豊かな水や大地に恵まれ世界的なオーガニックタウンとして注目を浴びている埼玉県・小川町。自然と共生する循環型農業への取り組みもさることながら、小川和紙や酒造りなどの伝統産業も今なお受け継がれ、歴史が紡がれているのは、古くから地域のみなさんが助け合い、励まし合って生きる文化が根づいているからでしょう。
そのような有機的な人とのつながりにおける知恵や発想を活かし、地域課題解決につながるようなイベントの企画・実現をめざして発足したのが、市民参加型の『小川町SDGsまち×ひとプロジェクト』。小川町に興味・関心を寄せ、まちをより良くしていきたいと考える方々がゆるくつながりあいながら、小川町を想い、発信していくために「地域資源×民泊施設コラボイベント実行委員会」、「魅力体験型ツアー実行委員会」「フラッグシップイベント実行委員会」「地域課題解決イベント実行委員会」「シティプロモーション実行委員会」の5チームにわかれ、小川町の価値観や文化を広げていく取り組みをおこないました。
今回これらの実行委員会においてご活躍された6名にお話を伺い、『小川町SDGsまち×ひとプロジェクト』の活動を紐解いていきたいと思います。
オンライン座談会の様子
\座談会に参加いいただいたメンバーのみなさん/
(※ ニックネームでご紹介させていただきます)
◆きみえさん(シティプロモーション実行委員会)
東京のIT会社、 USP研究所の総務・経理担当。会社の小川町の農家さん応援担当として10年前から小川町に通い続け、プライベートでもかかわっている。
◆ぱーまさん(地域課題解決イベント実行委員会)
埼玉県地方自治体職員。小川町と地元の両方で地域と繋がり、盛り上げたいと日々努力中。
◆keiさん(地域資源×民泊施設コラボイベント実行委員会)
西東京市在住。会社員。小川町の関係人口創出を目指す取り組みに参加。小川町のおいしい野菜やお酒、自然に癒されてます!
◆まっちーさん(魅力体験型ツアー実行委員会・フラッグシップイベント実行委員会)
ボディメンテナンス、ヨガ指導者として、スタジオを建てる夢を建築家の次男と実現する為、昨年、小川町に移住。
◆ダニーさん(フラッグシップイベント実行委員会)
小川町の地域おこし協力隊。建築家の卵が、地域の連関の中でどのような面白いことができるか思考/試行しています。
◆さとっちさん(魅力体験型ツアー実行委員会)
有機農家さんと仕事がしたい、まちづくりに関わりたいと思い12年前に単身移住。小川町移住サポートセンター相談員。
\『小川町SDGsまち×ひとプロジェクト』とは/
小川町の地域資源を内外に発信し、市民参加型で魅力あるまちづくりを実現するための3カ年プロジェクト。小川町に興味・関心を寄せ、まちをより良くしていきたいと考える方々を対象に、ゆるく繋がれる『OGAWA 6S プラットフォーム』を構築。実行委員会による取組を通して、関係人口の創出・拡大や、小川町にふさわしいSDGsの実現を目指した取組を主体的に検討し、実施することを目的としています。
<令和4年度の実行委員会について>
◆シティプロモーション実行委員会
分野別のPR活動ではなく、トータルパッケージされた総合的な情報発信を町内・町外へ行う。
⇒町の賑やかさを取り戻し、若い世代を取り込む!◆地域資源×民泊施設コラボイベント実行委員会
町の豊富な地域資源を活用し、町内の民泊施設とコラボした宿泊イベントの開催
⇒定期的に足を運ぶ関係人口の創出・増加を図る!◆地域課題解決イベント実行委員会
若い世代の知恵や柔軟な発想を活かしながら、人と人の出会いの場を生み出し、地域課題の解決に資するイベントの開催
⇒関わる人たち、暮らす地域を共に豊かにする!◆魅力体験型ツアー実行委員会
町の観光資源や地域食材、まちの雰囲気を実体験でき、四季を肌で感じられるツアーを開催
⇒移住のきっかけづくりに繋げる!◆フラッグシップイベント実行委員会
和紙、有機農業、豊かな自然など、SDGsの要素を持つ町の地域資源を活かしたイベントを実施
⇒町全体の価値の上昇、まちの活性化を図る!
