました。
堀口「最近は地域の事業者の特集を増やしています。行政の力だけでなく、今回の会場を提供していただいているJR東日本様もそうですし、いろんな事業者、企業と組んで地域を活性化している事例がどんどん生まれています。自分たちのまちは何が特長なのか、どこがいいのか、自分たちで気づいて、とことん楽しむ。みんなで共有しようと発信する。今回の講師の千葉好き男さんもそのようなスタンスで活動されている方です。今日は、地域のプレイヤーが発信する際のコンテンツのつくり方、届け方のデザインについてお話しいただきます」
POINT1:知られていない地域の良さを伝えたい
千葉好き男さんは、現在は千葉県富津市金谷に移住し、友人とカフェを経営しています。もともとは県内の船橋市出身でアパレル関連の仕事をしていたそうです。その後、田舎暮らしに憧れて、TURNSのバスツアーに参加したのがきっかけで、移住する決意を固めたといいます。
千葉好き男さん「バスツアーで地元の方々と交流を持つことができて、まるで親戚みたいな距離感でお話しできたのがよかった。これなら僕でもやれるな、と。そして、たまたま見つけた物件に心を惹かれました。それがカフェの建物だったので、カフェをやろう、と」
そして2023年9月にカフェ『NON』を開業。現在はSNSを通じて千葉県の魅力を発信しながら、カフェを運営しています。
そんな千葉好き男さんにまず堀口が聞いたのは、「SNSの発信を始めた経緯」です。
もともと旅行が好きだった、千葉好き男さん。生まれ育った船橋市は人口の多い都市部ということもあり、あまり千葉の魅力に気づいていなかったそう。旅行に行くときも県外に行くことがほとんどだったといいます。

千葉好き男さん「20代のうちに47都道府県、自分の目で見てみたかったですね。そして行ったからにはその地域のことを深掘りしてやろうと思いました。どこの県も魅力的でしたが、全国を見て回ったあと、地元の千葉県を客観的に見直してみたら、他県で感じた素晴らしい風景が全部ここに詰まっているように思えたんです」
自分の足と目で見て回ったからこそ実感できる、千葉県の魅力。地元に戻ってきてみると、周囲の友人たちは誰もそこに気が付いていませんでした。
千葉好き男さん「もったいないですよね。千葉県民に千葉の良さをもっと伝えたい。それが発信のきっかけになりました」
ここで千葉好き男さんが全国各地で撮影してきた各県の景勝地の写真が披露されました。
千葉好き男さん「こんないい景色を見ているだけじゃもったいない。記録として残したいと思ってカメラも買いました。中途半端にならないよう、可能な限り出せる予算をかけて、いいカメラを選びました(笑)」
本格的にカメラが趣味になり、夜行バスに乗っては朝から晩まで各地の風景を撮ることに。そして、自分で楽しむだけでなく、もっと多くの人に知ってほしい、とSNSのアカウントを立ち上げることになります。現在、フォロワーは3万人にもなりました。
POINT2:発信を通じて交流の輪が広がっていく

趣味で始めたSNSの発信がそこまでの規模になり、仕事にもつながっているという千葉好き男さん。そのモチベーションはどのように持続されていったのでしょうか。
千葉好き男さん「今まで出会うことのなかった人と、SNSを通じて交流を持てたというのは大きいですね。一方的に発信していても、それを見てコメントやメッセージをいただけたり」
フォロワー1000人程度の頃、あるテレビ番組から出演のオファーがあったそうです。出演後はさらに多くのリアクションが寄せられるようになったといいます。
千葉好き男さん「地域の方々から声をかけていただくことが増えました。紹介したスポットに訪れる人が増えたとか言われるとうれしいですね。普段生活していて、人から感謝されることなんてそうそうないじゃないですか」
この頃から、千葉の各地の観光協会などから声がかかって一緒にPR活動に取り組むようになり、仕事として成り立つようになっていったそうです。
POINT3:自分のコンテンツに自信をもって投稿し続ける
千葉好き男さんが発信する際に、大事にしていることとは?
千葉好き男さん「今でも撮影のスキルがそんなにあるとは思っていないんですけど、それでも自分の写真を信じてアップすることです。そうすれば誰かの心に響くんじゃないかな、と」

