沖縄県 北中城村 現役隊員
篠田宇希さん 吉田 孝さん
活動内容:「キタナカ協力隊TV」での動画配信、地元産業の活性化など
沖縄本島の中部地区に位置する北中城村。人口1万8000人ほどで、全国でも一番人口密度が高く、5番目に人口の多い村とされている。丘陵地が大部分を占める自然豊かなまちで、地域の東側に「中城湾」を望む。気候は一年を通して温暖。中城湾のほとりでは例年2月下旬から3月中旬にかけて「日本一早いひまわりまつり」が開催され、村内外から訪れる人たちを楽しませている。中城湾を見下ろす標高160メートルの高台には、「中城城跡」があり、歴史的な価値の高さから、2000年に世界遺産に登録されている。
そんな北中城村に2019年4月、2名の地域おこし協力隊が着任した。そのうちの1人が神奈川県出身の篠田宇希さんだ。スイス、オーストラリア、メキシコの3か国で世界遺産のツアーガイドを務めるなど、世界各地を旅した。その後、日本で地域おこしの世界に飛びこんだ。
「東京で開催されたイベントで協力隊のことを知り、私のライフスタイルと合っているように感じました。それ以前は、1年のうちの半年間で仕事をして、残りの半年間で世界遺産を旅する生活をしていました。旅先では世界遺産のツアーガイドも務めていたので、このときに得たノウハウを日本の観光業で活かすことができないかと考えていました。日本有数の観光地と言えば沖縄。『地域おこし協力隊 沖縄』で検索したところ、沖縄県内の自治体の募集ページに辿り着きました。」
もう1人の吉田孝さんは、協力隊として、妻のまり子さんを伴い着任。東京でそれぞれ保育士とヨガインストラクターをしていたが、北中城村に生活の拠点を移した。吉田さんは着任の経緯をこう振り返る。
「2014年頃、夫婦で沖縄旅行した際に北中城村にあるホテルに滞在しました。そのときのホテルがとても居心地がよくて、どこからか聞こえてくる村内放送も相まって村のゆるやかな雰囲気に惹かれました。いつか地域に根付いた仕事に就きたかったことや、一度沖縄に住んでみたかったこと、そうした思いを持っていたところ協力隊の募集を知りました。」
「キタナカ協力隊TV」のユニット名で、動画配信にもチャレンジ
日本各地から反響があった、「ひまわりまつり」
篠田さんは北中城村観光協会に籍を置いている。観光協会の事務所があるのは、県内最大級の規模を誇るショッピングモールの一角。着任当初は、思い描いていたイメージとのギャップに驚かされたという。
「もっとのどかな場所にあると思っていたのですが、活動拠点が大型ショッピングモールの中とは驚きました。そこから車を10分ほど走らせたところには、中城城跡があります。こうしたコンパクトなところが、北中城村の魅力だと思います。」
篠田さんのミッションは、観光資源を新たに掘り起こして地域の産業を盛り上げること。2021年には、「キタナカ キッチンラボ」という企画を発案して実現させた。村内にある飲食店の連携を促して、「食」にまつわる新たな観光資源をつくりだす試みだ。その第一弾として一部の飲食店から有志を募った。
「肉体的、身体的、精神的、社会的ともに良好な状態を目指す健康観である『ウェルネス』 をテーマに、これは!という一品を生み出すことが目標です。村内には70軒近いカフェやレストランがありますが、これらが連携してなにかを催すということがなく、それぞれが単独で活動している印象でした。魅力的なお店が多いのに勿体ないと感じました。私からイノベーションを起こすことは難しいけれど、こうした点と点をつなげることはできるのではと思いました。」
一方、吉田さんのミッションは、農林水産事業の活性化であった。パッションフルーツの栽培のサポートや、特産品を集めたアンテナショップ「しおさい市場」の運営などに携わった。現在は育休中だが、これまでの活動で特に印象深かったプロジェクトを聞いてみた。
「やはり『日本一早いひまわりまつり』です。2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて残念ながら開催中止になってしまいましたが、少しでも在宅時間を楽しめるように、ひまわりの種の無料配布プロジェクトを立ち上げました。配布用に50セットを用意していたところ、全国各地から200件を超えるお問い合わせがありました。担当課の方たちも私たちの提案を前向きに受け止めてくれて、プロジェクトもスムーズに進みました。」