ーーきみえさん、ぱーまさん、keiさんは町外から『小川町SDGsまち×ひとプロジェクト』に関わっていらっしゃると思いますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
きみえさん:小川町との出会いは10年前の稲刈りイベントですね。そのイベントで出会った社長とのご縁で、今はIT会社の経理をしています。当社が小川町の有機農業と関わりがあって、新規就農する人の野菜を都会で買ってくれる人を探したり、小川町で農業体験イベントも開催しています。
田植え体験の様子
今も都内から2時間かけて小川町に通っているのですが、個性あふれる人たちがたくさんいらっしゃって、行くたびにまちが変わるんですよね。『小川町SDGsまち×ひとプロジェクト』に参加したらもっと面白い人たちと会えるかもと思い、関わることを決めました。
ぱーまさん:私も小川町の人に惹かれて、このプロジェクトに参加しています。最初に小川町を訪れたのは、仕事にモチベーションを見いだせなくなり、ロマンがある仕事をしたいと模索していたときでした。元々ワイナリーが好きだったので、募集もしていないのに小川町のワイナリーに「ここで修行させてください」と直談判しまして。週末を使ってぶどうを学びに8ヶ月通いました。そこで出会えたみなさんの面白さたるや。
大変なこともありましたが、ワイナリー修行を契機に、仕事をポジティブに捉えられるようになったんです。価値観を大きく変えてくれた恩返しを小川町にしたいと思ってプロジェクトに参加しています。誰かと誰かが出会ってポジティブな価値観の変容をつくりたいなと。今までは、なにかに恩返ししたいと思ったこともなかったんですけれどね。生まれ変わるような体験だったなと思います。
keiさん:私もワイナリーと人がきっかけで小川町と関わるようになったんですよ。現在は西東京市に住んでおり、休みの日にワイナリーや酒蔵をまわるのが趣味です。丸一日かけて出かけてみたりもしてたんですが、やはり帰ってくると疲れちゃうんですよね。もう少し近場にワイナリーがないか探していたら、小川町にはワイナリーや酒蔵が3軒もあると知りまして、3年前に初めて遊びに行きました。
小川町で訪れたワイナリーの受付の方がこれまた素敵な方で、有機農業の金子さんのことや人の魅力をたくさん教えてもらいましたね。帰りに直売所で買った野菜や卵もおいしくてびっくりしました。その直売所のコーヒーショップでたまたまチラシ(広報物)をいただいて、プロジェクトのことを知ったんです。会社を離れた後のことを考えると、会社関係以外の人ともつながりたいなと思うこともあり、夫婦で参加してみることにしました。
ーー小川町の人の魅力がひしひしと伝わってきます。ダニーさんとまっちーさんはすでに移住もされていらっしゃると思いますが、やはり人とのつながりがきっかけなのでしょうか。
ダニーさん:そうですね、建築関係の学生だったときに、友人の友人という関係を通して小川町に来るきっかけがありまして、その時に旧比企銀行の建物をなおしてみないかとお声かけをいただき、仲間3人で再生プロジェクトを立ち上げました。卒業のタイミングで、小川町にもっと関わりたいと思い、地域おこし協力隊として働いています。この「小川町SDGsまち×ひとプロジェクト」では、リノベーションとは別の枠組みでも人とのつながりを作りたかったというのが参加の理由です。
まっちーさん:実はダニーさんの友人が、私の息子なんですよ。息子が小川町に2拠点居住していたので、私も様子を見に訪れていたら、突然「この空き家どう?」とメッセージが来まして。私はヨガや健康体操のインストラクターをしながら、2020年の1月から沖縄へ移住していたのですが、コロナ禍で思うように活動できない状況がつづいていました。景色がいい空き家を探していたので、本腰を入れて拠点をつくるために、2022年の5月に移住しています。
ーー人が人を呼んで、驚くほどどんどんつながっていきますね。
きみえさん:活躍されている方の年齢層も幅広いですし、外から来た人に対して拒絶しない心地良さがありますね。とはいえ、染まらない。自分たちの大事にしたいものも大事にしながら、相手を受け入れる空気感。小川町に来てみないとわからない良さだと思います。シティプロモーション実行委員会が2023年2月発行の『埼玉県小川町プロモーションブック』も “人のつながり” をテーマとしています。
ダニーさん:そのような小川町内外における有機的なつながりをリアルに感じてもらえたのが、今年度2022年11月の大きな取り組みの一つである『ぐるり市』だと思います。