SNSで発信をするとき、多くの人は「炎上しないかな」「この内容で喜んでもらえるかな」と考えすぎてちゅうちょしてしまいがち。その結果、更新も滞ってしまうことに…。
千葉好き男さん「アカウントを立ち上げる時、まず2年間毎日投稿し続けることを目標にしました。ひとりでも多くの人に届けばいい。そう思って続けていたら、輪が広がっていきました」
失敗したと思ったときも、その経験を教訓にして次に生かせばいい。そう思うことで続けていけたそうです。
POINT4:アカウントがひとり歩きしないよう、誠実であること
SNSによる発信で世界が広がっていった千葉好き男さん。続いて、デメリットや注意点について語りました。
千葉好き男さん「投稿した内容に間違いや思い至らない点があったりすると、多くの方に迷惑が及びます。たとえば道路が整備されていないスポットを紹介した時、人が殺到したら危険じゃないか、とかよく考えるようにしています」
過去には「危険なエリアだから紹介しないほうがいいのでは」「ここは本当は取り上げないでほしかった」といった地元の方からの声もあったそう。
自分でもまずいなと思ったときには、まず投稿を削除して、ストーリーで謝罪文を投稿。
千葉好き男さん「千葉好き男というアカウントですけども、ひとりの上田徹として誠実でありたい。アカウントがひとり歩きしないように、上田徹とのギャップを埋めたいと考えています。そこをいちばん大事にしています」
こうした人柄がフォロワーにも伝わって、投稿から心を動かす人たちが増えていっているのかもしれません。

千葉好き男さん「なぜこのアカウントを運営しているのか、というコンセプトは絶対にぶらさないように気を付けています。妥協したり、いい加減なことをしていたら、自分でもこのアカウントを好きでいられないですし。だから、多くのフォロワーの方から共感をいただけているんだと思います」
好きなものを発信するからモチベーションも保つことができる。このアカウントを立ち上げる時も、「ビジネスにつなげよう」という思いはまったくなかったそう。
千葉好き男さん「誰かの役に立てるなら発信しようとだけ思っていました。自分の好きな千葉県のためだから、続いているんですよね」

POINT5:これまでの人生で得たスキルを生かす
SNSの運営を通して、「自分を求めてくれる人がいる」という手応えを感じているという千葉好き男さん。実際に、「会ってみたい」という人がいて、カフェの集客にもつながっているそうです。発信で人を呼び込むコツとは?
千葉好き男さん「SNSで直接集客しようとすると反感を買ってしまう恐れがあります。カフェをオープンするときもストーリーでさりげなく告知して、関心を示してくれた人にだけメッセージを送ったりしました」
このやり方は前職のアパレル会社のときに学んだそう。これまでのスキルをうまく生かしています。
会場では千葉好き男さんの思い出の投稿なども多数紹介されました。ひとつひとつのエピソードを楽しそうに語る、その姿は、まさにアカウント名そのもの。
「好き」をうまくコンテンツにつなげて、SNSを通じて地域内外から共感の輪を広げていく。その姿勢と取り組みの内容は、現在、地域の発信に取り組んでいる方々にも大いに参考になりそうです。
第3回講座[2026年2月21日(土)]
発信から共創へ ―企業や都市との関係を育てるしくみ―
講師:小田切裕倫さん(東北大学NP拠点)

東京生まれ。2014年に佐賀県唐津市へ移住。 地域を舞台に「環境・暮らし・ビジネス」をつなぐ場と物語をデザインし、グリーンビジネスや地域活性、コスメなど多分野横断のプロジェクトを展開。 2025年7月より、東北大学ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点(NP拠点)に参画。地域のリアルと未来像のあいだを行き来しながら、ネイチャーポジティブな社会に向けた、人と自然と科学の新たな関係性を編み出している。ビールと音楽とサッカーが好き。 宮城県仙台市、東京の西、佐賀県唐津市の3拠点。
ファシリテーター:堀口正裕(TURNSプロデューサー)

会場:TAUTAU Terrace Tateyama

一過性で終わらない継続的な発信と連携の仕組みづくり

2月21日(土)、第2回講座に引き続き開催された第3回講座では、「一過性で終わらない継続的な発信と連携の仕組みづくり」がテーマとなりました。宮城県仙台市、東京の西、佐賀県唐津市の3つのまちを拠点にする小田切裕倫さんを講師に迎え、発信にとどまらず地域のプレイヤーと連携していくための方法論について学びました。
講演の前に、ファシリテーターの堀口より、発信と地域との関係についてのコメントがありました。
堀口「発信して終わりじゃなくて、その先の話です。どうやって地域に人を呼び込んだり、どういう戦略のもとで企業と連携していったりするのか。そうしたことを実践しているのが、今回の講師の小田切さんです」
POINT1:多様な関わり方を設計して、共創の輪が広がる仕組みをつくる