「中城城跡」で地域観光を盛り上げる仲間たちと
村の特産品アーサ(アオサ)の養殖にもチャレンジ
地元青年会や移住者仲間との交流を重ね、地域の一員に
移住後に第一子を授かった吉田さんは、少しずつ地域コミュニティに根を下ろしはじめている。家族のお気に入りは、住まいからほど近いベーカリーカフェだ。
「沖縄県に駐在している外国人や米軍関係者向けの住宅をリノベーションしたお店です。芝生があって気持ちいい空間ですし、店主は育児の先輩なので頼りになります。同じ移住者でもあるので、共感できる部分も多いです。」
さらに仕事観についても発見があったという。
「みなさん、オン・オフがはっきりしています。仕事をするときはしっかり打ちこんで、その合間にまわりと雑談しながらしっかり息抜きする。昔ながらの県民性が根づいているのだと思います。」
地元の人たちは 「基本的にシャイな人が多い」と話す篠田さんは、持ち前の行動力で、地域に入り込んでいる。地元住民に交ざってグランドゴルフに参加したり、消防団に所属したり、地元の青年会に加わって、伝統芸能である「エイサー」を習ったこともある。
「協力隊のサポートデスクの方々からは、積極的に県内の事例や研修などの情報を提供してもらっています。新型コロナウイルス感染症が落ち着いたら、もっと地域と深く関わって存在感を出していきたいです。」
左)篠田さんと北中城村観光協会の仲間たち 右)アンテナショップの運営に携わっている吉田さん
「だれとやるか」が地域活性化の推進力になる
「『なにをやるか』よりも『だれとやるか』が大切」。篠田さんがたどり着いた地域活性化のヒントだ。それを体現しているのが、同期の協力隊で取り組んでいる動画制作。着任した翌年、「キタナカ協力隊TV」のユニット名で動画配信をスタートし、地元住民へのインタビューや名所・史跡巡り、お勧めの飲食店の紹介と、幅広いジャンルにスポットを当てている。
「取り上げる内容はみんなで決めています。選定基準は本気で楽しめること、興味があること。仲間がいれば、どんな企画にもチャレンジできる気持ちになります。これは地域活性化にも言えることで、仲間たちが連携することで推進力が生まれます。」
そう話す篠田さんは、育休中の吉田さんより先に任期終了を迎える。その後も村内に拠点を置き、観光事業に取り組む予定だ。
吉田さんも育休明けの本格始動を見据えて、構想を練っている。思い描くのは前職の経験を活かした「保育」と「地域」を掛け合わせた取り組みだ。
「いま考えているのは自然環境を活かした『森のようちえん』です。実現できるかはまだまだ未知数ですが、北中城村でも取り組むことができたらと思っています。」
周囲の仲間と共に地域活性化に取り組んできた二人の北中城村での今後の活動が期待される。
北中城村にある美崎ビーチの美化活動にも取り組んだ
沖縄県 北中城村 現役隊員
篠田宇希さん神奈川県横浜市出身。1年の半分を世界各地の名所を巡り、現地でツアーガイドを務めたことも。「ガイドのノウハウを日本の観光に活かしたい」との思いから、2019年4月、北中城村の地域おこし協力隊に着任
沖縄県 北中城村 現役隊員
吉田 孝さん岩手県出身。東京で保育に携わっており、旅行で北中城村を訪れたことで同村のゆるやかな雰囲気に惹かれる。「地域に携わる仕事」への興味から移住を決意。地域おこし協力隊として、妻のまり子さんを伴い着任する。
沖縄県北中城地域おこし協力隊:https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kikaku/chiikirito/chiikishinko/documents/gaibujinnzai.html
キタナカ協力隊TV:https://www.youtube.com/playlist?list=PL1UMJI-HVsWYopmdcEvOoTUpaNG9TEkez
地域おこし協力隊とは?
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々で、任期は概ね1年以上、3年未満です。
地域おこし協力隊HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei
発行:総務省