農業を始めたい人、福島県への移住&就農を考えている人に向け、さまざまなイベントや体験プログラムを提供している福島県。
なかでも「移住就農お試し体験」は、収穫や出荷、ほ場の管理など、多岐にわたる作業を現地で体験できるプログラム。特徴的な点は予備知識がなく「何から始めればいいのかわからない」といった人でも就農を目指す意欲があれば参加できる間口の広さ。お試し体験は昨年から福島県内の各地で開催され、学生をはじめとする幅広い年代、業種の人たちが参加。プログラムは少人数制となっており、福島県内各地の受け入れ農家のもと、2泊3日程度で農業体験を行っている。
今回は、2月14日〜16日にいわき市で行われた体験プログラムの第2日目をレポートした。
受け入れ先によって異なるが、主に以下のようなプログラムで行われ、福島県での現実的な就農をイメージすることができる。
・1日目
オリエンテーション(就農や移住についての情報提供、農業概論講座)
・2日目
受け入れ先ほ場での農作業体験
(作業の説明、芽かき、除草、収穫物の収穫、選別、調整、出荷など)
・3日目
農業体験(農作業、農業機械操作体験)、農業体験の振り返り会
今回の体験の受け入れ先となっているのがいわき市「ファーム白石」。8代目となる現代表の白石長利さんは代々受け継がれてきた畑といわきの気候を活かした自然農法により、1年を通して野菜を栽培している。東日本大震災による風評も、野菜の調理方法を動画で配信するなど、SNSを活用したアイデアで他の地域の人々と絆をつくり、乗り越えてきた。2019年、台風で農作物が大きな被害を受けたときは、多くの人がボランティアとして駆けつけ、荒れた農地を元に戻す作業を手伝ってくれたという。
県外の人にも支えられ、絆を大切にしてきた白石さんだけに、農業に就きたい人を応援したいという気持ちは人一倍強い。
「農業は今、全国で高齢化と後継者不足が止められないというのが現実です。そういった状況のなか、移住して就農するという選択肢があること、いわきでもこういう場所があるということを、皆さんと農作業をしながら知ってもらいたい。若手の新規就農者支援は福島県も力を入れてやっていますし、そうした取り組みと私たちのような既存の農家がタッグを組んで、受け入れをサポートしていく。そこにいわき、そして福島県の農業のこれからがあると思います」(白石さん)
収穫、そして野菜の試食まで。農業とともにある暮らしを体験。
今回の農業体験には福島県外から4名が参加。将来、就農したいと考えている大学生、現在はパートで働き、今から本格的に農業ができる環境を探している人など、参加の動機はさまざま。全くの未経験から、本格的なスキルの習得を目指してよりよい環境を探している人まで、幅広い人が参加できる間口の広さがプログラムの特徴だ。
参加者一同は畑に集合し、にんじんの収穫を体験。冬で一面が茶色の畑に、最初は「こんなところににんじんが?」といった反応の参加者もいたが、葉を引っ張ると赤いにんじんがするり。体験前から農作業を経験している参加者はさすがに手際も良く、収穫されたにんじんが次々と並べられていく。
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2月の冷たい風も気にせず、参加者は声をかけ合いながら作業に没頭。畝を一列収穫してケースをにんじんでいっぱいにした。そのあとは別の畑で、大根の収穫にも挑戦。午前中の作業はあっという間に終了した。
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午前中の収穫作業のあとは、まちの集会所に移動して昼食を兼ねた試食タイム。先ほど収穫したにんじん、大根の野菜スティックをはじめ、「ファーム白石」で採れた野菜たちがさまざまな料理にアレンジされてテーブルに並んだ。自分たちが収穫した新鮮な野菜の味はやはり格別。白石さんのお話を聞きながらのひとときで、「農業とともにある暮らし」がぐっと身近に感じられたようだ。
大下さん 栃木県から参加
「数年前に福島県富岡町を訪れた際、その環境が気に入ってしまって〝いつかここに移住して暮らしたい〟と思ったんです。今は農業を学んでいて、かねてから『農業でまちを活性化したい』という思いがあったので参加しました。やりたいことを始めるのは勇気のいること。10年先、20年先、まだいつかは具体的ではありませんが、いつか農業をしたい。その一歩を踏み出すのに、このプログラムはとても良い機会だと思います」
蛭田さん 埼玉県から参加
「今は埼玉と福島の二拠点生活をしていて、祖父の家が近いことが参加のきっかけです。以前は寿司職人だったのですが今は一旦やめて農業を勉強中で、将来はキッチンカーで寿司屋を開業したいと思っています。このプログラムではいろいろな人と触れ合うことができ、作業はもちろん、(受け入れ先の農家の方と)経営のことや農業に対する思いを共有できるのがとても良いですね。「常磐もの」と呼ばれるいわきの美味しい魚と米、そして野菜をキッチンカーで全国に広めていきたいです」
農作業の体験を終えて白石さんはこう語ってくれた。
「すぐに移住先を決めるというのは難しいと思いますし、農業との関わり方も、最初は副業であったり、二地域居住であったりといろんな形があっても良いと思います。地元を盛り上げていただければという思いはありますけれども、逆にいわきだけじゃなくて、別の地域で農業をしたいという人も、大いに応援したいですね」
概論から実作業まで、あらゆる角度から農業に触れることのできる3日間は、それぞれの参加者が、それぞれの〝農業との関わり方〟を模索する時間となったようだ。
体験プログラムは令和7年度も開催予定なので、今後の予定を是非チェックしてほしい。
移住就農お試し体験の詳細、お申し込みはこちら
https://start-fukuagri.jp/experience/
写真・中島悠二