活動が多岐にわたるということもあり、まずは小田切さんの経歴から振り返ることに。東京の西部で生まれ育った小田切さんは音楽業界を志し、都内の音楽スタジオに勤務しながら、人生経験を積んでいきます。アナログからデジタルへの転換期に立ち会ったことで、美容・健康の業界に転身。そこからさらに環境問題に興味を持ち、現在へとつながっていきます。
大きな転機となったのは、2014年に佐賀県唐津市に移住したことです。そのきっかけは、佐賀県・唐津市・玄海町が企画した、コスメティック産業を軸にした地域創生プロジェクトでした。美容業界の企業に所属していた小田切さんは唐津市に足を運ぶことに。
当時の地方創生1.0では、「稼ぐ地域にする」「ひとの流れをつくる」「魅力的な地域をつくる」「多様な人材で新しい時代の流れを生む」といったことがテーマになっていました。
小田切さんは、地域で化粧品をつくるという直接的なことではなく、コスメを切り口に多彩なテーマに挑戦。小田切さんが狙ったのは、地域で化粧品をつくることそのものより、コスメを入口に「関わりしろ」を増やしていくこと。掛け算が増えるほど、出会う人もテーマも広がっていきます。そうしてたどり着いたのが、唐津市環境課と「地域循環共生圏」でした。

「地域循環共生圏」とは環境省が提唱する概念で、地域が主体となってSDGsをはじめとする課題に対して取り組むことで、地域の自立と活性化を促すというもの。
ポイントとなるのは、「地域の主体性」「地域内外との協働」「環境、社会、経済課題の同時解決」という3点。
小田切さん「今までの活動やイメージしていたことが、全部ここに盛り込まれていました」
目指したのは唐津市版地域循環共生圏。10年以上経過した現在もその取り組みは続いています。唐津市単独では解決が難しい課題を、自治体の各部署、地域における協業、さらに他のエリアとの広域連携などによって、いい方向に導こうとしています。
小田切さん「大切なのは、関わりしろをデザインして、いろんな人が行き交う場の設計や中間支援役を増やすこと」
POINT2:つながりが、新しい風を生み出す
唐津市における小田切さんの活動のひとつに、2013年、一般社団法人ジャパン・コスメティックセンターへの参画があります。地域の資源を生かしながら、情報・人材・産業を唐津市に集積。この地を起点にしたコスメティック産業の創出を目指しています。
小田切さん「6次化とかブームでしたが、自力で商品開発して販売できる人は限られています。外部との連携や、一見化粧品と関係ないことなども大事です。地域全体の認知度・魅力が上がれば色々な波及効果が出てきます」
そのひとつの事例が、使われなくなっていた建物を化粧品工場として再生したプロジェクトです。目指したのは、ただ製造するだけの工場ではなく、「地域に開かれた工場」。原料づくりから製品化までを一気通貫で担いながら、地域の人たちと手を動かして場を整え、外からも開発者や企業が集い、共創の入口として機能する場所をつくりました。
さらに、工場ができたことにより、新しい活動や地産素材をつかった商品が生まれていく中で「社会派化粧品」という概念が出てきました。
小田切さん「関わる人たちが増えていけば、役割分担ができてひとりひとりの負担は小さくなり、やれることが増える。そういった地域循環共生圏が社会課題の解決、地方創生につながっていくんだと思います」

POINT3:拡散と「決め打ち」の使い分け。共創を生み出す、したたかな情報発信戦略
小田切さんの取り組みはなぜこんなにも効果的に機能していくのでしょうか。
小田切さん「ひとつは役割分担。たとえば工場再生では、適切な物件や国などの支援情報探しは自治体に任せて、誘致に関してはこっちでやる。餅は餅屋。あと、情報発信の相手、一般に拡散するときの情報発信と、鍵となる人に届ける情報発信は違います。この使い分けは大事です」
また、自分自身が情報源となり、さらに協力してくれる人を募っていく。こうして人をつなげてさらにプロジェクトを動かしていく力にしています。
堀口「これはプロデューサーとしての働きですよね。地域で何か新しいことをやるにはこういう人が絶対に必要です」

POINT4:稼いだ利益は「地域の未来」へ。ローカルと世界を繋ぐエコシステムと人材育成
地域の課題の解決から地球環境への貢献まで。非常に幅広い小田切さんの活動のカギとなるのは「人材」。
小田切さん「いま置かれている環境、大局を理解し、地域の規模感や事情に合わせて具体的な提案や事業をインストールしていく。それを担うブリッジ人材を増やしていくことがいまの私の目標です」

3つのまちを拠点にして、情報発信を通じて内外の人を縦横無尽につなげていく。小田切さんの目が人材育成に向かっているのは、自然な流れのように思えます。
地域を前に進める鍵は、答えを持つ人を増やすことではなく、関われる人を増やすこと。情報発信はその入口になり、場は関係を育てる舞台となる。挑戦や共創が自然に生まれる状態をどうデザインするか。そんな実例を紹介してもらえた講演となりました。
『発信から共創へ』。館山発の新しいストーリーは、ここから始まります。

