TURNS

物語のあるコーヒーで人と人をつなぎたい
LOTUS Café・50 COFFEE & ROASTERY/五十嵐智さん

レトロとモダンが交わる場所

人々が行き交うカフェには、街に流れる時間と物語がぎゅっと詰まっている。
そして、そのカフェが愛される理由を知ると、飾らない街の姿が見えてくる。

埼玉県深谷市で「LOTUS Café」と「50 COFFEE & ROASTERY」の2つのカフェを経営する、五十嵐智さんを訪ねた。

アメリカ最新鋭の焙煎機を備えたカフェ「50 COFFEE & ROASTERY」は、日本三大銘酒と呼ばれた日本酒「七ツ梅」を300年以上造り続けた酒造の跡地、「七ツ梅酒造跡」にお店を構える。

レンガ造りの建物や煙突が連なるレトロでノスタルジックな空間。
そこに佇むモダンな雰囲気のカフェに目を奪われた。

宿も決めずに、イタリアへ

五十嵐さんとコーヒーとの物語は、一杯のエスプレッソから始まった。

「大学を卒業してすぐの時、銀座で初めて飲んだエスプレッソに感動して、これをお客様に飲ませたいと直感で思ったんですよね。何に感動したかと言うと、エスプレッソって、朝に飲むと午前中一杯、コーヒーの心地良い余韻がずっと残るんですよ。この飲み物すごいなと。これは極めるしかないと思って、20代の頃から都内で本格的にエスプレッソを勉強しました」

本物を見て、体験しないと、人には語れない。

五十嵐さんは仕事を辞め、行きのチケットとバッグを携えて、宿も決めずにエスプレッソの本場、イタリアへと渡った。

「ローマには着いたけど、そこからすごく不安でした。初日から偽警官に遭ってパスポート出せと言われたり、突然子どもに囲まれてポケットに手を入れられたりして。駅の中をうろうろして宿だけでも決めてから来ればよかったと後悔していたら、中華系の人に英語で話しかけられたんです。何を言っているのか全く分からなかったんですけど、話してみなさいという感じで電話を差し出されて。出てみたら日本語で『日本人宿を経営しているから泊まりに来な』と。バックパッカーが集まるようなドミトリーの宿のオーナーからだったんです。その宿で日本人の友達ができたんですが、そこで出会う人、出会う人、みんな強くてたくましくて。『僕は日本出て一年経つけど、英語もイタリア語も喋れなくても大丈夫だよ。どこに行っても日本語でいいから、自分の気持ちを相手にちゃんと伝えればいいんだよ』と言ってくれる人がいたり。英語もイタリア語も話せなかったんですけど、そういう人たちの強さに背中を押されて本場イタリアで修業を積んでいきました」

ローマ、ミラノ、ベネチア、ナポリ、バーリ。

イタリアを一周し、行く先々のカフェで、本場の、本物のエスプレッソに触れた。

「一周したことで北と南のコーヒーの味の違いも知れたし、カフェの空気感やお客さんとのやりとりも大体見られました。イタリア人は1日に7回くらいカフェにエスプレッソを飲みに行くんですよね。カウンター席で飲むとちょっと安いんですけど、飲みながら隣の人と話をして、飲み終わって店を出て、しばらくしたらまた同じ人が入ってくる。おいおいおいおいと」

「そんな風に仕事中に何度もカフェにコーヒーを飲みに行くって、日本では中々許されないと思うんですけど、そういう気持ちと時間の余裕があるってすごくいいなと思いました。イタリアっていい国だなぁと。あとイタリアはコーヒーの本場だと言っても、難しい顔をして複雑な手順を踏んで淹れるのではなくて、気さくにフレンドリーにお客さんと話しながら結構適当な感じで淹れるんですよね。それが日常の中にコーヒーを根付かせるのにはすごく大事なのかもしれないと思ったり。こういうコーヒーの楽しみ方を持って帰って、いつか日本にも文化として根付かせたいと思いました」