参考URL:https://www.town.ogawa.saitama.jp/cmsfiles/contents/0000005/5410/gururipannhuretto1.pdf
町の魅力を表現した「遊ぶ市」「食べる市」「紡ぐ市」をテーマとした市場(エリア)を設け、小川町を感覚的に楽しむことで、気づきや発見、新たな関係性が生まれることを目的としたマルシェのようなイベントです。
ぐるり市の様子
出店者さんはじめ役場の方やボランティアの方々と関係性をつくることで、私自身も改めて人とのつながりの濃さを感じました。今自分が地域活性化に携われていることも、今まで様々な人たちのつながりがある中の一部なんだなと。
小川町の魅力は、多様な分野が関係し合いながら育んで きた人や文化の繋がりだと考え、楽しく繋がりを体感できるイベント
きみえさん:『ぐるり市』のイベントのとき、印象に残っているエピソードがあります。実行委員に所属しているものの、なかなか活動できていなかった女子大学生がイベント当日お手伝いをしに来てくれて。イベントがはじまる前は、小川町に対して「良いところも遊ぶところもないし、つまんない町」ってとても悲観的な見方だったんですよ。
それがイベントの運営をするうちに「こんなに面白い方がたくさんいるんですね。小川町が違って見える」と目をキラキラさせて話してくれて。やはりリアルな場での参加型イベントには人の心を動かす力がありますよね。
ーー外から来た方が地元の方に魅力を伝えるというところが面白いですね。
ぱーまさん:『紡ぐ市』でも人の価値観を変えるような出来事がありました。『紡ぐ市』を提案した時に「NPO法人のみなさんを集めたら素晴らしい化学反応が起きそうだからやりたい!」と話したところ、とある関係者から「もっと学園祭のようににぎやかなことをしたい」と言われてしまったんです。しかし蓋をあけてみたら「こんなにおもしろいイベントになると思わなかった」と言ってもらえて、とても嬉しかったです。今まで一緒に活動して対話もしていましたが、やっぱり現場を感じないとわからないこともある。きみえさんのエピソードと同じように、知らなかった価値観に知りあうことの素晴らしさを信じてやってきてよかったなと思いました。
また『紡ぐ市』の企画のひとつである『語る市』では、NPO法人の代表と町内の事業者の方がつながって新しい取組をはじめるというドラマティックな展開もありました。児童養護施設の卒業生が夢をもった仕事ができるような場所をつくりたいNPO法人の方と、児童養護施設を応援したいという事業者さんが手を取り合って、新たな挑戦をする好機になりました。お二人とも半年間一緒に活動していたスタッフ同士だったのですが、お互いのビジョンを知らなかったようで。イベントがなかったら実現しなかったかもしれません。
小川町で活動するNPO法人8団体程度が集まったトークイベント「語る市」。知る機会が少ないNPOの活動を多くの方に知っていただきました。
さとっちさん:NPO法人同士のつながりはこれまであまりなかったですよね。当初『小川町SDGsまち×ひとプロジェクト』は各団体同士の横の連携をつくることを目的としていたようでしたが、結果としては外部の方が関わってくださることによって、町内の団体だけではなく、小川町の地元の大学生も交えた幅広い横のつながりができたように思います。
ーー「人がつながる機会づくり」や「価値観を変えるきっかけづくり」がしたいというみなさんの参加動機が形になっていて素晴らしいです!
きみえさん:小川町は大きな観光地のようにドンと取り上げるものはなく、小さな資源がいっぱいあるのも魅力のひとつだなと思います。
ダニーさん:わかります。有機農業や和紙といった歴史ある文化もそうですが、飲食店や商店、個々の事業など一つひとつのコンテンツがきちんと育っていて、つかめないことも魅力なんですよね。
小川町在来種の小川青山在来大豆をつかった味噌作りワークショップ
とはいえ、『ぐるり市』で見えた相互に複雑に絡み合う関係性を可視化してみようと思って『ぐるりまっぷ』という図を作成しました。これを見ると小川町の多様性が伝わると思います。今後もこうしたヒトモノコトの媒介になっていきたいなと思います。
参考URL:https://www.town.ogawa.saitama.jp/cmsfiles/contents/0000005/5410/gururipannhuretto4.pdf
ーー小川町との関わりが深まったことで、町への見え方は変わりましたか?
