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After コロナ時代に妙高市で描かれる
『しごとのみらい』

地元を離れ、コンクリートのビル群の中で働く私達の目の前で、テレワークやオンラインワークが現実に広がった時に、心に芽生えたのは言葉に出来ない漠然とした期待と不安の種でした。

唐突な変化が訪れて数ヶ月が経ち、少しずつ社会が動き始めた今、ここ新潟県妙高市で、ようやく言葉が見つけられそうです。

コロナ禍が世間を賑わすよりもずっと前から、妙高市で週2日、テレワークで都内の企業に出社する竹内義晴さん。本業を持ちながら複数の仕事に取り組む複業家です。

企業のブランディングや広報、研修講師や講演と活躍の幅を広げる竹内さんですが、今回は移住者としてAfterコロナの妙高へ向ける視点を掘り下げました。

NPO法人しごとのみらい理事長 竹内義晴さん
1971年生まれ。新潟県妙高市出身。自動車会社勤務、プログラマーを経て、現在はNPO法人しごとのみらいを運営しながら、東京のIT企業サイボウズ株式会社でも働く複業家。妙高市に暮らしながら「複業」「多拠点労働」「テレワーク」を実践している。2020年からは新たに一般社団法人妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会に所属し、社員研修のプログラム造成やワーケーションの受け入れを行う。

 

地元を離れたあなたに伝えたい、故郷での仕事の楽しみ方

「僕は断然、地方で副業推進派です。」

事象や意見の多面性を大事にする竹内さんが、はっきりと口にした言葉。
“副(複)業”(以下、複業)というキーワードには、移住や帰郷への不安を緩和する要素が詰まっているといいます。

竹内さんが妙高市へ帰ってきたのは28歳の時でした。

「僕がいたのは大きな母体の企業でした。先輩がいて、上司がいて、その上司がいて。自分もこうなっていくのかと、5年先、10年先の立ち位置が見えてしまった時に、『あれ、このままで良いのだろうか』って考えてしまって、会社を辞めたんです。社外との交流があって多様な価値観に触れていたこともあったし、ちょうど兄弟もみんな地元を離れて、ガランとした実家に思うところもあって…。思えば、そういうのが重なった時期だったんですよね。」

生涯エンジニアを志して、IT企業に勤めますが、転職先では仕事の進め方や人間関係が肌に合わず、苦悩の日々を送っていました。それでも、竹内さんは心理学、コーチング、カウンセリングを必死に学びながら、行き詰まった状況を打破していったといいます。

苦悩の時代に感じていた『仕事がもっと楽しくなれば良いのに』という考えや体験が今の仕事であるNPO法人しごとのみらいの原点になっているといいます。

「当時の移住やUターンって、今まで持っていたものを捨てて、飛び込むってイメージでしたよね。それはハードルが高すぎる。今は関われるなら、いろんな場所と関わり方を持ち続けておいた方がいい。キャリアへの不安、お金の不安、人間関係の不安を取り払うことができるかもしれません。」

複業という選択肢があることで「田舎vs都会」という対立構造から脱することが出来る。つまり、その人の状況に応じた柔軟性のある移住が達成できるのです。

「例えば月に1度、妙高市での仕事がつくれたら、そこから関係性を広げられます。何が求められているのか、自分には何が出来るのか。自分が得意なことで会社の中では活かせてないことも、こっちなら活かす場面があるかもしれない。」

複業というキーワードが広がっていくことで、移住検討者だけではなく、妙高市から離れ都市圏で働いている出身者にもポジティブな影響を与えることが出来ると話します。

「地元から離れて『後ろめたさ』を抱えている人って、大勢いると思います。実家はどうするか、親の介護の不安、地元に貢献できない焦り。そういったものを仕事を通した関わりで解消していければ、戻ってきやすくなりますよね。」

もちろん、戻った後も都市圏でのキャリアを捨てる必要もなくなります。スキルが活かせてテレワークが可能な企業への転職も視野に入ってくるでしょう。段階的にグラデーションを持たせられるのが「複業」の持つ可能性です。

「実際に帰ってきて、最初のうちは濃密な人間関係があまり好きではなかったんですよね。でも祭りとかイベントで関わりが深くなってくると、その後にあーだこーだ言いながらお酒を飲むのが楽しくなってきて。いくつかのコミュニティに横断的に関わることで広がる関係性は妙高らしさ、地方らしさだなと思います。」

首都圏では隣近所の顔を知らない関係性もよくある話。都心と妙高に拠点を持ちながら人間関係や仕事の幅を広げていく。そういった働き方や暮らし方は今までは特殊という認識が大半だったでしょう。しかし、その特殊な働き方を長年続けてきた竹内さんの目には、今の世の中の動きの変化が映し出されていました。

 

そんな話は、夢物語だった。少し前までは。

妙高市でテレワークを活用した複業。これって少し前まではふわふわした曖昧なものでしたよね。少なくとも、特殊な働き方って見られ方をしていたと思います。でも、この数ヶ月で触れるものになって、急にリアリティを帯びてきた。『もう会社に行かなくてもいいんじゃないか』までは思わないでしょうけど、『毎日、会社に行く必要ってないよね』くらいには、思い始めてるんじゃないですか。」