「コーヒー」の本当の姿

五十嵐さんとコーヒーをつないだ、エスプレッソ。

苦くて、濃くて、飲みにくい。

そんなイメージから、コーヒーに親しみはあっても、エスプレッソにはあまり馴染みがないという方も多いのではないだろうか。

本当の飲み方

「エスプレッソの本当の飲み方は知っていますか?」

「エスプレッソってイタリア語で『特急』という意味なんです。普通のコーヒーは4分くらいかけて淹れますが、エスプレッソは25秒で25cc抽出するんです。お湯とコーヒーの粉が接している時間がすごく短い。そういう意味があって特急なのですが、イタリアでは『あなただけのために』という特別な意味合いもあります。1杯目と2杯目は、実は味が違うんです。コーヒーの粉のグラム数も、1グラム多く入れれば味が変わります。粉を平らにしてプレスして出すんですが、その力加減でも変わります。もちろん温度や湿度によっても変わるんです。『この瞬間にしか出せない味を、今、目の前にいるあなたのために』。エスプレッソってそういう飲み物なんです。イタリア人はエスプレッソを愛していて、淹れ方を細かく指定するんですよ。今日はパンチが欲しい、ドロっとしたのが欲しいから15秒で出せとか、今日は35秒で出せとか。マイカップを持っていて気に入った店に1日に何回も何回も通うんです」

「エスプレッソには本当の飲み方があります。本当の飲み方は、エスプレッソをカップに抽出したら、そこにティースプーン山盛り2杯の砂糖を入れて飲みます。それをよーく混ぜて3口くらいで飲みます。最初は溶かしたチョコレートみたいにトロッとしていて、一番最後には溶け切らなかった砂糖が残ってドロッとしています。それをスプーンですくって舐めます。デザートです。本当のエスプレッソは、一つの飲み物の中で色々な味と香りと表情を楽しめるものなんですよ。日本人はカフェに来てエスプレッソを頼んで、砂糖はいらないと言う人がいますよね。砂糖を入れると、コーヒー本来の風味が損なわれてしまうから、邪道だと思っている人が多い。でも、エスプレッソに砂糖使わないですという人がいると、僕はちゃんとした飲み方を知らないんだなと思います。本当は砂糖を入れて飲む物で、入れた方が断然おいしいです。決して苦いものではないんですよ。エスプレッソに限らず、コーヒーって嘘の情報が定着してしまっていることが多い。本当の姿を知ればもっともっと楽しめるものなんです」

フルーツの種

「コーヒー豆が何からできているか知っていますか?」

「コーヒー豆は、果実の種です。農園ではサクランボみたいに木になっていて、その果肉を除去したのがコーヒー豆です。それが生豆。それを僕たち焙煎師が焙煎します。そうすると色が濃くなってコーヒー豆になります。なので、コーヒーって元々はフルーツなんですよ。豆じゃないんですよ。ということはですよ、ストロベリー、メロン、パッションフルーツ。元々はそういう味と香りがするんです。最近は、『スペシャルティーコーヒー』が主流になってきています。スペシャルティーコーヒーは、農園で農家さんが育てるところから、豆の処理、選別までプロの手で徹底した品質管理をされて、ここまでダイレクトに入って来る最高品質の豆です」

「スペシャルティコーヒーにはプロファイルが付いています。専門の資格を持つ人が豆の品質をテストして、平均80点以上ついた豆がスペシャルティーコーヒーとして扱われます。農家さんは肥料をきちんと与えたり、完熟した豆だけをちゃんと収穫したり、本当に絶え間ない努力をして一生懸命に作っているんです。農作物なので、去年良かったから今年もいいということはなくて、その年の日照条件とか気候とかで味も香りも色味も変わります」

「スペシャルティーコーヒーには本当に色々な種類があります。例えば、これはドミニカの「ワイニー」という豆で、うちのお店で断トツで一番人気の豆です。5、6年前にイベントで飲んで感動して、これを真っ先に焼きたいと思って、お店ができた時に一番初めに仕入れたのがこの豆です。赤ワインのような酸味と香りがあります。他にも、うちで扱っているものだけでも、甘夏、ピーチ、グレープフルーツ、色々な風味の豆があります。色も香りも全く違う」

「豆の品質が良いので、朝ステンレスボトルに入れてお湯を注いでそのまま4〜5時間経ってもおいしいです。冷めても淹れた次の日に温め直して飲んでもおいしいと言われるのが、スペシャルティーコーヒーなんです。熱いと香りが一番最初にくるけど、冷めてくるとだんだん甘みとか酸味とかフルーツらしさが出てきて、味と香りの変化が楽しめます。こんなに違う飲み物になるんだってみんなびっくりしますよ。アツアツで飲むのがコーヒーと思われてますけど、スペシャルティーコーヒーは冷まして飲んだ方が豆本来の香りと味が楽しめておいしいんですよ」

