「TURNSのがっこう-館山科-」第3回
“関東の南国リゾート”で
「自分らしい働き方を見つける」
現地フィールドワークレポート

TURNSが運営する「TURNSのがっこう」では、千葉県館山市と東日本旅客鉄道株式会社千葉支社主催による「館山科」を開講。その第3回講座として、3月16日に館山市での現地フィールドワークを行いました。ここではその様子をレポート。参加者と一緒に感じた、館山の人と土地の魅力を紹介します。

 

駅に降り立つと、そこには南国の風が

「TURNSのがっこう」は、地方移住を検討する人や関係人口としてのつながりを求める人が、地域で活躍する人と出会い、地域へのかかわり方のヒントを見つけることを目的に全国各地で開催している企画です。

今年2月から行われた「館山科」は全3回のプログラムで構成され、その前段では地元事業者を対象にした事前座談会を実施。地域の課題をあらかじめ可視化した上で、「複業・兼業で地域とかかわる」と「ワーケーションで地域とかかわる」をテーマにした2回のオンラインセミナーを開催しました。そして、この日の第3回講座は実際に館山市を訪れ、「自分らしい働き方を見つける」をテーマにした日帰りの現地フィールドワークを行いました。

東京駅から高速バス「房総なのはな号」に揺られて約2時間。午前10時過ぎに集合場所のJR館山駅に到着すると、どことなく南国チックなあたたかさが。この日はまだ、全国的に冬の寒さが残る3月中旬で、これは着てくる服を間違えたかも…と思いながらスマートフォンで気温を調べると、意外にもその日の東京とさほど変わらない温度。もしかしたら、強い日差しと駅前通りに立つヤシの木の並木道が、実際以上のあたたかさを運んできたのかもしれません。

千葉県南部、南房総地域の中核都市である千葉県館山市は、東京湾に面する人口約4万4千人のまちです。関東地方のほぼ南端に位置し、マリンスポーツ好きなど海のそばでの暮らしを求める人の移住地、別荘地として人気が高く、官民連携によるワーケーションの環境整備にも積極的。定置網漁に代表される沿岸漁業が盛んで、市内には10の漁港を擁しています。温暖な気候を活かしたイチゴやビワなどフルーツの生産も有名なほか、「房総フラワーライン」をはじめとする花の名所も点在し、年間170万人近い人々が訪れる人気の観光地でもあります。

この日は関東の在住者を中心に、複業やワーケーションに関心を持つ20代から60代の参加者が館山を訪問。すでに何度も館山を訪れているという人や千葉県内からの参加者も多く、今回のツアーを通じて「館山のことをもっと知りたい」という熱を感じました。遠くは新潟県からの参加者もおり、2度のオンラインセミナーを経ての開催ということもあって、こうした移住検討者向けツアーの中でも、とくに地域への関心の高さが伺えました。

 

自分らしい働き方を実践する3名によるトークセッション

バスの車内で館山市の職員から市の概略に関する説明を受けた一行は、駅から約15分かけて最初の目的地である「ホテルファミリーオ館山」に到着。館山湾に面して建つこちらは、南欧風のムードが特徴的な全室オーシャンビューのホテルで、ワーケーション利用者向けの設備も整っています。

ここではまず、参加者の自己紹介を行った後、TURNSプロデューサーの堀口正裕による「地域での働き方・これからの関わり方」をテーマにした講座を開催。続いて、株式会社Re.TSUKUL代表で館山青年会議所理事長の福原巧太さん、東京の企業に勤めながら地元の南房総市で暮らす佐久間淳子さん、館山市地域おこし協力隊の現役隊員である北村亘さんという、館山市・南房総エリアで活躍する3名をゲストに招いたトークセッションを行いました。


