2019年から6年間の期限付きで始まった「移住支援制度」。
国や地方自治体が地方移住や地方での起業・創業を後押しするもので、条件に当てはまる場合は移住支援金、起業支援金などの補助を受けることができます。
本記事で紹介する移住支援制度を賢く活用し、地方で理想の暮らしをはじめましょう!
移住支援制度とは
移住支援制度とは、国及び地方自治体が展開する都市部から地方への移住を支援する制度のこと。
東京圏への人口一極集中の是正と地方での産業の担い手・後継者不足解消を目的に、国と地方自治体それぞれが経済的な支援を中心に展開しています。
どのような支援事業を行っているかどうかは自治体によって異なり、中には募集していない地域もあります。また、制度の中身も地域によって様々。
ご自身が移住後に何をしたいか、どんなことができるかを検討したうえで活用するかどうかを含めて検討しましょう。
国による移住支援制度
国が実施している移住支援制度は以下の2つ及びこれらに関連する支援制度です。
- 起業支援金
- 移住支援金
申請は各自治体の相談窓口に対して行う必要があり、2019年から6年間の申請期限があるで、まずは都道府県、市町村の相談窓口に問い合わせてみましょう。
あわせて2つの制度の具体的な流れや注意点、申請要件などは内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」に掲載されています。事前に確認しておきましょう。
起業支援金
起業支援金とは、地域の課題解決を目的とした起業を目指す人に対し、最大200万円の助成金が支給される制度です。主に子育て支援や地産地消を推奨する飲食店、高齢者支援などの事業が該当します。
採択にあたっては地域の課題解決を目指しているか等の条件があり、無条件で支給されるものではありません。
都道府県の担当部署が申請者の中から審査し、事業立ち上げの支援を行うとともに、企業などで必要になる経費の半分相当を支給します。
なお、支援金の支給は起業後にある実績報告後となっているので、起業資金に充当することはできません。支払いのタイミングに注意が必要です。
また、条件に該当する地域とそうでない地域も設定されています。詳しくは「地域創生」の「起業支援金」のページを確認してください。
【対象者】
起業支援金の対象者及び条件については、以下の通りです。
新たに起業する場合(次のア~ウすべてを満たすことが必要)
ア.東京圏以外の道府県又は東京圏内の 条件不利地域において社会的事業の起業を行うこと。
イ.公募開始日以降、補助事業期間完了日までに、個人開業届又は法人の設立を行うこと。
ウ.起業地の都道府県内に居住していること、又は居住する予定であること。
事業承継又は第二創業する場合(次のア~ウすべてを満たすことが必要)
ア.東京圏以外の道府県又は東京圏の 条件不利地域において、Society5.0関連業種等の付加価値の高い分野で、社会的事業を 事業承継又は第二創業により実施すること。
イ.公募開始日以降、補助事業期間完了日までに、事業承継又は第二創業を行うもの。
ウ.本事業を行う都道府県内に居住していること、又は居住する予定であること。
(「内閣官房・内閣府総合サイト「地域創生」より」)
移住支援金
移住支援金とは現在東京23区に在住または通勤する人が東京圏外もしくは条件不利地域へ移住して、起業・就職を行う場合に交付される支援金です。支援額は単身者が60万円、それ以外が100万円以内です。
支援金を申請・受給できる条件は厳しく、以下の条件をすべて満たす必要があります。
【対象者】
- 【移住元】東京23区の在住者または東京圏から東京23区へ通勤している者
- 【移住先】東京圏以外の道府県又は東京圏の条件不利地域への移住者(移住支援事業実施都道府県・市町村に限る)
- 【就業等】地域の中小企業等への就業やテレワークにより移住前の業務を継続、地域で社会的起業などを実施
細かな条件に関しては「地域創生」の「移住支援金」のページに掲載されています。また、各都道府県・市町村でも実施していない地域があります。こちらの資料で連携している自治体が確認できるので、あわせて確認しましょう。
関連する支援制度
厚生労働省や日本政策金融公庫も上記制度に関連する支援を用意しています。中には事業主を支援する制度もあるため、移住者だけではなく採用する側も確認しておきましょう。以下は各支援制度の概要と問い合わせ先です。
【国の移住支援制度に関連する制度】
制度名 | 内容 | 支援金額 | 問い合わせ先 |