3種の焙煎方法

農家さんからの、フルーツのメッセージが香るコーヒー豆。

それらを焙煎し、挽いて、抽出する。

その過程ひとつひとつで、一杯のカップに注がれるコーヒーの表情は変わっていく。

「焙煎の仕方って3つあるんですよ。一つは直火式。コーヒー豆に直接火を当てる方法です。次が半熱風。豆と火の間に鉄の板を挟んで焼きながら、熱風も送って焼き上げる。そして、完全熱風。熱の風を当てて焼くので苦みが出ることなく、豆の繊細な風味を出しやすい。市販のコーヒーは直火式か半熱風で作られています。でも、一番繊細な風味が出せるのは完全熱風の焙煎機。うちのお店にあるのは、「スマートロースター」というアメリカ最新鋭の完全熱風の焙煎機です。日本ではまだ20台しかなくて、埼玉にはうちにしかない。1400万円する機械です」

「これでも一番小さなタイプなんですけど、設置するには建物の高さが3mないといけないんです。この建物は高さが3mあるんです。だから、建物を先に借りてこの焙煎機が来るのをずっと待っていました。この焙煎機なら豆の細胞壁が均等に焼けて壊れないので、焼いてから1年後くらいでもおいしく飲めます。スぺシャルティーコーヒーに出会って感動して、お客さんにもぜひこのフルーツ風味のコーヒーを楽しんでもらいたいと思ったんです。それなら自分で焙煎しないとだめだと思って、アメリカから飛行機を使って輸入した特別な焙煎機なんですよ」

いかに油を入れるか

「抽出する時に一番大切なのは、コーヒー豆から出た油をいかにカップの中に注ぐかということなんです。それがおいしいコーヒーを淹れるポイントなんです。だから、コーヒーのおいしさを最大限に引き出したいと思ったら、エスプレッソが一番出ます。豆に圧力をかけて抽出しているから。エスプレッソは上に泡みたいに見えるものが乗るんですけど、あれは乳化した油で、400種類以上のアロマ成分が含まれていると言われています。次においしいのがフレンチプレス。日本で一般的なドリップ式は下の方なんです。ドリップで淹れるとフィルターと豆に油が吸われちゃって、カップに落ち切らないんです。このお店でコーヒー豆を買っていかれる方も、9割方はドリップで淹れますと言います。でもヨーロッパではほとんどがプレスです。そこが日本とのそもそもの違いですよね」

「もし、僕がドリップ式で抽出するならガンガンお湯を注ぎます。『の』の字書いてとかやりません。今日は失敗したとか上手くいったとか、全然意味ないです。ドリップコーヒー派の人たちが難しくしちゃっているけど、僕は『コーヒーは化学だ』っていつも言っているんです。簡単でいいと思っているんです。いかに油を注ぐかなので、フレンチプレスがなくてもステンレス製の二重の茶こしさえあれば、家でも簡単においしいコーヒーが飲めますよ。コップに豆入れてお湯入れて、4分経ったら茶こしで濾しながらカップに入れます。ステンレスなので油がそのまま出るんです。同じ豆で抽出方法を変えて比べてみるといいですよ。日本人はコーヒー本来の味と旨味を楽しみきれていないから、もったいないんですよ」

人と人をつなぐ

イタリアと日本の公認バリスタの資格を持つ五十嵐さん。

バリスタの役割は、「おいしいコーヒーを淹れる」。
だたそれだけに留まらない。

「バリスタの役目は、コーヒー豆を作る農家さんとお客さんをつなぐ架け橋になることだと思っているんです。僕は焙煎でおいしくしようとは思っていないんです。同じコーヒーを飲んでどんな感想を持つかは人それぞれの自由でいいと思う。でも僕は、農家さんがコーヒー豆に残した、豆本来の香りをそのまま壊さないように焼きたいんですよね」

「スペシャルティーコーヒーの豆をエスプレッソにして飲むと、フルーツジュースみたいですよ。最初に酸味がきて、ああレモンっぽいなと思って、そこに砂糖を入れることによって、やっぱりレモンだねとなります。スペシャルティコーヒーって飲み慣れないとその味の良さが分かりにくかったりするけど、砂糖の甘みを加えることによってフルーツ感が増すんです。オレンジだ、マンゴーだというのが分かりやすくなる」

「僕の次の目標は、コーヒー豆の農家さんから直接豆を仕入れることなんです。農家さんと直接会話して『今回は、パイナップルのような豆ができたんですよ』と言われたら、僕は、『パイナップルのような豆なんですよ』とお客さんに伝えるものだと思っているんですよね。日本で一般的に飲まれているコーヒーからは、苦味や深みを感じることはあっても、フルーツ感は中々感じられないですよね。でも、あぁこれレモンぽいなとか、コーヒーの香りや味をフルーツに例えながら飲んでもらうと、絶対に面白いですよ。より一層面白い。まだまだ皆さんコーヒーの本当の面白さを知らないですからね。物語のあるコーヒーと言うのかな。市販の缶コーヒーとかとは全く違う、生産者とバリスタとお客さんがいて成り立つようなストーリーのあるコーヒーを、ぜひお客さんに飲んでほしいんです」

