【長崎県移住者インタビュー】
西海の美しい風景と人々に癒される
ここは私の心のふるさと

九州の西の端、西彼杵にしそのぎ半島に位置する長崎県西海さいかい市。長崎市と佐世保市のちょうど中間にあり、波穏やかな大村湾に面した西彼町せいひちょうは、美しい海と山に抱かれた自然の宝庫として知る人ぞ知るエリアです。その魅力に触れ、お試し移住をスタートした松村茉莉さん。移住から約1年、実際に住んで実感した西海ライフのリアルな声を伺った。

人と出会う楽しさ、穴場を掘り起こす面白さ。
旅好きが見つけた不思議な半島「西海」

大阪出身で、東京や神奈川で働いていた松村茉莉さん。大学時代は福祉の観点から建築やまちづくりなど幅広く学んでいたという。

「まちづくりの勉強が面白くて、大学卒業後は東京で地域・都市計画のプロデュースをする会社に勤めました。いろいろと学ばせてもらいましたが、すごくハードで」と、退職したあとは知人のデザイン事務所をサポート。やがて好きなイラストと文章のスキルを活かしてフリーランスに転身。そのかたわら、川崎市にある築90年の古民家再生プロジェクトの運営も手伝うようになったという。

「自分が“いい”と思ったこと、興味があることはまずやってみよう!という感じ。大学も古民家もそうですが、人が交流する場所に関わるのが好きですね」。

旺盛な好奇心は旅のスタイルにも表れている。松村さんが初めて一人旅をしたのは、19歳の頃。青春18きっぷを使った鈍行列車の旅で、熊本県阿蘇に向かった。

「電車で地元のおじいちゃんやおばあちゃんと話したり、旅先のゲストハウスで友達ができたり。国内外いろいろなところを旅行して人と出会う楽しさを知りました」。

また、メジャーな観光地などに行かず、穴場的なスポットを掘り起こすのが松村さん流。

「最初に西海に行こうとしたのも“長崎掘るぞ〜”って思ったからかな。長崎市や佐世保市の情報はネットでたくさん入手できたけれど、西海の情報はあまりなかったんです。地図を見ても、電車は通ってないし、森みたいにモコモコした山のすぐそばに海があって。西の果てに不思議なエリアがある!この半島は何?って、逆に興味がわきました(笑)」。

初めて西海市を訪れたのは2018年の春。Googleマップでたまたま見つけて、ほんの寄りみち感覚で旅行した西海でのひとときが移住につながるきっかけとなった。

温もりのある土地の味と、やわらかい人柄。
西海の体験民泊が移住のきっかけに

 西海で1〜2泊しようとネットで検索し、見つけたのが築100年の古民家での体験民泊だった。

「定年退職後に田んぼや畑をされているご夫婦のお宅に泊めていただきました。そのご夫婦がすごく良くしてくださって。私の実家は大阪のニュータウンで、社会人になってからは関東で都会暮らし。田舎に住んだことがなく、まったく経験がなかったんですけど、西海で初めて“地に足がついている生活”というのを目の当たりにしました。私がやりたいのはこれじゃない?!って、ハッとしたというか」。

その民泊で食べたのが、長崎の郷土食のかんころ餅。材料のお米やさつまいもはご夫婦が田畑で育てたもので、すべて自家製の手づくりだ。

「素朴で、優しくて、温かい。かんころ餅の味が、西海の土地と人を表していると感じました。それまで都会のスーパーで食材を買っても、何の思い入れもなく、ただ調理して食べるだけでしたが、あのかんころ餅は“温もりのある土地の味がする”と、本当に感動しました」。

西海での思い出を胸に関東へ戻った松村さん。数年ほど多忙な日々を過ごすうちに体調を崩してしまったという。

「仕事はやりがいがあって楽しかったけれど、何となく“ここじゃない”という感じもありました。都市部は情報も多いし、進んでいるけど、私はそれを欲していなかったんです」と、松村さん。

心身を整えるためにもどこか他の場所に身を置きたいと考えたとき、ふと浮かんだのが西海だった。

「とはいえ、5年前に1〜2泊しただけなので、正直、思い出を美化しているんじゃないかと(笑)。それで、昨年の夏にもう一度確かめに行きました。西海だけじゃなく、長崎市、東彼杵、雲仙、波佐見などいくつか回ってみて、やっぱり西海が私に合うなって」。