TURNSプロデューサー・堀口正裕

旧富山町(現・南房総市)出身で現在37歳の福原さんは、高校時代は夏の甲子園大会で全国ベスト4に輝くなど野球漬けの青春時代を過ごした後、大手不動産会社に就職。千葉県北部の営業所で土地活用のコンサルティングに携わりましたが、仕事に疲れ切って帰省した際に参加した地域のお祭りで地元の人のあたたかさや環境の良さを改めて知り、2010年にUターン。実家の建設会社に入社して建築をイチから学ぶことに。

2019年に代表を継いだ後は、同年に起きた房総半島台風で全国からの支援を受けた影響で社会貢献への思いが生まれ、昨年には移住定住促進事業「Re.AERU」を立ち上げて南房総市内に交流複合施設を建設。また、社長業と青年会議所の活動のかたわら、南房総市社会人野球チームの主将、地域のお祭りの囃子係、地区の班長など、複数の組織で役職を担っています。

今は「週7日のうち、6.5日は何かしらの活動で埋まっている」と言い、忙しい日々を送っていますが、「小学生の息子が大人になった時まで今の地域の形を残していきたい」と、我が子の存在が活動の励みになっていると語ってくれました。


福原巧太さん

旧三芳村(現・南房総市)出身で現在32歳の佐久間さんは、幼い頃から都会の生活に憧れを抱き、高校卒業後、進学のため念願の上京を実現。そして、大学でボランティア活動に興味を持つ中、自分の生まれた三芳村がボランティアの支援地域に含まれていることに衝撃を受けつつも、そうした経験を経ながら故郷へのアイデンティティの芽生えを感じたといいます。「卒業後は、いつか地元で働きたい」というおぼろげな思いを抱きながらも、東京の人材派遣系の企業に就職。12年間を東京で暮らしましたが、コロナ禍で会社がリモートワーク導入したことをきっかけに地元に戻ることを決断しました。

現在は東京に本社がある別の企業に転職し、フルリモートで地方副業を含めた副業人材マッチングサービスのlotsful(ロッツフル)に携わる佐久間さん。業務上、各地の企業を支援する中で自分も地域と関わる幅を広げたいという思いを持ち始め、仕事のかたわら、「南房総フェスティバル」 と名付けたポップアップショップを東京で開催。さらには地域づくりへの意識も高まり、館山市の有志主催の勉強会にも毎月参加して議論をしているそうです。そうした経験を経て、「帰ってきたばかりの頃は、東京で稼いだ“外貨”を地元で消費することで、地域貢献になればと思っていましたが、今は消費するだけでは飽き足らず、この地域の魅力をもっと知ってほしいという思いが強くなっています」と語ってくれました。


佐久間淳子さん

現在52歳の北村さんは、埼玉県出身の移住者です。大学卒業後、広告業界で活躍しながら東京と名古屋で暮らしてきた北村さんでしたが、東日本大震災をきっかけに「後悔しない生き方がしたい」という思いを抱くようになり、2015年に館山と東京との二拠点生活をスタート。趣味のサーフィンがいつでも楽しめる生活を実現しました。そして、館山とのつながりが強くなる中でさらに一念発起し、なんと26年勤めた広告代理店を辞めて館山市の地域おこし協力隊を志望。

任期3年目の地域おこし協力隊では、主にワーケーションの拡大に根差した活動を展開。ワーケーション施設の「LAC館山」でコミュニティマネージャーとしてスポーツワーケーションや親子ワーケーションの企画を担当したり、地域の二次交通問題解消に向けたチャレンジなどに励んできました。まもなく卒業を迎えますが、今後は「今も行う宿泊業(K’sVillage平砂浦ハウス)と併行しながら、人のライフスタイルに寄り添い、自分らしい生き方をサポートするような活動もしていきたい」と次なる目標を語ってくれました。