【フラット35】地方移住支援型 | 移住支援金を受給した移住者を対象にした住宅ローン | 金利を当初10年間、年0.3%引き下げ | フラット35 |
中途採用等支援助成金(UIJターンコース) | 東京圏からの移住者を採用した事業者に対して、採用活動で生じた経費の一部を助成 | 100万円以内
中小企業は経費の1/2、それ以外は1/3 |
居住地域を管轄するハローワーク |
新規開業支援資金(国民生活事業) | 移住者の新規開業・起業にかかる資金を融資する制度 | 7,200万円(運転資金は4,800万円) | 日本政策金融公庫 |
マイホーム借上げ制度 | マイホームを賃貸に出せるようにする制度 | 家賃収入 | 一般社団法人 移住・住みかえ支援機構 |
地方自治体による移住支援制度
移住支援制度の具体的な種類
移住支援の内容には、大きく以下の3種類があります。自分が移住先でどのような生活がしたいか、何をしたいのかを明確にしておくと支援内容から自治体を選ぶこともできるようになります。
- 古民家を改修し移住する人を支援
- 移住と就農を同時に支援
- 移住と同時に農業以外の一次産業への就労を支援
古民家を改修し移住する
空き家バンクと提携した移住支援事業のひとつです。古民家を再生して住んでもらおうという制度です。
テレビ番組などで古民家再生をして移住した方々が紹介される機会が増え、あこがれている人もいるでしょう。自治体としても危険な空き家を買い取ってくれる人が現れるのは非常にうれしいはずです。
しかし、古民家再生には一般住宅よりも難しい工事が必要で、それにともなって工事費用が高額になってしまう欠点があります。自治体では古民家再生にかかる費用の一部を補填する制度が用意されている場合があります。
金額は自治体によって異なりますが、リフォーム代で50~100万円、工事費の1/2までとしているのが一般的です。
移住と就農を同時に支援
農業に新たに従事することを(就農)と言います。地方移住とともに就農することに憧れを抱いている人もいますが、移住先の住居に加えて農地まで手配するとなると、費用面での負担が大きくなってしまいます。
移住支援制度の中には、移住と就農を同時に支援してくれる制度もあります。いきなり農地を購入するのではなく、地域の農業体験や農地を借りて農業をスタートするやり方です。自治体によっては新規就農の支援までしているところもあります。
大まかな流れは農業見学から始まり、体験や研修を経て農地や農機具の貸出を実施する流れが一般的です。研修に必要とする年数は自治体によって異なりますが、移住先の住居に対する支援と同時に受けられるケースがほとんどになっています。
移住と同時に農業以外の一次産業への就労を支援
農業以外の一次産業への就労支援を移住支援とセットで行っている自治体もあります。御術取得のハードルが農業よりも高いとされている漁業や林業がその対象です。これら一次産業は、市町村レベルの支援とは別に都道府県が実施している支援制度もあるほど力が入れられています。産業の担い手減少に歯止めをかける施策として注目度が高い支援事業です。
ただし、農業以外の一次産業と移住支援をセットで行っている自治体は、就農のそれより母数は少なめです。やりたいことが先に明確になっているのであれば、そちらを基準にあとから移住希望地を決めたほうがいかもしれません。
移住支援制度を活用する時の注意点
国が実施している移住支援制度のほかに、各自治体が独自に用意している移住支援制度があります。しかし、支援内容や金額・期間が異なるため、詳細は自治体のホームページを確認する必要があります。詳しい調べ方は「自治体の移住支援制度の調べ方」 で詳しく解説します。
同時に、移住支援制度にはいくつかの注意点があります。制度そのものの有無を調べるとともに、以下の注意点も確認しておきましょう。
確認すべき事項 | 内容 |
予算枠・採用枠 | 年度によって割り当てられている予算や人数が異なる場合がある。また、募集期間内であっても上限到達とともに募集終了になる場合もある。 |
申請時期 | 移住歴や居住年数などが設定されている場合が多い。 |
居住要件 | 居住歴が必要。別荘などの一時利用では原則申請不可。 |
年齢・性別制限 | 年齢や性別による制限を設けているものもある。また、家族形態も関係数場合があるので要確認。 |
移住支援制度の目的はあくまでも地方の人口増加とそれに伴う税収増加です。一時的に住んでいるだけや、税収につながらない年代は適用されないことがほとんどなので必ずご確認ください。
移住支援制度の調べ方