最初に相談した「ながさき移住サポートセンター」も心強い存在に。

「移住や住まいに関する話を聞きたいと思って、インターネットで検索して問い合わせました。私の場合、長崎は1度しか来たことがなく、どんな土地かも全然わからなかったので、職員の方に各地域の特色とか教えてもらえたのがすごく参考になりました。その情報をもとにイメージを膨らませられたし、実際に足を運ぶ候補地をしぼることができたのは大きかったです」。

西海に空き家があったのも決め手のひとつ。移住サポートセンターと連携した地元の不動産会社の紹介で、眺めのいい平屋を案内してもらったそう。また、松村さんは引越しをするタイミングで「ながさき移住倶楽部」にも入会。料金割引などさまざまな会員特典があり、移住者に対する手厚いサポート体制が整っている。

畑仕事で気づいた“ゆっくり感”の大切さ

松村さんの住まいは築60年の和洋折衷の古民家。庭の一角には畑も付いている。

「不動産屋さんが外装を貼り替えたり、水回りもきれいにしてくださったので、古民家とはいっても今風で住み心地が良いです」と、大満足のよう。縁側から大村湾を一望できる贅沢なロケーションも大のお気に入りだ。

畑では家庭菜園にもチャレンジ。

「畑の経験は全然なくて、土いじりもしたことなかったけれど、全部ご近所さんに教えてもらいました」と、笑いながら畑を案内してくれた。

女性で単身の移住者ということもあり、ご近所さんは色々と気遣ってくれるという。

「畑をしたいと話したら、『これ撒いてみて』と肥料や石灰を持って来てくれたんです。私も教えられるがままに、わかりました!やってみます!と(笑)」。

しかし、土づくりが終わった畑に種をまいてみたものの、なかなか芽が出てこない。

「3日経っても芽が出ないので、最初は遅いなと思ったんです。でも、ゆっくりゆっくりでもちゃんと土の中で成長していて、芽が出たときは、あ!って感動して。この“ゆっくり感”を私は求めていたんだと気づきました」。

今までスピードが速い都会で生きてきた松村さん。仕事も生活も慌ただしく、うまく消化できないまま次へ次へと進んでしまっていたことを、西海の自然がそっと教えてくれたのかもしれない。

「育てて、収穫して、食べて。自分で食料が獲得できるのもわかって、だんだん面白くなってきました」という畑には、大根、小松菜、ほうれん草、にんじんなど、さまざまな野菜が青々と葉を茂らせている。 

自然の“癒し”を音楽でも実感。
心なごむ穏やかな日常をこれからも

フリーランスのイラストレーター&ライターとして西海のイベントのチラシやポスターなどの制作に携わる一方、週2〜3回は特産品のみかん農園の手伝いをしている松村さん。ご近所のみなさんは優しく気さくな方ばかりで、ほどよい距離感を保ちながら接してくれるので、地域のコミュニティにもすんなりなじむことができた。

「西海でご近所づきあいを学びました。長崎は昔から異国の文化を受けいれてきた土地だからか、よそから来た人でもまず受け入れて、興味を持って接してくれます。そこが“長崎らしい”かなと思います」。

最近では、音楽を通じて長崎と東京をつなぐ取り組みも。

「趣味でゴスペルをやっていて、東京のチームに所属しているんですよ。その歌の先生とメンバーを西海に呼んで、ワークショップとミニライブを開催しました。ワークショップで先生が教えてくれた曲を地域の方たちと一緒に演奏して、総勢50名くらいがステージにあがって、観客は西海市や長崎市、波佐見、有田、遠くは香川からもお越しいただきました。ライブの後に交流会をしたのですが、ご近所の農家さんが新米でおにぎり作ってくれたり、郷土料理のくずかけを持って来てくれたり、すごく応援してくれて。東京のメンバーも長崎の人や空気感にすごく癒されて、また来年もやりたいね!と帰って行きました。地域のコーラス団体の後援があったことで、素晴らしい交流が生まれ、特別な思い出となりました」。

音楽をする上で、西海の自然も松村さんの感性に心地よい影響を与えているそう。

「都会とは環境音が全然違います。鳥の声、虫の声が8割がたで、日常から音楽的な自然音が聞こえて癒されます。それに、大村湾の風景。波が静かだから鏡のように空の色をそのまま映し出すんですよ。その景色を見ていると、感情が入って歌がのってきます」と、語ってくれた。

西海の魅力を肌で感じ、1年間の予定だったお試し移住をさらにもう1年ほど延長することに。

「人も自然も温かくて、優しい。西海は私にとって心のふるさと。そう思える場所になりました」。

西海の内海のように穏やかな日常はこれからも続いていく。

取材・文:山田美穂 写真:内藤正美

【ながさき移住ナビ】

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