keiさん:人に対する見え方が変わりましたね。こんなに働いている人っているのかと思うほど、エネルギッシュに富んだ方ばかりで。プロジェクトがはじまる前は希望を持って取り組もうとしても、現実的に実現できることも少なく寂しく終わるのかなと思っていたのですが、全くそんなことはなく、メンバー同士の日程調整が難しいほど、みなさん熱量高く忙しくされていました。
まっちーさん:フラッグシップ委員会も時間がなくて、焦ってしまうこともあったのですが、みなさんやりたいことをやっているという意識でやらされている感がないんですよね。短い時間でここまでアウトプットできたのはすごいことだと思います。
keiさん:一方でこうした盛り上がりを少し引いた目で見ている方々もきっといらっしゃいますよね。まだまだ交わっていない小川町の方々もいると思うので、今後はうまく関われていない人に対しても、きっかけや仕組みをつくっていけたらいいなと思っています。
まっちーさん:たしかに、町内のスポーツクラブで2コマレッスンをしているのですが、地元の方でも今回のイベントのことや移住者の方の新しい取り組みをご存知ないことがありました。お誘いしたら足を運んでくださるので、小川町の良さやキーマンたちの活動に気づけていない面もあるかもしれません。一方で、地元の方だからご存知のこともたくさんあり、ウチモノ・ソトモノ目線でお互いに補い合えたらいいですよね。
移住をしてみて驚いたことは、暑さと寒さのきびしさが想像を超えていたことです。でも、それ以上に食べ物のおいしさに感動しましたし、気温差が激しい四季があるからこそ作物の実りが多いのだと思います。いい面も悪い面も背中あわせなので、いい面と捉えるようにして暮らしていきたいです。
ーー活動を振り返ってみていかがですか?
さとっちさん:そもそもこれだけの人が小川町のために、活動してくれていること自体が価値ですよね。初年度は「地域資源×民泊コラボイベント実行委員会」と「魅力体験型ツアー実行委員会」の活動のみでしたが、次年度以降実行委員会が増えていったのも良かったと思います。小川町を外から来る人に楽しんでもらえる場所にすることももちろん大切なのですが、最終的には小川町で育つ人たちが “小川町が好き” と思える場所にしていきたいですよね。ただ、そこに行き着くのはとても難しいことなので、このプロジェクトに関わってくれたみなさんのような小川町愛をもった方々が継続的に関わっていけるよう、まちの魅力を発信しつづけることが重要だなと感じました。
きみえさん:キーマンに引っ張られてまちが変わるという話をよく聞きますが、小川町はみなさんそれぞれがリーダーなので、方向を1つにするのが難しい。だからこそ、まとめる必要がない。「1つにしなきゃいけない」という概念を壊された人がたくさんいたのではと思います。正解は自分たちで決めていけばいいですよね。
「多様性」という言葉が一般的になってからどれほど経ったでしょうか。しかしその多様性を自分の言葉で表現できる人は意外と少ないように思います。
今回お話を伺ったみなさんは、それぞれの言葉で多様性を表現されていたことが印象的でした。誰か1人が旗振り役をしてもつづかない。年齢も、職業も考え方も異なる方々が、ゆるくつながり合い小川町のことを思って活動することで、時には偶発的に、時には必然性をもって新しい価値が生まれていく。持続的なまちのあり方を体感したい方は、ぜひ小川町に足を運んでみてください。
(文:櫻井智里 写真:小川町SDGsまち×ひとプロジェクトより提供)
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『小川町SDGsまち×ひとプロジェクト』では、取り組みの1つとして小川町の人のつながりがわかる『埼玉県小川町プロモーションブック』を発行しています。ぜひ、こちらもご覧ください!
表紙〜P5|https://www.town.ogawa.saitama.jp/cmsfiles/contents/0000003/3749/citypromo1-5.pdf
P6-P11|https://www.town.ogawa.saitama.jp/cmsfiles/contents/0000003/3749/citypromo6-11.pdf
P12-20|https://www.town.ogawa.saitama.jp/cmsfiles/contents/0000003/3749/citypromo12-20.pdf
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