自治体が用意している移住支援制度は、主に以下の方法で情報収集できます。
- 自治体ホームページで調べる
- 自治体窓口に電話する
- 移住情報まとめサイトで調べる
- 移住体験・相談会に参加する
注意点でも少し触れましたが、移住支援制度の予算や採用人数はその年度に割り振られた自治体の予算に左右されます。また、年度や内容によっては毎年コンスタントに採用しているわけではないものもあります。必ず上記の方法で最新情報を集めておきましょう。
自治体ホームページで調べる
移住支援制度は各自治体のホームページで必ずと言っていいほど掲載されています。検索エンジンで「自治体名 移住 支援」と検索すれば、募集がない限りは必ず公的な制度内容説明が閲覧できるはずです。
ただし、注意したいのは、そのページの最終更新日。中には過去の募集要項がそのままになっており、情報が更新されていないページもあります。募集要項の日付を確認したり、ページそのものの更新日を確認して、閲覧しているページが最新かどうかは必ず確認してください。
また、情報を集める先はできるだけ自治体のホームページからにしましょう。ほかのサイトや個人ブログなどに転載されているケースもありますが、中には間違った情報を載せている場合もあるからです。移住は費用がかかるのはもちろん、家族の人生や自分の将来も左右する大きなイベントです。できる限り信頼できる掲載元から情報収集しましょう。
自治体窓口に電話する
インターネットでの調べ方がよくわからない、苦手だという人は自治体に電話してみるのもひとつの方法です。希望の移住先が決まっている場合は、直接問い合わせたほうが早く解決することも少なくありません。
また、インターネットに掲載されていた情報では分からなかった場合も直接問い合わせは有効です。自治体が掲載している文章には聞きなれない言葉が多いことも珍しくありません。重要な情報を収集していることに変わりはないので、もし自力で調べても分からない場合は、窓口で質問することをおすすめします。
なお、自治体の窓口が分からなくても代表番号に電話をかければ問題ありません。代表番号は総合窓口のようなもので、つながったときに「移住支援制度について訊きたい」と伝えれば、担当課につないでもらえます。より詳しい情報が欲しい場合やインターネットでの情報収集に慣れていない場合はこちらを活用しましょう。
移住情報まとめサイトで調べる
地方移住への関心の高まりとともに、移住情報をまとめた専門サイトも登場しています。移住すること自体に魅力を感じていても、希望の移住先が決まっていない場合には移住情報まとめサイトで条件検索をしてみるといいでしょう。
検索エンジンで自治体のホームページを探すのとは異なり、こちらは地名のほか支援内容などでの検索ができます。いくつかの地域を比較・検討したい場合には、直接自治体名を検索エンジンの検索窓に入れるよりも時間的にも労力的にも楽になるでしょう。
また、一部まとめサイトでは一度検索した履歴をもとに、AIが似た条件の支援制度を表示したり、移住シミュレーションができたりするものもあります。希望地が決まっていない、支援制度にどんなものがあるか知りたい場合は、一度利用してみるのもありでしょう。
移住体験・相談会に参加する
国や自治体主催の大規模説明会も行われています。また、自治体によっては移住体験ツアーや先輩移住者と気軽に交流できる相談会等のイベントも開催しており、有効活用すれば新しい情報が得られます。
まとまった時間は必要になるものの、直接話を聞けたり質疑応答できたりするメリットは、ここまで紹介した3つの方法ではないため有効活用したい手段です。移住体験も実際に希望移住先の様子を知ることができる貴重な機会。ぜひ一度参加してみることをおすすめします。
なお、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、現在これらの事業が停止していることもあります。オンラインで開催する場合もあるため、体験会や相談会の情報にもアンテナを張っておくといいでしょう。
移住支援制度を活用して理想の田舎暮らしを
移住支援制度開始から3年が経過し、残りの支援期間が3年を切ろうとしています。
国をあげての施策であり、地方移住に興味がある方、一次産業や伝統産業、地方での起業・創業に興味のある人にとっては、費用面の援助やそれ以外のサポートが受けられる点で非常に有効な制度です。
上手く活用して、理想の田舎暮らしをはじめましょう。
文:久保田幹也
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