多くの人に伝えたい

エスプレッソはコーヒーの甘い余韻を楽しむもので、コーヒーはフルーツの繊細な香りや味わいの先に思いを馳せるもの。

五十嵐さんは、コーヒーの本当の姿をいくつも教えてくれる。

そしてその度に、親しみやすく奥深い、コーヒーの世界が広がっていく。

「コーヒーって嘘の情報がいっぱいあるんですよ。新鮮な豆はおいしいと言われていますが、おいしくないんですよ。本当は4日目くらいからおいしくなるんです。本当の姿が知られていないから、届いていないおいしさも面白さも楽しみ方も、まだまだたくさんある」

「『50 COFFEE & ROASTERY』がある『七ツ梅酒造跡』は、よく映画やドラマの撮影もやっているし、建物自体が色々なメディアでフォーカスされているので、市内外から色々なお客さんがいらっしゃいます。このお店ではおいしいコーヒーを楽しんでいただきつつ、コーヒーの本当の姿をたくさんの人に伝えていきたいんです。誰でも参加できるコーヒーセミナーも開いていきたいし、色々な種類のスペシャルティーコーヒーを仕入れているので、その香りの違いも実際に感じてほしいし、焙煎や抽出の様子も見てほしい」

「僕は、僕とお客さんも、お客さん同士も、常連さんも一見さんも、年齢も地位も関係なく、みんな対等だと思っているんです。だからお店に初めて来られた方も、何かあったら言ってほしいし、分からないことや困ったことがあったらいつでも頼ってほしい。コーヒーってどんな風にできるんですかとか、どういう風にしたらおいしく飲めますか、エスプレッソって何ですかとか。本当に何でもいいと思うんで。好みの味をリクエストしてくれれば、それに合わせたコーヒーを出すこともできますよ。自分のお店を出して独立したいと言う人には、カプチーノやラテの淹れ方、ラテアートを教えることもあります。同じ日、同じ時間にカウンターに座ったお客さんとゆっくり会話しながら、一緒にコーヒーを楽しめたらいいんじゃないかな」

「50 COFFEE & ROASTERY」を訪れるお客さんの中には、外から新しく深谷に越して来た方も多いのだと言う。

「知らない土地で暮らすのってやっぱり不安じゃないですか。人は一人じゃ生きていけないので。だから、お店に来て下さった方にはコーヒーの話はもちろん、深谷のいい所を紹介したり、共通の趣味がある人とつないだり、お店のイベントや周年記念パーティーがあれば誘うんです。うちのお店のお客さんは本当にありがたいことにみんなとてもいい人たちなので、新規のお客さんがいると必ず話かけてくれます。1回だけではなくて何度かお店に通ってもらえれば、新しく来たお客さんも顔見知りの人を作ることができると思います。カウンター席で偶然隣に座ったお客さんとつながって、毎週決まった曜日、時間にここに集まって、コーヒーを飲みながら落ち着いて語り合える仲間になっていく。そうやって街の中に安らげる場所が少しずつ増えていく。人の輪もコーヒーの文化も、そんな風に広がっていくんだと思います」

本当の姿に親しむと、関わり方も楽しみ方も自由になる。

それはきっと、コーヒーだけではなく、人や街との出会いも同じだ。

レトロとモダン。
日常と非日常。
人と人。

それらの間をゆるやかにつなぎながら、コーヒーのある日常は広がっていく。

 

(文:高田裕美 写真:矢野航)

 

<50 COFFEE & ROASTERY(フィフティコーヒーアンドロースタリー)>
住所:〒366-0825 埼玉県深谷市深谷町9-12七ツ梅酒造跡
営業時間:11:00~16:00
定休日:月曜・火曜
お問い合わせ:048-577-5585
Instagram:@lotus_cafe_2006

<LOTUS Café(ロータスカフェ)>
住所:〒366-0052 埼玉県深谷市上柴町西4-10-1 カームプレイスⅡ 102
営業時間:月曜11:00~14:30、火曜~日曜11:00~18:00
お問い合わせ:048-577-5585
HP:http://www.lotus-cafe2006.com/index.html

<深谷に行ってみたい方へ>
深谷を巡る日帰り旅プラン:
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花と緑とカフェを巡る一日

深谷市のおでかけスポット:
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