新型コロナウイルスによる社会の変化。経済活動が再開されてから、その変化を感じられなくなっているかもしれません。しかし、この数ヶ月間で私達が共通して「新しい働き方」を体験できたことには大きな意味があるでしょう。

余暇市場におけるワーケーション(※1)、教育分野のオンライン授業やGIGAスクール構想(※2)。5GやSaaS(※3)をはじめとした通信技術が発達していくことも後押しになっています。

「在宅勤務が浸透してくれば、時間が出来るし、場所の制限もなくなる。それだったら『明日から3日間くらい妙高で仕事してくるわ』とか、帰省した時にいつもより長く滞在して、テレワークで仕事しようとか、そういうことが現実になりますよね。」

(※1)ワーケーション:「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。リゾートなどの環境のよい場所で、「休暇」を兼ねて「リモートワーク」を行う労働形態が多い。
(※2)GIGAスクール構想:「Global and Innovation Gateway for All」の略。児童生徒向けに1人1台の端末を与え、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで実現する、創造性を育む教育構想。令和時代の学校教育のスタンダードとして考えられている。
(※3)SaaS:「Software as a Service」の略。クラウドで提供されるソフトウェアのこと。

その点で言えば、妙高市は他地域に比べて、そういった働き方の変化に対して早くから取り組んできました都市圏企業とのワーケーション協定テレワーク研修交流施設の建設等の取り組みを進めています。

しかし、それでも複業やテレワーク・ワーケーションを受け入れる体制や環境づくりには、まだまだ課題がありました。

 

地域には”実践者”が必要

「テレワークや複業、ワーケーションも既に実践している方が、妙高市の施設を使ったり、地域の人と関わったり、積極的に発信して地域の中に”どんな存在なのか”を浸透させる必要があります。複業に関しても上手に仕事を企業の外に出す役割を誰かが担わないといけないですよね。」

働き方が変わるとしても、それを受け入れる環境が地域になければ、人の流れは生まれません。環境とはハード面だけではなく、複業ができる仕事の情報が流通していることや実践者自身の発信が重要になるでしょう。

「新しい働き方を通じて妙高市に関わった人に疎外感を感じて欲しくないんですよ。地域住民の理解も必要ですし、すぐに定住に結びつけようとするでもなく、良い距離感を保って関係をつくっていきたいですよね。」

 

今の子供達の「しごとのみらい」は、既に変わっている。

「この数ヶ月間を経験した子供達が社会に出る時には、働く場所…仕事場の枠組みはなくなるだろうと思います。働き方の『前提』が変わるので、僕たちの時代の価値観だけ持っていると苦労するでしょうね。反対に地域や企業は、新しい価値観に対応した働き方が出来なければ、選ばれなくなってくる。」

竹内さんが見据える未来の話。変わる可能性を期待と捉えるか、不安と捉えるかは、その人次第でしょう。今までの前提が変わる時、変化への柔軟性を私達は持つことが出来るでしょうか。

「場所の制約がなくなれば、教育、仕事、キャリアの言い訳も出来なくなってしまうということです。何かのせいに出来なくなってしまう。全てが…ということではないですが、生まれた場所や環境のせいではなく、オンラインツールや新しい働き方を活用して可能性をつくることが出来ますし、地域や企業側も人材不足や働き方に柔軟な対応をしていくことも求められます。」

変わる社会を目の前にして、漠然とあった不安は竹内さんの話す「言い訳が出来なくなる」ということだったのかもしれません。新しい働き方は仕事の仕方、余暇の取り方、都市圏・地方との関わり方の選択肢を広げてくれました。同時に今まで目を背けてきた課題が否応なく目の前に現れたのです。

「妙高市に帰ってきて、上手くいかないこと、環境の変化に戸惑うこともありましたけど、その時々、目の前にあった課題感に向き合って…とまで言いませんが、なんとか乗り越えてきました。だから、今、新しい変化があっても、『あの時を乗り越えられたから、今回も大丈夫だろう』とは思ってますよ。」

笑顔になる竹内さん。自動車会社からエンジニア、そして複業家と柔軟性のあるキャリアは、変化と共に学び続けた姿勢が生み出したものだ。現場で学び、実践者としてアウトプットすることを続けてきた竹内さんから学ぶことは多くある。

 

Afterコロナ時代のしごとのみらいを私達はどう描こうか。

 

▼竹内さんの著作はこちら
『感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。』

 

 

【Information】

妙高市移住支援事業助成金

東京圏から妙高市へ移住し、中小企業等に就業または起業した方を対象に、単身で60万円、家族で100万円を助成金するものです。詳しくは、こちらをご覧ください。
▶︎  https://www.city.myoko.niigata.jp/docs/2500.html

 

クラインガルテン

ラウペ(簡易宿泊施設)付き『滞在型市民農園クラインガルテン妙高』では、緑豊かな妙高で農作業をするなどゆったりとスローライフを過ごすことができます。お試しの短期利用制度もございますので、詳しくはこちらをご覧ください。
▶︎ http://kg.myoko-gt.com/

 

写真/ほんまさゆり
文/大塚眞