北村亘さん

Uターンして家業を継いだ福原さん、故郷に戻りリモートワーカーとして働く佐久間さん、他県からの移住者である北村さんという、三者三様の歩みで自分らしい働き方・暮らし方を見つけた3人のストーリーは、参加者たちの貴重な人生のヒントになったはず。また、参加者の中には既に居住地の地域活動を実践している人もいたことから、続く質問コーナーでも中には既に居住地の地域活動を実践している人もいたことから、続く質問コーナーでも「少子化や過疎化によって住民一人あたりが地域内で受け持つ役割が増える中、昔からの地域活動をすべて受け継いで残していく意義は?」や「集会などの出欠を取る際、自分の地域は手紙で連絡しないと返事の集まりが悪いのですが、皆さんはどんな工夫をされていますか?」など一段掘り下げた質問が目立ち、終始熱い空気のトークセッションになりました。

 

地方創生型ワークプレイス「JRE Local Hub 館山」を見学

その後はホテル併設のレストラン「BUONO(ボーノ)」でゲストを交えたランチを挟んで、同ホテル内の地方創生型ワークプレイス「JRE Local Hub館山」の見学へ。

全42席のコワーキングスペースと3室の1棟型のレンタルオフィスで構成される同施設。このうちコワーキングスペースはロビーとパティオ、宿泊者専用のラウンジに分かれています。ライブラリーのあるロビーが洗練された雰囲気であるのに対して、ヤシの巨木が中央に構えるパティオは、まるでスペインの邸宅のようなムード。タイプの異なる空間を行き来しながら仕事に集中することができます。

50名程度まで利用可能なスタジオやミーティングルームもあり、会議や研修等に使えるスペースも完備(利用は別途有料)。コワーキングスペースは8時から18時までの営業で、宿泊者は無料で利用可能。宿泊者以外のビジターも3時間1500円から利用できます。

一方、法人向けの1棟型レンタルオフィスは各棟6名程度で利用できる広さ。宿泊はできませんが、各棟に専用のシャワーがあり、周囲の自然を満喫するアクティビティと仕事を両立した働き方が可能です。また、海側に設けられたウッドデッキからは海越しに富士山と夕日が眺められます。

あいにくの空模様で、残念ながらこの日はその麗しい姿を見ることができませんでしたが、館山の海岸線を間近に望むナイスなロケーションに、参加者からは「景色が最高!」「ここで仕事できたら気持ちよさそう」など率直な感想が聞かれました。

 

「自分らしい働き方」にチャレンジする人と出会う館山さんぽ

午後はJR館山駅前を起点に、駅東口エリアをまち歩き。まずは、遊休不動産になっていた駅前の旧商業ビルをリノベーションし、2022年にオープンしたパブリックスペース「sPARK tateyama(スパーク タテヤマ)」を視察しました。

机と椅子が置かれたフリースペースにモダンなカフェやショップが軒を連ねるこちらの施設は、地域の人たちが集まる新たな賑わいの場として機能。古くから市民に親しまれた施設を利活用した空間は、新しさを感じさせながらも、どこか昭和の人情味を漂わせた雰囲気です。毎週第4土曜日にはマルシェも開催。一方で、館内には個室会議室も備えたコワーキングスペース「sWORK(スワーク)」があり、ワーケーション需要にも対応しています。

その後は、館山銀座通りを散策しながら、館山市の職員のガイドで、喫茶店「MANDI(マンディ)」、私設図書館「風の図書館」、複合施設「YANE TATEYAMA(ヤネ・タテヤマ)」という3か所を訪問。

このうち、古民家を活用した「風の図書館」では、東京からの移住者で管理人の笹木千尋さんから、本好きの方々から寄贈された“人生の中で特別な一冊”からなる同館の成り立ちや、同じ建物の一角で運営しているシェア型書店「風六堂」のシステムについて話を聞くことができました。

風六堂の書棚はワインの木箱を再利用したもので、本を売りたい“箱主”は月額500円という破格の料金で一箱分のスペースを借りることができるそう。現在の箱主は約40人。箱の大小に関係なく同じレンタル料というのがユニークなところで、「東京と館山で二拠点生活をされている箱主さんもいますし、ここが箱主さん同士の交流の場になっていて、皆さんよくおしゃべりにいらっしゃいますよ」と話してくれた笹木さん。

一方で、YANE TATEYAMAは、今年グランドオープンしたばかりの注目新スポット。南房総市のお隣、鋸南町で建設業を営む田村仁さんが、商店街の老朽化したビルを仲間とともに約4年の歳月をかけてリノベーションした複合施設は、書店、カフェ、革製品工房兼ショップ、イタリアンレストランという4つの店舗で構成されています。

このうち書店の「北条文庫」は、主に南房総地域の郷土本やアート関連本を販売。「郷土の歴史文化を大切にしつつ、文化的な娯楽と出会える場所にしていきたい」という田村さんの思いから、外観の壁を廃したオープンな空間にこだわり、店内にはZINE(ジン、趣味で作る小冊子)を制作できるスペースもあります。イベントも開催し、ジャーナリストを招いて行った第1弾企画は予約開始すぐに席が埋まる盛況だといい、館山に新たな文化の火を灯しつつあります。

また、お隣の「atelier lab. 伝右衛門製作所」は、大阪府出身の大阪谷未久さんが開いたジビエレザーの革製品を扱うお店です。東京の大学を卒業後、都内の出版社で編集の仕事をしていた大阪谷さんは、南房総と10年以上の関わりを持つ中で獣害対策の問題に関心を持ち、2021年に南房総市へ移住。ジビエ加工処理施設を運営する企業で働くかたわら、東京・両国の革小物の製作会社で腕を磨き、館山に自分のお店をオープンしました。

「皆さんはキョンという動物をご存知ですか。千葉県ですごく増えてしまっている特定外来生物で、年間5千頭くらい駆除されている動物なんですが、革はとてもいいので、ここではその革を使って製品を作っています」と話す大阪谷さん。実際に触らせてもらったキョンの毛革は繊維のキメが細かく、心地よい肌触りで参加者たちの大きな関心を誘っていました。

一軒一軒の滞在時間は、きっと「まだ話し足りない!」と思うような短い時間でしたが、館山のまちでまさしく自分らしい働き方にチャレンジしている人たちに多数出会うことができたまち歩きは、きっとそれぞれに「また来たい」と思える場所が見つかる機会になったことでしょう。

 

夕日の絶景に見送られながら解散…のはずが

そしてツアーの終わりは、館山市と南房総エリアの特産品が集まる「“渚の駅”たてやま」の一室をお借りして、一日を振り返るミーティングを実施。参加者と主催者の双方が感想を述べる中、参加者からは「個人で来ると観光だけで終わってしまいますが、今日は地元の課題を知る方々と話ができてとても有意義な時間になりました。月一でマルシェが開催されていると聞いたので、今度はそういうところに参加したいです」という声や、「館山へは毎月のように来ていますが、これまでは釣りをして帰るだけでした。今後は1泊くらいしてまちの役に立つようなことにも関わってみたいです」と言う声など、さらなる交流につながりそうな前向きな言葉が多数聞かれました。

すべての行程が終わったのは、ちょうど夕暮れに差しかかる午後5時過ぎ。館山名物である海岸線の夕日に見送られながら、一行を乗せたバスは帰りの館山駅へ。午前から午後まで密度の濃いプログラムであっという間だった一日。名残惜しさを感じつつもこれにて解散…の予定だったのですが、3度の講座を経てすっかり意気投合したメンバーは自由参加の“二次会”に。

昼間の館山とは違ったエネルギーを感じさせる南房総一の繁華街「渚銀座商店街」で地元のグルメを楽しみながら、地域の方も交えて終電近くの時間まで会話が止まらないという、最後の最後まで本当にディープな交流に満ちた一日となりました。

 

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取材・文:鈴木 翔 写真:松井 進


本企画に関するお問い合わせはこちらから!
館山市ワーケーション推進サイト

https://tateyama-workation.jp/

                   

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